2009年 米 ガイ・リッチー監督
昨年、ガイ・リッチーの新作が「シャーロック・ホームズ」で、そのタイトル・ロールをロバート・ダウニーJrが演じるというニュースを聞いた時に、あまりの違和感に「あらら、それはどういうホームズ??」と思ったのだけど、それだけに仕上がりはいかがなものか些か興味があったので劇場へ。「ハート・ロッカー」はレディースデーでも男女比は半々に近かったが、このたびは殆ど女性一色のシアター模様だった。
やはりロバート・ダウニーJrをどうしてもホームズとは思えなかったし、あまつさえイギリス人にも見えなかったので、ガイ・リッチーの提示する「ニュー・ホームズ像」にはワタクシ終始馴染めないままだった。
頭がカタくてごめんなさいね。
それまで、人々の心の中に強固にこびりついてきたホームズのイメージとは真逆のダウニーJrを使ったのも、既成概念を撃ち壊そうという試みの現れに他ならないのだと思うのだけど、やはりどうあってもダウニーJrをシャーロック・ホームズとして見ることは難しい気がする。別に、痩せてひょろ長い、鷲のような顔つきの、神経質そうなタイプに固執しているわけではなく、新しいホームズ像が魅力的であればそれに越した事はないと思うのだけど、このホームズにはどうもノレなかった。ダウニーJrはニュー・ポワロとかの方が似合うかもしれない。ともあれ、ワトソン君よりちっこいホームズなんてやはり有り得ないんじゃないかしらん。
ホームズって言われちゃうと、やはりどうも…
従来のホームズイメージを踏襲するなら、適役のブラックウッド卿を演じるマーク・ストロングの方がよほどそれっぽいルックスだ。ホームズ役者はドラキュラをやってもハマるような人が定番だが、この作品でのマーク・ストロングもいつ黒マントで覆った口元からくわぁっと口を開いて長い牙を出すかしらん、と思えるようなドラキュラ・ルックスでうっとりと自分に酔いながら敵役を演じていた。ガイ・リッチーはこのマーク・ストロングをとても信頼しているらしく、この先もずっとガイ・リッチー映画にはなんらかの役でマーク・ストロングが登場しそうな気配である。
従来のホームズ・イメージならこの人の方がそれっぽい マーク・ストロング
だがしかし、トレーラーを観た時からこれはハマってそうだと思ったワトソン君のジュード・ロウは良かった。彼一人だけとても良かった。彼とても従来のワトソン君とは幾らか異なる人物像を演じていたのだけど、これはしっくり来てました。一人で儲けちゃったんじゃない~という印象もある。実際問題、ジュードがワトソン君で出ていなかったら、この映画はちょっとキツかったなぁという気もしなくもない。映像はとても凝っていて、どこがオープンセットで、どこからがVFXだか繋ぎ目が分からない自然な仕上がりで19世紀のどんよりとしたロンドンのありようが描き出されていたし、架橋工事中のロンドンブリッジなんてものも登場させてお話にもちゃんと絡ませて観客サービスも忘れない。色調も見事に19世紀ロンドン的なトーンでまとめられていて映像は見事だった。
一人だけとても良い感じだったジュード・ロウ ジュードの一人勝ち映画とも言えるか
その19世紀ロンドン的映像の、濃い陰翳のなかに、黒魔術だの秘密結社だのと19世紀的なファクターがおどろおどろしいムードで展開されていく。オカルティックなものを提示しつつ、それを明快に科学と理屈で解明していくのも、いかにも産業革命の時代のイギリスらしい。ということはシャーロック・ホームズ物らしいわけで、お話などは確かにそれらしいのだが、う~む、やはり肉付けとバランスですかね。
妙におどろおどろしい陰惨極まる映像と、他愛ない笑いのシーンなどのバランスがあまりよくない気がした。
まぁ、結局のところ、ダウニーJrのホームズにノレた人はOKだろうし、ワタシのようにどうにもノレなかったという人には、う~む、な印象の作品という事になるのかもしれない。ダウニーJrに当初感じていた違和感がどう変わっていくのかに興味があったのだが、結局ワタシ的には違和感アリアリのまま終わってしまった。二人出ている女優のいずれも華のない地味な女優で、画面に出て来てもちっとも楽しくないしねぇ。別にジュードのファンというわけではないけれど、ジュードが出ててくれてほんと良かったわ~という気がした。
登場する女優にどうも華がない感じ
その他、あらら~と思った出演者としてはブラックウッド卿の父親を演じたジェームズ・フォックスでしょうか。
どうも顔立ちがそうかなぁとは思ったのだけど、暫く観ないうちにあまりにお年を召されて、かつ、弛んでしまったのでまぁ…ちょっと観ないうちにこんな事になってしまわれたのね…とその老化ぶりに驚いた。「日の名残り」の時にはロマンスグレイの素敵なおじさま風だったのだが、少し見ない間にすてきもないお爺様になってしまっていた。
ロバート・ダウニーJrはシャーロック・ホームズよりも「アイアンマン」の方がやはり似合っている。「アイアンマン2」のトレーラーを予告編タイムに観たが、なかなか面白そうなので、今のところ封切られたら行く気は大有り。で、この「シャーロック・ホームズ」も宿敵モリアーティ教授を黒幕のようにちらりと登場させて続編アリだよ、という空気をチラつかせてはいたが、このホームズ物はもう観なくていいですわ、ワタシ。
1本観れば沢山でございます。はい。申し訳なし。