「Sherlock series4」

—東の風が吹き荒れて…—
2016年 英 BBC他



先頃、やっとのことで、日本でも「Sherlock」の最終シリーズと言われている第4シリーズが放映されたので録画しておいた。ワタシ的には、前回の第3シリーズが妙な方向に逸れた感じがあったので興味索然となっていたシリーズではあるのだけど、最終ともなれば第4シリーズについての感想も書いておかなくてはなるまい。


このシリーズについては、第1と第2シリーズが面白く、殊に第2シリーズは放映後に人気が世界的に大爆発したこともあって、4つのシリーズ中でも白眉の出来だったと思うけれど、これがあまりに良過ぎたために、制作サイドとしては同等かそれ以上のクオリティの作品を送りだすのは至難の技になったと思う。結果、第3シリーズは奇妙なほうへ逸れた感じになり、それらの流れを受けた第4シリーズは、隠し玉の「東の風」によって全てを無理矢理収束させるという荒技で決着をつけた感じがした。

思えば、第3シリーズからメアリー・モースタン役でアマンダ・アビントンが出るようになった事が1、2シリーズと、3、4シリーズの雰囲気が変わった事を象徴するのではなかろうか。Sherlockシリーズ前半の売りの1つに、シャーロックとワトソンのブロマンス的関係性があり、それが土台となって各エピソードが発展していったのだが、若者の成長という側面も盛り込みたいということで、いつまでも男二人で独身のまま同居というのもナンだから、原作にもあるし、ワトソンは結婚して独立するよ、とライターのコンビが言っていた通り、第3シリーズからは二人の間にワトソンの妻が登場し、シャーロックとワトソンのブロマンス関係は一旦、終止符が打たれたあと、ひたすらシャーロックからワトソンへ一方的にベクトルが向かう感じで潜行する。いわばワトソンを巡る多角関係のような感じになるのだが、シャーロックに対するのがアマンダ・アビントンのメアリーではあまりにも魅力薄だったと思う。スパイで暗殺者でもある過去を持つ女なんて、地味な老け顔のアビントンに、どうしてあんな柄にもないドラマティックな役を振ったのか(勿論、ギャップが面白い場合もあるが)、かなりのミスキャストだったし、かてて加えて、妙な身内総動員的お遊びキャスティングが目に余る感じになってきたのも第3シリーズからだったと思う。

メアリーを演じたのがアマンダ・アビントンでなく、もっと役にふさわしい魅力のある女優だったらSherlockへの興味がさほど薄れずに済んだのかどうかは、自分でもよく分からない。だが、「Sherlock」の魅力減の要因の1つにアビントンがあったような気がする。

2010年から始まったこのシリーズ(日本放映は2011年から)だが、僅か4シリーズしかないのに2年に一度ぐらいなペースでシリーズ間が空き、殊に後半の2つのシリーズは、カンバーバッチとフリーマンが双方、超売れっ子になった為にスケジュールが合わず、2年以上間が空くようになったりもし、そういう事がシリーズの空気感を前半と後半で変える遠因になったかもしれない。

また、7年の間に、主演二人の私生活にも変化があった。
カンバーバッチはシャーロックでブレイクしてのちはパパラッチに付きまとわれ、そのたびに違う相手とデートしていて、なかなか積極的かつ情熱的だな、と思っていたら、本命の女性とはあまりマスコミに嗅ぎ付けられないうちにサクっと出来婚をキメて、あっという間に父親にもなった。また、最終シリーズを撮る頃には40代に入り、初期のシャープさ、クールさがやや薄らいだような気もする。それは、シャーロックのキャラそのものがかなり人間的になってきて、第1シリーズの宇宙人のような男から、かなり感情的で人間くさい男へとシリーズ毎に変貌(成長?)していったからでもあるだろう。

一方のフリーマンは、それまでの俳優生活からすると、「Sherlock」シリーズをキッカケに大ジャンプアップしてギャラも知名度も上がり、オファーも増え、「Sherlock」シリーズと並行して、ホビット3部作も撮り終え、7年の間にかなり目覚ましく出世した。
が、共演をキッカケに事実婚状態だったアマンダ・アビントンとは、16年も一緒にいて二人も子供がいながら2016年に破局した。

おまけに第4シリーズが作られる頃には、カンバーバッチとフリーマンはシリーズ当初のような息の合った関係ではなくなり、何があったのか詳しい事は知らないが、用がなければ口もきかない不仲状態になっていたらしく、第2シリーズが終わったあと、制作サイドは二人が50になっても続けたいというような事を言っていたが(えぇ?って感じだったけれども)、2016年になると、スケジュールやコミュニケーションの問題で、もうこれ以上はシリーズを続けられない状況になったのだろう。
それでなくても、このシリーズの1作1作の作られ方からして、そう長いものになるわけもなく、かなり長くても第4かせいぜい第5シリーズあたりで終了になるのではないかと思っていたけれども、第4シリーズで幕引きになった。潮時だと思う。
ベースというか、ヒントを得た原作も「シャーロック・ホームズの最後の挨拶」から取っており、全てにおいて「最後」感の漂うシリーズになった。

で、第4シリーズであるが、1話目から伏線を張って、全ては最終話「最後の問題(The Final Problem)」での「東の風」ことユーラスの登場と、オチにつなげるべくあれこれと頑張っていた感じだった。

それにしても、ユーラスってなんだ? 
原作にない3人目のきょうだいまで出してきて、第3シリーズからのあれやこれやに一挙にケリをつけた、という感じではあったが、このユーラスの設定には、世界中のサスペンス・クリエイター達に与えた、あの「羊たちの沈黙」の影響力の甚大さを今さらに感じた。最重要監視棟に収容されている天才的な頭脳を持ちながら異常な資質も併せ持つ非常に危険な人物—レクター博士—というのは、どうしてもパロってみたくなっちゃうキャラクターおよびシチュエーションなのであろう。
そういえば、レクター博士というのは犯罪界のシャーロック・ホームズとも呼ばれている人物。だからシャーロックのネガとも言えるユーラスの人物設定には、レクター博士風味を反映させたかったのだろう。日本人から見ると、ユーラスはレクター博士+貞子という感じでもあったけれども…。あるいは、知能は高いし、その気になればどんな破壊的な事でも易々とやってしまうが、情操的には子供のまま止まってしまっている(あるいは、少女時代に受けた心の傷がそのまま癒えないでいる)ユーラスは、ある種、大友克久の「童夢」に登場しそうな人物でもある。

今回のメインゲストは、第2話「臥せる探偵(The Lying Detective)」(題名は「瀕死の探偵(The Dying Detective)」のもじり)に登場した連続殺人鬼カルヴァートン・スミス役のトビー・ジョーンズだった。このトビー・ジョーンズは第3シリーズの最終話に登場したチャールズ・マグヌセン役のラース・ミケルセンとほぼ同格という感じの存在感のある犯人役で、なかなかの儲け役だったが、エピソード的には「東の風」を登場させるための伏線という側面の方が大きかったような気がする。
このエピソードでは、スミスの娘になりすましたユーラスが、シャーロックと夜のロンドンを散歩するシーンが良かった。

その他、第1話「六つのサッチャー(The Six Thatchars)」(題名は「六つのナポレオン(The Six Napoleons)」のもじり)は、マーク・ゲイティスがメインで書いているので、例のごとく、ややお祭り騒ぎ臭が強く、ドタバタしているが、一応、使命を果たすべく、ちょろちょろと「東の風」の伏線は張られている。

今回は最終シリーズにして、ホームズ兄弟のロマンス方面をさりげなく示すなど、これまで伏せられてきた事項を一挙に表に出してしまった感じもある。

兄のマイクロフトの性生活はどうなっているのか、弟のそれよりももっと謎だったわけだが、政治家であるレディ・スモールウッドと体だけのオトナの関係をちょろっと結ぶなど、同年代でラブ・アフェアなんて、わりにノーマルじゃないの、という感じだった。

一方のシャーロックは、あのアイリーン・アドラーと時折メールで連絡を取り合っている事が明らかになった。アイリーンは皆の想像通り、シャーロックに助けられてどこかで生きていたわけである。このシリーズの盛り上がりはまさに、第2シリーズの「ベルグレィヴィアの醜聞」と「ライヘンバッハ・ヒーロー」によって齎されたものだけに、アイリーン・アドラーの存在がふとその後のエピソード中によぎると、あの頃の輝きとワクワク感が思い出されて懐かしい。

それにしても、このミニシリーズは、1つの人気ドラマシリーズの台頭と隆盛、そして退潮までの軌跡が、パイロット版や番外編を入れても15話しかない極めて少ないエピソード(期間は7年もあって長いけれど)を通して如実に表されている。
とにかく、もう少しここらへんで留まっていればいいのに、と思うところで留まらず、猛スピードで通過して、シリーズごとにどんどんと先に進んでいき、更には1話1話に込められたエネルギーが膨大なために、同質のエピソードを量産することはできず、結局、こういう形にならざるを得なかったのだろうとは思うけれども、ワタシとしては、第3シリーズが第2シリーズのようなノリと出来であってくれたらもっと良かったのに、と思わないわけにはいかない。まぁ、第2シリーズにして既に頂点を極めてしまった以上、その先は下り坂に移行しないわけにはいかなかったのだろうけれど…。

主要登場人物の中で、一番変わったのはワトソンであろうか。最終シリーズのワトソンは、すっかり落ち着いて中年になり、もう、シリーズ前半のような若者のテイストはかけらも見当たらなくなった。シャーロックは何年たっても一向に変わらないわけだが、結婚して子供を作ったワトソン君は落ち着いた大人(というかオッサン)になった。こういう描かれ方はかなりステレオタイプではあるけれども、独身で勝手気侭に生きていると殆ど変わらず、結婚して子供ができると否応無しに外見も中身も大人になっていかざるを得ない、という月並みな事実を表現しているのかもしれない。「Sherlock」としては、月並み過ぎではあるけれど。

エンディングは、こうして二人はまた今日もベイカー街で事件を解決していくのです、という感じで、とにかくこもごもの謎や伏線は最後に全部クリアにしたし、うまいこと収束させたでしょ?的な空気を醸し出していた。(ワタシの印象としては「東の風」という掟やぶりな裏技を繰り出して、遮二無二、収束させたという感じが強いけれど…)

結局、シャーロックとワトソンはあれこれあったが、再びコンビで探偵をやっている、という事で、ふとシリーズを始めようと思えば始められないこともないエンディングではあるけれど、もはや、二度と再開することはないだろう。あっても、随分先に、例えば主演二人が70代ぐらいになった時に、小味な単発ドラマがスピンオフ的に作られるかどうか、というところではなかろうか。

かくして、大ブレイクした2012年から2014年ぐらいの間は、世界的に爆発的な人気を誇ったミニシリーズは終焉を迎えた。とてもユニークで面白いTVミニシリーズだったが、クオリティと雰囲気が最高の時のままで暫く留まれなかったという点で、ワタシ的には些か残念なシリーズでもあった。けれども、2012年の第2シリーズでは、心底、素晴らしいワクワク感を感じることが出来た。次のシリーズが楽しみでならなかった。暫くは本当にハマっていたし、斬新で面白いドラマを観ることの楽しみを与えてくれた作品だった。

けれど、何ごともひとつところに留まっていることはできない。全ては流れ去っていくもので、何ごとにも終わりはあるし、ドラマの中の人物も話の流れも、激しく動いていって留まることはない。同じところに留まらなかったという点で制作サイドの非凡さも感じるが、シリーズ全体としては第3シリーズぐらいに最高傑作が登場して頂点を極めるのが最適なバランスだったのではないかと思う。第2シリーズで質的に最高点に到達してしまったのは幾分早過ぎた。
そこだけが、ワタシとしてはやはり、些か残念に感じるところではある。

コメント

  • 2017/07/31 (Mon) 14:00

    前稿からだいぶ間が空いていたようなので、お元気にしてらっしゃるかな?と思っておりました。
    暑いですね~。台風が熱気を運んできて、ムッとする。
    バッチくん、シャーロック役が板について久しいですね。
    わたくしがまだ英国にいた頃、彼の出世作である「ホーキング」の撮影の為にわたくしが住むアパートメントの近くでロケしてた生バッチくんを見かけたのは何年前か。懐かしいけど、一気に火が付きましたね、シャーロックで。
    わたくしは最初のシリーズしか通して観ていないので、上手くコメント出来ませんが、彼はやはり映画よりドラマや舞台の方が映える役者かなーなんて、勝手に思い込んでます。
    ハリウッド映画にも出てますが、なんかねぇ。

    • Sanctuary #V0sVL5lk
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  • 2017/07/31 (Mon) 22:20
    Re:

    Sanctuaryさん こんばんは。今週は台風接近で蒸し暑いですね。
    ずっと元気でいましたよ。勿論あれこれ映画やドラマも見たけど、どれもサッパリ書く気にならず。仕事じゃないから、面白くなければ書かないわけで、そうやって書かずにいると、そのうちに書こうと思っていたことも億劫になって書かなくなってしまったりするのよね。ふほほ。ブログって習慣のものなのですわ。何も書く気にならないからと書かずにいると、書く事に対するハードルがどんどん上がってしまうのなり(笑)
    テニスの杉田についても書こうと思っていたんだけど、まぁいいか、なんて書かなかったりね。でも、あまり書かずに放っておくと雑草のように広告がはびこってきてしまうので、シャーロックについてでも書いておくか、というわけで久々に更新(笑)

    バッチ君、ハリウッド映画には合いませんわね。アメコミ物なんて殊にもやめた方がいい感じ。彼はTVドラマと舞台の人なんでしょうね、基本的に。「ホーキング」良かったですね。

  • 2017/08/02 (Wed) 22:09
    SHERLOCK

    kikiさん、はじめまして。
    SHERLOCKをNHKBSで放映されてから、このドラマに釘付けになりました。職場で観ている人がなかったので、ネットでみなさんどのような感想をもっているのかなと探していたところ、kikiさんのブログに出会いました。kikiさんの視点から私が解釈できなかった部分をたくさん教えてもらい、ドラマ同様、kikiさんのブログも楽しみにしていました。
    SHERLOCKこれで終わってしまうのですね…個人的には強敵はいいので、ピンク色の研究、死を呼ぶ暗号、バズカヴィルの犬のような事件でやってくれたのでいいのですが…(笑)でもやはり第2シーズンが一番印象的で、好きでした。ベルグレービアの醜聞、ライヘンバッハ・ヒーローが懐かしく思います。
    これまでブログを楽しませていただきながら、コメントもせず失礼いたしました。今回こそはコメントさせていただこうと心に決めていました。楽しい時間をありがとうございました!またkikiさんのブログを楽しみにしています。

  • 2017/08/04 (Fri) 02:57
    Re: SHERLOCK

    senさん 初めまして。コメントありがとうございます。
    「Sherlock」はやはり第2シリーズが頂点で、全てでしたね。あまりにここで急カーブで盛り上がってしまったために、第3シリーズ以降は奇妙な事になってしまった感じがします。もっと普通にやればよかった、というか、あまりにも止まっていなかったですわね。後半は毎回、変えなきゃ、変えなきゃ!という感じで暴走していってしまった感じ。ワタシ的には、第1シリーズのようなテイストで第2シリーズを作り(普通の事件で探偵コンビの活躍を示すという)、第3シリーズにベルグレーヴィアやライヘンバッハなどの傑作群が来て、そして第4シリーズで、東の風など出してこずに幕引きをする、というのが、ワタシ的にはベストだったような気がするんですが、まぁ、たらればの話は意味がないですね(笑)
    ずっと読んでいただいてありがとうございました。「Sherlock」についてはもう書かないかもしれませんが、また、いつでも遊びに来てください。

  • 2017/08/04 (Fri) 10:25
    Sherlock

    こんにちは、いつも楽しくブログを拝見しております。

    Sherlockシーズン4も終わってしまいましたね。
    総じてこのシリーズは魅力的な悪役にかかっていたのかなと思いました。特にモリアーティについては製作陣もこんなに盛り上がるとは予想外だったのではないかと。モリアーティが退場して以降のシリーズはその点で苦戦していたように思いますがS3E3のマグヌッセンや今回のカルヴァートン・スミスの回は魅力的な悪役の登場で個人的にかなり楽しめました。
    悪役といえば、ブログでも触れられていますが、シーズン4はちょうど同時期に放送されていたドラマ版の「ハンニバル」を思わせるシーンがちらほらありまして、ハンニバルの番宣ポスターのパロディみたいのが一瞬映ったり、第3話では「羊たちの沈黙を見たか?」とか言ってましたね。魅力的な悪役ということで製作陣もちょっと影響されたのかしら。
    まあ第3話はちょっと安っぽいボンド映画見たいだなと思ってしまいましたが、こういうのは英国人が(とくにマーク・ゲイティスあたり)一度はやってみたいものなのかもしれませんね(笑)。

    今回はクリフハンガーもなく大団円のような幕引きだったので、ああ本当に終わってしまうのかなとやっぱり寂しい感じです。
    といいつつまた数年後にしれっと番外編でもやってくれると嬉しいのですけど。

    ではでは。

  • 2017/08/06 (Sun) 06:54
    Re: Sherlock

    Harryさん こんにちは。
    いつも読んでいただいてありがとうございます。

    終わってしまいましたねー。そうですよね。最初の「ピンク色の研究」の時から悪役はなかなかインパクトがありましたが、やはり最高最大はモリアーティとアイリーン・アドラーかな。後半ではマグヌッセンとスミスですね。中でもやはりモリアーティはキャラ構築とアンドリュー・スコットの怪演があいまって、ブームが最高潮に達してしまい、死んだままにするのか、生きていたことにするのか、けっこう迷いが出た感じもしますね。第3シリーズ以降、アンドリュー・スコットのモリアーティを超える強敵を作る事は至難の技だったろうと思います。確かにそれで展開が苦しくなっていった観はありますね。

    多分、このシリーズは今回で終了なんだと思いますが、数年後にしれっと番外編はあるかないか微妙なところかもですね(笑)多分もう、バッチ君もフリーマンもここに戻るよりもできるだけ離れたいという感じになっているのではなかろうかと推察。何か作られるとしたら、もっとずっと先になるんじゃないかな、という感じがします。が、どうでしょうね。ふほほ。

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