「ジャーヘッド」

~砂漠のもんもん(悶々)組~
2005年 米 サム・メンデス監督



これも意識をすりぬけていた作品で、公開時期にはスルーだった。で、このつど『ジェイク・ギレンホール「ブロークバック」以外の出演作』はいかがなものかと、一度観てみることにした。 観終わって、当初は少し拍子抜けした。従来の戦争映画と些か異なるニュアンス。テーマが元海兵隊員の手記を元にした「戦場における兵士の日常」だからなのだろう。

「骨折り山」おまけのおまけ

胸キュンジェイキーことジェイク・ギレンホール。この人は本当に目が効いている。切なさ度メーター振り切れの「ブロークバック・マウンテン」昨今はラスト近くのこのシーンがお気に入り。

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「立ったまま馬みたいに眠るのかい?」「………」 いつになく優しいイニスと甘えた感じのジャックがキュート。原作でもジャックの忘れられないとっておきの想い出として綴られる場面である。

ハマリついでに近所の図書館に原作本があったので、読んでみた。短くて簡潔。でも何か独特な味わいのある文体で興味深く読んだ。映画よりも原作の方が、イニスがジャックの事をもっと強く想っているし、あそこまで無口ではない。映画は原作のエピソードを削った部分と、原作にないものを追加した部分があって、双方味わうのは趣きがある。何故原作を読みたかったかというと、ジャックの最期は結局どっちだったのかを知りたかったのだ。そして映画を見た限りでのワタシの思いこみは誤りだったことが分った。あくまでイニスの根深いトラウマを示そうとした場面だと思っていたのだけどそうではなかった。これは過去の遺物的なお話ではなく、つい最近1998年にもワイオミングで実際にゲイの青年がリンチに遭って殺害されるという事件が起き(今でもそんな?と驚くが風土の頚木というのは異常に根強いものであるようだ)、それを題材にした映画「ララミープロジェクト」がAXNチャンネルで放映されたのだが、映画専門チャンネル以外にはなかなか目が行き届かずにチェック漏れ。ワタシが居酒屋で気持ちよく角玉梅酒やマグロとアボカドのタルタルを味わっている間に放映されていたのだった。ジーザス! 気づいた時には後の祭り。
ともあれ、ワタシは一人の人間を根深く縛るトラウマが周囲の人間を不幸にする話だと思っていたので、ゲイへの偏見から死に至るといったような妙に社会的な構図にはまりこんだ、図式的な最期をジャックが迎えたとは解釈したくなかったのだ。でも原作を読んだら疑問の余地はなくなった。

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だとすれば、イニスの、あの人目を懼れ、山里に逃げ隠れしていたありようは結局、正解だったという事になる。無防備なジャックは、世間の目など気にせぬあまりに、イニスが懼れていた非業の死を遂げることになってしまうのだ。う?む…。そして、原作にはハッキリと書かれていて、映画ではサラっと流していたが、煮え切らないイニスに愛想を尽かして、女房と離婚し、他の男と牧場をやろうとした事で、ジャックは命を落すハメになったのである。最終的に、ジャックはあれほど愛していたイニスを裏切ろうとしていたのだ。それゆえ、昔、甘やかな思いでうっとりとイニスに背後から抱かれていたジャックと、20年後、どうしても状況を変えようとしないイニスを見送るちょび髭のジャックの表情は截然と変わっている事をありありと対比させてみせているのである。
…結局、イニスが固執していた方法以外に、二人が逢瀬を続ける道はなかったのだ。発展的に関係を変えていこうとしないイニスに業を煮やして裏切った途端に、ジャックを襲う非業の死。…今更そんな偏見が、と思っていたが現実に1998年などという直近で、いまだにそんな事件が起きている事を思うと「骨折り山」の悲劇は過去の遺物ではないのである。

「ブロークバック・マウンテン」 おまけ

~またも、雲と山と羊~



別に格別そういった題材が好きだというわけではないのだけど、「切なさ」に弱いワタシは、ちょっと「ブロークバック・マウンテン」にプチはまり状態なので、続けてしつこいようだが、ちょこっとまたこの映画について、思いついたことを幾つか書きたいと思う。

「ブロークバック・マウンテン」

~山だけが知っている…~
2005年 米 アン・リー監督



アン・リーには、その昔「ウェディング・バンケット」という作品があった。同性愛、家族、東西文化の違いなどを織り交ぜたコミカルだけど考えさせられる映画で、主人公の台湾人の青年と一緒に暮すアメリカ男性がとても穏やかで優しく、台湾青年の都合にあれこれと振りまわされつつも、いつも優しく受容するという雰囲気が印象的だった。アン・リーは微妙な感情の襞を描写するのがうまいな、と思った。彼の作品を見たのはそれが最初で、次に「飲食男女」、その次に「いつか晴れた日に」と来て、すっかりこの監督のファンになった。そして久々にアン・リーが本領を発揮したと思われるのが本作。「ブロークバック・マウンテン」スターチャンネル登場につき、すかさず鑑賞した。

ザ・バイタリティ 「中国てなもんや商社」

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かねてから中国人のあの曰く言いがたいパワーに対抗できるのは、日本の中では大阪人だけだとワタシは思っていたのだけど、この本を読んでますますその意を強くした。

 「バーバー」

~傍観者が人生を生きるとき~
2001年 米 ジョエル・コーエン監督


ボギーもどき

動くビリー・ボブ・ソーントンを初めて見た映画。その前にちょろっと「ラブ・アクチュアリー」で見てはいたけど、何せちょろっとだったので、マトモに観たのは今回がお初。(最初にこの人を認識したのはアンジー・ジョリーとベッチョリとくっついているイカレ気味の亭主という素の姿をE!みたいな番組で見かけただけだった)
この作品はモノクロのせいもあり、終始しがらんだ顔で煙草を横くわえにしたビリー・ボブは、ギャング映画に出ていない時のボギーを想起させる。多分、コーエン兄弟の狙いもそのへんじゃないかと思う。痩せて小柄で、クタっとして、ソフトを被って町を歩く姿など、疑いもなくボギーもどきである。時代背景も50 年代。モノクロ映像が映画の雰囲気にピッタリと合っている。

「乱れる」

~日本映画いぶし銀の底力~
1964年 東宝 成瀬巳喜男監督/高峰秀子/加山雄三



凄い映画を観てしまった。
観終わった後で、こんなにいつまでも尾を引く映画は久しくお目にかからなかった。
日本映画黄金期いぶし銀の底力を感じさせる1本。
スタッフ、キャストともに最高の仕事をしている作品である。
とにかく、まず松山善三のオリジナル脚本の素晴らしさ。それを成瀬巳喜男が演出し、
その世界観を体現するキャスティングの絶妙さに唸る。
高度成長期の地方都市を舞台に、身を犠牲にして婚家に尽くしながら義弟が育つとその親族から弾き出されてしまう未亡人の姿を通して、移り変わる世の中に合わせて価値観を変え、しぶとく居直る事がどうしても出来ない女の悲しみを繊細に表現した一編。
極めて日本的な内容と言えるのに全編にフランス映画のようなムードが漂っているのが特徴で、モノクロの美しい映像が大きな効果を与えているように思う。

「グラディエーター」 

~Strength & Honor~
2000年 米 リドリー・スコット監督

 花吹雪

なんだかこの映画が懐かしくなったので、もの凄く久々に観てみた。ワタシにとってこれはハマった経緯や、その時の気持ちの高揚感が凄く「カジノ」と似ている作品だ。とにかく予告編を観た時に「お!行かなきゃ」と思って劇場に行った。「カジノ」は四度行ったが、これは二度行った。(ちなみに「アイランド」も二度行った。特に基準はない)そもそも余程気持ちが動かないと映画館に行かないワタシ。複数回見るというのはかなり異例な事なのだ。予告編で闘技場から振ってくる花吹雪を浴びてヒゲヅラのラッシーが甲冑を着て立っている姿に「ははぁ、大昔のリチャード・バートン(クレオパトラのアントニーなど)に似てるからキャスティングされたな?」などと思ったりした。いずれにしてもそのラッシーの面構えに、何かこの映画に期待してもいいような空気を感じた。無条件に面白そうだと思った。その時点では監督もリドリー・スコットだし、などとは特に考えなかった。

Are you willing to die? 久々の再会



ワタシは飽きっぽいという宿痾を抱えているので、あんなに愛した「カジノ・ロワイヤル」でもそうしょっちゅう観ていたのでは萌え尽き症候群を起こしてしまう。そこでここ2ヶ月弱ばかりは「カジノ」を封印していた。3ヶ月以上は観ないで置こうと思ったのだけど、昨今日本版の発売で、身辺で昨日も見た、今日も見る、という声がサワサワ、サワサワと起こっていて、やっぱり面白い、日本語字幕が出ると感情移入し易くてウットリだわぁなどと言われると「あぁ、ワタシも新鮮な気持ちでウットリしたい…」と少し周囲が羨ましくなり、新鮮な気持ちになるためにはもう少し封印した方がいいのだけど、禁断の玉手箱を開けて久々にボンドさんと対面することにした。

モノクロの「Yes. Considerably.」から、一転して極彩色のオープニングへ。この主題歌を聴くと、やはり劇場で最初にドキドキしながらスクリーンを見つめた期待感が甦ってくる。ワタシは、このオープニングのアニメーションのボンドさんの動きがとても好きなのだけど、殴られた時の体の反動とか、殴り返した時のネクタイの跳ねあがり具合とかが、本当に絶妙な間合いと角度で、とてもいい。  
♪武器を取れ、どこからも助けは来ない …あぁ俺の体を流れる冷たい血 その名は分っているはず く???。 でも冷たくないなぁ。ボンドさんの血は相当に熱い血である。

そしてモンテネグロの列車のシーン。丁丁発止とやりあったあと、バッグを肩にさっさと食堂車を出て行くヴェスパーを見送って、「ぷふん」と鼻で笑うシーンだが、猪口才だけど面白い女だな、という感じである。やっと噛み応えある女に出会った、という笑いのようにも見える。ちと噛み応え有り過ぎだったが…。


ぷふん

この後、ホテルに入り、化粧室のヴェスパーにドレスを持ってきて、凄い早口で、けれど息を抜いた独特の発声でダニエル・ボンドが言うセリフ。「君にはファビュラスでいてもらわないと困るんだ。君が入ってきて俺にキスすると、他のプレイヤーが君の首筋に見とれてカードの事を忘れる…どうだい、俺のために、やってくれるかな?」という時の、語尾の「You can do that for me?」の言い方が、またこれ、罪なぐらいにひそやかな抑揚なのである。やっちゃうやっちゃう、ワタシで良ければいくらでもなんでもやってあげてよ、と毎度思うシーンだ。

そして非常階段の死闘。前にも書いたけどヴェスパーをル・シッフルの泊まっている階に一緒に連れていく必要はない。見せ場を作るために脚本に無理が生じているシーンであるが、まぁ、そういう事には眼をつぶり(だってそのシーンがないとボンドとヴェスパーは魂で繋がらないわけだから)その後シャツを着替えてプレイを再開したボンドは、しかしヴェスパーがカジノに戻ってこなかったのに内心中っ腹である。「なんだよ、全く。俺にだけ仕事させやがって」かどうか知らないが、なんだかムカっ腹なご様子で部屋に戻ってくる。ドアを開け、カードキーをヤケクソのようにそこらに放り投げる。「なんで戻ってこなかったんだ」と文句を言ってやるつもりでいると、ワイングラスが欠けているのが目にはいる。気がつけばシャワールームから水音がずっとしている。ここでシャワーを着衣のまま頭から浴びているヴェスパーを見て、はっと胸を衝かれるボンド。初めて見た時から気になる女だったのだが、ここで彼の心は決定的に彼女に引き寄せられるのだ。彼女の中に潜む「不安な少女」を感じたボンドは、その横に迷わず着衣のまま座る。強気で、口を開けば小憎たらしい皮肉しか言わないヴェスパーが、そっと彼の太い腕に頬をつける。その瞬間、彼女の痛みが伝わったかのように一瞬はっとするボンド。その後いたましげに彼女をじっと見つめる視線が優しい。この時の「寒いかい?」という問いかけの声がまた、ねえ…。



そしてあのヴェスパーのテーマともいうべき音楽。音楽効果絶大。この曲はここぞというところで流れるのだけど、どの場面でもとても情感を盛り上げるのに寄与している。翌朝のシーン。バルコニーでマティスと話す時のボンドの顔はなんだか少しはれぼったい。二人で何時までシャワーに打たれていたんだか…。いくらお湯でも、いい加減にしないと風邪をひいてよ。


ソニー!

その後、毒を盛られてヘベヘベになりアストンに。SOSを出し、本部から「指示をよく聞け」といわれて泣き笑いのようなシワシワの顔で「I’m all ears」という時は一瞬、やたらジェームズ・カーンに似ている。脂汗をいっぱい掻いて、瀕死の状態のシーンでも売りの青い瞳のアップ。どんな場面でも非常にキレイに発色している。とにかく、いつでもどこでも常に、彼の瞳は澄んだブルー。曖昧な色に映っている場面はなく、常にきっちりとブルーなのだ。


常にBlue


拷問の後、誰もいない砂浜を二人で占領し、「君は本心が見えない。だから君が好きなんだ」というシーンの顔は光線の加減でなんだかマイケル・キートンにとても似ている。


キートン顔

折角いいセリフを言っているシーンなのに、もうちっと別なアングルで撮れなかったものだろうか。そして、この本心を見せない女のために、仕事さえ投げ打つボンド。冷たい血どころではない。あつあつの熱湯状態である。裏切られても、その肉体が滅んでも、一人の女を愛しつづけるのだ。純情一途な人殺し。それがダニエルのボンドなのである。

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