「オルフェ」

~詩人ですもの~
1949年 仏 ジャン・コクトー監督

一時期、ちょっとジャン・コクトーがマイブームだった時期があった。昔、Bunkamuraミュージアムで企画された「コクトー展」にも行った。コクトーの描く独特なタッチのイラストが好きだったので、絵葉書数点と文字盤にイラストの入っている時計を買った。時計は電池の減りが早いのがタマにキズだけど、いまだに愛用している。詩人で作家で映画監督で画家で音楽家でもあるという多才な人であるが、この人を最初に知ったのは映画監督としてだった。


自画像(左)と時計

40~50年代に撮った数本の映画のうち、一番有名なのは「美女と野獣」かもしれない。これは例によって16,7の頃にNHKの名作劇場あたりで見た。観る前にわが父から「マレーは最高の男前」だと聞かされていたので楽しみにしていたが、この作品での彼は90%を野獣メイクで通しているので、アラ、お顔が見えなくってよ、と思いつつ待つほどに、最後の最後に王子に戻ったところでやっとご尊顔を拝することが出来た。



まぁ、好みはともかくとして鋭角的な美貌ではある。最後に素顔が出て程なく「END」なので、野獣からの変貌じゃよくも見えるわな、とは思った。ジャン・マレーはともかくコクトーの映画というのにちょっと惹きつけられるものを感じた。
その後「オルフェ」という作品があることを知った。良いらしいという評判を聞いたが、なかなかTVで放映されなかったので仕方なくその頃はまだ非常に高かったVHSを買った。

 大出血の買い物

「オルフェ」はその名のごとくオルフェウス神話を現代に置き換えて、コクトーが自らの詩に対する概念を映画にしたものだといわれている。(「詩は男が命をかけた一生の仕事で、時には命の危険を伴うものである」という事を表現しようとしたものらしい。いや?詩ってスゴいものなんですね)ともあれ、「オルフェ」はコクトーが最も実験的手法を駆使して撮った映画で、今見てもそれなりに面白い効果が出ている。黄泉の国へは鏡を潜り抜けていくのだが、水銀を鏡の表面にみたてて指がすーっと鏡に入っていく様を撮影したり、黄泉の国に吸い込まれるような独特の動きを逆回転を駆使して表現したり、デジタル小細工が出来ない時代の味わい深い工夫のあとがあれこれと伺える。

体にぴったりとはりついた黒い衣装で死神を演じるマリア・カザレス。高圧的な態度と厳しい眼差し。ぴっぴっぴと手袋から指を抜いてシガレットケースからタバコを取り出して吸い付ける様が絵になっている。この人はスペイン系。「天井桟敷の人々」などにも出ていた。当時まだ若かったのに有無を言わさず男を従わせる貫禄と威厳に満ちている。

 マリア・カザレス

死神に魅入られたオルフェを恋い慕う妻・ユリディスにマリー・デア。そのユリディスにそこはかとない恋心をいだく死神の運転手にフランソワ・ペリエ。そして妻の友人役でシャンソン歌手・ジュリエット・グレコが顔を見せる。いわゆる"サロン"とかでもてはやされそうなエキセントリックな魅力がある。死神がしもべのように連れ歩く若い詩人にエドゥアール・デルミ。このデルミは最晩年のコクトーが寵愛した青年で、ヴィスコンティのヘルムート・バーガーに当たる存在といえる。

詩人として名をなしているオルフェは、ある日その名も「詩人のカフェ」という店で若い詩人のパトロンになっている"女王"と呼ばれる女に出会う。この女こそは死神。その日はオルフェの存在を脅かす新進気鋭の詩人セジェストを黄泉の国へと連れ去るためにカフェを訪れていた。死ぬべき人は白バイ警官のようなバイク隊によって轢かれることで死を迎えるという表現がユニーク。死のバイク隊なのである。「詩人のカフェ」などという名を臆面もなくつけるところがさすがに詩人。死神の車のラジオからは絶えず意味不明の詩篇が流れてくる。曰く「一杯のコップの水が世界を明るくする」「鏡は思考力を増大させる」「小鳥は指でさえずる」…。これらがまたおフラ?ンス語で流れてくるのでなんだか余計に曰くありげなのである。

夜、眠るオルフェの元に、鏡の中からケープを着た死神がすーっとやってくるシーンが幻想的で美しい。死神と遭ってから、妻に突如冷たくなるオルフェ。拒まれて悲しげな顔をする妻を脇から少し切なそうに見つめる死神の運転手ウルトビーズ。町を歩くオルフェが角をよぎっていく死神をみつけて追い掛け、追いつきそうになると彼女がふっと姿を消してしまう追いかけごっこのシーンも印象的。オルフェに恋した死神が、妻ユリディスの殺害を目論み、「(人を)愛する資格はない」とウルトビーズに非難され、「お互いにね」と切り返すシーンも忘れ難い。ともあれ、妻は黄泉の国へと連れ去られたため、オルフェは妻を取り戻すべく黄泉の国に迷い込むのである。ウルトビーズがオルフェに「鏡にはあなたの全人生と働く死神の姿が映っている」と言う。そして黄泉の国へ行きたいのは奥さんに逢いたいのか、死神に逢いたいのか、とオルフェに問う。オルフェ答えて「両方だ」 そんなムシのいい話が通るか。
鏡を通りぬける時に、ゴム手袋をはめるのがなんだか可笑しい。観念的なお芸術映画というだけでなく、映画としてきちんと面白い作品に仕上っているところがミソ。それにしても18800円もしたというのに画像はぼやけて劣化気味。今はもっと安くて映像のきれいなDVDが出ている事だろうけど、まぁ大昔に小遣いをはたいて買った小娘時代の思い出のために、このまま買い換えないでおこうと思う。

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