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「ジャージの二人」

~すずやかな脱力感 ゆるやかな連帯感~
2008年 ザナドゥー 中村義洋監督



とにもかくにも毎日暑いので、なにかこう、涼しい高原の風景を見てぼわっとしたくなった。
そんなわけで、恵比寿ガーデンシネマにて「ジャージの二人」を鑑賞してきた。
34度の東京から始まった映画。Tシャツも汗で張り付いた 雅人がコンビニの冷蔵ケースの戸をあけて涼む。サングラスの父、鮎川 が現れ、「せば」と言って車に乗り込み、高速を飛ばして群馬の高原へ。


ああ、目にも涼しいこの緑はどうだ。緑陰とはまさにこのこと。
ワタシは両側から緑の木々がトンネルを作る高原の道路が大好きなのだ。
とにかく、夏は海よりも、涼しい高原で木々を渡る風に吹かれてノンビリしている状態にあこがれる。さやさやさやと緑の葉っぱを揺らす森の風を思うと、いつでも脳内が少し涼しくなる。



群馬と長野の境目あたりだろうか。
古いけどそこそこの広さがある気取っていない感じの「山荘」に、父(鮎川 )と息子( 雅人)は黙々と食料などを運び込む。
プロパンガスのタンクの栓を緩めたり、ジャージャーと水道から水を出したり、配電盤のスイッチを上げたり、冷蔵庫に食料を収納したり…。父と子は久々に会うからか、互いに私生活の悩みを抱えているからか、会話もなにやらぎこちない。
素でしゃべると福岡訛りまるだしな感じの鮎川 。ルックスととぼけた口調とのギャップに味わいのある人だと昔から思っていたのだが、今回もセリフの間合いが絶妙。何とか福岡訛りを押えて、訥々としたカメラマンの父の味わい深い性格を表現していた。
夜になり、息子が「やっぱり冷えるね」と言うと、父は、亡き祖母のコレクションである近隣の小学校のジャージをダンボールから出してきて息子に勧める。二人がそれぞれジャージを選んで着るシーン。シュピ!シュワ!という衣擦れの効果音が歯切れよい。
父はグラビア・カメラマンだが、息子は現在失業中。ある目的をもって涼しい山荘に来たのだが、なかなか着手できない。おまけに、妻は他の男に心を移して結婚生活も黄色信号。こりゃ涼しい山荘で頭冷やさないとね。
父も、再々婚相手の妻と上手くいっていない。こんなオットリした懐深いおとっつぁんなのに、何がすれ違って不協和音が産まれるのか…。人間関係は難しい。
翌朝、TVで東京の予想最高気温35度と聞いて、「くぅ!」とひそかなガッツポーズをする親子。
高原は涼しい。昼でも23度。夜は20度。だからジャージが必要なのだ。

夜、少し離れて各々布団に寝る親子。父が「仕事辞めて毎日なにしてるの?」と訊くと、息子は「立ち読み、かな」と答える。
するとやや間を置いて「…深いね」と父。 
鮎川 のキャラと、セリフと、その間合いが絶妙のマッチングをみせた瞬間である。
こういう巧まざる巧みさをプロの演技者ではない人から引き出すさりげない演出があざとくなくて心地よい。鮎川 を選んだセンスって凄いな。原作を読んでいないので何ともいえないが、すぐには思い着くキャスティングではないだろう。
なんたって父と息子のコンビネーションが全ての映画であるから、そのキャスティングこそが本当にこの映画の全てなのである。大正解で祝着至極。

この監督は携帯の音や、ゲームの効果音、はたまた昨今耳にするのが珍しくなったダイヤルアップでネットをつないだ時の、あのピーィィィィ、ホワンホワンホワン、ザーー… といったような電子音系の音を印象的に、かつ効果的にシーンの中に入れてくる。
中でも一番印象的だったのは、山荘の五右衛門風呂を作った男(ダンカン)が携帯を開いたり、閉じたりする時に出る効果音。
いちいちあんな音させるのもどうか、という感じだったが耳障りではなくとぼけた味わいだった。

携帯といえば、この山荘、もちろん一本のアンテナも立たない。今日び、携帯のアンテナが立たないという事は確実に浮世離れできるということを示す。固定電話もあるけれど、携帯電話はただの電話ではない。現代人の大半は携帯依存症。携帯は通話よりもメールのツールである。PCよりももっとパーソナルなメールのツールなのだ。
山荘に来る人は、みな携帯を開いてアンテナが立たないのに小さく落胆し、「家の電話使えば?」と言われても曖昧に笑って使おうとしない。固定電話でわざわざ電話をかけて話したいのではなく、さりげなく届く筈のメールを待っているからだ。


バリサンの穴場

息子が父の愛犬・シベリアンハスキーのミロを散歩させつつあぜ道を歩いていると小高い道で女子高生が片手をかざして立っている。自分に挨拶してくれているのかと思い、片手をあげる息子だが、もちろん女子高生は彼に用があるわけではない。
そう、その小高い道はそのへんで唯一携帯がバリサンになる穴場だったのである。
みはるかす畑の向こうに雲のたなびく山が見える。すばらしいロケーション。しかもバリサンになるのである。彼はその穴場で妻に電話をかけるが、取り込み中だったらしい妻は「ごめん、かけ直す」と言って切ってしまう。
かけ直すっていったってさ。容易に電波がこないんだっつーのにからに。
そこで夕暮れまで妻の電話を待つ息子。 なかなか未練がたてないのだ。

 雅人は、「篤姫」の夫役で初めてマジマジと観たのだが、当初トレーラーを見ただけではあまり食指の動かなかったこの映画を観る気になったのは、彼が息子をやっていたことがある。別にファンではないがウツケブリッコの家定はやはり良かったので、他ではどんな芝居をするのかちょっと見てみたくなったのだった。それにしても細いね。成人男子とは思われぬ。この人ならではのトッチャンボウヤ感がこの作品でもいい具合に活きている。炊事や掃除をきちんとする身奇麗な男にはうってつけ。
この演じる息子がなかなか未練をたてない妻に水野美紀。



山荘の隣人役で大楠道代も出てくるが、なんだか宮崎駿のアニメに出てくるような国籍不明の魔女っぽいキャラに雰囲気が似ていると思っていたら、鮎川父が彼女について「あの人は魔女じゃないかと思うんだ」と言うシーンがあって笑ってしまった。
…うん、きっと魔女だよ。ワタシも魔女に一票を投ずる。

夏休みで山荘にやってくる息子の腹違いの妹・花子(田中あさみ)、屈託ない笑顔の裏で両親の不和に漠然と不安を感じている。
父は父で彼女に友達がいないのを心配している。訥々しているがとても家族思いの父なのだ。
父は、山荘を訪れる人が、「寒いね」と言うとニヤっとしてジャージの入ったダンボールを出してくるのだが、息子以外はみな「自分で持ってきたから」と言って父のジャージを着てくれないのも可笑しい。花子用に父が用意していたオレンジのジャージ、ちょっと欲しいかも、な気がした。

「俺がお前ぐらいな頃、この山荘の前の道をJ・レノンとオノ・ヨーコが歩いていたのを観たんだ」という父。
そういえばレノン夫妻はよくお忍びで軽井沢に来ていたらしい。従姉妹夫婦が軽井沢に行った際、赤坂の料亭が軽井沢に出していた出店に知合いがいたので、そこにご飯を食べに行ったら、ちょうどレノン夫妻が来ているから会わせてあげる、とその知人が紹介してくれたという。従姉妹夫婦がレノン&ヨーコと4ショットで写っている写真を従姉妹の家で見た事を、ワタシもふと思い出した。従姉妹の旦那さんがレノン・ファンなので、彼にとっては家宝の写真になっている。  
…閑話休題。



さりげない会話で淡々と、ジャージの親子の山荘生活が綴られるのだが、中だるみもしなければ退屈もせず、不思議な間合いの心地よさと常に緑陰を吹きぬけてくる風の清涼感を感じる作品。父と息子の距離感が非常にいい感じ。ジャージを着る事で、ふだん東京にいると互いに別な生活を営んでいる父と子が緩やかに連帯する。全然似ていないようなこの親子が、同じ口癖を持っているのがいい。そして涼しい森の中で、ちょこっと人生の夏休みに入っているうちに、色々な人生の問題はいつしかそれぞれの方向性に従って、一歩先へと動き出すのである。

それにしてもこのおとっつぁん、最高じゃないかしらん。
そして、あの涼しい涼しい山荘。ムシが出るのは困るけど、
山荘はやはりあらまほしきもの、である。

目にも心地よい高原の風景に癒されて外に出たら、昼の暑熱はどこへやら、ガーデンプレイスには高原のような涼しい夜風が吹いていた。明日はちょっと涼しくなるかしらん…。

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