「ジャーヘッド」

~砂漠のもんもん(悶々)組~
2005年 米 サム・メンデス監督



これも意識をすりぬけていた作品で、公開時期にはスルーだった。で、このつど『ジェイク・ギレンホール「ブロークバック」以外の出演作』はいかがなものかと、一度観てみることにした。 観終わって、当初は少し拍子抜けした。従来の戦争映画と些か異なるニュアンス。テーマが元海兵隊員の手記を元にした「戦場における兵士の日常」だからなのだろう。
しかし、少し時間がたつと妙に断片が記憶に残るのと、ジェイクがまた「ブロークバック」とは違う持ち味を出していて、しかもダニエルもマッツァオな程にこの作品では鍛えた肉体を惜しげもなく晒して頑張っているのでスルーできなくなった。

18歳で海兵隊に志願して入隊したスオフォード(ジェイク)。大学か、海兵隊か迷って結局マリーンに飛びこんでしまう。(爺さんも兵士、オヤジさんもベトナム帰りという家の上に、家庭もなんだか居心地悪いので)だが、新兵訓練では鬼教官にやたらイビられる。ひゃ?、こういう理不尽なイジメとか勘弁だわ、と引き始めたら、訓練を終えてペンドルトン基地に配属になるあたりでBGMにお気楽そうな「Don't worry, be Happy」が流れてきて少しホっとする。その他T・レックスの「Get it on」も印象的に使われていた。じとじとシンドい映画かと思ったのだけど、ベースは「若者的日常」を描いているので暗さはない。

基地での訓練は黒人三等曹長サイクス(ジェイミー・フォックス)の指揮下、行われる。彼には飄々としたユーモアがあり、陰湿さがない。海兵隊という選択を後悔しているスオフォードは下剤を飲んでトイレに篭り訓練を怠けようとする。トイレでマンガじゃなくカフカの「異邦人」なんか読んでいる。曹長がトイレの戸を開けて彼を訓練に引っ張り出す下りは、この曹長のキャラがよく出ていていい。

でもカフカなんか読んでいる懐疑的なボクがこの先の試練に耐えていけるのかと思っていると、射撃に思わぬ才能があることに自他ともに気づく。数名しか選ばれない斥候狙撃兵に指名されたことで、いよいよ狙撃銃で的を射貫くことにのめりこむ。そしてものの流れとして紙の人型ではなく、生身の人間を撃って赤い飛沫を盛大に上げたい、と思うようになるのだ。


この目

軍隊が、若者が潜在的に抱えている鬱勃とした性エネルギーをどう戦場へと振り向けるのか、がよく分る。斥候狙撃兵になったあたりから、スオフォードもすっかり単純な兵隊さんになり、基地の映画上映で「地獄の黙示録」(ベタ極まれり)の最も有名な、ワルキューレが盛大に流れるあの海上のヘリ爆撃シーンを観せられて、彼は両拳を突き上げて雄たけぶ。会場中も大興奮。ベタな戦意高揚だけど、やっぱり効果があるのだろう。ワグナーは常に、いやが上にも好戦的な気分を盛り上げるのだ。

そして大盛り上がりの彼らに出撃命令が下る。あの砂漠の不毛な戦争・湾岸戦争が始まったからだ。砂漠に運ばれ、すぐにも戦闘が始まるかと思いきや、敵の姿などどこにもない。日々、訓練。水を大量に補給し、砂漠に一列に並んで、水分を放出する。彼らの日々は訓練とマスターベーションの繰り返しで過ぎていく。国家予算を大量に費やして、兵士を砂漠へ送り、無為な日々を送らせる。不毛度ここに極まれり。ニュース映像で観た湾岸戦争は夜空の花火ショーのごとく、空爆の淡いグリーンの光が飛び交い、現実感がなく、やけにのん気なゲーム画面のようだった。爆弾が落ちたところには阿鼻叫喚があるに違いないのだけど、それは「夜空の花火ショー」からは感じられない。そして、ベトナムと違って、湾岸戦争では白兵戦が殆ど無かったのである。待機が終わり、いよいよ「砂漠の嵐」作戦が開始。爆撃の始まった塹壕の縁に佇み「俺の戦争が始まった」と真空状態になるスォフォード。いつか知らぬうち失禁しているのがリアル。砂漠を進むうちに空爆による黒焦げの遺体や残骸を見、火を放たれた油田から炎の柱が吹きあがるのを見る。顔に振りかかる石油を舐めるスォフォード。…地球の血。
だが、あれだけ訓練したのに、スオフォードはついに1発の弾も撃つことなく、戦争終結を迎える。空爆であっという間に勝負がついて、地上戦の入りこむ隙はなかったのだ。4日と4時間1分で彼の戦争は終わる。誰も撃たなくて済んだなら良かったじゃん、と単純には割り切れない。指が射撃の味を覚えている。訓練を受け、戦場に行ってしまったということは、その兵士の心のありようをそれ以前と以後で、決定的に変えてしまうのだ。たとえ戦場で一発も撃たなくても。一人も殺さなくても。



それにしても、戦場の若者が考えることは、女房なり恋人なり、国に残してきた女のことばかりである。しかも、女は一人にしておくと大抵浮気する(笑)女房の浮気を知って半狂乱になる兵士の横で、自分の彼女も他の男に心を移したらしい気配を察して憂鬱なスオフォード。折しも砂漠でのクリスマス。彼はご禁制の酒を仲間うちに持ち込んでヤケクソの大騒ぎを繰り広げる。この時、間抜けな照明弾の花火騒ぎを起こした仲間を、懲罰を受け、怒りを募らせたスォフォードが翌日、神経症寸前まで追いこむ姿が印象的である。

若い兵士の頭の中を占めているのは、1つだけである。早く帰って彼女と寝たい。それだけ。そういう爆発的な性的エネルギーを戦う方向に転換させるのが軍隊。スポーツも、例えば高校球児とかオリンピック選手等は同じエネルギー転換が行われるのだろうが、兵士は死の危険が伴うだけにその昇華度合いはスポーツの比ではなかろう。そして、それが昇華しきれても、しきれなくても戦争の不毛という事に変りは無い。あの地獄のようなベトナムでなくても、戦場はやはり戦場なのだ。


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