「ショーシャンクの空に」

~必死に生きるか、必死に死ぬか~
1994年 米 フランク・ダラボン監督



オープニングのタイトルバックで、妻が殺されて被害者側の筈の主人公が容疑者にされ、裁判で有罪になり、刑務所に送られるいきさつが手際よく紹介されるのは「逃亡者('93)」の手法を踏襲したのかもしれない。原作では、きわめて冷静な性格のアンディが取り乱さずに平静に受け答えをしたために陪審員の印象を損ね、冷徹な殺人犯というイメージを持たれてしまったのだろうと説明してある。ともあれ、被害者なのに、殺人犯にされてしまうとは。冤罪で投獄されるというのは、どんな気持ちのするものだろうか。確か「パピヨン」も冤罪なのである。やはり、無実の自分が何故ここに!!という思いが夜毎日毎脳裏をへめぐり、何がどうあっても娑婆の空気を吸わずに死ねるか!という執念が芽生えてしまうのはやむを得まい。


ティム君演じるアンディが収監される間際にじっと獄舎を見上げるシーンが印象深い。ここを潜りぬけると娑婆と完全に縁が切れてしまう。まさしく「…この門を過ぎんとするものはいっさいの望みを捨てよ」である。

前に「アルカトラズ」のレビューにも書いたが、このズラっと並んだ独房の雰囲気がとても似ているのと、翌日の朝食で、幼虫が混入していたのを摘みあげたアンディに「それをくれないか」と老人受刑者ブルックスが言うシーンにデジャビュかと思ったものだ。「アルカトラズ」でフランク(イーストウッド)にリトマスがスパゲティを貰い、育てているハツカネズミに与えるシーンとカブっている。ブルックスはジェイクというカラスの雛に餌をやっているのだ。(カラスにジェイクだなんて、チッチッチ!)そして、シャワールームで初日からカマ狙いに目をつけられるシーンも同じ。まぁ、刑務所モノの常道といえばそれまでなのかもしれないが、とにかくあれこれと被るシーンが多いのもワタシ的には密かに楽しみのタネである。そして、悟ったような諦めたような目をした黒人の顔役レッド。前にも書いたがこのキャラにはやはり"イングリッシュ"の影があると思う。レッド(モーガン・フリーマン)はムショ内の調達屋。「Yes,sir. I'm a regular Sears,Roebuck. 」という語りでの自己紹介が耳に残る。彼が何度も仮釈放委員会の審査を受け、出る気満々で口から出任せに改心ぶりをアピールしている間は全て却下され、今更出てナンになるんだ、どうでもいいよ、とフテっていると借釈放が決まってしまう皮肉さも、それが人生、という感じである。


テーマはずばり「希望」。
アンディは、ひとすじの希望もない状況から、あらゆる方法で「希望」を紡いでいく。特技を生かしてムショ生活を安泰にし(芸は身を助ける)、仲間にビールを振舞ったり、めげずに嘆願書を送りつづけて図書の予算を増やしたり(たった6年でと喜ぶ所に、驚異的な粘り腰の人柄がよく現われている。なんたってもう脱獄方法が気長にも程があるぜと言いたくなるような方法だからして)そして、極めつけは「フィガロの結婚」のレコードを館内放送で流すシーンだろうか。これは原作にはない部分。ダラボンの思い入れが放射している。希望は他の誰よりもアンディその人にとって不可欠なものだったのだ。が、無実の彼はともかくも、お裾分けで他の囚人たちが自由な気分を味わっても妙なものだなぁという気もするが、まぁいいか。そして、そうまでして紡いできた希望が完全に潰えさりそうになった時、彼はついに決意する。そして獄舎の裏庭でレッドと語らい、約束をかわすのだ。

下水管の中を汚物にまみれ、方向転換もできぬ狭い筒の中をとにかく進むしかないというのは、閉所恐怖症のワタシには何よりぞっとするシーン。気長で忍耐強いアンディならではの方法だ。脱獄後の様子を畳みかけるようにテンポよく描いていくのも心地よい。が、脱獄ファンタジーとも言える映画なので、憂き世のツラさテンコモリなのに、脱獄方法やその後の捕まらなさ加減は浮世離れしている。まぁ、テーマは脱獄にあるわけではないのでそれもまた味なわけだが…。

お調子者のヘイウッドを演じるウィリアム・サドラーは「ダイ・ハード2」ではニコリともしない軍人のテロリストを演じていた。地味だがなんでも出来る人のようだ。
邪悪なミミズクのような所長役のボブ・ガントンもはまり役。この所長には一切の情けは無用だ。

刑務所内の映画上映で「ギルダ」が一瞬映るシーンがある。リタ・ヘイワース最盛期の一本。ちょっと興味が湧いて、昔ついレンタルしてまるまる観てしまった。三文メロドラマなのだが、リタはさすがの妖艶ぶり。踊りも巧いが声がよく歌も上手い。ピンナップガールの代表として、この作品でも名を残すことになった。

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原作にはない部分として老囚人ブルックスの借釈放後の悲劇が描かれ、すっかり人生も終盤にさしかかった老人を今更娑婆に出してどうするのか、という問題提起もする。レッドも二の舞になるのかとヤキモキさせる構造が巧い。すんでのところで彼はアンディとの約束を思い出し、それに賭けてみる。必死に生きるか、必死に死ぬか。(必死に死ぬって…もっといい訳文ないのかな)

遠い約束を思い出し、牧草地の石垣を辿っていき、黒曜石の下にアンディのメッセージを見つけ出すシーンは、やはり何度見てもじんわりとする。「これを読む君が元気だといいが」の一言に静かににじむレッドへの友情…。
バスに乗って国境の南に向かうレッドが、「I hope」を4つ続けて使うセリフ回しが印象深い。そして希望通り、真っ青な太平洋の浜辺で二人は再会を果す。 
友あり遠方より来る…久々に再会した友とは、やはりハグが基本なのである。
果されぬかもしれない約束を守る、という設定に弱いので、このラストのすがしさは格別である。

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