「スカーフェイス」

~The world is yours~
1983年 米 ブライアン・デ・パルマ監督


“世界をあなたに…”

これはアル・パチーノの人相が悪くなり始めた頃の作品で、当時、映画が始まってすぐに登場するパチーノのあまりの人相の悪さに驚き、暗黒街でのし上がりたいスカーフェイス(向こう傷)の男だから、こんな顔に作ってあるんだろうと思ってたら、その後の映画は傷はないもののどれもこんな顔で出てきて、つまり人相の変る分岐点で人相の悪い男の役をやったということになり、さすがパチーノ、ご面相の変化も計算に入れてキャリア設計をしているな、と感心した。(封切当時はそんな事は考えずもっぱらスゴイ顔になったもんだと思って眺めていた)

パチーノ 人相悪し

ワタシのイメージでは、それまでのパチーノはTVの洋画劇場の「セルピコ」とか「狼たちの午後」などで観た、小柄だけどスイートな顔の俳優という印象だったので、この悪相ぶりにはけっこう驚いたのだ。でも、今観るとまだ若いので、現在の顔から比べたら全然カワイかったりするのだけど。


「セルピコ」の頃

これは、ハワード・ホークスの「暗黒街の顔役」(1932年)のリメークで、舞台を80年代のアメリカに移し、難民を装ってアメリカに潜り込んだ前科者のキューバ男トニー・モンタナ(パチーノ)が、マイアミを舞台に麻薬ディーラーとして成り上っていく姿を描くバイオレンス映画。

ワタシ的には初めてミッシェル・ファイファーを見た映画でもある。ギャングの情婦で麻薬漬け、毎日だらだらプールサイドに寝そべっているか、鼻から白い粉を吸いこんでいるか、男の相手をしているか、化粧して着飾る以外の事は何にもしないのに、非常に気位が高い。情緒不安定でピリピリしたこのエルヴィラという情婦は、ミッシェル・ファイファーにピッタリだった。貴婦人よりも似合うのは間違いない。


タカビーなミッシェル

とっかかりとしてフランク・ロペス(ロバート・ロジア)という中堅どころのボスの元で仕事を始めるトニーだが、あっという間にこの人のいいところのあるボスを裏切って仕事もショバも女も奪い、しゃにむに裏社会をのし上がっていく。 ロペスの家に招かれて、透明なカプセル型のエレベータでするすると降りてくるエルヴィラ(ミッシェル・ファイファー)を一目見てトニーが惚れてしまうシーンなど、妙に印象深い。

トニーの相棒で一緒にキューバから逃れてきた女好きの色男マニーにスティーヴン・バウアー。バウアー演じるマニーを観ていると、ワタシはいつも「あしたのジョー」に出てくるカーロス・リベラを思い出してしまう。陽気で女とみればすかさず口説き、ラテン男の色気ムンムンという感じで、脚が長くてスタイルも良く、この映画でもわりに目立つキャラなのだが、バウアーはこれ以外にロクな作品がなく消えてしまった。


相棒マニーのスティーヴン・バウアー

音楽がジョルジオ・モロダーなのも時代を感じる。「Call me」ですよ、あなた。「アメリカン・ジゴロ」ですよ。モロダーが音楽担当だからかどうか、この作品にはディスコのシーンがけっこう入っている。チェックしてみたら「フラッシュ・ダンス」や「フォクシー・レディ」もモロダーが音楽を担当している。


トニーはエルヴィラに執念を燃やす一方で、妹ジーナ(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)にも近親相姦に近い愛情、というか、異常なまでの所有観念を持っている。別に自分が妹に手を出すというのではないが、妹に男が近寄るのを病的に毛嫌いし、排除しようとする。相棒の色男マニーはこの妹ジーナに惚れた事が命取りとなってしまう。

ツメの甘いロペスを始末した晩、彼の持ち物を全て手に入れ、念願のエルヴィラも手中にしたトニーが、ロペスの家のガラス張りの居間から、マイアミの夜空をゆっくりとよぎっていく飛行船を感慨深げに眺めるシーンはこの作品のハイライト。
飛行船の横腹には電飾の文字で「THE WORLD IS YOURS..」と表示される。確か、この時期のパンナムのキャッチコピーだったんじゃないかと思ったけれど、望む限りの、この世の全てを手に入れたいトニーの野望を映像にしてみせた象徴的なシーンである。


“世界をあなたに…”

一応正式に結婚したものの、ずっとトニーをバカにしつづけているエルヴィラというのも屈折した女である。無教養で品性も知性もないトニーに対し常に批判的でウンザリしている。そんなに嫌なら逃げたらいいに、と思っているとラスト近く「薬漬けで子宮が腐って子供も産めない」と言われて遂にブチ切れ、トニーに酒をぶっかけて「お別れよ!」と去っていく。彼女が「…わからないの?私達は負けたのよ。勝ち目はどこにもないんだわ」と低い声でトニーに語りかけるのが印象的だ。この時だけ、彼女は初めてまともに夫と向き合って話をしたのである。最後の最後、もうお別れという時に。


ミッシェル、まだ若い

エルヴィラと別れてからは、カタストロフに向かって雪崩れのように話は流れていく。短気で凶暴な男が成り上がり、ある程度のポジションまで来ると、生来もっていた猜疑心は際限もなく膨れ上がり、様々な欠点は歯止めがきかなくなる。周囲の誰も信用しなくなり、妻に去られ、嫉妬心からずっと一緒にやってきた相棒を殺し、最後は本当の一人になる。たった一人。人を信用しないあまりに、孤独地獄に陥るのだ。家中にしこんだ監視カメラのモニタに囲まれて、皮張りの椅子に一人うずくまるトニー。象徴的なシーンである。そして結局、成りあがったら墜落するしかない。というわけでラストの猛烈な銃撃戦のシーンに入る。このバイオレンスシーンの迫力は、やはりブライアン・デ・パルマの面目躍如という感じか。叫びながらマシンガンをぶっぱなすパチーノ、なんだか嬉しそうにも見える。が、敵方の冷静な殺し屋に背後からズドンと撃たれて一巻の終り。彼が落ちる室内装飾の水槽に建てられたオブジェには、あの「THE WORLD IS YOURS..」の文字。全ては失われるために、ほんの一瞬手にしたものだった。一人の男の野望の果てを視覚的に切りとってみせるこのシーンにデ・パルマの思い入れを感じる。


一巻の終わり

それにしても、一切の説明がないので却って不気味なのだが、このトニー・モンタナ。なぜに相棒を殺すほど妹に執着しているのだろうか。愛だろ、愛ってことでしょうか。理解不能である。

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