「スターリングラード」

~一発必中 魔弾の射手~
2000年 米 独 英 アイルランド ジャン=ジャック・アノー監督



随分前に見たので色々なシーンをすっかり忘れていて、ジュード以外誰が出ていたかもあまり覚えていなかったが、季節柄、第2次世界大戦特集で放映されたので久々に鑑賞したら、エド・ハリスだの、ジョセフ・ファインズだの、ボブ・ホスキンス爺やまでご出演になっていた。
昨今、ヤニ下がった色男の役でしか見かけないジュード・ロウであるが、この時は若々しく、純粋なウラル出身の狙撃兵を演じていて新鮮である。「スターリングラード」では良かったなぁという記憶は漠然と残っていたが、やはり良かった。そして今回、再見したらジュードもよかったが、エド・ハリスが非常に良かった。こんなにシブいエド・ハリスを、再び見るまで忘れていたなんて一体どうしたことだろうか。ジュードがレイチェル・ワイズと抱き合うシーンしか覚えていなかったとは。…不覚。
それにしても狙撃手というのはドラマティックで絵になる素材だ。「ジャーヘッド」の際にも思ったが、じっと銃を構えて遥かに遠い標的を照準器で覗く鋭い青い目というのはしびれる程絵になる。ジュードもエド・ハリスも青い目。殊にエド・ハリスの薄い色の青い目はドイツ高級将校という役柄にぴったりとマッチしていた。最初に画面に登場した彼が、列車でスターリングラードに向かう途中、華奢なシガレットケースから、吸い口を金紙で巻いたタバコを取り出して吸いつけるシーンがいかにも、教養深く、家柄も良く、軍人としても第1級の人物であるという気配を漂わせる。(こんなに印象的なのに忘れていたとは…)彼にはどこか静かに諦めた人の空気もにじんでいる。だからこそ、本来は来るはずもない場所に、一人でやってきたのだ。このケーニッヒ少佐が靴磨きの少年サーシャを手なづけてヴァシリー(ジュード)の情報を得ようとする場面で、なまじ仕事の為だけではなく、失われた息子の代わりに敵国の少年に慰めを見出している様子も感じ取れる。

 ジュード

 エド


参謀将校ダニロフ役のジョセフ・ファインズもハマリ役。この人が出ていたことは本当に全く記憶になかったのだが、猪口才な思惑でヴァシリーを英雄に祭り上げ、また恋敵になったとみるや、ヴァシリーを讒訴するなど、小頭のいい「軽薄才子」な部分を持ち合わせているインテリ将校ダニロフの、ヴァシリーへの友情と羨望のないまぜになった複雑な感情をよく表現していた。
それにしてもヴァシリー。二枚目で狙撃の名手。戦時下では実在しなくても新聞紙上で英雄をでっち上げる事はできそうだが、彼は優秀な狙撃兵としてちゃんと実在した上に、一切の特別扱いもなしである。むしろ夜中に叩き起こされて、一般兵士よりも過酷にコキ使われる。英雄に祭り上げられるのは楽じゃないのだ。

まるまっちい姿に鋭い眼光でニキータ・フルシチョフを演じるボブ・ホスキンスも、そう出番は多くないが、狙撃の名手として英雄になったヴァシリーに上機嫌で挨拶のChuするシーンなど印象的である。のちに親米的書記長と言われるフルシチョフだけに、コワモテだが愛嬌あるボブさんが演じることになったのだろう。確かによく似てるし。



思う存分痩せて頬のこけたジュードはソ連の若者という感じが色濃く漂っていた。目元など特にそんな雰囲気がして、あまりロシア人には見えないジョセフ・ファインズと面白い対象を成していた。ターニャのレイチェル・ワイズはスラヴ系の娘の匂いがする。おまけにターニャはユダヤ系でもある悲劇の娘である。明日をも知れない二人の、周囲に他の兵隊も雑魚寝している中での声をたてない交わりの刹那感が物哀しい。

戦場を退くと、ろくに学校も行っていない純朴な田舎の青年(夢は工場の監督係だなんて)ヴァシリーだが、ひとたび戦場に出ると冷静沈着。どんな場合にもけして我を忘れる事のないクールな戦闘マシーンになる。この戦場での冷静さは何度も出てくるが、懐いていたサーシャが囮として少佐に吊るされたのを見ても、取り乱さず的確に状況を判断できるシーンに一番色濃く現われている。

独軍きっての狙撃手で、戦場で息子を失い、諦念を秘めて、最後に何人もの独軍将校を血祭りにあげている敵側の有名な狙撃手との一騎撃ちに人生を賭けるケーニッヒ少佐と、ヴァシリーが、互いに相手の残した些細な痕跡から、その位置や動向を探り、行動予測をし、互いに裏をかこうとじっと五感を集中させるシーンなど、非常に緊迫感がある。囮に発砲すると位置が知れて逆襲を受ける。一瞬の判断ミスが命取りになる。スナイパーは正確な狙撃能力と共に想像力がモノを言う仕事。並の人間には務まらない。
名人は名人を知る。少佐の凄腕に、死を覚悟するヴァシリーだが、ダニロフの犠牲により少佐を油断させることに成功する。獲物をしとめたと思い、ついウカウカと外に出た少佐が自分に狙いをつけるヴァシリーに気付き、判断ミスを悟り、おもむろに帽子を取って「さぁ撃て」という表情で真っ向から向き合うのが、道を極めた人らしい潔さである。

途中、砲弾に当たって死んだ筈のターニャが生きて野戦病院に収容されていたのは、あれ?という感じではあったが、さもなければ物悲し過ぎて救いがないので、最後に少しぐらい希望があってもいいかもしれない。
それにしても、常に孤独で、腕と勘だけを頼りに一発必中に全てを賭ける狙撃兵。達人、名人、または職人気質(カタギ)に弱いワタシ。プロ中のプロの姿にちょっとシビれた。

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