「すべてはその朝始まった」

~乙な出会いに気をつけろ!~
2005年 米 ミカエル・ハフストローム監督



未公開作品だし、さっぱり知らなかったのだけど、少し前にCSでサックリと観た。
クライヴ・オーウェンジェニファー・アニストン共演のサスペンス。曲者ヴァンサン・カッセルが曲者役で登場。いやー人相悪いなぁ、カッセル。うふふ。

アニストンがいつもとはかなり趣きの違う役。一言でいうとニコール・キッドマンがやりそうな役を、アニストンが頑張っている、という感じ。ロマコメ演技は片鱗もなく、いい女風の佇まいがけっこうハマっている。この人はメグ・ライアンの轍を踏まず、ハッピーキャラじゃない役柄も着実にこなす。胸キュン・ジェイクと共演した「グッド・ガール」も観たが、退屈な日常にうんざりした田舎のパート主婦が割合ハマっていた。(映画そのものは…という感じ。ジェイクもこんな役では見たくない)



クライヴは前半、フツーのサラリーマンをぼーっと演じている状態だと、あまり(殆ど)ステキングではない。郊外の一軒家に妻と持病のある娘と3人で暮すチャールズ(クライヴ)は娘の医療費を稼ぐために教師を辞めてビジネスマンになっている。ある朝、遅刻気味で電車に飛び乗るが切符を買い忘れ、所持金も殆どなく、車掌に次で降りろ、と冷ややかに言われてしまう。(会社に行くのに定期持ってない、お金も殆ど財布に入ってない。それはいいとして「出がけに妻が金を抜いたんだ」って、ナンデスノ?)そこへふいに助け船を出す女(アニストン)キレイな脚を組んで座り、ひときわ目立つ彼女を周囲の男たちもちらちらとチェックしている。
電車賃を立て替えてくれた彼女に、早速礼を言いにいそいそ席を移動するチャールズ。女はルシンダと名乗った。テキパキと自分のペースで会話を仕切る彼女をぬぼーっと見つめるチャールズ…このへんのクライヴのモサったらしい感じはいただけない。この映画ではちょっと痩せ過ぎでやや貧相な印象もある。次の日、待ちかねて彼女と同じ電車に乗り、借りた電車賃を返すチャールズ。嬉しそうにヤニ下がっている。対してクールなルシンダ。二度目の会話で互いに連れ合いがいて、娘を持っている事が分る。このへんの、中心地に向かう列車の中での邂逅は、あの「恋におちて」を想起させる。そんな空気を狙ったんだろうな、と思う。会社に着いてもヤニ下がっているチャールズ。会社のPCで彼女の勤め先のサイトにアクセスし、社員紹介ページで彼女のプロフィールを読む。まぁ、外に出してもいい情報が入っているだけなんだろうけど、この情報セキュリティのうるさいご時世に、企業が社員の個人情報をあれこれとHPに載せるなんてあり得ないなぁと少し引いた。夫と子供が居てどうたらこうたら…なんて。どうも細部の設定がユル過ぎる。で、彼女に速攻で電話をかけ、仕事帰りに二人は落ち合い、酒を飲み、語らううちに燃えあがり、雨の中、古いこぢんまりしたホテルに入る。ドアのロックも旧式タイプ。二人は鼻息荒くベッドに倒れこむ。アニストンが超小顔なので、いやが上にもクライヴの長い顔は長く見える。倍ぐらいな感じである。

いいところで、チェーンのかかっていなかったドアは合い鍵で開けられて、強盗(ヴァンサン・カッセル)が乱入してくる。チャールズが殴られて昏倒している間に、ルシンダは強盗にレイプされてしまう。金を取られ、強盗に勤め先から住所まで様々な情報を握られる二人。互いに家庭がありながら、そんな関係に及ぼうとしていたことがさらなる強請りのタネになる。ルシンダを守れなかったことで、自責の念にかられるチャールズ。強盗の脅迫は日を追って悪質になる。チャールズは娘の手術用に貯めていた金を渡し、更には会社の金も遣いこんでしまう…。追い詰められるチャールズだが、ある日強盗が意外な人物と知合いだったことを知る。

ここから、前半に出た全てのカードが一挙にひっくり返っていくのである。そしてチャールズのキャラもやられるばかりのすすぼけた羊のような男から、急にハードボイルドな逆襲のシャアに変貌する。この、後半ニコリともせずに自分をいたぶった男(カッセル)を追いこんでいく過程が見所。後半でクライヴは本領発揮。「冷徹でタフな怒れる男」を前半とは別人のようにクールに演じている。この人はやはり、「フツーのサラリーマン」というのがあまり似合わない。なんだか曰くありげな男とか、刑務所を出てきました、オレ、とか、ご法度の裏街道を行く人に言えない職業の男とか、そういうのが似合うのだ。平凡にしてても裏がありそうに見えるので収まりが悪いのである。
そして、謎のある女を演じるアニストン。これは最も「いい女路線」で頑張ってみた作品じゃないかと思う。いい女風にしているとチューリップ・ノーズのジェニファーも、ちゃんとそれ風に見えるなぁと思った。

出だしは30がらみの既婚男女が、電車の中でのオツな出会いに心ときめくW不倫系で入り、その後どうなるのかしらんと思っていると急激に様相が変って来て「ほほぅ、そう来たか」というオチになる。観て損はないけど、観なくても損はない。

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