「ゾディアック」

~雨のサンフランシスコ~
2006年 米 デヴィッド・フィンチャー監督



テンポがいいな、というのが第一印象。とにかく冒頭からサーっとテンポよく話が展開していく。1969年の花火弾ける独立記念日の晩に犠牲者が出て、シスコに舞台が移り、子供に歯を磨かせたロバート(ジェイク・ギレンホール)が、遅刻気味でサンフランシスコ・クロニクルに急いで出勤するまでが手際よく描かれる。
「羊たちの沈黙」の大ヒット以降、シリアル・キラーやFBIのプロファイラーが大流行して本も沢山出た。タイム・ライフ社の「連続殺人者」は正続買って興味本意で読んだ。シリアルキラーのスター達が総登場。チカチーロの顔はいつ見てもコワイ。が、あれは逮捕され、事件の解決した連続殺人犯ばかりが載っていたので、ワタシはこのゾディアック事件というのは今回、映画になるまで知らなかった。当時はさぞ全米中が興味シンシンだった事だろう。

この犯人、各新聞に暗号文を送りつけてきて一面に載せろという。朝の定例の編集会議に突如持ち込まれたこの暗号文に異様な興味を示す男一人。ジェイク演ずるロバート・グレイスミスである。この、グレイスミスののめりこみ様はタダ事ならない。職分はポンチ絵書きなので、黙って政治諷刺でも片隅で書いていな、と記者たちには目の隅にも入っていない存在だが、真面目でパズル好きな彼は、この事件にぞっこんいれ込んでしまう。そんな彼のいれこみにTOP記者エイブリー(ロバート・ダウニーJr)が興味を持つ。彼はTOP記者として、ゾディアックと名乗るこの犯人に関して資料を集め、彼なりの見解や推理を記事にしていくが、ある時犯人から直接自分宛てに送られてきたブラックメールにビビり、以降、酒浸りヤク浸りになって事件追求を断念してしまう。ロバート・ダウニー Jr。なかなかの好演。でもどこかしら動作がカマっぽいと思ってしまうのはワタシだけか。この記者、なんで途中からあんなにグダグダになってしまうのだろう。海千山千の記者にしてはビビリである。


キレ者からアル中に

刑事コンビにマーク・ラファロとアンソニー・エドワーズ。エドワーズはERのグリーン先生であるが、画面に出てきて暫くこれがグリーン先生と気づかなかった。毛があるもんで。彼とコンビを組む執念の刑事デイヴ・トースキーのマーク・ラファロ。妙に優しい声音なのが特徴的。モジャモジャ頭で小柄でレインコート。蝶タイがトレードマーク。蝶タイ分だけ刑事コロンボをオシャレにした感じ。この刑事の家で必ず小粋なジャズが流れているのが妙に耳に残った。

ともあれ、犯人のかく乱作戦で捜査はなかなか進まない。3つの管轄に跨って事件を起こし、担当警察もそれぞれに違う。刑事達は管轄を超えて次第に協力しあっていくのだが、これと思う容疑者は、残された指紋や筆跡が当人のものと一致しない。どの線を辿って行っても袋小路。万事休す、と思われるのだが…。

この未解決事件に異様な執念を燃やすポンチ絵書きのグレイスミスを、ジェイクが少しくたびれた風情で一途に表現している。離婚経験のあるパパ役だが特に違和感はない。子供に愛情を持っているのだが、のめりこむとそれひとすじという性格なので、およそ結婚生活に必要なバランス感覚ゼロ。こういう人間は結婚してはいけないのである。知人の紹介で、そんな少しマニアックな彼を気に入ってくれた彼女(クロエ・セヴィニー)と出会い、再婚し、その彼女との間に子供も作るのだけど、それはゾディアックがなりを潜めていた束の間の平安だった。(彼女と初デートの日でさえ事件で頭が一杯。彼女は面白がるよりその場で帰るべきだったのだ)その後エイブリーに代わって自分が本を書こうと決め、より裏付け捜査に狂奔するようになる。紙面で本を出すことの予告までしてしまう彼に妻はついていけない。子供のある身で顔や名前をさらしてはどんな危難が家族に及ばないものでもない。妻が彼を非難するのもご尤も。そんな妻の心配には取り合わないでおいて、情報提供者の映写技師のところで資料を見せてもらう場面では、地下室の不気味さや、映写技師の様子に疑心暗鬼に駆られてビビり、闇雲にその家を飛び出そうとするのがヘタレでカワイイ。
グレイスミスは著作をものして世に出したので家庭を崩壊させても「この本出しましたんで」と言えるかもしれないが、本出せなかったら、ねぇ。ちょっとヤバいかも である。


パパ・ジェイク うふん

それにしても、あの「ダーティ・ハリー」はこのゾディアック事件からヒントを得たものだったのか。これは、ハリーを走りまわらせ冷や汗をかかせるサイコな犯人を演じたアンディ・ロビンソンがとても巧かった。だけど気の毒にも役にはまり過ぎたのだろうか、その後、日の目を見なかったように思う。でも、ハリーの決めセリフが決まるのは不気味で小憎らしい犯人役が立っているお陰なのだ。ハリーがカッコよく犯人をぶち殺して最後をシメる場面を見るにたえず、デイヴ刑事はロビーに出る。気になり、追ってきたグレイスミスに「法を守らないならなんでも出来るさ」と投げやりに言うのが印象的だ。

そして、とにかく、よく雨が降っている。しかも土砂降り。シアトルは雨が多いというのは聞いたことがあるけれど、シスコもこんなに雨ばかりなのだろうか。カリフォルニアでこんなにいつも雨なのか?なぜ…。

グレイスミスの本がベースなので、犯人も彼の仮説にしたがって提示されているのだけど、う?ん、それじゃないんじゃないの?という気がして仕方が無かった。それじゃなくて、あれ、あれよ、あっちじゃないの?と見ていてずっと思ってしまったんだけど。ハッキリ脚本にも出ていないし、特に強く仄めかす演出もなかったけど、原作者以外のスタッフは別の犯人を想定している気配がした。

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