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「フロスト×ニクソン」 (FROST/NIXON)

~権力の墓穴 王様の黄昏~

2008年 米 ロン・ハワード監督

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トレーラーを観ていた時には面白そうだと思っていたのだけど、いざ封切りになるとどうも観る気がなくなってそれきりになってしまう。ワタシにはそういう事が時折ある。これも危うくそうなるところだったが、どうにか気を取り直して観に行った。シャンテは「スラムドッグ?」で大盛況。まぁ、これはちょっと先に廻すとして今回は「フロスト×ニクソン」。

「クイーン」でブレア首相を演じていたマイケル・シーンが英国人TV司会者のデヴィッド・フロストを演じ、ニコパチの笑顔を見せている。が、しかし、これは何と言ってもニクソンを演じたフランク・ランジェラが圧巻だった。またフロストと組むTVプロデューサー役でお久しぶりのマシュー・マクファーディンが落ち着いた低い声を響かせていた。マシューったら、今回はブロンドである。実話なので実物モデルに合わせたのだろうけれど、あの時代のイギリス人っぽい雰囲気が出ていた。でも最も70年代っぽいのはやはりフロストを演じたマイケル・シーンのヘアスタイルだろうか。70年代ってどうしてこんなに大げさなモミアゲが流行ったんだろう?どうでもいいけど「MILK」のジョシュ・ブローリンを観たあとだけに、モミアゲと70年代について考察してみたくなってしまった。(しないけど)

伝説的なインタビューであるという「フロスト×ニクソン」であるが、こんなインタビューがあったなんてことは、ワタシはさっぱり知らなかった。既に生を受けてはいたのだけど、なんせ子供だったもんですから。本物のニクソンについては、顔は覚えているけれど声やしゃべり方などはまったく記憶にない。というか、知らない。だから似ているのかどうか分からないのだが、ニクソンってあぁ、こんな感じだったかもしれないなぁという雰囲気はフランク・ランジェラを観ているとびゅうびゅうと漂ってくる。元は舞台劇であるというこの作品に、舞台でもニクソンとフロストを演じた二人がそのままスライドして映画でも当り役を演じているとか。二人ともその個性に合った役でまさにドンピシャリなのだけど、殊にフランク・ランジェラはニクソンの怪物性と、落日の哀愁をにじませる様子など申し分ない名演技だった。とぼけた顔で相手の様子を観ながら、さっと話の主導権を握ると放さず、滔々と語り倒して相手にものを言わせない様子など、いかにもだなぁと思われたし、深夜に一人もの思い、対峙するフロストに電話をかけて内面的な事を吐露してみたりする。人に好かれない事が身にしむトラウマだった事や、セックス中毒のしょうもない奴だったくせに、若くてハンサムで青い目でモテモテだったケネディに嫉妬を感じていた事などが浮き彫りになり、(ニクソンは結局、人受けのいいハンサムマンに生涯二度、TV対決で敗れるわけである)茫漠とした落日を迎える姿には、王様だった者だけが持つ哀しみが漂って見える。その底知れぬ寂寞の苦味は、かつて本物の権力を手にした事のある人間にしか分からないものに違いない。
カリフォルニアの陽光に映える白亜のスペイン風豪邸に住い、悠々自適な生活を送りながらも「引退後の余生なんて地獄のようだ」と語るニクソン。まだ60代前半だったのだから、政治にも意欲満々。やり残した事も沢山あったに違いない。容姿にコンプレックスのあったニクソンだが、フロストの履いている瀟洒なイタリア製の靴に興味を示したりもする。そういう靴が似合う男でありたかったという事でもあろうか。

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対するフロストを演じるマイケル・シーンは、その整い過ぎたチマチマとした美貌に派手なシャツ、派手なモミアゲ、白い歯キラリーンのニカッとした職業的な笑顔(なんかモミアゲをはやしたリスみたい、とか思ってしまった)で、いかにも人気TV司会者といった感じ。コメディアン出身という雰囲気もうっすらと確かに漂って見える。「ギネスに挑戦!」みたいなキワモノ企画の司会などもしていた彼ゆえに、ニクソンに挑みかかろうなんて、業界ではとんだお笑い草だったわけである。そんな彼だからニクソンも与しやすいとみてインタビューの申し出を受けたのだし、また、そんな彼だからインタビュー番組にはなかなか買い手が付かなかったのだ。

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リス君、閃く

ニクソンのインタビューのギャラは60万ドル。手つけに20万ドル。スポンサーのつかないフロストは自腹を切り、足りない分は八所借りをして掻き集める。まさに崖っぷち。背水の陣である。ニクソンとの仲介をするのはハリウッドに住むブレーン、リザール。このリザールを「Infamous」のトビー・ジョーンズが演じていた。ギャラ交渉やその他のシーンで、金にとことん貪欲なニクソンのキャラがかいま見える。このギャラ交渉のシーンでは近くの席で誰かが「Jesus!」と言いながら笑っていた。斜め横のあたりに外人グループが座っていた模様で、よろずリアクションが大きく、ところどころで何度も「Jesus!」を繰り出しては受けていた。

このインタビューには双方、それぞれの思惑で臨んでいた。ニクソンは汚名にまみれた大統領としての名誉回復を。そしてフロストは全米に名を売り、NYに拠点を移す事を。そしてこの二人にはそれぞれアキレス腱があった。ニクソンは宿命的に人に好印象を持たれないという事、そしてフロストは人気者だが軽く見られるという事だ。それぞれに腕っこきのブレーンをつけて、番組収録に臨む二人だが、いざインタビューが始まってみると小僧っ子フロストは老獪なニクソンの敵ではなく、いいように長広舌をふるわれて一般論や自己弁護に時間を費やされ、核心を衝く切り込みが出来ない。焦れるブレーンたち。4回しかないインタビューのうち3回目まではズタボロ、相変わらず番組の買い手は現れず、追い詰められるフロストだが…というわけで、ここからは観てのお楽しみ。
切れ目ないテンションがずっと続いて、ノンストップで最初から最後まで感興がそがれることなく、面白く観た。結局フロストがチマナコで自ら準備をしたのは最終回のインタビューのみだったわけであるが、インタビューの間の二人の表情や、受け答えに一喜一憂するブレーンたちの様子なども、さもありなんという感じ。さぞ、毎回手に汗握ってモニターを観ていたことだろう。アドレナリンが過剰放出されていたに違いない。

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フロストにいらだつノンフィクション作家・レストンのサム・ロックウェル

***
インタビューのため、アメリカに向かう飛行機の中でもちょっと気になる女がいると思えばすかさず粉をかけに行くフロスト。女好きの男はほんとうにマメである。機内でナンパした彼女、キャロライン・クッシング(レベッカ・ホール)はいずれその時代のジェットセットの一人でもあろうか。本人が金持ちなのではなく、金持ちの彼女として小判鮫的にリッチな生活を送るタイプの女であろう。(彼女の素性についてなんら説明がないのでハッキリした事はわかりませんが)実際に、当時フロストの傍にはこの女性が居てあちこちに同行していたのだろうが、肝心なときにジャラジャラとこんな女なんか連れまわさなくたってよさそうなもんだけどねぇ、と思ってしまう。どこにでも一緒にくっついて廻っているので、ニクソン側のスパイだったりするかしらん?なんて余計な気を廻してしまった。

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ニクソンのブレーンで、ケヴィン・ベーコンがいつもの感じで登場していた。この人は最近こういう役ばかりやっている気がするけれど、いいのだろうか。かといって他にどんな役がいいのかというと、やはりこういう役が一番はまり役ではあるのだけど。対するフロスト側のブレーンではノンフィクション作家レストン役のサム・ロックウェルがいかにもな雰囲気をよく出していた。フロストが手ぬるいと散々噛み付くレストンだが、不協和音の発生はある程度折込済みで彼をチームに加えるフロストの度量にもちゃんとスポットを当てていた。そして冷静沈着なプロデューサー役のマシュー・マクファーディン。彼としてはさして演じどころのない小さめの役ではあったのだが、あの低い耳触りのいい声は健在で、ラスト間近にすっぽんぽんで海に駆け込むというシーンも入っていたが、あまりお尻を見ても嬉しくはなかった。けれど、お元気で何より。そろそろばりっとした主演物が観たいところだけれど、予定はないものだろうかしらん。

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フロストのブレーンとなるプロデューサーを演じたマシュー・マクファーディン

ともあれ、観終って感じたのはニクソンに訪れた黄昏の侘しさ。悪そうな顔をした奴が本当に悪さをしてしまうと、そこでもう何もかもが決定的になってしまう。ベトナム戦争を始めたのはケネディだが、誰もその事については触れない。ケネディはキューバ危機を回避した大統領として記憶されている。華やかな存在感と私生活、そして志半ばの非業の死。たとえ暗殺されても早死にして伝説になるほうが、長生きした挙げ句に晩節を汚して汚名の中で生涯を終えるよりは幸せかもしれない。でも、この映画を見てニクソンを嫌いになった人よりも、彼にシンパシーのようなものを感じた人の方がずっと多いのではないかと思う。「ダウト」でも感じたが、人は多面体ゆえ一面だけを見てそれが全てであると決め付けることはできない。ベトナム戦争を終結させたのは彼なのだし、長い任期の間には大統領としてなすべきことをあれこれやっても来たのだろう。人にはそれぞれ光と影がある。ニクソンという人は、そのコントラストが他の人よりも強かったという事なのではないかと思った。

コメント

  • 2009/05/01 (Fri) 20:20

    フランク・ランジェラ、すごかった。あのくらいの大きさがないと、フロストが3連敗から大逆転するクライマックスが弱いものになりますよね。ケネディをこき下ろすところや、眉毛をトリムしてきた、なんて話すところ笑ってしまいました。あのゲジゲジ眉は漫画家が誇張して描いていましたから。人の評価って見掛けに大いに左右されるから、ケネディがどんな人物だったか知ってはいても、悲劇の大統領として人気は不変です。ニクソンの口惜しさが伝わってきます。
    サム・ロックウェルやケビン・ベーコン、おまけにデンさんまで出ていて大変楽しみました。
    70年代のファッション、いま見ると、妙なものですが、その後、ますます変になってきて、男の人が素敵だなと思えるのは50年代以前じゃないか、と思います。シャツもスーツもゆったりして、でもときにウェストを少し絞った上着で、コートはあくまでも長く、帽子も勿論忘れてはいけない。髪は額をすっきりと出して。と、こう書くそばから、いまどきの若い衆の顔半分隠したざんばら髪と、黒っぽい貧弱なひょろりとしたスーツ姿が浮かんできて腹が立ちます。あは。

  • 2009/05/02 (Sat) 09:00

    フランク・ランジェラが圧巻でしたね~。結局観終えてから脳裏に残るのは、あの人のニクソンだけのような気も…。でもオリジナルの戯曲を書いた人が映画版もそのまま脚本を書いているから、ビシっと緊迫感のあるいい脚本でしたね。フロスト役のリス君もよかったんだけど、ニクソン役の方がどうしても立っちゃいますね。本当に上手かったなぁ。俳優としては演じ甲斐のある役だったしょうね。ベーコンは相変わらずで、その相変わらずぶりに哀愁を感じました。ある枠からどうしても出られない俳優の悲劇みたいなものをうっすらと感じてしまって…。デンはやっぱり声がいいなぁ、と。声と話し方ですね。ほんと、耳に気持ちのいい声と喋り方だなぁと。
    70年代ファッションはなんでも誇張されすぎててちょっと滑稽な感じですね。ネクタイもぶっといし。60年代が細身のシルエットが流行っていた時代なのでその反動かな。ワタシは毎度うるさいぐらいに書いてますが、20年代、30年代のファッションが男女共に最もオシャレだと思ってます。服に限らずあの時代は何のデザインでも本当に素敵なデザインでした。おっしゃるとおり、男性は50年代ファッション、いいですよね。男子がソフト帽を被っていたのは50年代ぐらいまでですものね。優雅な時代もあそこまで、ということかも。

  • 2009/05/03 (Sun) 00:21

    インタビューの勝者はフロストだったけれど、存在感では断然ニクソンでしたね。フランク・ランジェラ、素晴らしかったです!
    ところで、ラスト、ニクソンがフロストに「私は本当にあの夜君に電話をしたか?」と尋ねるシーンがあるじゃないですか。あのニクソンの表情がイマイチ、私的にはわからないんですけど。ニクソン、覚えてないってことなんでしょうか?映画観ながら「ニクソン、ボケてんのかしら・・・」と思ったのはおそらく私だけなんでしょうけど(汗)。

  • 2009/05/03 (Sun) 09:26

    mayumiさん。あれは、やっぱり覚えてないって事じゃなかろうかと。最後の大詰めのインタビューをどう乗り切ろうかと思うあまりに夢遊病のように電話しちゃったんじゃないですかしらね。ただのトボケやボケじゃなさそうな気配がしました。そこにニクソンの「弱さ」を描きたかったのかな…。曖昧でどっちにも取れる描き方で、ご想像にお任せします系の演出でしたね。

  • 2009/05/04 (Mon) 01:38

    なるほど。あの電話はニクソンの弱さ、孤独を描きたかったのかもしれませんね。あの電話の部分は様々な解釈があるみたいですね。あの部分が映画のキモだ、とまで仰ってる人もいるみたいですし。ただ、「ボケた」と感じたのは私だけのようですが(大汗)。

  • 2009/05/04 (Mon) 08:35

    脚本や演出のテクニックとして、ああいう、どうとでも取れる部分を入れておくと観客の興味を引っ張れるというのがありますよね。作り手側にもしかとこれだ!という答えが必ずしもあるわけではないような。自由に捉えて下さいという余地を残しておく方が、ことに実話を元にした話などでは奥行きが出て良いのかもしれません。観客がどう捉えても自由なので「ボケたのね」と思ってもそれは随意ってものかも。でも、やっぱりボケたって事じゃないだろなぁ~、と。(笑)

  • 2009/06/08 (Mon) 22:03

    残念ながら私は、kikiさん曰く”ここからは観てのお楽しみ”
    まさに転の部分、寝てしまってたので、
    えぇ~?!いつの間に情勢が変わったの?
    と驚いた時には既に時遅し。
    私は何を見に行ったんでしょ・・・状態でした(笑)。
    思ってたより、フロストがホントに太刀打ちできなくて、
    こんなんで大丈夫か?と心配した位。
    しかし、それも寝てしまったので、いらぬ心配でした(笑)。
    あの女も不思議だったよね~。
    こういうのは欧米では日常茶飯事なのか?
    公私混同凄いし、あんな大きな仕事の前なのに、
    よくそういう点はリラックスできるなぁ・・・と
    小心者な日本人は考えてしまいません?

  • 2009/06/09 (Tue) 00:21

    acineさん。この映画は前半は寝ちゃってもOKだけど、後半、殊に終局が近づいてきたあたりだけ目を開けてみていると、ふ~んという感じになったかも、ざんすわ。そうそう。ジャラジャラと連れまわしているあのねーちゃんはなんでしょ?という感じなのだけど、不安だから余計に女子の慰めを必要としたって事もあるかな、と。映画のジャンルとしては別に大スクリーンで見る必然性はないので、機会があればDVDかTVで流れたら再度観てみるって感じでよいかもね。

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