「リトル・ミス・サンシャイン」

~いびつな家族が旅に出た~
2006年 米 ジョナサン・デイトン監督



「いまごろ書くよ」シリーズ(そんなシリーズ作ってたっけ?)で今回は「リトル・ミス・サンシャイン」。
ワタシはなぜか一時期グレッグ・キニアとロバート・ダウニーJr.が時折ゴッチャになっていたのだが(というかグレッグ・キニアをロバート・ダウニーJrだと思って観ていた映画があったりした)、昨年、この映画を観て「勝ち馬になれ、負け犬になるな」と暑苦しく吠えているのがグレッグ・キニアであると、やっとハッキリと認識したのだった。


グレッグ・キニアが演じるフーヴァー家の主、リチャードは既にして自ら負け犬臭が漂っているのに、(だからこそなのだけど)勝ち馬にならなければ生きている意味がないと家族に持論を押し付けるゴリガンな父親だ。この父のようなメンタリティに実質的に金儲けの才能や巨万の富が加わると、机上の空論だった野望は本格化し、ケネディ家の父・ジョゼフみたいな男が出来上がるわけだけど、大抵の人は金も権力も強靭な意志も伴わないのでジョゼフにはなれない。それゆえ人生が低空飛行でも平和なのである。
ちなみにフーヴァーって、ケネディ家の宿敵、エドガー・フーヴァーの苗字でもある。
別に意味はないと思うけれど、ふと思いついたので書いてみた。

このリチャードの父で、老人ホームでヘロインをやって追い出されてきた爺さん(グランパ)にアラン・アーキン。こんなにアラン・アーキンをちゃんと見たのは初めてかもしれない。前にもどこかで書いた気がするけど、「暗くなるまで待って」の犯人役の印象が強いので(そのときはまだ若かった。毛もあった)、こういう顔してたんだっけ?とシケジケと眺めてしまった。スキンヘッドにアロハシャツで威勢のいい爺さんを小気味よく演じている。

 いかすぜ、爺さん

爺さん、お下劣発言三昧なようだが、孫娘をかわいがり、気合だけで実質の伴わない倅・リチャードにも慰めの言葉をかけるなど、愛情豊かでホロリとさせる。全財産をつぎ込んだ儲け話がコケて失意の倅の背後に寄り添い、「結果はどうあれ、挑戦したおまえを誇りに思う」と言って倅の肩をポンポンと叩いてやる爺さん。深い愛情だ。このシーンは山田洋次テイストで、なんだかアメリカの映画じゃなく日本映画を見ているような気分になった。幾つになっても親は有難いものですわね。



キューピーのようにお腹がポコンと出た幼児体型でミスコンでの優勝を目指す幼い娘オリーブに売れっこ子役のアビゲイル・ブレスリン。この子を初めて観たのは「幸せのレシピ」でだったが、出てくるだけでなんだかイライラした。役柄の印象もあってカワイクネェーな、と思ったのだけど、「リトル・ミス・サンシャイン」では困ったちゃんばかりの家族の中で唯一サンシャインのごとくに癒しをもたらす一家のアイドルの役なので、それなりに可愛かった。あの幼児体型と大きなメガネがよかったのかもしれない。ケント・デリカットという出稼ぎ外人をふと思いだしたりした。

空軍のテスト・パイロットになるまで無言の行を続けるという風変わりな長男ドゥエィン。黙々と部屋で体を鍛え、会話は筆談でしか行わない。演じるポール・ダノはこれで初めて観たのだった。面妖な髪型と眠そうな目。白い体に黒い顔の羊みたい。なんだか知らないけど「ドゥエィン」て感じである。誰とも口を利かないがその沈黙は雄弁なのだ。「ゼア・ウィルビー・ブラッド」では動的な熱演だったが、この長男は静的で印象深い演技だった。妹のミスコン道中に参加してくれと言われて、イヤだ、とメモに書く彼に、妹のためだから…と母が食い下がると、暫し固まって考え、ダーンと目一杯テーブルを叩いてから握手の手を差し出すシーンがいい。ポール・ダノ、もわっとした顔なのにメリハリが効いている。



クセモノ揃いのメンツの中で、一番印象に残ったのはスティーブ・カレルが演じる、シェリル(トニ・コレット)の兄、フランクだ。スティーヴ・カレル。40歳の童貞男が今回はニューロティックで傷つきやすいゲイのニーチェ学者を演じているのだが、登場した時から「あ?、インテリゲイそのものって感じ!」と見ているだけで納得の表情演技で、何もかも失って傷ついた学者肌の男を表現していた。ヘンにおちゃらけているより、こういう役をやっている方が合っている気もするけど、どちらも出来る演技の幅が強力な武器なんですわよね。当然。

そして、この家族の中で唯一のマトモな人であるリチャードの妻シェリルにトニ・コレット。そのちょっとくたびれた感じも役に似合っていて、こういう等身大の主婦などを演じさせたら右に出る女優はいないだろう。最近、お母さん役が多いかな。他が強烈な個性を発揮している中で普通の人を演じるトニもけして埋もれずにきちんとキャラが立っているのはさすが。何故か彼女が出てくると安心する。そんな持ち味がお母さんぽいトニ・コレット。

と、こんないびつな家族が全員で、末娘の出る「リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト」に向かって小さな黄色いミニバスで旅に出るわけなので、そりゃもう珍道中ですのよね。出発早々、車は押しがけしないとエンジンがかからなくなるし、押し付けがましいおとっつぁんと、ネクラなゲイの義兄は口ゲンカを始める。騒がしい車の中で折々にアラン・アーキンの爺さんが見せるリアクションがいい。なんとなく、爺さんになってヘンに好々爺になるよりも、ファンキーでわが道を行き、けれど家族にちゃんと愛情を持っているこのグランパのようなファンキー爺さんってすがしい。人は老いたら、ヘンに丸まりもせず、尖りすぎてもいず、いい具合に味わいのある輪郭のクッキリした老人を目指すべきだ、と、彼を観ていると思うのだ。まぁ、ジャンキーになる必要はないですけれども。

それにしても、埃っぽいカリフォルニアの道をゆく黄色いミニバスのとぼけた佇まいが微笑ましい。ある程度のドタバタはあるのだけど、「あ?ぁ、もういいよ」という感じにならない、その程の良さも○。
今更言うまでもなく子供のミスコンというのはフリークショーみたいな側面(というかフリークショーそのものか)でもあるのだが、「ミスコンはクソだ」というドゥエィンのセリフ以上にワタシがアンチテーゼを感じたのは、化粧と衣装とポージングで小ぶりなオトナのように妙に出来上がった「フリーク系」の少女たちの中、ひとりキューピー体型でポテンと登場するオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)の姿だった。オトナのミニチュアみたいな子供はどんなに達者でもフリークでしかないだろう。子供は子供のままでいいのである。
ラスト間近、ステージ上でのいびつ一家のはじけっぷりは、地味で暗いコンビ(ホモのフランクと黒ひつじのドゥエィン)が他を圧倒していたのもさもありなんという感じ。




押しがけでしかスタートできないミニバスは、家族全員が力を合わせないと発車できない。いびつだった家族はグランパの死を経て、デコボコしつつも息が合ってくる。車に仮託したさりげない寓意。
旅の途中からラストまでオンボロのとぼけたミニバスの存在感が効いていた。

コメント

  • 2009/01/06 (Tue) 23:45

    この作品のアビゲイルちゃん、可愛いですよね。彼女がコンテストで踊る振り付け・・・天国にいるおじいちゃんに向って「エロジジイ!」と叫びたくなったのは私だけなんでしょうか(笑)。
    私は、あの黄色いミニバスにみんなが飛び乗っていくシーンがすごく好きなんですよ。なんか、あのシーンに「家族」が凝縮されているような気がするんですよね。

  • 2009/01/07 (Wed) 00:59

    不良爺ちゃんとキューピー体型の孫娘のコンビネーションが良かったですね。
    そして、ミニバスは家庭、家族のメタファーですよね。上手く使っていると思います。押しながらエンジンかかったら横腹を駆けて飛び乗らないといけないので、毎度必死ですわね。その感じがいいですね。うふふふ。

  • 2009/01/07 (Wed) 10:23

    "いまごろ書くよ”シリーズ、いいネーミングだね!kikiさん。
    このアビゲイルは私もOKです。あのコンテストに出てきた
    ジョンベネみたいな子達の方が、ものすごく気持ち悪かったですよね~。
    キャスト陣は皆適材適所だけど、私もあのおじと甥の関係が凄く好きでした。
    あと爺さん包んだシーツをあっちこっちのシーンも(笑)。

  • 2009/01/07 (Wed) 21:15

    あはは。acineさん。映画レビューってその時期には食指動かなかったとか、なかなかレビューを書く気になれなかったとかで、かなり時期外れになっちゃうことってまま、あるよね。
    アビゲイルも段々育ってきて、今はもう幼児体型は脱したろうけど、この映画の彼女はかわいいよね。そして、そうそう。あの叔父と甥はうまいキャスティングよね。コンビネーションも良かったし。なんか実際に居そうでもあるし(笑)

  • 2009/01/09 (Fri) 14:11

    こんにちわ!遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。
    この映画の爺さん!もいいけど!
    よりもゲイの叔父さん。
    私は大好きな俳優さんでして。
    実に大笑いして、妙に心があったかくなった映画でござんした。

  • 2009/01/10 (Sat) 09:26

    koikoiさん、今年もよろしくお願いします。
    2009年も明けて「QOS」封切りも間近いですわね。
    さて、うちはAOLのお陰で年末にブログ引越しがあったりしてその告知挨拶記事とかを入れたので、年末の挨拶、また年明けに挨拶記事とかやってたら挨拶記事三昧だなと思ったから年末年始の挨拶記事は殊更入れなかった為、どこにコメントしたもんだか…と思われた方もいらっしゃる様子。やはり慣例は外しちゃならぬってこともありかな。で、「リトル・ミス~」。ゲイの叔父さんとダンマリの甥が一番インパクトが強かったかもね。スティーブ・カレルは暗い顔も明るい顔もなりきりで出来るツワモノなり。押し付けがましくない、いい感じの家族モノでしたね。

  • 2009/01/11 (Sun) 22:44

    明けましておめでとうございます。
    てことで引越し先へやってまいりました。
    これ映画館で笑ったなあ(声は立てない)。面白かったですね。さりげなく伏線がはりめぐらされてて。
    オリーブちゃんの「キャーッ!!」はすごかったー。ただ、メガネっ娘で妹ってのは、ロリコンおたくの大好物らしいです(私にはさっぱりわからんけど)。
    じーちゃんの人はこれでオスカー獲ったんでしたよね。あれ以来「スーパーフリーク」を聴くと笑ってしまう、どーにかしてくれ!

  • 2009/01/12 (Mon) 00:35

    garagieさん、新居へようこそ。今年もよろしくお願い致します。
    そうか、これはロリコンおたくのツボまで刺激している作品なわけですね。ポール・ダノもある種の人のツボを刺激してそうだし、スティーヴ・カレルもなんらかのツボにハマってそうな気配。要するに、あれこれのキャラがうまくツボをついている上に、ストーリーがさらっとして押し付けがましくないのが成功要因かも、ですわね。それにしても、声出さずに笑うって、暗闇で一人にや~っと?ワタシは結構「ははは」とか笑っちゃう方なんですわ。日本人も少し映画館でリアクションした方がいいかしらん、とか思って。

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