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「ミルク」 (MILK)

~男、40にして立つ~
2008年 米 ガス・ヴァン・サント監督

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あれこれと力の入った作品の封切りが始まったので何から観ようかと悩みどころだが、興味の赴くまま、まずは「ミルク」へ。
見事な70年代色の再現。リアルにさらりと描かれた、作り物ではない70年代がそこにあった。そして色濃く「アメリカ」を感じた。アメリカに生まれ、マイノリティとして生きるとはどういう事なのか、を。

確かにこれはガス・ヴァン・サント監督の最高傑作かもしれない。
ショーン・ペンが上手いのは今に始まった事ではないが、実話で、みな実物モデルがいるとはいえ、なんと登場人物たちの魅力的な事か。中でも画面に登場するたびに魅惑と切なさビームを放出するジェームズ・フランコには参った。これまでに見たどの作品でよりも魅力的に見えた。目元に憂いを湛えたハンサムマンは最強である。中年オカマの政治的な目覚めから何者かになろうとする過程を追ったドラマに、ロマンスパートでのJ・フランコの登場により、映画としての磁力がいやが上にも増強されていた。フランコ演じるスコット・スミスの一言で、ハーヴィー・ミルクはゲイであることから隠れない生き方を志向するようになるのだ。 まさに「人生を変えた出会い」である。

70年代は熱いディケイドだ。ベトナムにドラッグに公民権運動。とにもかくにも、政治の季節である。
39歳まで、ゲイであることをひた隠し、勤め人としてひっそりと生きてきたハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は、40歳の誕生日を目前に、NYの地下鉄の階段で素敵な青年に出会う。スコット・スミス(ジェームズ・フランコ)。「40歳以上はお断りなんだ」と断られても、まだ39歳だから、と食い下がって口説き、強引に部屋につれ込んで二人の関係が始まる。そこがハッテンバだったのか、それとも、その道の人は一目で同類を見分けるのか、すれ違いざま、「ヘイ、僕はハーヴィー・ミルクだ」と声をかける様子にちょっと驚く。スコットを演じるジェームズ・フランコ。まことに魅力的。今までこの人をそれほど素敵と思った事はなかったが、まさに「何年たっても記憶の中で色褪せない恋人」の姿そのもの。笑顔の目元にえもいわれぬ色気。この手のタイプに強い吸引力を感じたのは「骨折り山」でのジェイク・ギレンホール以来かもしれない。画面に映るたびに切ないまでにキラキラしていた。

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髭姿も素敵な憂わしいJ・フランコ

ゲイが主役の映画だし、なんといってもガス・ヴァン・サント作品だけに、ゲイのラブシーンもソフトに、適度に出てくるが、これみよがしでもなく、さらりと日常として描いていて、とても自然だった。ガス・ヴァン・サントは、やはりゲイを描かせたら、その自然さにおいて当代随一かもしれない。
深夜に40歳になり、これまで何もしてこなかった。何もしないまま40になってしまったとため息をつくミルク。
自分の殻を破って、ゲイである事を隠さず、もっといろんなところへ行って、いろんな人に会うんだ、というスコットの言葉で、ミルクは保険会社を辞め、スコットと二人サンフランシスコへ移住する。  「花のサンフランシスコ」へ。

***
映画を観ていると、サンフランシスコが何故、今日のような一大ゲイ・ムーブメントの中心地になったのかという事がよくわかる。そこにハーヴィー・ミルクがいたから、なのだ、と。当時ゲイは病気か異常者扱いされ、警官から暴行を受けても泣き寝入りするだけだった状況の中、ミルクはシスコにゲイが集まるようになれば、声なき声も届くようになるだろう、とスコットと開いたカメラ店を開放し、サロン化する。徐々にシンパが集まり始め、彼を中心に政治的な空気が高まる。ゲイの権利を主張するだけでは闘いにくい事もあって、ゲイを含む高齢者や子供などの社会的弱者(マイノリティ)の権利を守る事に自然に力を注ぐようになり、ついには市政執行委員に立候補する。このあたりの流れがとても自然で、こういう映画にありがちな力みが無く、ハーヴィー・ミルクという人のチャーミィな人となりをにじませつつ、スーっと自分もその時代の名も無き人々の一人のような気分になって映画を観ていた。町の一角にいて、その流れを観ているような…。

当初は彼の選挙活動を応援し、選挙対策委員長を務めていたスコットだが、政治活動でプライヴェートが消滅するようになると、ハーヴィーを取り巻くその流れに強い違和感を感じるようになる。憂いを湛えた目で、ハーヴィーを取り巻く渦を離れ、じっと彼を見つめるスコットの表情がとても印象的。ひたすらスイートなハタチの姿から、選挙活動の為、七三分けにスーツで臨むミルクに合わせて自らもクルーカットに口髭というシブイ姿になるスコット。そうなると一層、その目の放つ憂いビームは強力になり、愛していながら別れを選ぶしかなくなるスコットの心情が、その表情によく出ていた。
選挙をとるか、俺をとるか。 
無言で迫るスコットだが、もはやミルクは動けない。
映画は政治活動を縦軸、このスコットとのロマンスを横軸に展開していく。
そのバランスがまた、絶妙なのだ。

別れの時、ミルクは大好きな「トスカ」の「星は光りぬ」を聴いている。スコットが部屋を出て行ってしまうと、椅子から立ち上がって裸足でぺたぺたと窓辺へ行き、去りゆく姿をカーテンごしに見る。落選続きに疲れ果て、本心は足を洗う方に向かおうとしていたミルクなのだが、さだめがそれを許さないのだ。一度動き出した流れは、もう誰にも止める事はできない。
ショーン・ペンはダイエットをしてこの役に臨んだものか、かなり痩せて、表情には窶れや衰えも時として見られるが、40歳にして自己変革をし、そこから政治の季節へ突入していった男の「疲れ」も、その表情のなかによく出ていたと思う。話をしている最中にどこかにオネエな仕草がにじむハーヴィー・ミルクの憎めない人柄を魅力的に演じていた。この人が上手いのはもう分かっている事なのだけど、ミルクという人を、肩に力を入れずに等身大に演じている気がした。

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自分を頼ってくるものを放り出せない彼が、スコットと別れた後で知りあったジャックという青年と、いかに根気よく付き合ったかという面でも、その人柄はよく描かれている。このジャックは、彼の仲間にはとても評判が悪いのだが、ミルクは「年を取った醜いオカマの僕が、あんな子と付き合えるなんて貴重な事なんだ」と言う。心はスコットに残しながらも、しょうもないイカレポンチだが、純粋に自分だけを頼ってくるジャックを愛しいと思ってしまうミルク。

4_20090423073036.jpg 困ったちゃん

いま一歩のところでなかなか当選できないミルクに、対立候補がTV討論会の後で言う。「君の発言は批判ばかりだ。希望がないと当選はできないよ」 この「希望」が後半のキーワード。ハーヴィー・ミルクは「マイノリティに希望を与える人」になっていくのである。

シスコに小選挙区制が導入され、落選続きだったミルクはついに当選する。晴れてカミングアウトしたゲイが公職に就いたわけである。そんなミルクと同時に市政執行委員になるのが警官上がりのダン・ホワイト(ジョシュ・ブローリン)。ジョシュ・ブローリン、凄いです。一人だけルックスが突出して70年代を体現している。増量して臨んだのか、かなりガッチリとした体つきで顔にも肉がつき、人相が変ってみえた上に、あのモロ70年代のヘアスタイル。揉み上げと、あの前髪!エンゲルベルト・フンパーディンクかと思った。(分かる人だけ笑って下さい) いかにも、良き父親、正しいアメリカ人の代表のようなこの男に、ミルクは「同類」のにおいを嗅ぎとるのだが…。

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ジョシュ・(エンゲルベルト・フンパーディンク)ブローリン

結局、このホワイトが「同類」だったのかどうかは分からず仕舞なのだが、ミルクの躍進により政治的にも精神的にも追い込まれていく様子をブローリンが座った目つきでリアルに演じていた。追い込まれて「お前はいいよな。ゲイという武器があって」などと口走るホワイトに、「ゲイであることは、人生を賭けた闘いなんだ」とミルクは答える。

***
「災厄のようなゲイから健全な子供や市民を守るため」にゲイの公民権を認めた法律を無効にしようとする動きが活発化し、ミルクはこれに対抗して、政治活動はますますヒートアップしていく。サンフランシスコ市長を味方につけて困難な闘いに勝利し、ますます前途は洋々のミルクだが…。

彼が常に暗殺の危険を感じ、いつ撃たれても不思議はない状況の中で活動を続けながら、「暗殺された場合にだけ聴いてほしい」と自らの活動を語ったテープを残していたのが印象深い。
自己変革と当選するまでの長いトンネルを潜り抜け、政治家としてこれから、人間ハーヴィー・ミルクとしても、新たな幕がこれから上がろうとしていた矢先に凶弾がミルクを襲う。ミルクには再び、「心の恋人」スコットが戻ってこようとしていた。政治家としてもいよいよこれから更なる活動の時期を迎えようとしていた。何ひとつ手放したくない、何もかもが愛しい時に、突如、全ては奪われるのだ。 何かを予感していたようにスコットに電話をかけるミルク。失えない。失いたくないという想いが切々と伝わってくる。

ミルクが凶弾に斃れるシーンでは、ジョン・レノンの死が脳裏をよぎった。ビートルズ解散後、さまざまな動きに身を投じつつも、どれもどこかしっくりせず、行き悩んでいた時期にショーンが生まれ、レノンは活動を休止して専業主夫となる。そのシンプルな生活の中で、再び彼の中に歌が生まれ、再生の糸口を掴んだアルバム「Starting over」を発表した直後、凶弾に斃れる。さぁ、実り多い人生の第二幕はこれから、というときに、突如もたらされる死…。レノンにしてもミルクにしても、レジェンドになんかならなくてもいいから、もっと生きていたかっただろうに、「さぁ、これから!」という時にぷつりと人生を断たれてしまう。こういうのを観ていると、何故、長生きしてほしい人ほど短命なのか、という事について、ふと想いを巡らせてしまったりする。

観終って感じたのはThis is America. という事。
よくも悪くもアメリカという国が鮮烈に描き込まれている。
アメリカはどういう国なのか、アメリカで生きるとはどういう事なのか、
がひしひしと伝わってくる。

余談だが、こういうのを観るたびに不思議に思う事がある。
マイケル・ムーアって何故、今日も無事に生きているんだろう?って。
彼の「告発」は出来レースみたいなものだから、スルーされているんだという説もあながちただの噂ではないのかもしれない。だって、なんの裏もなくてあれだけガンガンやったら、命が幾つあっても足りなさそうである。マイケル・ムーアはよく太って、今日も元気に取材をしていることだろう。まぁ、それがいけないという事を言っているんじゃないですけどね。
ただ、不思議だなぁと思ってしまうのである。

コメント

  • 2009/04/27 (Mon) 22:26

    さすがコンパクトにピシッ!とまとまっておりますね。
    あの地下鉄での出会いには…同感!
    一目で分かるのかなー。笑

    • 吾唯足知 #uqr/pqJA
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    • 編集
  • 2009/04/27 (Mon) 23:14

    いや~、さっぱり纏まってないざんすわよ。あれこれ書きたい事はあったんだけど、ひとつに集約できなくて、なんかバラバラしちゃった感じ。いい映画だったけど、レビュー書くのは難しいなと思ったなりよ~。

  • 2009/04/28 (Tue) 10:57

    これはほんとに、声高にイデオロギーを主張することなく、むしろ淡々とハーヴィ・ミルクとその仲間の活動を描いていましたね。今は病気だとかは勿論、異常だという見方も少なくなってきて(だって何万人に一人とかいうのなら「異常」でしょうが、ゲイ人口って10%だというじゃないですか。)、受け入れることに寛容になってきてはいるものの、保守的なアメリカはガチガチの宗教家などが、ミルクの時代とまったく変わらずに「神の意に反している」と、条例(ゲイマリッジの)を変えたりしていますから、まだまだなんでしょうね。
    ショーン・ペンがミルクを演じると聞いてちょっとびっくりしました。むかーし、マドンナと結婚していた頃、彼女の友人のゲイたちを毛嫌いしている、とゴシップで読んだことがあり、ホモフォービアなのかと思っていたもので。そうでなくてよかった。ジョシュ・ブローリン、ダン・ホワイトにそっくりなんですね。この人最近、似たような役が多いけど、どれも印象的で、力のある人なんだ、と思いました。

  • 2009/04/29 (Wed) 00:29

    「ミルク」からマイケル・ムーアに話がいくとは思いませんでした(笑)。いや~チャールトン・ヘストンファンとしてはマイケル・ムーアは許せないですわ。チャールトン・ヘストンは人種差別に徹底して反対していたリベラル派なのに・・・。それこそ、公民権運動に活発に参加していた人なのですよ。マイケル・ムーアの取材のやり方は少々あくどいので、確かに反発は多そうですね。

    アメリカってキリスト教の国だから、余計にゲイが認められないっていうのがありますね。宗教が絡んでしまいますから。
    そういえば、以前観た「風の遺産」という映画では、「ダーウィンの進化論」を学校で教えた教師が裁判にかけられる、という話でした。人間は神が創ったものなんだから、サルから進化したなんて考えは許されない、という理論です。うーん。なんとも狭量な・・・と思ってしまいました。

  • 2009/04/29 (Wed) 09:49

    たむさん。そうそう。だいぶ開かれてきたとはいえ、まだまだヒステリックに彼らを認めない手合いというのは存在しますよね。でも同性愛というのは有史以来、異性愛と表裏一体となって連綿と続いているもので、それも人間の本能の一部なんだと思いますね。誰の中にも多かれ少なかれそういう部分はあって、そのパーセンテージの度合いにより同性愛者か異性愛者か分かれるんだろうと。それを否定することは人間には出来ないんじゃなかろうかと。
    へ~、昔のペンはゲイが嫌いだという発言をしてたんですか。それはマドンナの友達が嫌いだったという事なんでは?(笑)でなかったとしても、マドンナと結婚してた頃のペンはまだ若造でとんがってたから、今とはだいぶ違ったのかもしれませんね。ペン自身も人生の節目の中で自己変革を遂げてきたのかも。J・ブローリン、最近、作品に恵まれてますね。あ、また出てるのね、というような感じでよくお見かけします。そして、ほんとどれでも上手いですね。いい俳優です。ダイアン・レインと結婚していい目が出てきたのかも。こういう結婚離婚による運気の変化というのは、ほんとうに面白いですね。

  • 2009/04/29 (Wed) 09:57

    mayumiさん、いや~、末尾についつい、どうでもいいような事を書いてしまいましたが、あのデブチンはなんで無事なの?と時折不思議に感じていたものでつい滑り出てしまいましたわ。そして、宗教というのは本当にね…。宗教自体が功罪なかばして必要悪みたいな側面もあったりしますね。一体に古来からキリスト教(及び他の宗教)のためにどれだけの数の人の血が流されてきたかと思うと恐ろしい程で、あの宗教がなければ死なずに済んだ人はかなりの数に及ぶでしょうね。救われた人よりも救われなかった人の方が圧倒的に多いような…。それでも人は宗教を必要とする。この摩訶不思議。イスラム教にしても何にしても、宗教は必要悪だとしか、ワタシには思えないざますわ。なまじそんなもの無いほうがずっと平和で紛争だって起きないだろうし、ゲイだって排撃されないだろうにねぇ…。神様がほんとうに居るなら、争いを産むような事は望まないはず。人間はややこしい生き物ですわね。

  • 2009/05/20 (Wed) 22:35

    kikiさん やーっと見てきました。
    ショーン・ペン=シリアスというイメージがあったけど、
    こういうオネエな政治家もよく似合ってました。
    ダイエットしたから、あんなに皺しわだったのね。
    で、ジェームズ・フランコ!私も凄く良かったと思う。
    包容力があって、別れた後もソウルメイトで・・・。
    スパイダーマンとかだと単なるイケメンで終わってるけど。
    今回のはよかったね。
    しかし、ラストは知らず知らずのにうちに泣けました。
    こういう志というかスピリット系映画は時々
    見て、自分にも社会にも喝入れてもらわないと・・・!

  • 2009/05/21 (Thu) 00:14

    acineさん。そうそうダイエットしたのでシワシワだったのよね、ペン。でもこういうペンの方が「ミスティック・リバー」のペンより好きかもですわ、ワタシ。そしてJ・フランコ良かったよね~、この映画では。見直したって感じでした。ラストはやはりじんわりと来るよね。そうか、スピリット系映画をみて、たまに喝をいれるのねacineさん。社会にも喝が入るといいんだけどね…。

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