「エリザベス」

~かくて権力の階段を昇り始めた~
1998年 英 シェカール・カプール監督

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大昔にビデオで一度観た時にはひたすらに画面が暗いという事しか印象に残らず、昨年、ダニエルの暗殺坊主目当てで再見した時には、殆どダニエル登場シーンしか観なかったのだけど、このつど「ゴールデン・エイジ」公開間近につき、ふと思い出して久々に観賞してみることにした。
「ゴールデン・エイジ」には昨年の夏ごろから、クライヴ・オーウェンの待機作として注目していたので、彼による伊達男・ウォルター・ローリーともども、スケールアップして黄金期を迎える女王を演じるケイト・ブランシェットの当たり役ぶりも非常に楽しみなところだ。
で、この「エリザベス」は、妾腹の生まれで、異母姉の女王にロンドン塔に幽閉されるという憂き目に遭いながらも、強運で逆境を覆して女王の座に着くや、新教と旧教で分裂し、陰謀渦巻く宮廷の中で試練を乗りきるたびに奸智と権力欲を増し、独身であることを政治的に巧く利用し、恋愛遊戯はしても、誰のものにもならない ―自分の主人は自分だけ― という処世術を身につけて、怪物的権力者になるまでを描いた作品。強大な君主になる人は幼少期をストレスフルな不遇な環境で過ごした人が多い気がする。あの太陽王ルイ14世といい、このエリザベス1世といい。いつどうなってしまうか分らない状況で育つと用心深くなり、判断力と決断力が養われ、能力のある人は政治家としての才能に磨きがかかるのかもしれない。

処刑される寸前まで行き、命の危険にさらされてガクガクと震え、「戦争は嫌いです」などと言っていた普通の小娘から、敵対する者を始末し、英国をがっしりと統治する怪物君主になるまでを、徐々に変貌する姿と表情でケイトが見せる。また、ちゃんと観返してみると実にいろんな人が出ていて、それも今更に興味深いのだ。

常に女王に付き従う一言もセリフのない女官の役でエミリー・モーティマーが顔を見せ、女王の代りに毒をしませた衣装を着て命を落す女官にケリー・マクドナルドが扮している。
また、サー・ジョン・ギールグッドが新教を選んだ女王の暗殺を企てる法皇で登場。その法皇に呼ばれてブロンドのまことちゃんヘアでひざまづくかわいい暗殺坊主にダニエル・クレイグである。

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まことちゃんヘアも初々しいダニエル

この作品でのダニエルはボクちゃんという感じで非常に若く、子供こどもしている。それだけに一途に法皇の言うことを信じ、神の名の元にどんな殺戮も辞さないバチカンの刺客として使命に邁進する様子が健気である。純粋さが狂信を生むのだ。でも敢えなく計画は頓挫してとっつかまり、またも拷問の憂き目にあう。それにしてもこの間僅か10年だというのに、現在のダニエルの老けっぷりは俳優稼業としては珍しい。年相応というよりも年令より老けて見えるダニエルだが、若ければいいというものでもないので、我が道を行って欲しい。

エリザベスの少女期から中年までの第一の寵臣だったレスター伯ロバート・ダッドリーにジョセフ・ファインズ。この人は「恋におちたシェークスピア」でも同じようなルックスで出てきて、なんだかいつもこんな役をやっているようなイメージがある。しかしいかにも若いうちだけの恋人という感じである。だから恋の未練も振り捨てて、女としてよりも権力者としての道を選んだエリザベスの悲壮さのようなものはあまり感じなかった。こんな若造にいつまでも拘っているようでは、強大な王権などおぼつかないに違いない。

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ジョセフ・ファインズ

それにしてもこの時代の宮廷人の衣装、ことに男性の衣装ってちょっと滑稽である。カボチャのようなパンツを履いて、コッドピース(股嚢)で股間を強調。女性にも負けないほどキラキラしく真珠や宝石を胴着に縫いつけて綺羅を競った。エリザベス朝の衣装で特徴的なのはあの襞の多い襟飾りだが、男も女も襟巻きトカゲのように襟を広げて華美な服装を楽しんだ。
その典型のような人物がヴァンサン・カッセル演じるフランスからの求婚者アンジュー。笛吹男のように浮かれて現れ、女装姿で画面から去る。いかにも文化の爛熟したおフランス男という感じである。ラテン系は濃い。

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いかにもなカッセル

だが多彩な出演者の中で誰にも増してインパクトが強いのは、女王の護衛役として常に影のごとく付き従う忠実な参謀・ウォルシンガム卿役のジェフリー・ラッシュであろう。王位を狙うノーフォーク公のクリストファー・エクルストンもいかにもそれらしい面構えで頑張ってはいたが、ジェフリー・ラッシュの存在感は圧倒的だ。
クビにナイフを差しつけられても一向にたじろがず、言葉巧みに相手を油断させて一瞬で始末する肝の据わった男が、じっとその力量を測って、これぞ自分が仕えるに足る君主とエリザベスを認めるのだから、やはりこの女王はタダ者ではないのだ、と観客に思わせる雰囲気十分。居並ぶ重臣たちや聖職者を前にして、イギリス国教で統一する、と宣言する彼女を満足そうに見つめるウォルシンガムの表情が印象的である。こんな男に終生の忠誠を誓われても、ちとコワイけれど。それも忠誠という形の愛なのだろう。

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そして、この映画ではエリザベスのライバルで対照的な人生を生きた“スコットランドのメアリー”が全く魅力的には描かれていないが「ゴールデン・エイジ」ではサマンサ・モートンが演じるという事でこれも期待が高まる。栄光に満ちた前半生から恋愛に溺れて囚われの身となるメアリー・スチュアート。恋に溺れて身を誤ったメアリーと、恋は遊戯にとどめてひたすらな権力欲に終始したエリザベス。「エリザベス」を観直してみて、この二人の女王の対比にスペインの無敵艦隊との対決も絡んで見せ場一杯の「ゴールデン・エイジ」がますます楽しみになってきた。

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かくて強大な女王となる


それにしても、宗教というのは何だろうかとこういう映画を観ると毎度思う。宗教のために非業の死を遂げた人間は数知れず、神の名の元に行われてきた陰謀や殺戮は天文学的な数字に昇ると思うが、なぜ人は宗教なんてものを必要とするのだろうか。一種の必要悪なのだろうが、本当に必要なのだろうか。
政治の道具として使われているのだとしても、毎度宗教の絡んだ戦争などを映画やニュースで観るたびに首を捻らざるを得ない無信心なワタシである。

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