「エリザベス:ゴールデン・エイジ」

~女王はつらいよ~
2007年 英/仏 シェカール・カプール監督

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見てきましたよ「ゴールデン・エイジ」。今回はなんだかぎりぎりになり、予告編開始の2分前ぐらいに劇場に滑り込んだら、シートを一列間違えて座ったりして、もういつにもなくスッタモンダな劇場鑑賞だった。 ふーーい。

冒頭からステンドグラスを使って、当時の勢力関係や、スペインとイギリスの関係をざっくり説明し、同じくステンドグラスの肖像でフェリペ二世とエリザベスも紹介するという趣向。このステンドグラス(のように作ったCGか)なかなかよく出来ていて、実物よりよい顔をしていた。
いやー、それにしても、ケイト・ブランシェットはまさにこの役をやるために生まれてきたような人だ。神は細部に宿り給うというが、キメ台詞を大声で呼ばわる大芝居よりも、何気なく人差し指をクイクイとやって側近を呼び寄せる仕草とか、「ほっほっほ」と高笑いして、手に持った羽飾りで人をピシャっと叩いたりする仕草が生まれてからずっとそういう事をやりつけてきた人のようにキマっている。寵愛する女官のベス(もう一人のエリザベス)に気を許し、かわいがるときの気取った流し目、そして、若さが失われだし、女としての自分が終わりかけているのではないかと鏡の前で懼れる不安げな表情、愛するローリーに「行かないで」とただの女になって懇願する泣き顔など、もっと強い女を演じたのかと思っていたら、女王としての苦悩、女としての苦悩、人としての苦悩を重点的に演じていた。

政治的な思惑で押し付けられる他国の王族との見合い。そして新教を奉じ、独身で子がないことから、従兄妹のスコットランド女王メアリーとことごとに比較され、世界最強を誇ったスペイン王フェリペ二世に王位を脅かされるエリザベス。忠実なウォルシンガムの耳打をあるときは聞き、ある時は払いのけながら、大抵のことには感情を動かさなくなったエリザベスの心をある日揺さぶったのは、七つの海を股にかける冒険家ウォルター・ローリーの、常にはるかな外洋へと向けられた輝く眼(まなこ)だった。というわけで、自分の知らない世界の見聞に溢れた未知の世界を見てきた男・ローリーはあっという間に独身の女王の心をつかむ。何日も洗っていなさそうな服に不精髭、だけど、輝く眼がとても気になるウォルター・ローリーを演じるのはご存知クライヴ・オーウェン。まずは適役。仮にGサマが演じてもかなりイケてたとは思うけど、まぁ、ここはクライヴでぜんぜんOKでしょう。ローリーの方はといえば、自分の冒険と新大陸の経営にスポンサーをつけたくて、女王に取り入ろうと近づいたのであって、最初から最後まで恋愛感情はない。実際のところどうだったのかは知らないが、この映画ではそうなっていた。(実際もそんなところであろう)女王が胸をときめかしたのは自分を愛さない男だったのだ。ヴァージニアって彼がヴァージン・クイーンに捧げようと命名した地名だったのね。そして、この伊達男・ローリーはそれまでネイティヴ・アメリカンだけの嗜好品だったタバコを宮廷に持ち込み、普及させたタバコの祖ともいうべき人物。そうか、アメリカのタバコには麗々しくヴァージニア産の葉を使用、というようなことが書かれているが、それは由緒正しい葉っぱですぞ、という事なわけなのだ。そうだったのか。

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海の男だ、冒険だ W・ローリー

映画では「海賊」などといわれ、そんなに伊達な感じでもなかったが、弁舌さわやかで詩才に富み、博学なことでは人後に落ちなかったエリザベスをその学識と機知に富む会話で魅了したというウォルター・ローリーはまた、猛烈におしゃれさんだったらしい。華美な凝った服装で宮廷中の目をくぎ付けにしたらしいのだが、クライヴ演じるローリーは、そういう華美な部分ではなく、海と冒険に魅せられる男らしい男、というムードを強調していた。でも、女王が気の毒になるほど、ローリーはエリザベスを愛していない。もう一人のエリザベス、侍女のベス(アビー・コーニッシュ)には忽ち夢中になるのだが…。まぁ、それは無理もない。二人のべスは何からなにまで対照的。赤毛で長身で痩せぎす。男勝りで常に人に負けたくない女王エリザベスと、ブロンドで若くてふくよかなベス。若いべスには権力もないが、妙な縛りもない。おまけにポチャポチャしてふかし饅頭みたいで見るからに美味しそうだ。
スペインの無敵艦隊が迫ってくるという事態に悩み苦しむ女王が、旅立とうとするローリーに「こんなときに私の傍を離れてはいけない。ここにいてちょうだい」と懇願するのに、冷たく「どうしたんです。まるで普通の女に成り下がって」と言い放つローリー。 つれないわ。女王は泣いて頼んでいるのに。冷たくてよ、ローリー。

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「もう、死んでもいい」

例の「違う時代、違う世界に生まれたていたら、私を愛してくれた?」と女王が問うシーンで「この時代、この世界で、私はあなたを愛しました」とローリーが言うのは、仕方なしに言ってあげた嘘、というニュアンスが色濃い。
女王がまさに処女のようにためらいながら、「長らくしてこなかったことを、私にしてちょうだい。そしてその後、すみやかにそれを忘れてちょうだい」と彼に願うのはキスである。なんというささやかな願いか。しかも暖炉の前で淡いキスを交わしただけで、女王は「もうこれで死んでもいい」とまでいうのである。… いたましい。なんといういたましさ、そしていじらしさか。
実際のエリザベスがどうだったのかは知らないが、ここではやっと自分の愛を受けるにふさわしい男が現れ、女王の身分を忘れて(何もかも捨てて)いっしょに航海に出られたらどんなに素晴らしかろう、と女王がつかの間でも夢見てしまうほどに本気で惚れた男・ローリーには何と振り向かれもしないのである。ささやかなキスで彼女が舞い上がっている間に、侍女はその男の子供まで宿しちゃってるなんて。エリザベス、惨敗である。しかもそれを知って嫉妬に狂い、侍女を放逐し、ローリーは投獄するとわめき散らす浅ましい姿に、ローリーはじっと軽蔑の目を注ぐ。

女王はつらい。なんでも思いのままになるように人には思われていながら、何一つ自由にならない。内憂外患で気の安まる時もなく、恋愛がしたくても、相手は自分を女王というフィルターをはずしては見ない。絶対絶命の危機が迫る中、お気に入りの侍女に裏切られて失恋の憂き目に遭うとは。エリザベス、二重遭難である。冷たい石組みの城の壁は冷たく、天井はあまりにも高い。孤独な女王の涙も叫びも、どこにも届かない。ひたすら自分の内側に返ってくるだけなのである。

フェリペ二世を演じたジョルディ・モリャ。猛烈にキャラを作りこんでいる。ちょこまかとした小刻みな歩き方に、異様に抑圧された声。ちょっと作り込みすぎじゃないの?とも思ったが、笑えたからまぁいいか。彼が常に傍らにつれている娘イザベラ王女が、赤毛のエリザベス人形をなぜいつもぶら下げて歩いているのか意味不明。このイザベラ王女がやけに意味深な無表情の表情を浮かべているので、何事か深読みしそうになってしまった。ちょっと気になる少女だった。

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モートンのメアリー・スチュアート

そして、サマンサ・モートンのスコットランドのメアリーは非常によかった。彼女がとてもよかったので、メアリーとエリザベスに焦点を当てた作品を観たいなと思ってしまったほどだ。まったく説明がなかったのでなんで囚われているのだろうと思った人も多かっただろうけど、彼女は生後すぐにスコットランド女王となり、その後6歳でフランス王室に輿入れした。美貌を謳われ、17歳でフランス王妃となり蝶よ花よともてはやされたが、夫のフランソワ二世が病弱で早死にしたため、18歳で未亡人となってまた陰鬱なスコットランドに戻った。4年後に貴族の若造と結婚したが、愛が醒めてきたころに軍人ボスウェル伯と出会い、骨抜きになってしまった。彼女は熱情をこめてこの男を愛し、そして邪魔になった夫を共謀して殺害するに至る。そのことを知った貴族たちが結束して謀反を起こし、女王は捕らえられて湖水の城に幽閉されるが、脱走して、エリザベスに手紙を送りイングランドに逃亡する。ここでイングランドに逃亡してしまったことが彼女の運の尽きだった。何年もの幽閉生活ののち、反逆罪に問われて断頭台に上るメアリが黒いマントを脱いで、目にも鮮やかな赤い下着1枚になるシーン、そこから夢でも見るようにウットリと自分が幽閉された城の広間の玉座を見上げるシーンなど、恋愛への情熱からついに身を滅ぼしながら、最後まで女王としての誇りを捨てなかったメアリの雰囲気がよく出ていて、非常に適役だった。

映画ではウォルシンガムに迫られて禍根を断つため仕方なく処刑にサインしたものの、間際までそのことを後悔し、処刑を止めようと懊悩するエリザベスの姿が描かれるが、ちょっとキレイ事のように感じた。本当のエリザベスはどうだったのだろうか。
サマンサ・モートンと並んで「Jの悲劇」仲間のリス・エヴァンス(ダニエルに付きまとうキモい男)が、そのときとはニュアンスの違う不気味な役でまた登場していた。それ以外にも、ちらほらと、お、この人はあの時の、という顔がいくつか見えていた。

さるにても海上一面を覆うスペインの無敵艦隊の姿は迫力満点。じわじわと迫りくる大軍だ。どう戦い防いだのかとういうと、とにかくエリザベスは強運だった。ひとくちにいえば神風が吹いたのである。
実際に戦いに出ていったわけではないが、民衆を鼓舞するためにエリザベスが甲冑を着て叫ぶシーンは、カッコよかった。が、あまりに馬がじっとしていないので、馬を止めて決めセリフを言ったほうがいいのでは?とハラハラしてしまった。予告編で見て痺れた「そのプライドは風とともに吹き飛ぶのだ、エリザベス!」と言うスペイン大使に「私は風に命ずる!嵐で無敵艦隊を吹き飛ばせ!と」と大見得を切って叫ぶシーンは、本編でみると、訳文が微妙に異なるせいもあってあまりズーンとこなかった。あれは予告編の訳文がよかった。全体に、あまりにも予告編の編集が良く、うまくできているので、それですっかりそのつもりで盛り上がって行くと、本編ではちょっとあれ?という感じになる個所もないではないが、やはり当たり役のケイト・ブランシェットは彼女が女王か、女王が彼女かというぐらいにピッタリとハマっていた。ウォルター・ローリーのクライヴ・オーウェンは、昔の活劇物のヒーロー(たとえばエロール・フリンや、タイロン・パワーのような)よろしく、二人の女に愛され、冒険だけでなく戦争にも出て活躍する純正ヒーローであった。目がきらきらと明るく輝いていたのと、やっぱり基本的に人が良さそうな顔をしているなぁと思った。だから、エリザベスにとってはけっこう冷たい男だったりするのだけど、なんだか憎めない感じである。この愛されているのにつれない男と比べて、生涯をかけて忠誠を誓い、女王にすべてを捧げるウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)の愛の深さはどうであろうか。

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愛すればこそ怖い男にもなってしまうのね ウォルシンガム

時にうるさげに追っ払われ、いらぬ世話を焼きすぎだと疎まれつつも、ウォルシンガムのおかげでエリザベスは今日まで無事に過ごしてこられたのである。思えば、エリザベスを心から、誰よりも深く、長く、愛してきたのは、この権謀術数の老臣ただ一人ではあるまいか。死に際に労をねぎらわれても、その生涯ささげ尽くしてきた真心はさほど報われたとも思われないのが遣る瀬ない。
颯爽たるブランシェットの女王っぷりを拝見しに行ったのだが、意外に切ない「報われぬ愛の二重奏」を見て帰ってきた。「女王はつらいよ エリザベス忘れな草」の巻だった。

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