スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「太陽と月に背いて」

~緑のアブサン~
1995年 英 アグニエシュカ・ホランド監督


野生児

原題は「TOTAL ECLIPSE」 日食または月食の意味らしい。邦題は頑張った方かもしれない。この頃のデカプリオはミニシアター系の小品にばかり出ていたが、今よりも断然輝いていた。彼が夭折の天才詩人アルチュール・ランボーを演じるという噂を聞いて、そのあまりにもドンピシャリなキャスティングにワクワクしたものである。デカプーは期待にたがわない演技と容姿でランボーのイメージを体現してみせた。まさしくランボーはこんな風な少年だったろうと思う。写真を観ても似ている。デカプーのルックスの頂点は「ロミオ&ジュリエット」だと思うが、この作品では16歳でヴェルレーヌの招きにより地方から出てくる奔放な少年詩人にぴったりだった。それにしても彼は何があろうとけして太らない体質なんだろうと思っていたのだが、年をとれば人並みにがっつりとしてくるし、飲みすぎ食べ過ぎで不摂生をすれば腹も出るのである。デカプーは20代後半からゆるゆると普通の男になっていったのかもしれない。
そして、ランボーの奔放さに惹きつけられるヴェルレーヌに扮したデヴィッド・シューリスもイメージにピッタリでよくもまぁこんなにイメージピッタリな俳優がうまい具合に居たものだなと感心するほどである。彼の妻にこの頃とても売れていたロマーヌ・ボーランジュ。(今もご活躍なのかもしれないが、最近あまりフランス映画を観ないので近況を知らないのである)とにかく主要キャストが皆、イメージにぴったりで、さもありなんと納得して見られた。

ランボーについては学生の頃、小林秀雄の「ランボオ」などを読んでふへぇ、などと思っていたのだけど、とにかく印象は強烈だった。突如彗星のように登場して難解な詩をあらわし、20代前半でパっと筆を折ってしまうと、あとは武器商人となってアフリカに渡り37歳で骨肉腫のため死ぬ。早熟の天才の典型とも言えるタイプで、まさに映画や小説よりも数奇な人生を送った男である。夭折のフランス詩人といえばもう一人、三島由紀夫が憧れたラディゲがいるが、ラディゲの繊細さに比べるとランボーはもっと逞しく、図太く、破天荒である。
難解で意味不明といわれる彼の詩は、フランス語で読むと翻訳では到底分らない感覚があり、めくるめく刺激を与えられるという。昔、小林秀雄訳のを数編読んだことがある程度で、今は手元にランボーの詩集がないのでうろ覚えだけれど、色に関する詩であぁ確かに凄い感覚だなと思った記憶がある。この作品中でもデカプーのランボーが猛獣のように吼えながら、もがき苦しんで詩を生み出す様子などが描かれている。詩篇を書いている原稿の上につと赤いインクのようなしみが滴り、見る見る広がっていくシーンがあるが、これは詩を書いていて思いつめたランボーが鼻血を垂らしたものであろうか。鮮やかで印象的なシーンである。

映画に話を戻すと、ヘタレのヴェルレーヌが若く可愛い妻と、魅惑の美少年との間に挟まって揺れ動く三角関係が軸である。妻役のロマーヌ・ボーランジュも、デカプーに負けず惜しげもなく脱ぎまくりで、ヴェルレーヌへの愛をアピールする。全くヴェルレーヌは果報はやつだなぁと見ていて思う。デカプーとデヴィッド・シューリスはラブシーンも当然あるが、ボーイッシュな美少女のようなデカプーは植物的で生々しくないのでキスシーンなどは見ていてもまるで違和感はない。ただ、ベッドに入るとランボーの方がタチ役なのにはちょっと驚いた。でも、それもランボーとヴェルレーヌの関係性においては自然なことだったのかもしれない。二人の間では犬も食わないようなケンカが度々繰り返され、痴話ゲンカの果てにヴェルレーヌがランボーの左手を撃つという事件が起き、ヴェルレーヌは刑務所入りとなる。この間に故郷に帰ったランボーは「地獄の季節」を脱稿する。この二人の、時に幼稚で時に激しい情痴の関係には観ていてゲンナリするが、多分実際にもそんな風だったのだろう。

middle_1174615127.jpg
ヘタレ

ヴェルレーヌは富裕な妻の実家にマスオさん状態で入っている男であり、この妻を離れて生活はおぼつかないのである。この状態はあの「真珠の耳飾りの少女」におけるフェルメールと同様である。しかし、あの映画ではフェルメールは心はともかく肉体的には妻を裏切らなかったが、ヴェルレーヌはもう無茶苦茶である。妻と旅行に出ながら途中で妻を巻いて、ランボーとシメし合せて二人で旅に出てしまう。妻は子供までなしたのに、全く踏んだり蹴ったり。コケにされまくりで画面から消える(さすがにムショ入りした夫には呆れて離婚する)

刑期を終えたヴェルレーヌとランボーはドイツで再会する。そのとき、ランボーは「僕の魂と肉体とどちらに惹かれるのか?」と訊く。ヴェルレーヌは「肉体だ」と答える。性根は何も変っていないな、と言うランボー。一緒にいたらお互いのためにならない、と遂に引導を渡す。そして彼はかねて憧れの地、アフリカへと放浪していく。ヴェルレーヌは更なる混乱と堕落の人生を送ることになる。

middle_1174615173.jpg
middle_1174615198.jpg
緑のアブサン

全編を通して、ヴェルレーヌとランボーが最初に会った時に、酒場でアブサンを飲むシーンがとても印象に残る。この緑のアブサンはラストにも登場し、年老いたヴェルレーヌが酒場で2杯のアブサンを注文し、16歳の瑞々しい美少年だったランボーの幻を思い浮かべる。猫のような顔で上目遣いをするデカプーの緑の目とアブサンの緑がとても印象的に被る。一口飲んだら胃が燃えるようなこの強い酒は、舌を焼き、神経をしびれさせ、まさにランボーそのもののような、人生を滅ぼす「輝かしい堕落」の味がするに違いない。

     コメント(10)