「人のセックスを笑うな」

~恋を忘れたオトナのための…~
2007年 東京テアトル 井口奈己監督



話題になっていたのは覚えているが、公開時は食指動かず見なかったこの作品。どうも松ケンこと松山ケンイチに興味が湧いてから、やはりこれだろうという事で観てみた。   沁みた。
松ケンが自然体で演じる恋心のせつなさと冬空。
そして今まで一度もきちんと観た事がなかった永作博美を見直した。
へぇ?、魅力があったんだね。オミソレしちゃってました。

…さるにても、恋は理屈じゃありませぬ。年齢がどうとか、相手に配偶者がいるとか、恋をするとそんな事はどうでもいいわけだけど、そのどうでもよくなっちゃう感じをいかに見せるか、という事が勝負な映画。さてさてさて、どんな仕上がりかしらん。
地方都市の美術学校。
どこだろうと思っていたら、途中で「松葉オート」なんて看板が出てきたので愛知県豊橋市という設定だろうか。松ケン演じるみるめは美校の学生。リトグラフの非常勤講師としてやってきたユリ(永作)に惹きつけられる。そもそも最初の偶然の出会いの時から、既に彼女には惹きつけられていたみるめ。恋に落ちるのは時間の問題。同級生でみるめに片思いのえんちゃんに蒼井 優。なんかこの手の映画には必ず出てくる女優という感じだがこの子はどうも苦手である。上手いのは上手いんだろうけど、顔も凡庸だし、しゃべり方もちと受け付けない感じ。でも、上手いんだけれど。この映画ではその持ち味が120%役に生かされていた。

美校の喫煙所でタバコを吸うみるめの横にさっと来て座り、
脚を組んでタバコをふかすユリ。
永作、タバコがサマになっている。下品にならずになにがなし独自のムードを出しつつタバコを吸うというのはけっこう難しい。
「やってます」感を出さずに自然にさらりとサマになるというのは誰にでも出来る芸当というわけではないのだ。
彼女はタバコをちらと吸いつけただけでつと喫煙所のベンチを立ち、タバコをふかしつつ建物の中へ消える。背後にはデカデカと禁煙の張り紙。ユリのキャラクターが現されているシーンだ。

middle_1220621436.jpg

松ケンは時折、藤井 隆にもちょっと似ている時があるが、この映画ではルックス的に藤井と「L」の間を漂っている感じだろうか。(違う?!って声がしそう)
彼はとてもナイーヴに年上の魅力的な女に惹かれてしまう大学生を演じている。永作と松ケンのコンビネーションが絶妙。
二人の掛け合いが非常に自然で、折々アドリブも入っているらしいのだけど、松山ケンイチはこの撮影の間、本当に永作演じるユリに恋していたんだろうねぇ、というのが伝わってくる。(自分でもそう言っている)だから好きな相手と一緒にいるときの、あの感じが画面からビュービューと流れてくる。そうかそうか、恋していたんだね。出会って間もない頃、ユリのリトグラフの作成を手伝っているシーンで、ユリの鼻の下に青いインクがついているのをハンカチで拭ってあげようとするみるめが「(鼻の下に)インクついちゃってんだよ、青い鼻血みたい」と笑う時の自然な「大スキ」感が微笑ましい。とっても自然で楽しそうだ。
で、この年上女にイカレてしまうみるめを大スキなえんちゃん(蒼井 優)。
これも片恋の感情の出し方が上手い。
この手の女の子は可愛らしく好きとも言えず、戦略的にあの手この手で落とそうとする程手管もなく、好きな相手が自分の方を向いてくれない事に苛立ち、ぶっきらぼうに話しかけたり、タバコは毒ガスだとか説教臭い事を言ったり、どうしてもカワイくなんか出来ないわけである。
酔い潰れたみるめをラブホテルに連れ込んでも何も起きない。えんちゃんはただ、どこにもぶつけられない気持ちをベッドのマットレスの上で跳ね回る事でしか表現できない。

もう、こんな不器用な小娘・蒼井 優と永作博美では勝負にもならない。敵じゃないって感じである。ハタチぐらいな男の子は盲目的に小娘には向かわない。これがもっとオヤジになると小娘であるというだけで、蒼井 優の方が良くなったりする。それは男が老いたということ。本格的なオヤジ道の始まりというわけだ。永作は全編の8割をすっぴんで登場。女の魅力に化粧など何ほどの役目も果たさないという事を実証してみせる。(逆に言えば化粧に頼らないと何も出せない女は中身がないということですね)ともあれ永作、なにげない仕草や言葉にキラキラと魅惑の粉が降りかかっている。3人展のシーンで着ているワンピースが似合っていてムードが出ていた。さらりとしたコケットリーがみるめならずとも見る者を惹きつける。

middle_1220622915.jpg
永作のワンピースいいな

「寒いねぇ?」と言ってストーブをつけさせる。あぁ、こういうストーブ、使わなくなってもう随分たつなぁ。子供の頃にみたっきりである。みるめがストーブをつけていると、シンプルな下着姿になったユリが、ソファに登ったり降りたりしながら「踏み台昇降」と言う。これはヤラれますねぇ。確実に。

middle_1220621490.jpg
恋する冬の日

とにかく、二人のシーンがいい。みるめを絵のモデルにしたいというユリ。彼女のアトリエ(このアトリエがまた田舎家でいい感じである)で言葉たくみに脱がされるみるめ。松ケンは本当に脱ぐのを嫌がっていたため、テンションを上げていこうと永作はアドリブも入れたそうだが、
「セーター脱いで」「ズボンも脱いで」と要求されるたびに、「え????!?脱ぐの?」というみるめに「オー、イエース」と答えるユリ。
この囁くような「イエース」が、また、なかなかの味わい。 
とうとうパンツまで脱がしちゃう。  ヤルなぁ、ユリ。
松ケンは痩せているようだけど、肩幅があって大胸筋もそこそこある。
鍛えればけっこういい体になりそうな感じもマルである。      
この子は実際にも年上を好きなタイプだと思う。

思うがままに生きていて、恣意的に状況をどうこうしようとしているわけではないユリ。ただ興味の赴くところに素直なのだ。こういう女に若いうちに関わっちゃうと、それは骨抜きになっちゃいましょうよ。みるめは20歳年上というユリとの年齢差はどうという事もなく乗り超えるが、ユリに年の離れた夫がいたという事実には落雷のようなショックを受け、拘泥してしまう。ユリは殊更に夫がいるとも言わないが、家を調べて訪ねてきてしまったみるめが夫と出くわしても、それを隠す気はさらさらない。このユリの夫役にあがた森魚。ナイスなキャスティングである。この年長の夫が父親のように与える安心感もまた、ユリには不可欠なものなのだ。夫との生活を壊す気はないユリは、やがて一途なみるめの前から姿を消すが…。

というわけで、この映画を観ていると、恋にまつわる色々な事を、そうだそうだと頷きながら味わうという感じになる。
たとえば、好きな相手とそうじゃない相手には、口調が全く違ってしまったり。
気持ちがない相手には幾らでも邪険になれたり。
恋をした時は一日中、ずっとその人の事を考えてニヤニヤしていたり。
どんな些細な仕草も見逃さずに見ていたり。
どんな欠点も魅惑的に思えたり。
突然、大好きな相手に去られた喪失感や、
想っても想っても報われない片恋のせつなさや…
そんなこんなの、あれやこれやが切なくも微笑ましく綴られる。

middle_1220621544.jpg

不器用な片思いを不器用にぶつけるえんちゃん(蒼井 優)には、どんなに邪険にされてもじっと彼女を見ている堂本君(忍成修吾)がいるのもいい。どことも知れない雰囲気の地方都市が舞台なのもマル。ただ、主人公の名前が磯貝みるめって…。その磯野カツオみたいなネーミングだけはちっといただけないかも。(主人公にそういう名前をあえてつけるというのがどうも好きじゃないのだ)あとキスの音がチュパチュパと、狙いだろうけどやたらに耳立ったのが気になった。
ともかく、若造には基本的にあまり興味のないワタシが自分よりうんと年下なのに気になる男としては、ジェイク・ギレンホールと松山ケンイチがいるのみである。この二人、ワンちゃんみたいな口元がちょっとだけ似ている。別にワンちゃんみたいな口が好き、というわけではないのだけど…。
恋をしましょう 恋をして 浮いて 沈んで 暮しましょう という気分になる1本。

     コメント(2)