「ファニー・フェイス」

~アステアとオードリー~
1957年 米 スタンリー・ドーネン監督



ワタシは格別大ファンというわけではないけれど、オードリー・ヘプバーンの作品もけっこう見る。まぁ、誰でも大好きヘプバーン。ことに日本人が彼女を好きなことは些か面妖なほどだけれど、なにがなし生臭い事とは無縁そうな浮世離れたその佇まいは、いつみても瞳に心地よく一服の清涼剤の効果をもたらしつづけるのであろう。ワタシは彼女の映画では「サブリナ」と「シャレード」が結構好きだ。ついでに言うとフレッド・アステアも大好きなので彼と競演した「ファニー・フェイス(パリの恋人)」も落してはならない。彼女の共演者は盛りの若者でなく枯れかけた爺さんか、若くても人畜無害系(ジョージ・ペパードなど)というのはよく言われる事だけど、私の好きなこの3本の作品もみな相手役はおジ(イ)さまばかりである。でもさっぱり違和感がないのは植物さんのようなオードリーの容姿が、枯れかけたジェントルマンとよくマッチしているからなのだろう。というわけで今回はアステアと共演の「ファニー・フェイス」について。
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さすがのアステアも「ファニー・フェイス」では少しお爺さんになってきているのでラブシーンはキツいものもあるが、幾つになってもダンスは凄い。この作品でのヘプバーンは可愛いけどかなり我侭な娘で見ていてオイオイと思うところも多々あるが、懐の深いアステアは余程でなければ怒らない。でも、怒ると彼女はスネてしまい、スネた彼女の機嫌を直そうとホテルの中庭で歌い踊る「Let's kiss and make up」はステンカラーのコートや帽子やステッキを小道具に些かも衰えぬ鮮やかなステップを披露し「さすがアステア!」とため息をつかせてくれる。これはファッション業界をパロったような内容のミュージカルで、アステアの役はヴォーグ誌の有名なファッションカメラマンだったR・アヴェドンを、専制的な女編集長(ケイ・トンプソン)は同誌の伝説的な名物編集長ダイアナ・ヴリーランドを、それぞれモデルにしているといわれる。オードリーは本屋の店員からモデルに抜擢される女の子。歌と踊りばかりでなくパリロケシーンがふんだんに出てくること、モード写真のカットが非常に綺麗なことなど、けっこう見所も多い作品である。オードリーは声質が悪く歌はダメだが、バレエで鍛えているのでアステアとのダンスはナカナカ。暗室で踊る「Funny face」もいいし、パリ郊外の教会近くの、小川のほとりで踊る「S'Wonderful」もいい。このシーンでのオードリーは夢に出てくるプリンセスのごとくに浮世離れた美しさである。画面には目一杯紗がかかり、イヤでもおうでもロマンティックなムードを盛り上げていたが、これはまだ若くて綺麗な盛りのオードリーをよりロマンティックに見せるというよりも、アステアのシワを目立たせないための配慮もあったんじゃないかと思われる。
「Funny face」はタイトル曲で、軽快な前奏からアステアが軽くスイングして歌うオープニングもとても好きだ。軽やかで本当に聴いているだけでウキウキしてくる。もうひとつ、聴いているだけでウキウキしてくる曲に「Bonjoir Paris!」があって、これはファッションショーのためにパリに行ったアステア、オードリー、トンプソンの3人がパリに着いた喜びを歌い踊る曲なのだけど、これがまたウキウキ100%である。かなり前に初めてパリに旅行した時、私はこの曲をウォークマンで聞きながらパリをルンルンでほっつき歩いた。聴きながら歩いているとうれしさ倍増で、スキップでもしたくなっちゃう浮かれ気分だった。曲は全てジョージ&アイラのガーシュイン兄弟。悪かろう筈がない。

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「Bonjoir Paris!」

アステアは亡くなる数年前にAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)の生涯功労賞を受けたが(当然である)、このセレモニーの様子を日本でも放送してくれて見ることができたのは幸いだった。全体にいいムードのセレモニーで、小さなお爺さんになったアステアは、身振りの粋さ、デボネアな存在感は不変で見ているだけで涙がにじんできそうだった。ジンジャー・ロジャースとのコンビの珠玉のダンスシーンの数々が流れ、モノクロームのフィルムの艶と名だたる作曲家たちの曲に乗って二人が踊るダンスの優雅な美しさにウットリし、ため息をついていると彼の受賞を寿ぐスピーチをするスターの一人として、オードリーが登場した。もうシワっぽくなってきてユニセフ活動のオードリー、というあの感じになってはいたものの、彼女のスピーチはひとしお感動的だった。

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スピーチに立つオードリーをスタンディングオベイションで迎える
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感無量の面持ちのアステア 横の女性は娘さんではなく
晩年に再婚した奥さん

「女性なら誰もが夢見るスリル、それは生涯に一度でいいからアステアとダンスをすること。私はその夢をかなえて貰った」という彼女のスピーチに、ワタシはまたも目が潤み、会場は大喝采、アステアは照れくさそうに、けれど嬉しそうに聞いていた。よいセレモニーだった。
「ファニー・フェイス」というと、ワタシはこのアステアの受賞式もセットで思い出す。そこには古きよき優雅なハリウッドの残り香が、確かに馥郁と香っていた。

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