「プラダを着た悪魔」 

~炭水化物はダメなのね~
2006年 米 デヴィッド・フランケル監督



物凄く今更であるが、今ごろになってやっと観てみた。「プラダを着た悪魔」。
N.Y.のファッション雑誌編集者のスノッブぶりと、それをイタリアやフランスのファッション業界人がどう捉えているかは、「プレタポルテ」が皮肉に描き、ファッションショーの舞台裏などは「スーパーモデルズ・キャットウォーク」等で垣間見られて面白かったが、いやいやいや。ファッション雑誌が世界の中心と本気で思っている連中の中に、そんなのどーでもいいわ、と思っている異質な人間が一人混ざっても、その中に居る間は自分のスタイルを押しとおすには限界があり、やはり周囲の価値観に合わせていかないことには仕事にならない。

ピンヒールでコツコツ歩き回るギスギスと痩せた女どもを軽蔑していたジャーナリスト志望のアンディ(アン・ハサウェイ)は日ならずして自分もコツコツ女の仲間入りをしてしまう。仕事のための方便だったが、すぐに高価な服をとっかえひっかえする日々に心ウキウキ。だって、女の子だもん。「ジミー・チュウの靴に魂を売ったのね」という友達のセリフが簡潔に状況を言い表している。
それにしても、あの服の経費はどこから出ているのかしらん。彼女の給料でとっかえひっかえはできなかろうので、雑誌社とブランドがタイアップでキープしている撮影用の服から貸与ってな事になるのだろうか。しかし、観ていてコツコツ女やミランダの服があまり素敵に見えないし、場合によってはかなり滑稽に感じたりするのも狙いかもしれない。
滑稽といえば、どこから見ても同じようなベルトにああでもない、こうでもないと必死の顔で額をつきあわせる周囲に思わずプっと笑ってしまうアンドレア。このあたりにも監督のシニカルな視線を感じる。「部外者」と「内側の人」との印象的な対比である。有名ファッション雑誌とその名物編集長はカルト世界のスターなのだ。いわば宝塚のごとく、熱狂的なその世界の信者にはトップスターは神のごとき存在かもしれないが、興味のない人にとっては「へ? ナニソレ」である。何の世界でもそうだといえるだろうが、カルトな世界の中での熱狂と、その世界の外にいる人間との温度差がここまで激しい世界も他にないように思う。「中」と「外」の立場を均等に押さえている視点がいい。それはそれとして、この世界が好きな人がちゃんと堪能できるように、魅惑のお洋服や靴やバッグやコートが洪水のように出てきて目を楽しませる。

それにしても、伝説的なダイアナ・ヴリーランドの昔からファッション雑誌は専制的な女編集長が有無を言わさず仕切っていて、その下に腰元みたいなイエスマンのアシスタントが金魚のフンみたいにくっついているという図式は変らないようだ。一体、何着のコートと何個のバッグを持っているのか、きっとクロゼットは慎ましい一家なら生活できてしまうほどに広いのであろう名物編集長ミランダのメリル・ストリープ。そんなにも服だの靴だのにこだわっているのに、コーヒーはスタバでいいわけなのね。Oh! アメリカ。
メリル、スチールを見た限りでは、かなりのマージョさまっぷりに見えたが、映像を見ていると目元などエレガントに化粧してあって、それなりにうば桜の静かな美しさもにじんでいた。楽しそうにドラゴンレディをやっている。こういう役は演じていて楽しくないわけがない。メリハリもつけられるし芝居のしどころもたっぷり。いつもスキなく装っている彼女が、パリのホテルで化粧を落とし、年齢相応かそれ以上に老けてみえる素顔で「また離婚だわ…」と涙を浮かべるシーンなど、思いっきり婆さん顔を晒してたっぷりと芝居をしている。婆さんな素顔も立派な武器だ。女優魂ここにあり、である。ラスト、サングラスをかけたままで切る大貫禄のメンチとその後サングラスを外しての「Go」もいい。何を葬ってもその世界で生きたい女と、自分はそうでありたくないと思う女。しかし部下のそれまでの「仕事」に対し、ドラゴンレディはちゃんと次へのはしごを掛ける。

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アン・ハサウェイは肌と真っ白な歯がキレイで、脚が長いので職場で着る服も、パーティドレスもなかなか似合っていたが、最後のシーンのカジュアルな服がバッグやブーツも含めて一番おしゃれで美しく見えた。ワタシの好みの問題かもしれないが、そう見えるようにシーンを積み上げてきているのだと思う。彼女に何かと粉をかけるフリーライターの男はどこかで見たことがあると思ったら、「L.A.コンフィデンシャル」で囮に遣われて殺されてしまう俳優の卵役の人だった。いくらか役柄的に出世したようだ。また、先輩のコツコツ女を演じていたエミリー・ブラントは、鬼のような上司と当初芋臭かったくせになんらかの技を使って急に垢抜け、自分を出しぬいたアンディのために、楽しみにしていたパリ行きも取り上げられる気の毒なアシスタントっぷりがハマっており、何度か観ているうちに段々彼女にシンパシーを感じるようになる。とはいえ、痩せすぎには要注意ですぞ。細ければいいってもんじゃないですからねぇ。
おっぱいが大きいだけなのに太目とか言われてもねぇ。変身後のアンディのバックに一瞬流れるマドンナの「ヴォーグ」が耳に懐かしかった。

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