「10ミニッツ・オールダー」星に魅せられて

~百年の孤独~
「星に魅せられて」 = マイケル・ラドフォード監督

2002年 イギリス/ドイツ/スペイン/オランダ/フィンランド/中国 

永遠に年もとらず、死なない。…こんな恐ろしいことはない。ゆかりの人々が全て死に絶え、目に馴染んだ景色がひとつもなくなっても、自分だけは生きつづけなければならない。古代の権力者がみな不老不死を望んで果たされずに来たけれど、実は不老不死こそは、もっとも厳しい永劫の刑罰にもなるかもしれない。前にふと、そんなことを考えたのをこの作品を見ながら思い出した。
「10ミニッツ・オールダー」イデアの森 7話目「星に魅せられて」。原題はADDICTED TO THE STARS だから魅せられるなどという生易しいニュアンスではなさそうだ。

ダニエル・クレイグ演じる宇宙飛行士は、タイムワープで宇宙飛行を終え、地球に帰還する。彼は、目覚めた瞬間からその青い瞳に静かな諦念のような不思議な虚無感を漂わせている。相棒の飛行士との会話もそういう空気感に拍車をかける。無事に地球に戻ってきた彼らを出迎えるのはロボットの女性アシスタント。貼りついたような笑顔が寒々しい。健康診断を受ければ、80光年も旅をしてきたのに10分程度しか衰えていない。医師に「シャワーを浴びてゆっくり眠れよ」と言われた時の、飛行士ダニエルの顔に浮かぶ、いわく言いがたい表情。今とさして変らないけれど、どことはなしに今と同じではない街の景観。(いつからか近未来ものはこういう未来像を描くようになった。20世紀を終えてみて、激しく変るものとさして変らないものが予測できるようになったせいだろう。)しかし、ダニエルの飛行士は、はるばると帰ってきた母なる星、母なる国に、なにひとつ馴染めるものを見出せない。見た目はさして変らないようでも、何一つしっくりと来るものを感じられない故郷。彼の瞳は諦めを含み、常にしんと悲しそうに静かに光っている。彼にはどうしても行かなければならないところがあった。でも、それは自分の記憶を辿るだけのセンチメンタル・ジャーニーのはずだった。彼のつもりでは。しかし、予想に反して、そこには彼をずっと待っていた人物がいた…。

ダニエルの飛行士は別段、不老不死ではない。が、長い宇宙飛行の間はずっと不老状態で移動する。自分は変らないのに、自分を取り巻く全てのものが、あれよという間に朽ち果てたり、あるいは目に見えぬ変貌を遂げていく中、ひたすら、時を止めて宇宙を旅する。長い時を経て、たまさか戻ってもそこはもう故郷ではない。地上に彼を繋ぎとめるものは何ひとつないのだ。宇宙船の中で着陸前に目覚めた時から、ダニエルの飛行士は静かな諦念を抱いている。それは自分で選んだ道、家族よりも宇宙をとってしまった男の宿命なのである。しんと音のない静かな夜空に、飛行士は彼を呼ぶ星の囁きを聴く。彼が戻るところは星々が静かに光る、漆黒の大宇宙しかないのである。

…というわけで、「10ミニッツ・オールダー」の中の「星に魅せられて」を観た。まだ他のはぜんぜん観ていない。気が向いたら観ようと思う。このエピソードの中のダニエルは、画面に映った瞬間から何かを諦めた人の遣る瀬なさみたいなものをふんだんに漂わせる。宇宙飛行を終えて地上に戻っても、彼のそこはかとなく憂わしげな気配は一向に薄まる様子もない。この、静かで憂わしげなダニエルというのは、かなりワタシの好物なので、この作品には痛く惹き付けられた。また、スーツの上に黒いハーフコートをお召しで、これがよく似合っている。なんだかコートがよく似合うのだ。これはまさにワタシの観たい種類のダニエルの1つで、姿も役柄も申し分ない。ただ、コストパフォーマンスに厳しい(単にケチとも言うが)ワタシは、他のエピソードは要らないのにこれだけのために DVDを買うという事ができないタチなので、今回もレンタルで鑑賞した。やっぱりケチなのか、ワタシ。…越えられない壁である。



登場は伏せられた目のクローズアップから入る。長い睫毛が夢をみて、ぴくぴくと動く。彼は息子の夢を見ているのだ。彼が地球を出発するまでの、幼かった息子の夢を。…ぱっと長い睫毛が開いて、いつもより幾分暗めの青い瞳が現われる。ここでもダニエルの青い瞳は有効だ。そして、こんなに短いエピソードなのに、またもや健康診断とシャワーシーンで脱いでいる。どうして毎度こうなるのか、本当に不思議である。監督が彼と事前に会って、作品について打ち合わせをしているうちに、彼の醸し出す特有のフェロモンで、どうしてもそういうシーンを入れたくなってしまうのかもしれない。なんだかもう、そうとしか思えない。とにかく脱がせたくなる男、という事だろうか。シャワーシーンも、またけっこう腰骨のあたりまで映っているし、特に必然性があるとは思われないシーンではある。がしかし、折角脱いでくれているのに難癖をつけることはない。ありがたく鑑賞した。予算の関係なのか腕の刺青はそのまま残っている。宇宙飛行士が刺青っていうのは、いかがなもんだろうかと思ったけれども、まあ色々と都合があるのだろう。

しかし、お約束のシャワーシーン以外は、(まあ、そのシーンもだけれど)全体のトーンがしーんと静かで、常にそこはかとなく寂しく、妙にしんみりと美しく、夜と冬の寒い空気のつんとした冷たさが、観ていて目に染みいってくるようだ。彼がそんなにも全編を通して諦観をもって臨んでいる理由は最後に明らかになる。でも、それも、彼にはわかっていたことであろう。意外だったとすれば、そこで逢えたことが意外だったという事であろうか。そんな悲しい思いまでして、しかし宇宙への思いを断ち切れない男の業のようなものが、最後の待ち人との別れのシーンでの、ダニエルの表情に表されている。短いエピソードだけど忘れがたい印象を残すオムニバスの一編。  それにしても、星と孤独って、相性がいいんだな。

コメント(14)