「マーニー」

~ティッピの災難~
1964年 米 アルフレッド・ヒッチコック監督



魅力的な女優は魅力的な俳優に負けず劣らず大好きなワタシ。中でもティッピ・ヘドレンはかなりフェイバリットな部類に属する女優である。女優としては数本しか出演作はなく、昨今TVを中心にまた復帰はしているようだが、いかんせんもうお年。最も素敵な時期にヒッチコック2作品に出ているので、それで十分という感じもする。彼女の娘はあの頑丈なアゴのメラニー・グリフィスである。脚の綺麗なところだけは母に似たが、もうちっと顔立ちや雰囲気も母に似ると良かったのに残念である。藤純子とその娘といい、どうも母が素敵すぎると娘は母とは違う方向に行ってしまい勝ちである。


この「マーニー」は「鳥」が成功を収めたあと、グレース・ケリーの代役としてティッピが主演したサイコ・サスペンスである。”マーニー”は盗癖のある美しいブロンドのヒロインの名で、ヒッチコックは当初この役をモナコ王妃になったグレース・ケリーに演じてもらうつもりだった。グレースもその気満々だったのだが、いかに賭博と観光だけで成り立っているちまい国でも一応、王国は王国なので、王妃がハリウッドで再び映画に出るとは!と大反対のブーイングが巻き起こり、実現は不可能になった。そこで「鳥」で頑張ったティッピを起用して撮影に入ったのである。
ティッピは「鳥」の時が最も綺麗だが、マーニーでもコケティッシュな魅力は相変わらずである。実際は162cmぐらいで小柄なのだけどあまりそういう感じもしない。とにかくタイトスカートからスっと出た脚が綺麗でハイヒールをはいて歩く姿の素敵なことは、子供の頃に初めてTVで「鳥」を見た時から印象に残っていた。で、この「マーニー」。ヒッチコック作品の中では必ずしも評価が高くないようだが、ワタシはけっこう好きである。冒頭、黒髪の女が駅のホームを大きなスーツケースを下げて歩いていく。彼女はホテルに部屋を取り、ベッドの上にスーツケースを2つ並べ、新しい方に新たに買い揃えた衣類や下着を箱から取り出して入れ、古い方から必要なものだけ取り出す。携帯ミラーの鏡の裏に何枚かの偽造身分証明書が入っていて、その中から1枚選び出すと財布のカード入れにいれる。この時、金色の鏡と女の細い指先の珊瑚色の爪がよく映えて綺麗である。やがて洗面台で髪を洗うと水の中に黒い染料が溶け出す。切り替えのショットで顔を上げた女の髪は輝くブロンドである。さすがブロンド好きのヒッチ先生。見せ方をよくご存知である。女は翌日、駅のコインロッカーに不要なトランクを入れ、鍵は排水溝に落とす。女の名はマーニー。偽名を使っては会社にもぐりこみ、経理係として暫く勤めると、そこの金庫から大金を失敬して去る。その金で馬を飼い、分れて住む母に仕送りをしている。馬を愛し、そして赤い色を異常に嫌う。このマーニーを知人の会社で見覚えていて、盗癖があると知りつつもわざと雇う青年社長マークにショーン・コネリー。別にコネリーである必然はない役なのだが、ボンド役で売りだし真っ最中だったので起用したものであろうか。必然性はなくとも男前の盛りなので、出ていて悪いわけはない。ティッピとも画面の相性は良かったし、なによりも身持ちの堅い彼女をスケベったらしい目つきでじっと見る様子が、それなりにハマっていた。マークに迫られて潮時だと思ったマーニーは、会社の金庫から金を失敬して去る。いつものように金を盗んだあと、預けてあった馬にルンルンで乗っていると、マークが彼女の前に現われる…。というわけで盗癖があり、赤い色にこめられたトラウマに縛られている女を愛した男が、彼女を救う為にその原因を探っていくというのが「マーニー」という物語である。

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コネリーとティッピ

ティッピはCMガールだったのをヒッチコックが見出して「鳥」に起用したので、彼女にとっては恩人なのだが、ヒッチ先生は失われたグレイス・ケリーの代わりに自分が見出したティッピに異常な思い入れを抱いていたらしい。既にスターで実家が大金持ちだったグレイスには手が出せなかったが、モデル上がりで自分が見出したティッピは、自分の意のままに出来るという意識があったのかもしれない。とにかく「めまい」の主人公が死んだ女と良く似た女を見つけ、その女に逐一服装から髪型まで指図するというフェチぶりを見せつけたのと同じように、ヒッチ先生は彼女のヘアスタイルからドレスに至るまで、全部指示し、買い与えたという。当初は新しい主演女優を生み出すという熱意だったのだろうが、次第に異様な熱を帯びてきて、この「マーニー」撮影中は彼女のトレーラーに入りこんで求愛するなど、パワハラ×セクハラに及んでしまったらしい。いかに恩人でもそれは受けられないとティッピが拒否すると翌日から撮影中も彼女に口をきかなくなり、作品にも興味がうせるなど困ったちゃんぶりを極めた。前作「鳥」では本物の鳥をけしかけられるし、Sの巨匠に懸想されたティッピも災難である。美人だからオイシイこともあるが、美人ゆえに厳しいこともある。ティッピはそのいい例だろう。彼女はこの作品のあと、すぐに結婚して暫く映画界を遠ざかった。そんなこともあってか、ヒッチコック自身が失敗作だと言っていて、批評家もあまり誉めない「マーニー」だが、先に書いたとおり、ワタシは別に悪い出来じゃないと思っている。妙なお話というなら「めまい」の方が余程浮世離れのしたおかしな話であるし、「マーニー」はそれなりに面白い。殊にマーニーがマーク(コネリー)の会社の金庫から金を盗み出すシーンの緊迫感などはヒッチ先生ならではで、ヒヤリとする場面もちゃんとある。またボンド真っ盛りの時期に、それ以外の役で、ボンドそのままの容姿で出てくるショーン・コネリーを見物するのも乙なものである。傑作というわけではないが観て損はない作品だと思う。

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