「マッチポイント」

~地獄の沙汰も運次第?~
2005年 米、英、ルクセンブルグ ウッディ・アレン監督



これも公開時に気にはなっていたが、どうしようかと思っているうちに公開終了。DVDが出ても暫くあまり興味がなくそのままになっていたが、このつどやっとその気になって鑑賞した。いやいやいや。ウッディ・アレン。老いてますます健在である。ジョナサン・リース・マイヤーズはワタシ的には「ベルベット・ゴールドマイン」以来ほぼ10年ぶり。あのころからメイクを取ったら平凡な顔だろうなと思ってはいたのだが、今回は悩めるキューピーという感じ。僅かに唇の形だけに昔の面影が残っていた。が、これは何と言ってもビッチのスカヨハが全ての映画。(ワタシがスカヨハをビッチという場合は誉め言葉である)脚本も彼女を想定して書いたのがよくわかる。

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クチビル・キューピー

プロの賞金稼ぎを諦めたテニスプレイヤー・クリス(マイヤーズ)が、高級クラブのコーチに身を落とし、そこで上顧客にめぐり合う。大金持ちの御曹司トムだ。このトムと親しくなり、その家族に接近するようになり妹のクロエ(エミリー・モーティマー)に惚れられてレッスンプロを引退。クロエの父親が経営する大企業に入り、そこでもそつなく仕事をこなしてあっという間に幹部になり、目出度く大金持ちの一族に加わる。

しかし、彼には結婚前にトムの家で出会ってしまった女がいた。トムの婚約者だというアメリカ娘・ノラ(スカーレット・ヨハンソン)である。イギリス上流社会には不似合いなエナジーを放つ彼女は、また強烈なメスの動物電気で忽ちクリスを虜にする。成上り志向の二人は同類なのである。クリスはテニスのトーナメントプロは諦めたものの、そのままで終わる気はなく、何かやりたいと思っている。どういうわけか文学趣味でオペラ好き。妙に理屈屋でもある。ノラは女優志願だが、オーディションには落ちてばかり。なかなか夢は実現しない。何かを諦めた男と、諦めきれずにもがいている女が互いの中に見たのは同類の悶えである。強くノラに惹きつけられるクリスだが、周囲の意向やクロエの想いに流されて入り婿のような結婚をする。されど偽りの日々。そんなある日、クリスはトムとノラが破局したと聞く。上流社会の身内だけに固まった退屈な付合いにゲンナリしていた彼は、結婚後暫くして展覧会でノラを見かけ、その姿を追い、結婚前に一度だけ衝動的に持った関係が再燃してしまう。関係を続けるうちにノラは妊娠。どうしてくれるのよ!とツメ寄るお定まりの様相を呈してくる。家族と団欒の最中にも執拗な彼女からの電話は鳴り、成上り者・クリスは追い詰められる。

当初は貧しい出の割にプライドが高く、金持ち一族のタカリのようになるのはいやだと些細な勘定を出そうとしたり、クロエが父に自分を推薦したことを不快に思う気持ちも持っていたクリスだが、徐々にそんな気概をなくし、むしろ与えられたチャンスを生かすことに懸命になる。

対するノラは、まさにスカヨハの為の役。とにかく一目見るなり男が発情してしまうような女といえば、スカヨハをおいて他には現在いるまい。ブロンドで巨乳で上目遣いであのクチビル。観ていてGo ahead! とけしかけたくなる。今回彼女が演じるのは女優になれない女。確かに実生活では魅力ムンムンで男を惑わすのだが、何故か女優としては芽が出ないというタイプの人がいる。水商売などで成功するのはこの手のタイプ。スカヨハを観ていると、女優で芽が出ないとは信じ難いけれど(笑)

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義父の会社ではいよいよ調子よく出世して何もかも順調なクリスは全てを投げ捨てて愛人と子供をとることなど考えられない。彼がノラを取ること、それは必死の思いで抜け出した過去に戻ることなのだ。そこで、彼が考えた幕引きはまさに突拍子もないもの。突拍子もなさ過ぎて火曜サスペンスか?と思ってしまったが、一番許しがたいのは何の関係もないノラの隣人の老女を因果関係から捜査をそらすためだけに殺している事である。強盗に見せかけるために、何もめぼしいもののない老女のアクセサリーを盗む。ジャンキーの犯行に見せかけるために薬も漁る。

映画の冒頭で人生を左右するのは「運」だ、というモノローグが入り、ネット上を行き来していたボールがネットに当たってどっちにハネ返るのかというところで画面が暗転してお話が始まる。この続きはどこかで出てくるに違いないと思っていると、思わぬところで登場する。証拠隠滅のためにテムズ川に投げた老女の指輪が、柵に当たって川には入らず、道端に落ちるのである。
それは致命傷となるのか、それとも…。

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親が築いた莫大な財産と安泰な生活に守られ、今日も明日もそれが続くと信じて疑わない富豪の兄妹トムとクロエの「だって銀のスプーンをくわえて産まれてきちゃったんだも?ん」といわんばかりな脳天気さには、観ていて微かな腹立ちも覚える。が、しかしこの兄妹は今後もきっと波風ない人生を送っていくのである。人間は平等ではないのだ。妹クロエを演じるエミリー・モーティマーは、フランキーの母の時と、無造作な髪型が同じであるが、ダメ男に走る傾向のある富豪の娘に見えなくもなかった。
また、まるきりクリスを疑わない刑事役でユエン・ブレムナーがちらとその不思議な風貌を見せていた。

伝説のカルーソが朗々と謳いあげるアリアをバックにふんだんなロンドン・ロケを取り入れて描かれる、運だけが左右する皮肉な人生に翻弄される男の悲喜劇。美術館や劇場などが再々登場。ロンドン好きには堪えられないだろう映像満載の中、ウッディ・アレンのシニズムも老境に至ってまた一段と極まっているようだ。

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