「魔法にかけられて」

~They lived happily ever after~
2007年 米 ケヴィン・リマ監督

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ファンタジーは苦手だとか言いつつも、この前DVDでダークなダークなホロ苦ファンタジー「パンズ・ラビリンス」を見たばかりだというのに、今度はディズニー本舗製作の「魔法にかけられて」を観てきたアテクシ。
なぜかと言うに、よろづ、パロディ精神の効いているものが大好きなワタシ。これもディズニーがセルフパロディに打って出たというので、いくつかレビューを読んでみると好意的なものが多かった事もあり、俄然興味をそそられていざ劇場へ。
ワタシはTDLは15年に一度行けばもう沢山、という方であるが、アニメのディズニー・クラシックスの中では幼少期に「オーロラ姫」のトランプが大のお気に入りだったこともあり、実は「眠れる森の美女」だけは理屈抜きに好きなのだ。唯一DVDを持っているディズニー作品でもある。幼稚園の時に買ってもらったディズニー絵本で眠るオーロラ姫のアップの挿絵をみて、そのブロンドの艶に魅入られたワタシ。「白雪姫」から「101匹ワンちゃん」に至るディズニー・クラシックスは今のディズニーアニメと比べると、やはりキャラクターデザインが格段に良く、中でもオーロラ姫はその白眉。「魔法にかけられて」は冒頭からその懐かしい「眠れる森の美女」テイストをなぞったスタイル。書見台の上の大きな絵本が捲られて、「昔あるところに?」というお馴染みの出だしで始まり、タイトルがオールド・イングリッシュの字体で表示される、いかにもディズニー本舗らしきもの。ここから既にセルフパロディは始まっている。しかし、続くアニメ。森の中の小屋でくるくると歌い踊るジゼルのキャラデザインはどうもねぇ。クラシックス以後のディズニーアニメのキャラは顔に品がなく安くてペラペラしているのが戴けない。王子エドワードも眉毛の動きがイロモノだよ、と思いながら見ていると、王子と森で恋に落ち、そのイジワルな継母に騙されて水底に突き落とされたヒロイン・ジゼルが暗闇の中で目覚めるところから実写版に切り替わる。エイミー・アダムス演じる実写版ジゼルは、目じりと額の3本ジワがやけに目立つ。

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シワもキュートなエイミーちゃん

タイムズスクエアのマンホールから急に現代のNYに湧いて出た彼女は、車に轢かれそうになり、ドシャ降りの雨に降られ、ホームレスのじいさんにティアラをふんだくられ、いきなり人情紙風船なこの世界で散々踏んだり蹴ったりな目に遭いながらも、ウェディングドレスを着てカマトトチックな「御伽話のプリンセス」的動作と話し方を押し通すので、額のシワとあいまって、当初はひたすらイタく、サムく、安手な緞帳芝居のようにも見えるのだが、見ていくうちにだんだんとシワはそのままながらも可愛く見えてくるというのはさすがディズニー本舗。ファンタジー作りの年季がモノを言っている。

ジゼルが現代のNYで知り合う子持ちヤモメの弁護士ロバートにパトリック・デンプシー。情けないような優しいような目許にちらりと魅力がある。彼の娘を演じる子役、レイチェル・カヴィが自然に内気な少女の雰囲気を出していて、その下膨れな顔ともども可愛かった。昨今売り出しのこまっしゃくれた子役アビゲイル・ブレスリン(この子、どうも苦手なのだ。ちっとも可愛いと思えない)に比べると、素人臭い感じが好感が持てる。ファンタジーを作りつづけて数十年のディズニー本舗の底力を見せ付けられたのは、現代のNYに持ってくると、ジゼルのおとぎ話的カマトトキャラはイっちゃってる人にしか見えないイタい感じなのはもう大前提で、ひょんな事から路頭に迷う彼女を家に泊める事になったロバートも「うへ…この娘、かなりイっちゃってるんじゃないかな」という目線を最初は投げかけている。これは観客の視線そのままなのだが、ジゼルが岩をも貫くカマトトパワーを発揮して、触れ合う人々に小さな幸せを振りまき始めると、「ええ…?」と半身が引きつつも次第に彼女の喜びビームを浴びたロバートの表情が緩んでくる。同じようにそこらへんになると観客の視線も柔らかくなっていくのだ。真骨頂は5年付き合っている恋人のナンシー(イディナ・メンゼル)にまだ求婚していない、というロバートに♪相手に愛を伝えなきゃ!と歌い出すシーン。

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無論ディズニー本舗だけにミュージカル乗りのシーンはお約束だが、ここではそれが聴いているだけでウキウキしてくるようなスコアに乗って、非常にハッピーに展開する。音楽担当はデズ本舗ではおなじみのアラン・メンケン。ストリート・ミュージシャンを巻き込んでうきうきと歌い踊るジゼルと、とまどいながらも彼女のハッピーオーラに引き寄せられるロバート、彼らを取り囲む華やかな群舞など、これぞデズ本舗のこのシーン、理屈抜きにいいです。これだけでも値打ちがある。ワタシはこのシーンがあるからこの映画を気に入ったと言ってもいいぐらい観ていてハッピーになった。そしてこのシーンの後では、もうジゼルはイタくもサムくも見えなくなってくるのだ。
これぞディズニー・マジックである。

彼女を追ってマンホールから現れる王子にジェームズ・マースデン。自分の役割をよく心得た体の動きや表情の作り方がナイスだった。そうか、それでアニメの王子もあんなに眉毛が動いていたのか。お伽の世界では勇敢でハンサムな王子も、現代のNYではハタ迷惑でこっけいな困ったスットコドッコイでしかない。パロディ精神が効いている。スパイシーだ。

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眉毛王子 NYへ行く

邪悪な継母女王の命を受けてジゼルを始末しに、これまたマンホールから現れるナサニエルにティモシー・スポール。アニメと実写の整合性が猛烈にとれていたのは王子のジェームズ・マースデンと、このティモシー・スポールだろう。実写に変わってもあまりにも違和感がない。なさすぎる。

全体としては要所要所にミュージカルテイストをちりばめ、ディズニー・クラシックスの定番中の定番、「白雪姫」「眠れる森の美女」また「シンデレラ」から適度に使える部分を持ってきて、どこかで観たようなシーンがうまくお話を繋いでいく。苦い苦い現実が幻想世界を覆ったパンズ・ラビリンスに対して、こちらは現実とファンタジーが程よき具合に互いの中で折れ合ってメデタシメデタシとなるという、いかにもディズニー的な王道中の王道には変わりはないが、全編にテッヘッヘ、なんかわたしら今までこんなのずっとやってきちゃったでしょ?ね、でもそれってこ?んな風にも見えちゃうよね、というようなお茶目なパロディ目線が適度に効いていて心地よく、ヒロイン、エイミーのシワも、実質的な王子の役回りであるパトリック・デンプシーが、王子というには些か落ち着いた年齢なのもさっぱり気にならなくなるという「魔法にかけられ」た状態で劇場を後にすることとなる。デンプシー、ちょっと良かったです。ラストの舞踏会で貴公子風の衣装で踊るシーンなど、ヒュー・ジャックマンほどじゃないがなかなか似合っていた。

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プリンス デンプシー ふほ

マレフィセント及び白雪姫の継母のパロディであるナリッサ女王にスーザン・サランドンというのも、もう納得しすぎて痛快だった。ワタシは特に配役について予備知識を入れずに行ったのだが、アニメキャラの時点でうっすらとサランドンのテイストが臭い、おばはん来るぞ来るぞ、と思っていたらやっぱりドッカーンと来たので嬉しくて思わずバッグを叩いてしまった。ディズニー・クラシックスは悪役に魅力があるのも捨てがたい味わいで、白雪姫の継母のキャラのモデルはきっとグロリア・スワンソンに違いないと思う。あの四角く開く薄い唇とか、ね。「眠れる?」のマレフィセントも強烈なキャラデザインでインパクト大だが、その他クルエラやシンデレラの継母など、ヒロインよりも敵役の悪女に目が思わず行ってしまうのがディズニー・クラシックスの魅力の1つでもあるだろう。

また「魔法にかけられて」ではナレーションがジュリー・アンドリュースというのも揮っている。そういえばヒロインのエイミー・アダムスは若いころのジュリー・アンドリュースにどことなく似ている。そうか、それを踏まえてのキャスティングかも。なるほど、さすがディズニー本舗。だてに何十年もこれで飯を食ってきたわけじゃないのだ。  納得。
あ、パントマイムを随所に繰り広げるリスもなかなか笑わせてくれます。


***おまけ***

映画は六本木ヒルズのシネコンで鑑賞してきたのだが、最終回に行くことにしたので、軽い夕食を食べてから友とウインドウショッピングをしていたら、小さなイベント会場の前で整理券を押し売りのように配っているスタッフがいて、聞くとこれからGoogleのイベントでリリー・フランキーがささやかなトークショーとミニコンサートをやります、無料です、と言う。上映まで45分あったのでちょっと見物していくことにした。イベントはGoogleが昨今始めた「iGoogle」というサービスについてのプロモーションで、要は自分本意にポータルページを作成できます、というもの。これの背景デザインに何人かのアーティストがかかわっており、中の一人がリリー氏で、彼はちょうどその日自らのバンドのシングルCDをリリースしたところだというので、そのプロモーションも兼ねての無料イベントだったらしい。生リリーはTVで観るのとなんら変わらないクタっとした様子で、TVってけっこう実際に見えたままに映るのでは?と思っていたワタシをますます納得させる違和感の無さだった。無料だったにも関わらず事前の宣伝があまり行き届いていなかったのか、かなり呼び込みをやって人を集めたという感じではあったが、小さな会場内はほぼ満員。最初の15分はお定まりiGoogleってなに?という説明があって(まぁおいおい使ってみますよGoogleさん)、リリー氏が登場。ほんの3mほどの距離にノソノソっと出てきた。自分のペースで仕切り倒す女性MCを相手にノラリクラリと会話をし、「こんな時間帯(20時台)にヒルズにきたのは初めてで、こんなに六本木OLを大勢見たのも初めて。みんな春の服装でプリップリしてますよね。あ?、このOLの中にきっと上司と不倫してるOLがけっこういるんだろうなぁとか思いつつ。俺とかみうらじゅんなんて相手にされない世界だろうなぁ、なんてね」と笑いを取っていたが、そのネタを繰り返し3回ほどしゃべっていたので、よほどヒルズ内で間近に見たOLたちは印象深かったらしい。ギター1本で一人で生歌を披露する前に「すごく歌いにくい空気作りますよね」とMCに突っ込んだりしつつも、ギターをかきならしていざ歌い始めるとなかなか力の入った歌声で、非常に真剣に歌の世界を作り上げていた。ふぅん。リリー氏の歌を聴くのは初めてだが、歌い出すとすぐにある世界観をちゃんと構築することができるというのは、なかなかであるな、と思った。3曲ほど披露してくれる筈なのだろうけど、残念ながら映画の予告編が始まる時間になったので、1曲終わったところで拍手を送りつつ、イベント会場を後にした。リリー氏は顔の輪郭とあご周辺にちょっと肉がついた様子。でも、この人、なかなか声が良い。声がよくて、だらしなくて、保護欲をそそる、というタイプの典型かな。ふふふ。プレス以外は撮影禁止なので写メできなかったのだけど、TVで観たまま、そのまんまという感じだった。
はからずも生リリーまで見物してしまい、その後1000円で魔法にもかけられて、一粒で二度美味しい?水曜日の夜だった。

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