思い出の緒形 拳 「とっておきの青春」

 なかよし親子

NHK 井沢 満脚本

このドラマの事を知ったのは、その昔、本放送が終わって暫くたってからだった。友人の家に遊びに行った時、ふと「大好きなドラマがあるんだけど、もし良かったらVHS貸すから見てみる?」と友人が言うので「へ?、録画したの?」と聞くと「うん。でも途中からになっちゃって全話ないんだけどね…」と苦笑いしつつ6話目から最終話までの入ったVHSを貸してくれた。緒形 拳て好きなんだよね、という話をしていたらそういう流れになったのである。「斉藤由貴には興味ないだろうけど、緒形 拳は凄くいいから」という友の強力推薦で見た本作。見るとコブシさんだけでなく斉藤由貴も良かったし、高橋恵子も小沢栄太郎も姿 晴香も光石 研も出演者が全員良く、脚本、演出、全てが良かった。その後も折々思いだしては、後半だけしか見ていないので是非とも前半が見たいなぁと思いつつ随分な歳月が流れたあと、つい数年前にNHKアーカイブスで放映された。欣喜雀躍。すかさずゲットした。昔、初めて見た時には娘役の斉藤由貴に年齢も心情も近かったのだが、再見する頃には父の彼女役である高橋恵子の役柄上の年齢設定よりずっと姉さんになっている自分がいた。でも、コブシさんの素敵さは、何年たっても全く不変だった。
訃報に接してから、久々にまた見てみた。コブシさんはやっぱりとても素敵だった。

このドラマはバブル期真っ只中の作品。だから主人公一家の住む目黒区柿木坂一帯の地価も猛烈に高く、一人娘の郷子は同僚に「あなたって7億円の花嫁なのよ」なんて言われたりする。柿の木坂の100坪の土地が7億の資産価値を持っていたバブル時代。つくづく馬鹿げた地価の高騰ぶりだったなぁと思うのだけど、都心の地価がある程度下がった昨今でも、目黒区柿の木坂は相変わらずそこそこのお値段ではあるだろう。



それはそれとして、この柿の木坂の古い家の佇まいがグッド。家の中はセットだが、そのセットもなんだかいい感じで、木造の和洋折衷が好ましい。長い廊下があり、その先がトイレになっているのも懐かしい。この家に暮すのはリタイアした元医者の爺ちゃん(小沢栄太郎)と父・雄平(緒形 拳)に娘・郷子(きょうこ:斉藤由貴)の3人である。祖母と母は既に亡い。雄平は大手造船メーカーに勤務。バブル期は造船不況だったのか人員削減などが叫ばれている。郷子は都庁職員。この時期の都庁は旧庁舎。新宿に移転する前の古い庁舎が時折映り、あぁ、この建物かすかに見覚えあるなぁなんて思ったりする。

 居間の様子

昔はこういう感じの家があちこちにあった 我が家もこんな感じだったので懐かしい

斉藤由貴はプリプリと肉付きがよく、肌がきれいで、はつらつとしている。のちの不倫三昧は影もなく、元気で明るく、家と家族とおさんどんの大好きな娘の雰囲気がよく出ていた。この家ではまず祖母が倒れ、その看病疲れで、母は祖母を看取った後、くも膜下出血で倒れて世を去った。そんなわけで、郷子は中学2年の時から主婦として爺ちゃんと父さんを支えてきた。このドラマはそんな家族3人それぞれの、「とっておきの青春」が描かれる。
ホームドラマなので食卓シーンはお約束だが、郷子の料理を食べる父・雄平(緒形 拳)が毎回、実に美味しそうにご飯を食べるのも見ていて微笑ましかった。秋冬ドラマだから鍋物に日本酒なんてシーンが多くて、見ていると「あ、今夜は鍋にしよ」なんて思ったりする。


コブシさん、元気そうだなぁ 斉藤由貴もまだフレッシュもぎたてな感じだった

爺ちゃん(小沢栄太郎)はリタイア後に中型バイクを乗り回してあちこちツーリングに出かけて楽しんでいる。バイクで事故って入院した時、娘よりも若い、薄幸な子持ちの付添婦(姿 晴香)に惚れてしまう。
可哀想ってことは、惚れたって事なのだ。
姿 晴香は宝塚の娘役出身の人なんだろうと思うけれど、純粋で幸薄い女性をうまく表現していた。昨今あまりお見かけしないのだが、どうなさったかしらん。
乳飲み子を連れて福島に帰った彼女を追って、爺ちゃんは老人ホームに入るとウソをつき、彼女と暮すため家を出る。その事が雄平と郷子にばれた際、いきさつを聞かれた爺ちゃんのセリフがいい。
「男、女、出来た。 以上」
実に、男と女の間では、それ以上の言葉など必要ない。当初は唖然としていた息子と孫娘は爺ちゃんの老いらくの恋を認めないわけにいかなくなる。
このドラマは井沢 満の脚本が冴えていて、いいセリフが多いのも特徴なのだ。


爺ちゃんと彼女(姿 晴香) ラブラブ

コブシさんは三人の姉の下に生まれた末っ子長男で、のんびりと育ち、大らかな坊ちゃん気質でありつつも筋の通ったオトナの男である雄平が実にはまっていた。若白髪だったらしいコブシさん。いつもは黒く染めて仕事をしていたそうだが、この時は素のままのゴマシオ状態で出演していたのも印象深い。そのコブシさん演じる雄平は無骨な顔に似合わずロマンティスト。先細りの鉄鋼造船業界にしがみつくよりも、会社が新規事業に始めた養鶏場への転属を同期の友人の代わりに願い出る。  
「このまま萎んでいきたくねぇんだ」

8.jpg 緒形 拳 よかったなぁ

喜々として埼玉奥地の養鶏場に赴く雄平。新しい仕事、新しい世界への希望に燃え、ふたたびの青春が始まる。この養鶏場は飯能あたりだろうか。ロケの背景は都心も郊外も秋の気配が立ちこめていい具合だ。殊にこの養鶏場の落ち葉し散り敷く並木道はなかなかロマンティック。雄平には、妻なきあと付き合ってきた女性がいる。会社の同僚で社内報の編集部にいる由美(高橋恵子)である。が、家族3人のバランスを崩したくない事、娘郷子の心情などを慮り、雄平は由美になかなか結婚を切り出せない。家族にいつまでも紹介しない雄平に業をにやした由美は別れを決意し、横浜にマンションを買うのだが…。

この高橋恵子演じる由美は32か3ぐらいの設定だが、コンサバなファッションが似合い、シニヨンのヘアスタイルにもイヤリングやネックレスのアクセサリーにもオトナの女の匂いがたっぷり。「キャリアウーマンてこんな感じでしょ?」という風にキメキメに作り過ぎているキライもあるが、美人だから似合っているし、昔のドラマなんでこんな雰囲気だったんだねぇという感じ。それにしても当時はともかく、昨今では33ぐらいであんなオトナなムードの女性はほぼ皆無。43になってもまだまだかもしれない。
そして、バブル前期はビッグショルダーとロングスカートが流行った。なんであんな猛烈な肩パッドが入っていたのだろう。今振り返ると滑稽なぐらいだが、長身の高橋恵子がビッグショルダーのコートを着て歩く姿は一応サマになっている。この由美のキャラも、30を過ぎて結婚も考えないわけではないけれど、あれこれ揺れ動きながら一人で働いている女性の心情をよく現していた。


いまどきこんなオトナ?なアラサーはいない 
…それにしてもなんちゅう肩パッド


娘役の斉藤由貴は、家で料理を作っているのが何より好き、という娘。
ポニーテールで健康的で、この頃は素朴で可愛かった。
叔母たちの大反対で若い恋人が爺ちゃんの元を去り、ショックで倒れた爺ちゃんの介護を、勤めを辞めて引き受けるという郷子を心配する雄平。

「思いつきだけで言うなよ。(介護が)どんなに大変だったか母さん見てて知ってんだろう?」
「でも、だからこそ、やれるかもしれない。   …私は、大丈夫ですよ」

娘の申し出に思わず涙ぐむ雄平。コブシさん、まじ涙っぽくてじんわりする。
とにかく、コブシさんの雄平と斉藤由貴の郷子、コンビネーションが最高なのだ。実の親子みたいな空気がよく出ている。現場の空気が良かったんだな、と察しられる。

紆余曲折あって、明日は父娘双方結婚するという前夜、郷子がぽつりと言う。

「もう、これからはお父さんの頭を(ふざけて)大根でぶったりできないや…。
お父さんも私の背中に氷いれたりするの、やめてね…あれ、つめたいんだよ」

じっと聴いていた雄平さん。

「でも、お父さんは、郷子に大根で殴られても   痛くないよ」




この「痛くないよ」のタメが絶妙。

楽しくもいとおしかった父と娘の季節は終わろうとしている。
名残惜しいがいつまでもそのままではいかれない。
父は再婚する。娘も結婚する。それぞれの青春。
しかし、これまでの日々への愛惜もまたひとしおなのだ。

娘・郷子の結婚相手として最初に浮上する高校時代のBF旬介にペーペー時代の唐沢寿明。若くてカワイイけど、いや~~~軽い! 大河ドラマで主役を張るようになるとは、よもや想像もしなかった。DCブランドのバーゲンに並ぶチャラ男のこのボクと、家に根が生えたような地味で家庭的な郷子が何故結婚する気になったのか。そもそもお互いに付き合おうとも思ったりしないでしょ、水と油みたいに合わないのに設定的に無理なんじゃない?などと思ったりもするけれど、若気の至りという事でスルーしときますか。まぁ当然、根本的に合わないのでこの婚約は破綻する。

 若っ! 軽っ!

郷子の前には父の部下で養鶏場までついて来た和男(光石 研)が現れるのだ。ぶしつけで不細工で遠慮なしの彼に当初は反発するものの、犬と老人にやさしく、不幸なおいたちにもめげず、大事なものは何か、という価値観が一緒である彼にプロポーズされ、郷子は卒然として目覚める。「男、女、出来た」 である。
この光石 研。地味で小柄で全く男前ではないのだが、息の長い脇役として活躍を続けている。現在、脇として売れっ子の観もある。やはりどことなくいいところのある俳優さんだと思う。

 光石 研


面白いのは旬介(唐沢)を内心はどうもなぁと思っている父雄平がずっと本音を言わずに静観していたのに、娘の相手が和男(光石)に変わった途端に(正解の選択に安堵した事もあって)娘や和男に本音をぶつけ始めるところ。あのまま間違ったチョイスで事が進んでしまっても、オヤジはそのまま静観していたのだろうか。ちょっと気になるところである。

ともあれ、晴れて、雄平と由美、郷子と和男は同日同時刻に同じ式場で共同披露宴を催す。爺ちゃんと恋人多代さん(姿 晴香)は入籍せず、多代さんは世間的には付添婦さんという事で家族に加わる。一挙に大家族になった林家は、柿木坂の家に三世代の夫婦が同居することになる。

「夢みたいだねぇ、みんな一緒に」

という多代さんに爺ちゃんは言う。

「夢かもしれないよ。俺が逝っちまうまでの短い間のことだ。
いずれ俺が逝っちまえば今日びの相続税だ。この家も手放さなきゃならない。
そうなりゃみんな、チリヂリあばよって事になっちまうんだ。 それが自然の理ってもんだ。…つかの間の、愛しいもんだ、人間なんてものは」

これが遺作となった小沢栄太郎のセリフに印象に残るものが多いのも偶然ではないのかもしれない。



嫁にいってもひとつ屋根の下に暮す父と娘 たんぽぽの綿毛のとぶ、暖かい陽だまりで

「とっておきの青春」は現在、ソフト化もされていないので見るためにはNHKが放映してくれるのを辛抱強く待つしかないのだが、チャンスが巡ってきたら、思いだして是非ごらんになっていただきたい秀作だと思う。緒形 拳も斉藤由貴も、それぞれに良い所が最も自然な形で引き出されている作品だ。
あまりに仲が良くなりすぎてか、食事のシーンで実際に酒を飲んでいたからか、緒形 拳がちょっとセリフが危うくなるシーンもあったりして微笑ましい。
かなりリラックスしつつ、楽しみながら仕事をしていたんだな、と推察される。

理想や夢を失わない限りは、何歳の人にだって青春がある、というテーマも好きだし、主人公一家の柿木坂の古い家には、なんだか昔の我が家を見ているような郷愁がある。そしてやっぱりこの作品の緒形 拳は、いつ見ても、何度見ても素敵なのである。

コメント

  • 2009/01/10 (Sat) 23:37

    おお!これ当時観ましたよ。ついでに、マンガも持ってました!(絵は「キャンディキャンディ」のいがらしゆみこでした)
    そうそう。わか~い唐沢寿明が出てたんですよね。いや~な感じの役で(笑)。
    それにしても、高橋恵子の役が32~33歳の設定だったとは・・・衝撃です。

  • 2009/01/11 (Sun) 22:03

    お!mayumiさんも観てましたのねん。脚本の井沢満がノベライズもしてて、それをベースにコミックにもなっているというのは聞いた事があったけど、コミックも持ってるんですのか。てことは、けっこうお気に入りだったんですのねん。そうそう、若いペーペー時代の唐沢寿明には、あの役が合ってましたね。ああいう軽い甘ちゃんな感じがピッタリでした。そして、そうなの、高橋恵子の役。ビックリだったでしょ?設定的に37か8だろと思ってたら、32,3ぐらいだと分かるシーンが出てきて、どっひゃ~~~!!と思いましたわ。

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