「マンハッタン無宿」 

~女好きカウボーイデカ、NYへ行く~
1968年 米 ドン・シーゲル監督



ドン・シーゲルとイーストウッドの黄金コンビ(+音楽のラロ・シフリンでトリオか)で描くウエスタン風味の刑事ものということで、マカロニウエスタンでブレイクし、ダーティ・ハリーで押しも押されもせぬ存在になるイーストウッドのハリー前夜の作品。これも例によって初見はTVのロードショー番組。淀長さんの日曜かハリー水野の水曜か、オ、オ、オギー マサヒロです、の月曜日かのいずれかで観たと思う。男前好きのわが母にとってイーストウッドはまず「ローハイド」のロディさんであり、そしてこの「マンハッタン無宿」の保安官補であったらしく、とにもかくにも母の大はしゃぎに乗せられて子供の時に観たのが最初。
昨年スタチャンで放映されたのを捕獲しておき、久々に観賞。
原題は「Coogan's Bluff」(クーガンのハッタリ)で、わが道を爆走して失敗したツケは自分のやり方で払うぜ、という意味がこめられているのかなと推察するが、邦題「マンハッタン無宿」は上手いと思う。
股旅渡世物を連想させる「無宿」という言葉をここに持ってくるセンスが60年代チックでいい。

あらすじは、アリゾナの保安官補クーガンが、凶悪犯の身柄受け取りのためにニューヨークへやってきた。だが彼のミスで、犯人を逃してしまう。NY市警の協力を得られぬまま、クーガンは単身、凶悪犯を追うが……。(allcinema onlineより)

というわけで、アリゾナから出てきた保安官補が、大都会の、カウボーイへの偏見や侮りをかわしつつ、1敗地にまみれながらもブルドーザーのように使命を完遂する有様がイーストウッド特有のちらっとシニカルな持ち味を活かして綴られる本作。カウボーイハットで大都会をゆくイーストウッド。こういう設定はTVシリーズ「警部マクロード」の原型にもなったそうだけど、いつまでもポンチョに葉巻で流れ者ウエスタンでもないし、そろそろカウボーイも現代に生きなくちゃな、という事でもあろうか。
茶のスーツに、ループタイ、カウボーイハットにブーツ。なんといってもループタイが田舎味炸裂。しかし、何しろこの頃のイーストウッドはまだ毛もふさふさの男前盛り。何もしなくてもカッコイイので、ループタイぐらいな些細なダサさでは、その男前度は小揺るぎもしないのである。


 アリゾナでの保安官姿(左) と NY出張中の姿(右) くぅ〜

だが、NYの人間、というか西部以外の人間にとっては西部=テキサス。他はあまり念頭にない。だからNYに犯罪者引き取りにやってきたカウボーイ・ハットに尖ったブーツの保安官補は当然「テキサス」なんて行く先々で呼びかけられるが、彼は毎回「アリゾナだ」と訂正する。
どこに行こうと俺は俺。自分の流儀は押し通すし、アイデンティティは曲げられないぜ、というわけである。とにかくこのクーガン、自分が思った通りにスイスイと物事が運ばないと業を煮やしてすぐに無理にも最短距離を突っ走ろうとする。そんなクーガンの「俺流」が様々に軋轢を生み、事件を余計な方向に転がしつつもお話は進んで行く。

このわが道を行くクーガンが関心をもつ保護監察官の女性ジュリーにスーザン・クラーク。クーガンが初対面のジュリーにすかさず食事を申しこみ、まんまとその自宅に押しかけ、迫りまくる様子はまさに怒涛のごとし。チャンスと見たら逃さない。ガンガンいくのである。だがそれだけではなく、クーガンが何か過去のトラウマを心に抱えつつ意地を張っている男であることを、漠然とジュリーが察する、どこかの屋上での会話シーンのダイアログなどはちょっとアクション映画離れしている。
スーザン・クラーク、顔の輪郭がちっとゴツイ。でも話し方が知的で上品な色気がある。声もしっとりした落ち着きがあっていい。スチール写真でみただけだと、うわ、これちょっと…と思う。その赤毛のウィッグのようなヘアスタイルといい、長方形の顔といい、知的な女性の役なのはいいけど、もうちっと美人だっていいんじゃないの?と思わないわけでもないのだけど、俳優や女優というのは実際に動いてセリフを言ってナンボなので、スチールだけでは何とも言えないのである。

 ゴツイ

このジュリーと対照的な女として登場するのが、クーガンが取り逃がした犯罪者の彼女であるリニーを演じるティシャ・スターリング。ショートカットにミニスカート、ツィッギー風味でキュートな美人。LSDで常にトンでいるような、来ちゃってる感じの女・リニーを魅力的に演じている。この娘がおつむの弱い不良娘のふりをしてなかなか頭が切れるので、美人に弱いカウボーイ、まんまとハメられて痛い目を見たりする。
そう、クールなクーガン、女好きなのが玉に瑕なんである。見直してみて、デレデレと女を口説いているシーンがかなり多いのに苦笑した。保安官補、盛りがつき過ぎというものである。

 
猫系でキュート まぁ気持ちはわかるが…


命令無視でかっ走るクーガンに手を焼きつつも、苦りながら心配しているNYPDの警部補役リー・J・コッブもいい感じ。実際問題、こんなルール無視の奴がやってきて、自分の流儀で暴れまわられたらさぞ迷惑千万だろうが、コワモテなれども人情デカなこの警部補のキャラもよく出ていたと思う。



この映画は、都会と地方、男と女、というようなわかりやすい対立概念を適度にまぶしつつ、ヒッピーにサイケにゴーゴーというような時代風俗も随所に取り込んでいる。アリゾナのクーガンが相手にしなければならないのは、得体の知れないヒッピーゼネレーションの不良なのだ。投げ縄では捕まえられない。
前にも書いたが、アクション俳優から出発したくせに走るのが遅いイーストウッド。今回もちょっとだけドッタドッタと走ったが、すぐにバイクに飛び乗ってチェイスする設定になる。良かったねぇ。殆ど自分で走らずに済んで。このラストのバイク・チェイスの舞台になるのはアメリカにしては時代のついた教会(だろうと思うのだけど違う?)。風情のあるところである。
当初はひっ捕らえた容疑者を動物のように扱っていたクーガンもNYでテキサス呼ばわりされて苦労するうちに、ラストは犯人に煙草をやり、火をつけてやるところまで成長する。
尤も、故郷に戻ったらすぐに元に戻りそうではあるけれど。

NYに到着する時と離陸する時に、旧パンナムのビルの屋上ヘリポートが映る。ジョン・F・ケネディ空港に7分で行かれるヘリ・サービスがあったのだ。でもこのサービスは断続的で、短命に終わったらしい。5人の事故死者を出した事故のあと、永遠にサービスを終了したとか。本作はそのヘリ・サービスが映っているという事でも価値があると言えるのか、どうなのか。パンナムビルも今はメットライフビルと名を変えた。所有はパンナムからメットライフに移り、更に現在では他社へと移っている。パンナムのロゴの映るこのシーンは、アメリカ人には郷愁を呼ぶのかもしれない。パンナムビルは1963年の建設とか。この映画は1968年の制作。出来て間もないランドマークを使っているという事になるが、昔のこととてパンナムビル、あまり出来て間もない新しさに見えないのが面白い。



それまで落ち着き払っていたジュリー役のスーザン・クラークがラストに真オレンジのミニとニーハイの赤いブーツ姿でキャピキャピと登場。 あまりの似合わなさに唖然とした。

今回、久々に観て思ったのはかなり本人の素の声になれたせいか、昔の映画を見てもイーストウッド本人の声に全く違和感を感じなくなっていた事。慣れって怖ろしいが、本人の声で違和感がないのは、やはりよしとしなければならないのだろう。

  当ブログのイーストウッド作品レビュー
  「アルカトラズからの脱出」  
  「奴らを高く吊るせ」 

コメント

  • 2009/01/15 (Thu) 00:38

    キャー ウッホッホ~♪ ついに出ましたかマンハッタン無宿(確かにこのタイトル上手いですよねぇ)!! 私もお気に入りの一本、と前に熱のこもったコメントをしましたけど、とにかくなんてったってC・イーストウッドの魅力爆発(炸裂)ですもの!
    テンガロンハットにブーツの出で立ち。自分に向けられる好奇の目をものともせず、自分の流儀でグイグイ押して行くところは痛快ですね。苦虫噛み潰したような顔で「アリゾナ」・・・ふふふ。
    このクーガンほんとモテまくりで女好きなんだから~(笑) でもね、あの厚い胸と太くて逞しい腕に抱かれたらイチコロなんだろうなあと納得。イーストウッドって顔が細いのでスマートに見えるけど、意外やボディはがっしり鍛えてあるんですもんね。
    過去に犯罪者を逮捕する時に仏心を出して痛い目をみた、と何気なくと話すシーンはちょっと面白いシーンで良いですよね。そう、アクション映画に深みを持たせてるというか、クーガンの人物像がより興味深くなったような。
    私は残念ながら吹替え版。テレビの録画なのカットでズタズタ(悲)。kikiさんはそう違和感なく本人の声で聴けたんですね。スーザンクラークは声優がちょっとくせがあってだめでした。たしかにもう少し綺麗な人はいなかったの?と思いましたよ(笑)。でもそうか、字幕できちんと本物の声で判断せねばね。そういえばイーストウッドの映画って美人はあまり出てこない気がしません?特に自ら監督した作品には。美人の共演者というとソンドラ・ロックぐらいしか思い浮かばないですよね。

    当時はたしかまだ38歳で若くてバリバリな頃。今の枯れた雰囲気しか知らない若い方には、是非このしびれるほどカッコよかったイーストウッドを見て欲しいですね。
    マカロニウェスタンとダーティーハリーの間に隠れた傑作「マンハッタン無宿」を。







  • 2009/01/15 (Thu) 07:45

    このタイトル、上手いですよね。語呂もいいし。インパクト大。(笑)ジョディさん、熱入ってますね。うふふ。この頃のイーストウッドはほんと、カッチョいいですわね。脚も細くて長いから60年代の細身のスーツがよく似合ってました。そうそう、イーストウッドはマッチョでいい体の男ですよね。…まぁ、走るのは遅いんだけれど。スーザン・クラーク、確かになんだかなぁな声の吹き替えで見たら更に印象イマイチになりそうですね。本人は声と話し方が知的な感じで悪くなかったですよ。イーストウッド監督作品は確かに美人度低いですね。今の奥さんもあまり美人じゃない感じだし(シツレイ)。例外的にソンドラ・ロックだけですね、そういえば。あまり美人は好きじゃないのかもしれませんね。

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