スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「世にも怪奇な物語」

~情熱と怪奇と不条理と~
1967年 仏/伊 ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ 監督

middle_1216644748.jpg

最初にエドガー・アラン・ポーの作品を読んだのは例によって10代の頃。「アッシャー家の崩壊」「大渦巻き」「黒猫」「黄金虫」などが特に印象深かった。アラン・ポーの作品のイメージを増幅する挿画がとても印象的で、強い印象を受けたワタシは一時期、挿絵画家になりたいなぁと思っていた時期もある。

で、これはエドガー・アラン・ポーの作品を仏、伊の名だたる監督が映像化したオムニバス。
前にTVで観た時、1話目のフォンダ姉弟共演の「黒馬の哭く館」を漠然と覚えていたのだけど(それも断片的に)、今回見直してみたらルイ・マル監督、アラン・ドロン主演の「ウィリアム・ウィルソン(「影を殺した男」)」が面白かった。前に観ているはずなのだけど、全然覚えていなかったので新鮮だったのかもしれない。新鮮という意味では一番印象がなかった3話目、フェリーニの「悪魔の首飾り」も面白かった。これが一番ガツーンと来る作品。要するに、3作全部味わい深く、はずれがないオムニバスということですね。

1話目「黒馬の哭く館」

この映画を撮った頃のジェーン・フォンダはロジェ・ヴァディムの妻だった。で、ロジェ・ヴァディムはこのアメリカ人妻の細長い手足や抜群のプロポーションが自慢だったのか、見せたくて見せたくてしょうがないという感じで、とにかく過剰に露出度大な衣装を着せているのがいかにもという感じ。'68の「バーバレラ」なんてよくこんなのに出たなぁ、という感じでもあるが、それなりに面白い映画でもある。峰不二子ちゃんみたいなジェーン・フォンダなんてなかなか他の作品ではお目にかかれない。のちに反戦運動やリブ運動に身を投じる女闘士のジェーンだが、そこにはヴァディムと結婚していた時期に、男の餌というか美味しい生贄みたいなセクシー路線で自分を売ってしまった事への慙愧がありそうな気もする。まぁ、それはそれとして、父親そっくりのジェーンがもっとも女性として美しかったのもこの頃。女性専科で次々に名だたる美女を妻にしたロジェ・バディムの面目躍如である。この映画でも常に体の線がくっきりと出て、脚もむき出しなバーバレラチックな衣装を着て中世のドイツの女貴族を演じている。

middle_1216645142.jpg 
「バーバレラ」のジェーン 「黒馬の?」でも衣装はこんな感じ
middle_1216645180.jpg 
この毛虫みたいな睫毛 不二子チック
middle_1216646116.jpg
不二子ちゃん

莫大な資産を持ち、残忍で退廃的な享楽に溺れる女貴族フレデリック(ジェーン・フォンダ)はローマ皇帝のごとく、好色で残忍で人の命など紙くずとも思わず、何事も自分の思うがまま、放埓な日々を送っている。彼女の一族の一番貧しい分家ウィルヘルム・ベルリフィジング男爵(ピーター・フォンダ)は程近い城に住んでいながらも、接触がなく、狩と馬以外には何も愛さない男。
ある日、森に出かけたフレデリックはウィルヘルムの仕掛けた狩猟用の罠に足を挟まれる。二人が初めて間近く接する深い秋の森の気色が美しい。森に弱いアテクシは、この「ヨーロッパの深い森」というのに理屈ぬきでそそられる。緑滴る時期もいいし、秋の落ち葉散り敷く森閑とした森もいい。

middle_1216645438.jpg
秋深い森

ここで、フレデリックはタカビーに「罠をはずしなさい!」なんてウィルヘルムに命令しつつ、「女狐は罠にかかると死んだフリをする。でも罠をはずすと傷ついていても逃げようとする」なんて低い落ち着いた声で静かに見透かしたような事を言うウィルヘルムに魂を掴まれてしまうのだ。まぁ、そりゃ掴まれましょう。従兄弟の男爵を演じるピーター・フォンダは演技的には不器用で言われた通りに動いている、という感じが否めないものの、物憂げでスラーっと長身で、声は低く知的。吹き替えなしで本人がしゃべっているのかしらん、あのフランス語のセリフは。ねーちゃんに教わって。彼の口から流れ出る優雅な発音のフランス語は耳に心地よく聴くだにウットリ。静かな境涯を煩わされたくない青年貴族の雰囲気がとてもよく出ていた。こりゃ、忘れられません。

middle_1216645397.jpg
憂わしいピーター・フォンダ

そんなわけで、フレデリックは夜毎のランチキ騒ぎにもあまり興味がもてなくなり、自ら彼を訪ねると、彼はフレデリックの誘いを静かに、冷ややかに拒否する。怒りに燃えた彼女は腹心の部下に彼の厩に火を放つことを命じる。自分の誘いを断るとどうなるのか、みせしめにしようとしただけだったのだが、思いもよらない結末が彼女を待っていた…。
というわけで、愛する男の魂が乗り移った黒馬に跨り、駆けめぐるフレデリック。血も涙もなく、万人を従わせてきた女が、一生一度の恋に掴まれ、恋ゆえに身を滅ぼすのである。あぁ、恋は盲目。というわけで、セクスィ路線を爆走中のジェーン・フォンダがお耽美に挑戦した一篇。アメリカ人の姉弟が共演しているのに、非常に欧州のムードが色濃く出ている。ピーターの出番が極端に少なく、セリフも少ないのが逆に彼の印象を非常に際立ったものにしている。

2話目「影を殺した男」
いきなり、必死な顔で走るドロンと、高い塔の上から落下する人物が交互に現れ、冒頭からサスペンスフルな展開。彼は息せき切って教会に走りこむ。男はウィリアム・ウィルソン(アラン・ドロン)、同姓同名の自分の分身を殺したと、神父に告戒する。
ここで、彼の告戒に登場する少年時代のウィリアム・ウィルソンを演じる少年がどことなく、ドロン風の雰囲気をたたえている。目元と口元の不敵な感じがよく似ていて、しかもそれなりに冷淡そうな演技をしているので、余計にそれらしい感じが出ている。
子役が似ているというのはけっこう重要なポイントだ。大人になってからと子供の時とがあまりに顔や雰囲気が違うと興ざめするときがある。

middle_1216645594.jpg
少年時代を演じる少年 雰囲気が出ている

少年時代からクラスのボスとして悪魔のような影響力を振るって来たウィリアム・ウィルソンだが、ある日突如として、同姓同名同年代の人物が彼の前に現れ、彼が悪業を働こうとすると、出て来てそれを阻むようになる。
ウィリアム・ウィルソンは、残忍で邪悪な男なのだが、もうドロンは絵に描いたようにハマっている。
なんせ「悪魔のようなあなた」ですもの。そりゃもう、ピッタリ。
長じて医学校に入り、人体解剖を異様な熱を込めて見つめるウィリアム・ウィルソン。若い娘を街角で捕まえてこれを生きたまま解剖しようとする時の、メスを片手にペチペチと当てながら残忍そうに裸に剥いた女のまわりを歩くところなんてもう、あまりと言えばあまりにも似合いすぎ。

少年時代のボスっぷりからしても、この解剖シーンで仲間に得意満面で解説をぶつところなど、ワタシはドロンを見ていてある人物を思い出さないわけにはいかなかった。三島由紀夫の「午後の曳航」に登場する「首領」である。首領が解剖するのは猫だが、心臓について得意げに解説する様子、知的に仲間をアジテートする少年時代の醒めた目の色など、ウィリアム・ウィルソンは「首領」のキャラの原型かもしれないとふと思った。無論この解剖も、分身がジャーンと現れて妨害する。医学校も追われたウィリアム・ウィルソンは軍隊に身を投じる。とある夜、賭博場に入ったウィリアム・ウィルソンは、そこで猫のような目をした黒髪の女に侮辱的な言葉を投げられ、勝負を挑む。女は非常に強く、負けの込んで来るウィルソンだが、ある時を境に形勢は逆転する。この黒髪、猫目の女はブリジット・バルドー。バルドーはトレードマークのブロンドを封印。今回は黒髪で迫る。

middle_1216645707.jpg
猫目女

ワタシはこういうペルシャ猫みたいな顔はあまり好みでないのだが、際立った個性があるという点でその迫力は否めない。物凄いインパクト。画面に映ったら脳裏にしみつく目力である。いかにも博打も酒も強そうだ。イカサマを使って彼女を負かしたウィリアム・ウィルソンが、この女を鞭打つシーンはサディスティックの極み。こういう女をひっぱたいてヒィヒィ言わせたらどんなだろう、と観客がふと思うようにキャラを作ってあるし、実際そのように持っていくわけだが、ここでもジャーンと別のウィリアム・ウィルソンが現れ、イカサマを暴く。
この一対一のカード賭博でドロンとバルドーが勝負するシーンも迫力がある。青緑のテーブルクロスの上に、金貨銀貨がキラキラと映えて、互いに凄腕っぽい男と女の駆け引きの縮図を見るようでもある。そしてイカサマをして勝った後、バルドーの背中を剥きだして、ビシビシと鞭打つドロンのサディスティックな事はどうであろう。さすが、悪魔の色男。キマっている。

middle_1216645667.jpg
男前盛りのドロン

再三、ここという局面で邪魔ばかりされてきたウィリアム・ウィルソンは、遂に切れて同姓同名の男を葬ることにするのだが…。
というわけで、自らの「良心」を葬ってしまう男を描いた一篇。
昔読んだ「ブラックジャック」の中に「人面瘡」という話があった。顔に醜い人面瘡が出てヒドい顔になってしまった男がBJに手術を頼む。手術が成功すると、男は代金を払うので山の中の家まで取りに来てほしいとBJを呼び出し、殺そうとする。男は連続殺人犯だった。が、またしても人面瘡が出てきて男は崖下へ転落する。死んだ男の顔は人面瘡が取り付く前の素顔に戻っている。男に悪事をさせない為に、人前に出ぬよう人面瘡が出て抑えていたのだ。「あれはこの男の良心の顔だったんだな」とBJは呟く。  
「午後の曳航」から「ブラックジャック」まで、短いのに、色んな作品を想起させる一篇。

3話目「悪魔の首飾り」
これだけは話を現代に置き換えてある。主演のアル中の俳優に「コレクター」、「テオレマ」のテレンス・スタンプ。
猛烈に神経症的。もう絵に描いたようなアル中でノイローゼっぽい男の雰囲気がよく出ている。テレンス・スタンプ、割りに早くから薄くなってしまった系。そういう意味ではジュード・ロウの先輩ともいえる。初登場の空港のシーンから、不吉なまでのオレンジの夕日の色に染められた空港内で、マスコミに追われるトビーの疲れきった神経をヒリヒリと表現するテレンス・スタンプ。

middle_1216645797.jpg
テレンス・スタンプ 終始、キテます

映画の制作発表のためローマにやってきたが、記者会見やセレモニーでも神経をひりひりさせ、すっかりイっちゃっている感じの俳優トビー・ダミット(スタンプ)。彼はセレモニー会場を抜け出し、スポーツカーを駆って闇雲に夜のローマをかっとばす。こんな運転の仕方ではあっという間に死ぬよ、という感じなのだけど、なかなかぶつけない。今のようにライトアップされていない街中の銅像などがヘッドライトに浮かび上がる不気味さ。この闇雲に車を飛ばすシーンの臨場感、スピード感は凄い。
彼の幻覚の中に突如現れる白いボールを持った少女。この少女には常に下から目一杯のライトが当たり、目を不自然に見開いているために、パっと大映しになるとハっとするほど禍々しい印象を受ける。トビーが最初にこの少女の幻覚を見るのは到着した空港のエスカレーターのところである。少女は白いワンピースにやや赤めの長い髪で、常に白いボールをもてあそんでいる。
神経の磨り減ったトビーが車を駆って夜の街を走り、通行禁止の表示を超えて断絶した道路の際までいく。ねじ切れたように道が切れ、闇の向こうにまた続いている道の突端に、ボールを持った白い少女が現れる。この少女は「ベニスに死す」のタッジオのごとく、トビー・ダミットを「異世界」へと誘うのである。

middle_1216645849.jpg
この少女、とにかく怖い

冒頭の空港内のシーンから既に独特なムードがたちこめ、本筋とは関係ない脇のシーンのあれこれにも、フェリーニらしい演出が施されて不思議な滑稽味と頽廃感が漂っている。
とにかく、白いドレスの少女が非常に怖い。
普通に映せばただの少女なのを、映った瞬間に「怖い!」と感じる怖さを演出できるというのは並大抵じゃないと思う。観た途端にゾっとすること請け合い。
さすがフェリーニ。

というわけで、真夏の夜に、なんとなく不思議な世界を垣間見たいと思ったら、
ちょこっとお勧めな作品。
ワタシが利用する大型店ではアラン・ドロン出演作のコーナーに1本だけDVDがあった。
けっこうレアである。

       コメント(6)