「ラスト・キング・オブ・スコットランド」

~お調子者がみた悪夢~
2006年 英/米 ケヴィン・マクドナルド監督

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本物よりは、やはり人懐こい愛嬌のある顔はウィテカーゆえなのだが、権力の座に就くや恐るべき独裁者へと変貌した実在のウガンダ大統領イディ・アミンの実像を、彼の側近だったスコットランド人青年(この青年の存在はフィクション)の視点から描いたサスペンス・ドラマ、というわけで、このほどスタチャンで鑑賞。劇場公開時にはスルーし、今回も特に観ようという気も無くたまたま始まったので観ていたら ほほぉ、という感じで最後まで観てしまった。
独裁者にはカリスマ性がかならず備わっていて、その部分だけを見ればふと惹き付けられてしまったりもするのだろうが、ひとたび権力の座にそういう人間が座ったら、それはもう大変な事になってしまうわけである。ヒットラーばかりではなく、秀吉もそうだし、西大后も、毛沢東もそうだった。ましてアミンにおいておや。イディ・アミンを演じるのは片方の瞼が下垂気味なのがいつも気になるフォレスト・ウィテカー。昔から上手い人だけど、その人懐こい部分も、大きな図体で非情に用心深い有様も、また恐るべき平板な目つきで残虐な事を平気で命じる様子も、持ち前の味を生かして余裕で演じていた。

さて、その独裁者にひょんな事から妙に気に入られて道を誤るスコットランド人青年医師ニコラスに昨今大売出し中のジェームズ・マカヴォイ。確かにハンサムだがちと小柄で貧弱。体格も華奢でこの時はまた妙に赤い唇が…な感じ。マカヴォイはタイプではないのだが、同郷ゆえか単なる他人の空似か、どことなく面差し(殊に目元)がMr.G(G・バトラー)に似ている気がする。似ているのに片方は好きだが片方にはさして興味がない。面白い。

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同郷の二人 造作的には同じ系統の顔

で、マカヴォイ演じるニコラスは医学校を卒業し、医師免状を取ったばかりのひよこ医者。父親も医者なのだが、権威主義的で常に自分の足下に息子を従えようとするような態度に圧迫を感じ、父の支配を離れるために、地球儀を回して最初に指がさしたところに赴くことに決める。
で、ひとさし指はウガンダをさしてしまうのだ。
時あたかも1970年代。ベトナムだのウッドストックだのフラワー・チルドレンだのの時代、既成の権威や規定された道とは違う生き方を模索する青年の時代だ。ニコラスもちょっとした冒険のつもりでウガンダに長距離バスでやってくる。ノリは「狭い故郷はサラリと棄てて、新しい世界を観るんだ、イェ?イ!」といったところか。古臭く鬱陶しく頭を抑える親父の支配を逃れて解放感で一杯。いやが上にも、危ういまでに脳天気である。
そう、この冒頭の浮かれっぷりには、はや既に危ういものを感じるのだ。学校を出たてで医者という専門技術をもって、世界のどこででも生きていかれると気負っている若者の調子こいた感じをマカヴォイがうまく出している。この人も自然な演技のうまい俳優だ。

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ある無医村の診療所にやってきた筈のニコラスは、着いた早々から新大統領アミンに気にいられてしまい、即刻引き抜かれて主治医となり、アレヨと言う間に側近にもなってしまう。アミンに陽気なカリスマをしか見出していなかったニコラスは、望外の幸運とばかりに無医村を出てアミンの傍に馳せ参じる。一方アミンの側としては医師として役にも立ち、何より白人の青年を側近として身近に置くことの視覚的効果、宣伝効果を狙ったというところか。ニコラスはアミンのアクセサリーになったわけである。

前半の、アミンもニコラスも共にいい気になって調子づいている状態から、徐々に独裁者特有の狂気の猜疑心と、全てが意のままになる事から残虐な粛清に歯止めが効かなくなっていくアミンの実態を知るにつれ、浮かれ騒ぎの夢から醒めるニコラスを、深い緑のプールの水に呆然と浮かんだ姿で表現するマカヴォイ。
何も考えずに好奇心で飛び込んだ世界は抜き差しならないこの世の地獄だった。権力者の取り巻きになることの計りがたいリスキーさ。
脳天気なニコラスはある日、愕然として自分の踏み込んだ世界の恐るべき現実に目覚める。が、もう逃げる事はできない。
パスポートは没収され、はしごは外されてしまうのである。

アミンを大統領に据えたのは例によって「大英帝国」時代の尻尾をひきずる英国である。とにかく英国は昔から、紳士ヅラをしつつも権謀術数を用い、自国の利益に基づいて、第三世界をいいように線引きしてきた。その英国のスタンスを代表するイヤミな弁務官ストーン(サイモン・マクバーニー)の鼻持ちならぬ優越感に対してニコラスが抱く不快感は、イングランドに対してスコットランドが持つ感情を縮図にしたものだろうか。

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ニコラスはアミンの実態に気付き始めるのと比例するように、その妻の一人ケイに惹かれて、いつしか割りない仲になってしまうのだが、手に手をとって脱出しようとした彼らを待っていたものは、裏切りを赦さない独裁者の身の毛もよだつ制裁だった…。

というわけで、前半の脳天気から、いつしか不安と懊悩と焦燥にまみれていく青年医師ニコラスを通して、さもありなんという展開ながらも中だるみ無く最後まで一挙に見せる。畳みかけるクライマックス。アミンとその側近に人間の怖さを、ニコラスの同僚医師に理屈ではないギリギリの人間性を投影させる。ヒッピー・ゼネレーションの医師がアフリカで観た悪夢の、なんという暗黒…。
好奇心は猫を殺す。何も考えずに権力者の取り巻きになった代償は大きい。
いい気になっている時ほど用心が必要なのである。
「何の気なしにウカウカと」というのは一番危険なのだ。

この映画の演技であれこれ演技賞をとったというF・ウィテカー。確かに上手いがいつもこのぐらいには上手い人なので、今回格別だったという印象はない。アベレージが高いのだ。彼の映画ではイーストウッド監督の「バード」でチャーリー・パーカーを演じたのがとても印象に残っている。

J・マカヴォイは若造過ぎて、男性としては興味の対象外だが、「やってます」という感じを出さずに自然な表現ができるのは、やはり若いけどさすがの実力派。今後ますます、いい作品に声のかかる機会も増えていくのだろう。

それにしても、権力が人を魔物にするのか、権力の座そのものが魔物なのか。いずれにしても、根が臆病な人間ほど絶対権力の座に就くと底の知れない猜疑心にかられて殺戮を繰り返すのだ。
だが、こういう手合いが案外まっとうにベッドの上で生涯を終えてしまう事もあるのはどうしたわけだろうか。クーデターの果てにそれまでのツケを払わされる独裁者よりも、亡命してそれをすりぬけ、人知れずひっそりと天寿をまっとうする独裁者のほうが多い気がするのだが…。
必ずしも因果応報といかないところが不条理感を煽る。

ニコラスが恐るべき制裁を受ける直前に、「あなたは子供だ、だから余計に怖い」とアミンに言う。
このセリフもそれを口にするときの表情も、とても印象深いシーンだった。

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