「理想の結婚」

~相手に幻想をもたぬこと~
1999年 英 オリバー・パーカー監督



「ゴスフォード・パーク」でジェレミー・ノーサムを観てふとこの映画を思い出したので、引き続き英国上流社会モノ「理想の結婚」などをひとつ。原題は「AN IDEAL HUSBAND(理想の夫)」。かのオスカー・ワイルドの原作である。ワイルドの原作ものではつい最近も「ウインダミア夫人の扇」が「理想の女(ひと)」というタイトルでリメイクされたが、定番的な人気があるようだ。

新進気鋭の若手政治家・チルターンにジェレミー・ノーサム。その妻ガートルードにケイト・ブランシェット。賢くけなげで美しく、しかし正し過ぎる妻を自然に愛嬌もまぜて演じている。「ガートルード」という名前がケイトにピッタリ。この人は本当に姿がいい。長身で体のバランスがとても綺麗。姿も顔も独特の涼しさがある。この先も出演作がとても楽しみな女優の一人だ。



さて本題に戻ると、政治家チルターン夫妻はロンドン社交界でも注目の的。傍目にもお似合いで相思相愛の人も羨むカップルなのだが、ある日、悪女・チーヴリー夫人(ジュリアン・ムーア)の登場により、その鉄板の幸せに危機が訪れる。彼女はチルターンの過去恥部を握っており、彼女が投資する公共事業の中止を訴えようとしているチルターンをその過去で恐喝し、問題の多いその事業の中止を阻もうと目論んでいた。彼女と以前に恋愛関係にあったゴーリング卿(ルパート・エヴェレット)は、友の窮地を救うため、悪女チーヴリー夫人と虚虚実実の駆け引きに出るが…。というお話で19世紀末のロンドン社交界を舞台に、優雅に展開するロマンス風味の心理劇。殊に悪女・チーヴリー夫人を気持ちよさそうに演じているジュリアン・ムーアと、まさに文字通り独身貴族のゴーリング卿をこれ以上はないハマリ役で演じるルパート・エヴェレットが最高にいい。
ジュリアン・ムーアはあまり好きな女優ではなく、例の「ハンニバル」でジョディに代わってこの人がクラリスと聞いた時にはガックリ来た。上手いことは上手いけれど、なんだか好きになれない感じ。横から見ると額と顎が頑丈に飛び出ていて鼻が高くないのであまり綺麗ではない。


でこっぱち

が、細かく波打つ髪を結い上げたその横顔は、古代ギリシャの女神像のようでもあって、この映画で初めてジュリアン・ムーアって悪くないなと思った。色と欲との二筋道で何事も自分の思ったとおりに姦計を用いて意志的に歩むチーヴリー夫人はジュリアン・ムーアにぴったり。あまりに肌が白すぎて、赤い唇を四角く開いて笑う彼女の歯がやや黄ばんで見えるのさえも、悪女の笑いという感じでハマっていた。このチーヴリー夫人とケイト演じるチルターン夫人との間には学校時代から互いに「いけすかないわ」という感情がもつれ合っており、その水面下の女同士の心理戦も伏線として面白い。


自分にウットリ

そして、ルパート・エヴェレット。ファンではないが、この映画の彼はまさに水を得た魚。富裕な名門貴族の家に生まれ、容姿端麗で独身を謳歌するゴーリング卿はこの人以外にあり得まい。自分大好きなので他人が自分の人生に入ってくるのを好まない。だから結婚がいやなのだ。朝、一夜限りの女をベッドから出すと、執事が飲み物を持ってくる。このゴーリング卿の寝覚めから映画がスタート。英国一の執事役者ピーター・ヴォーンがまたも執事で登場、恭しく仕えている。ゴーリング卿がベッドで啜る紅茶のカップのゴージャスなこと。外出の身支度を整え、ボタンホールに花を挿しながら「自分を愛することは生涯のロマンスの始まりだ」と自分にウットリして出かけた主人の後で、鏡に向かって主人を見習い、ささやかにウットリする執事フィップスの姿がユーモラスである。



ルパート・エヴェレットのゴーリング卿は、そのひょろりとした長身といい、のらりくらりと非生産的に生き、父からの結婚要請を軽くいなして社交生活に浮き身をやつす様子など、何がなし「それから」の松田優作を思い出させる。彼が唯一気になっている女性は親友チルターンの妹メイベル(ミニー・ドライバー)なのだが、どうしてもプロポーズまでは気持ちが吹っ切れない。そして、悪女チーブリー夫人が、本音の女心をちらりと見せるのはこのゴーリング卿に対してだけなのだが、しかしそれとても、常に欲と離れない計算高さがチーヴリー夫人の真骨頂。なんとかこの女を口先だけで篭絡して、チルターンの過去恥部を暴く手紙を彼女から取り上げようとするゴーリング卿。すんでのところで誘惑に負けそうになるが手紙は渡さないチーヴリー夫人に、「愛は与えるもので見返りなど期待してはいけない。私にもあなたにも縁の薄い感情でしょう」とゴーリング卿は冷ややかに言う。このゴーリング卿のセリフがあれこれと味わい深く、見ながらうふふふんと思ってしまった。



ずっと間抜けのように翻弄されていいとこなしで来るサー・チルターン(ジェレミー・ノーサム)であるが、最後の最後、命運のかかった議会では全てを棄てる覚悟で初志を貫徹。恐喝にもめげずに公共事業の中止を訴えて男を上げる。



が、果して彼の政治生命は?人も羨む結婚生活の行方はいかに???というところで、軽やかなロマンス劇の中にちらりちらりと人生の真実や皮肉、諷刺の覗くオスカー・ワイルド的ロマンティックコメディ。
「自分を愛することは生涯のロマンスの始まり」かぁ。ひゃー!こんな男と付合うのはゴメンだが、こんな男には生まれてみたいと思うワタシなのだった。

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