「レイヤー・ケーキ」

~そして再び…~
2004年 英 マシュー・ボーン監督


ボンド風味

時間にして3秒にも満たない程度の、ごく短いその予告編をスターチャンネル8月の目玉作品紹介の中で久々に見た時、暫く忘れていた何かがワタシを揺さぶった。半年という時間が過ぎ、どの作品からも均等に離れて俯瞰でダニエルの作品を観られるようになって、やはり「レイヤー・ケーキ」が現在までのところ、ダニエルのベスト1じゃなかろうかと思われてきた。冒頭から入る語りの歯切れの良さ、その声の耳に馴染む心地よさ、ヤバい稼業に手を染めながらも、とても醒めたシニカルな目線を持ち、退き時のタイミングを計っているオレ、を淡々と自己紹介していく。
身のこなしのシャープさ、そして無駄な筋肉も脂肪も一切ない、研ぎ澄まされた細身のボディ。独特のリズムでスタスタと歩いていく彼の羽織ったコートの素敵さよ。つれづれにドラッグストアの棚を眺めるシーンで、ズラっと並んだドラッグが徐々にツツツツーッと通常の商品に入れ替わっていくのがキレイである。

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Oh! ステキング

尻尾を出さず、小利口に立ち回り、ガッチリ貯めて、サックリ退こうと考えているゴールデン・ボーイをそのまま逃がしてくれるほど裏社会は甘くない。分け前はキッチリ渡して抜かりなくやってきたはずなのに、一部じゃ勘弁してくれなくなるのだ。いかに小頭のいいXXXXでも、そこまでは読みきれなかったというのもご愛嬌。老獪なジミーに呼びつけられて、罠である頼まれ事を押しつけられるシーンで、ストーク・パーク・クラブの入り口を悠然と入ってくるダニエルのウォーキングも見所だ。それこそランウェイを歩いてくるモデルのような歩きっぷりにご注目。

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キャットウォーク中

とにかくスピーディで、展開が早く、無駄がない。それからそれへとシーンが繋がっていき、たるむところがないのも話の中身と合っていて良かった。同時並行で起きている事柄を同じ構図ですーっと画面を切り替えて見せるなど、演出もスマート。バイオレンスなシーンの背後に「Ordinary world」が流れる。POPSだけでなく、インストゥメンタルも、コーラスも、選曲が非常にセンスがいい。低予算を上手く活かして、というよりも、低予算だったことが上手くスタイリッシュさに繋がった成功例なのだろう。ところどころでダニエルがたくまざる愛嬌を見せるのもポイントが高い。また色彩設計も非常に計算されていて、グリーンのフィルターのかかった画面で、人物の背後にブルー系やグリーン系の壁やドアを配し、フィルターを通してそれらの色が彩度を落とした美しさを見せている。裏社会のゴタゴタを描いているのに、何故かいつもサラリと清涼感のある画面は、このへんからも醸し出されているのだと思う。

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落ちついたブルーとグリーン

アニキ分・ジーンの家で銃をいじくり、(構えるシーンが確かにキマっている。007への道を拓いた構えだものね)酒を飲みながら、ジーンと語るくだりも良い。XXXXが、唯一頼りにしているのはジーンだけであるが、このジーンは頼まれ事と断り事はキッチリと分ける男。アドバイスもしてくれるがルールを外すと容赦はない。コルム・ミーニイがそんなジーンの佇まいをよく出している。ステンレス張りの妙に無機的なキッチンで、さんざんぱらXXXXを傷めるシーンは、背景が無機的なだけに迫力がある。ダニエルは本当に顔を氷で切っちゃったので、あんなにシワシワになったんじゃなかろうかと思うぐらいである。(笑)

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シドニーと

今やUK若手の代表格になったベン・ウィショー。ヘチョヘチョして頼りないシドニーも今見れば計算されつくした演技のように見えてくる。
ビッチはお手のもののシエナ・ミラーも地のようにピッタリと役にハマっている。
ドラガンは本当にドラガンという名前の人が演じているのが面白い。
出てくると確実にβ波がでるウザさを発散させるデュークのジェイミー・フォアマン。
そしてやたらに黒い顔のガンボンさん。どこでそんなに焼けたのか。なんの日焼けか。この日焼け顔がエドという人物の不可解さを増しているように思う。彼にジミーの裏切りを知らされて煩悶の極、ヤラれる前にヤれという事で目だし帽を被り、モジモジ君スタイルで夜陰に紛れて暗殺に行くシーン、木陰から出る前に深呼吸をするのがカワイイ。証拠を隠滅し、めり込んでシャワーを浴び、何錠も睡眠薬をすりつぶして酒であおっても眠れずに、初めての殺人のショックに打ちひしがれていたかと思うと、行きつくところまで行ってスパっと気持ちを切りかえるシーンが鮮やかだ。XXXXはこの土壇場でパっと切り替えるのが身上である。人間らしくあれこれ迷うのだけど、基本的にはクールでクレバー。そのキャラ設定がダニエルのルックスと非常にマッチしていて、観ていてカタルシスがあるのだ。

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人気高いラストの服装

絶体絶命のピンチを切り抜けて、老獪なタヌキオヤジに認められ、階層社会を駆け上がり…。ラストはやはり、あそこでハナもひっかけていないチンピラ小僧・シドニーに撃たれて、突如人生が終わるというのがベリー・ベストだとは思うが、昨今、続編を作るなら観てみたいという気持ちの方が強くなってきた。上手く作ってくれるなら、ラストの有終の美を台無しにしてもその価値はあるかもしれない。

観たい映画で、観たい俳優が、観たい姿で、観たい演技をみせてくれるという事は、なかなか難しいことなのだと知ってしまった今ともなれば。

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