「300」

~腹筋、腹筋、また腹筋~
2005年 米 ザック・スナイダー監督



「Dear フランキー」で気持ちよくGサマの男気に酔ったので、観るつもりのなかった「300」も、まだ渋谷で今週末まで公開していたのでこの際、どうせなら劇場で観ておこうと、観てきた。

映画全般としてはフランク・ミラー・ワールドなので、とにもかくにもエログロ・テイストは抜きにできず、異形の者がふんだんに登場。腹筋、腹筋、また腹筋。殺戮、殺戮、また殺戮。観ているだけでもかなりエネルギーがいる。冒頭から入る「この俺たちの生きていかねばならない"非情な世界"」についての、かなりうっとりと謳いあげ気味に入る語りが、また、いかにもなフランク・ミラー的世界感を醸し出している。

が、当初思っていたようなゲーム画面テイストは殆ど感じず、(巨大なサイがドシドシと正面からやってくるシーン以外は、さしてゲームチックではなかった)彩度を落して、細かい鉄の粉を吹きかけたような独特の色調の画面に、陰影濃く、鍛え上げた戦士のマッスルが浮かび上がり、セピアともまた違う焦げ茶のフィルターがかかっていそうな画面は、これまでに観たことがない色彩世界である。
そして、スローモーションを巧みに使って迫力ある動きを出した戦闘シーン。それが売りなので、全編の七割は戦闘シーンであるが、武器の質感や、肉体の「部分の重み」などをありありと感じたのはこの映画が初めてかもしれない。切り落とされた腕だの首だのが、6キロ?15キロはゆうにあるであろうその重みを感じさせる質感を持っていて、観ていて"重さ"を感じるのが、やけにリアルだった。効果音がうまいせいもあるのだろうが、どすっと落ちる首が、「頭部は人間の体の中で一番重いんだったっけな…」という感慨を抱かせる。それにしても、阿鼻叫喚の大殺戮。死体の山。死体の山で壁を作れるぐらいな、理屈抜きの死体の山である。凄い異臭がしてきそう。それだけで参りそうである。ペルシャの大軍の放った矢で空が真っ黒になるのも観たことがない光景だ。総体に"肉食人種 "の濃さを感じる一編。蕎麦好きな自分の淡白さに今更に気付いた。

そして、敵国ペルシャ側のキャラ造形がとにかく濃い。降伏を要請にくる最初の使者は目に常に異様に光が満ちていて、その不思議な色の虹彩が妙に印象に残る。半ばで登場するクセルクセス王も2mをゆうに超えるスキンヘッドの巨人の上、中性的な面差しに描き眉。黒目がちの大きな目が本物の目ではなくCGで作った目のようで、光を全て吸収してしまうブラックホールのような、面妖な質感がある。

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ペルシャ王 う?む

対するスパルタ軍団は、槍と盾と兜と剣以外には何も持たず、甲冑など一切つけていない。腹筋軍団である。みんな絵に描いたような立派な腹筋を誇らしく剥き出して、ドドドーっと迫ってくる。身長、体重など体格がほぼ同じぐらいの俳優を集めたのか、みな脚が長くて見事な筋肉軍団。さすがえりすぐりの精鋭だけある。荒削りな兜と盾がいかにも重そうだが、スパルタの兜はなかなかカッコいい。

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で、肝心のGサマであるが、ぷんぷんと血のニオイがしてきそうな殺戮ワールドの中で、Gサマは誇り高く、毅然としたスパルタ王・レオニダスそのものという感じ。顔もかなりメイクしており、暗い色のフィルターがかかっているせいで、その目はグリーンの筈がダークアイズに見えるが、兜から覗く鋭い眼光、目の演技が効いていた。キャラ的にも何もヒネりなしの純然たる英雄豪傑である。妻を愛し、子を愛し、情けに篤く、部下を信じ、勇猛果敢で、無敵の勇者である。このキャラがあまりに完全無欠な純正英雄チックなので、もうちっとヒネリが入ると陰影が出て良かったんじゃないのかなぁ、とチラと思った。が、その胴当ても不要なほどの腹筋は見事。革のパンツに赤マントを翻し、長い脚で敵陣に切りこみ、バッタバッタと槍で突き、なぎ倒す姿を見ているとさすがに痛快感がある。この勇猛な王様が、敵方の異形の巨人に追い詰められて地面に倒され、兜を取り払われて、大ピンチになるシーンがあり、そこではさすがに「あ?れ?!Gサマ?!!」と心で呼ばわってしまった。出血大サービスのバックヌードもあり。Gサマの男気全開である。

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だが、こんな男盛りの英雄に愛される王妃役の女優がイマイチなのだ。この手の映画にはありがちな顔で、後家額で口がでかく、少しシワっぽい。「グラディエーター」でルッシラをやっていた女優と似ている。あれをもう少し野性的にした感じ。昨今アメリカではああいう顔を史劇女優顔と決めているのかもしれない。が、肌も綺麗じゃないし、王妃がイマイチだったのは残念だった。

ワタシが個人的に最も気に入ったのは、スパルタの神殿で異形の老人たちに囲まれて神託を告げる巫女さんのシーン。透けた衣のそよぐ様が水中のようである。女優を水中に入れて撮影したんだろうと思うのだが、このシーンは月光のようなブルーが基調で、長い髪と衣をひゅるひゅるとなびかせた巫女が神託を受け取るまでの憑かれたような動きが非情に美しい。本当に絵画のよう。こんな絵をどこかで見たような気がした。

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かなりエネルギーが要るので、一度観ればもうお腹いっぱいであるが、確かに未体験の映像世界を見たという印象が残る。そして、属国になるよりも「語り伝えられる死」を選ぶ、ギリシャのサムライ達の誇り高い死に様が壮絶だった。

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