「When Harry met Sally」

~It had to be you~
1989年 米 ロブ・ライナー監督



クリスマス時期になるとなんだか思い出して観たくなる作品がある。その筆頭がこれ。例によって恋人たちの?とかいう変な邦題がついているが、ワタシはこれを便宜上「ハリーとサリー」と呼んでいるので、ここでもそう表記させていただくことにする。

で、「ハリーとサリー」に話を戻すと、これはノラ・エフロンの作品としても、メグ・ライアンの出演作としても最高傑作ではないかと思っている。そして、この手のロマコメの傑作でもある。なんといっても1時間半の中で構成が非常によくできているし、最初から最後までストーリーに合った小粋なスタンダードジャズが流れて、N.Y.の街の様子と、主人公たちの背景にぴったりとハマっていた。
シカゴからN.Y.まで言い争いながらドライブして、橋を渡ってマンハッタンに着くまでの二人の背後に流れるのは「Let’s call the whole thing off」
♪僕がこう言えば、君はああ言う 
 僕はトマトって言えば 君はトメィト 
 キリがない もうやめにしようよ
という内容で他愛もない事でいつも言い合いになってしまう彼女との仲を歌った歌。何もかも意見が合わず、ウンザリしつつドライブをしてきたハリーとサリーにはピッタリな曲。大元はRKOのアステア・ロジャーズコンビのミュージカル映画用にガーシュイン兄弟が作った曲。ここではちょっとトボけた味わいのサッチモの歌を使用。それがまた、ハリーとサリーにはぴったりとハマっていた。

このファーストシーンではメグ・ライアンはエクステをつけてボリューミーな70年代風ヘアにしている。スプレーをシューシューと吹きかけるシーンが印象的だ。初代チャリエンのファラ・フォーセットのヘアスタイルが流行したあたりの年代設定なので、サリーの髪もそんな雰囲気である。

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対するビリー・クリスタルはトッピングを乗せて若作り。でも毛があれば確かに若く見えるもので、この大学卒業したてのシーンはそれなりにかわいく見える。おサル系だけど。

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一応若く見える

この二人が5年後に再会する空港のシーンでは、
エラ・フィッツジェラルドが歌う「Where or When」
♪前にもこんな風に立ち止まって、話した事があったわね お互いの顔を見ながら
でも、それがいつ、どこでだったのか 思い出せないの
という歌で、まさにこのシーンにうってつけな歌である。これもいろんな人が歌っているスタンダードであるから誰の歌を持ってくるかはセンスによるが、エラは大正解。ゆるやかにスイングしつつ、あの気持ちのよいまろやかな声で歌われると耳触りがよく、ずっと耳に残る。エラって本当にいい声である。

ワタシはこれを封切り時に劇場で観た。有楽町のみゆき座だったと思う。ジャズも少しずつスタンダードを聴き始めていたがまだ殆ど手付かずで、エラもこの映画で初めて聴いて、以降お気に入りになった。メグ・ライアンも「トップガン」のトムちんの相棒(あのグリーン先生ですよ)の奥さん役でちょっと目立つようになった後ぐらいで、89年のこの作品が決定打となって続く90年代にはロマコメのヒロインとして突っ走ることになるのだが、90年代に入ってからの彼女の作品はロマコメもシリアスもイマイチで、大ヒットしたものもあるがワタシはあまり買わない。けれど、この作品は作品自体も出来がよかったし、メグもとてもキュートで輝いていた。のちのあざといばかりの記号的ロマコメ演技はしておらず、サラリとして知的でしかもキュートなサリーは、やはりこの時期の彼女ならではの当り役だと思う。これ1本ある限り、ワタシはメグ・ライアンを忘れるわけにはいかない。逆にこれ1本あれば、他の出演作は殆ど必要ではない。
ワタシにとってはメグ・ライアン=サリー・オルブライトである。

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ナンだかんだ言ってもやっぱりこの時はカワイイ

人も羨む彼氏といい調子だったのに破局したサリーと女友達が池に望むデッキであれこれくっちゃべるシーンは、洋の東西を問わず女が何人か集まるとこんなような会話になるのだなぁと毎度クスクスである。日本の連ドラにもよくありそうなシーンだ。
この時のメグは実年齢よりも年長の女性を演じていたのだろうが、当時のワタシにも32歳なんてまだまだ先の話で、ふぅん、と思いながら見ていた。今はすっかりそんな年齢は飛び越えて「何言ってんの、32歳なんてまだ若いわかい」と思いつつ見ていたりする。

そしてハリーとサリーは本屋でまたも出くわす。鼻めがねにしてハリーを見るサリー。普通はおばちゃん臭く見えるものだが、メグがやるとそういう感じがしないのはこの人の身上だ。
不倫体質で、毎度グチグチと腐れ縁の男の話をしているサリーの友達マリーにキャリー・フィッシャー。「スターウォーズ」で出てきた時も、姫様としてはこのルックスはどうなの?という雰囲気ではあったが、この映画では更におばちゃんになってたので封切り時でも「うひゃ?」と思って眺めた記憶がある。今はどんなすごい事になっているのだろうか…。

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キャリー・フィッシャー(左)と

ともあれ、再々会で互いにそれまでの恋愛や結婚が破局を迎えていた二人は、相手の中に以前とは違うシックリしたものを感じる。殊に自分の非を素直に謝るようになったハリーに、サリーは好感を持ち、いつか夕食でも、と誘う。彼女は別に友達として、などという括りは考えずに言ったのだが、ハリーは「友達として?」と訊く。そう真っ向から聞かれると、いや別にそういうわけでも…、ともサリーとしては言えなくなってしまうわけで、その時から、二人の奇妙な「友情」が始まるのだ。

ハリーを演じるビリー・クリスタルは男前ではないのだけど、知的なムードがあり、適度な皮肉とユーモアを持ち合わせていて、話をしていて面白い男だという感じがよく出ていた。一見、メグとはあまり似合わなそうにも思うが、非常によく似合っていた。二人の会話のかけあいのリズムが絶妙で、よく選んだキャスティングだと思う。

この二人の間で交わされる会話で、同じ事柄にも男女ではどう感じ方が違うのか、対処の仕方が違うのか、などを対比させるのがいかにもノラ・エフロン・スタイル。彼女自身が仲間と集まるとそんな話ばっかりしてるんだろうなと想像されて可笑しい。

シングルに戻ったことは同じでも、ショックはハリーの方が大きく、妻が去ったという現実になかなか慣れることができない。対するサリーは元気でマイペース。眠れぬ夜にサリーに電話したハリー。二人それぞれに「カサブランカ」を見ながら、他愛のない話をし、映画が終わるまで長電話。電話を切るとさっさと電気を消して寝るサリーとなかなか寝られないハリーの対比を画面分割で見せる。それにしてもアメリカ人てやたら「カサブランカ」が好きである。

この映画の大きな見所として秋から冬にかけてのN.Y.の美しい風景がある。なんといっても秋の盛りの紅葉が捉えられたこのシーンは何度観ても嘆息する。そして、N.Y.はやはり秋に行かなくちゃ、と毎度思うのである。…まだ行ってないけど。

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その年のクリスマスは二人でパーティに参加し、ダンスする。曲はハリー・コニックJrの歌う「I could write a book」。御互い寄りそって踊りつつ、ほかの相手とは何か違うものを互いに感じているのだけど、友達って言っちゃったからねぇ、というような雰囲気だ。

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その後、お互いにフリーの友達を相手に引き合わせようとしてWデートしたら、それぞれの友人同士がくっついてしまうのもありそうな話である。サリーの友人マリー(フィッシャー)の夫になるブルーノ・カービイはビリー・クリスタルと仲良しで「シティ・スリッカーズ」でも競演していたが、2006年の8月に亡くなった。ご冥福をお祈りします。

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ブルーノ・カービィ(左)

翌年、街でばったり新しい夫と寄り添う元妻にでくわして動揺するハリーをサリーがなだめると、今度は元彼が結婚したニュースに激しく取り乱すサリーをハリーが慰め、一夜を過ごす。事のあとで、サリーは満足そうにニコニコしているが、ハリーは瞬きもしないで目をみはっている。サリーの方はそもそも二度目に再会したときにハリーと付き合ってもいいと思っていたので、なるべくしてなっただけなのだが、ハリーの方は妙なこだわりがあって、俺は一体なにやってんだ、ヤバいなぁという強ばった顔のままだ。

翌朝もさっさと起きて余韻もヘタクレもあったものでなく、とっとと帰ってしまうハリー。めり込むサリー。双方から電話を受けたマリー夫妻が「もう二度と独身はごめんだ」と言うシーンもさもありなんという感じ。この友人夫婦ときた日には、結婚式で「我々は、お互いにハリーとサリーを振って結ばれたのです」などと受け狙いの挨拶をかますありさま。メグ演じるサリー、まさに踏んだり蹴ったりのシチュエーションだ。

それに続く二度目のクリスマスのシーンでは、ハリーと二人で運んだ昨年と事変わり、一人重い樅ノ木を引きずって雪の中を帰るサリー。その背後にせつせつと流れるのはビング・クロスビーが歌う「Have yourself a merry little Christmas」。
何を隠そう、あまたクリスマスソングのある中で、ワタシはこの曲がもっとも好きなのである。ハッピーだのメリーだのとキャンキャンしてなくて、しんみりと静かでそこはかとなく哀愁の漂うこの歌を初めて聴いたのもこの「ハリーとサリー」でだった。ちなみに、元々は1944年にアーヴィング・バーリンが「若草の頃」というMGMミュージカルのために作った曲で、ジュディ・ガーランドが熱唱していた。「ハリーとサリー」ではビング・クロスビーの歌を使用。これがさらりと歌っていい声なんですよ、低くて。しみじみと耳に残る。

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樅の木は重い

そしてラスト。クリスマスの夜にようやくハッキリと心が決まり、凍てつく夜道を走って普段着でパーティ会場に走りこむハリーの背後はトリを飾るシナトラの歌唱で「It had to be you」。
これもまた文句なし。アレンジもいいし、シナトラのヴォーカルもタメと間合いが言うことなし。
♪君はほうぼう捜し歩いて僕がやっと見つけた女(ひと)
君ゆえに僕は泣き、君ゆえに僕は笑う
誰も君ほどのスリルを僕に味わわせることはできない
君こそは僕の最高の女(ひと)…
究極のラブソングですね。どんな欠点も愛しているというんだから。ふふふ。
この映画は名シーンのオンパレードだけど、やはりラストのこのシーンが一番なのは言う間でもない。まだ怒っているサリーに、ハリーが一挙にまくしたてる口説き文句がいい。
なかんずく「サンドイッチの注文に1時間もかける君、君が僕を見るときのここ(眉間)のシワ!」というのに受けた。
結婚したい人というのは1日の最後におしゃべりしたい人なのかもしれない。

偕老同穴の老夫婦数組を適宜挟んでアクセントを添え、ハリーとサリーの対話で男と女の物の見方、感じ方の差異を対比させる手法は今みてもテンポがいいので古く感じない。その最たるものは例のフェイクオルガスムのシーンだろうけど、これはメグちゃんの真骨頂。ほかの女優がやったらもう生臭くて正視に耐えないだろう。向かいに座ったハリーだってずっと座っていられずに後ずさりして、そのうちに姿を消してしまったに違いない。

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…勘弁しちくり

「男と女の間に友情は成立するか」という命題を据えて展開したロマンティック・コメディ。当初はハリーとサリーも別れてしまう設定だったそうだが、監督ロブ・ライナーが元妻と復縁してハッピーな状態にあったので、それを反映してハッピー・エンディングになったというのは有名なお話。
で、結局肝心の命題だが、映画としては男女の友情は成立しない(結局恋愛に移行したから)というところに落ち着いてしまったようである。ワタシの個人的な意見では、成立する場合もなくもないのでは、という気がしているけれど、さて、どうなんでございましょうかねぇ。

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