「男が女を愛する時」 (WHEN A MAN LOVES A WOMAN)

~愛されてるのに、いけないよ~
1994年 米 ルイス・マンドーキ監督

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これは昔、その頃付き合い始めたばかりの彼氏と試写会で観た映画だった。メグ・ライアンの絶頂期で、最近は悪役が多くなったアンディ・ガルシアもラテン系の二枚目としてグングン来ている頃だった。…時は流れる。
少し遅れて試写会場に入ったので空いている席を探すのが面倒で、二人して通路に座って見たのだっけ。一緒に行った彼氏がぽつりと「メグ・ライアンていいね…」と言った事を覚えている。ワタシはアンディ・ガルシア演じる夫の辛抱強さに関心したのだったけど…。

なんとか隙あらば脳天気でキュートなラブコメ路線から抜け出そうとあがいていたメグ・ライアンが、その人気絶頂期に挑んだアル中主婦役だが、彼女が恵まれた家庭生活を送りつつ(旦那は彼女以外には目もくれないし、けっこう大きな家に住んで、経済的にもゆとりがありそうな気配。それでなにがご不満?)何に焦れてあんなに酒を飲んでは荒れ狂っているのか、旦那が留守がちだからったってパイロットなんだからしょうがないでしょうに、馬鹿じゃないの?甘ったれてはいけないことよ、と見ていてどうしてもヒロインの心情が理解ができず、彼女に全くシンパシーを持てなかった。でも映画全体としての出来は悪くなく、なんといっても、我侭な(としか見えない)女房に手を焼きつつもひたすらに愛し続けるパイロットの夫を演じたアンディ・ガルシアの無限の受容が(ありえないわ…)と思いつつも印象的な作品だ。

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そして、幼い二人の娘のうち、先夫との間に出来た長女が、頑是無く無邪気な幼い妹と、仕事で留守がちになる義理の父の間に挟まって、その父の不在中に母のアル中症状に翻弄され、一人ストレスフルな状況に耐える様子に胸が痛む。可愛い下の娘はパイロットのマイケル(ガルシア)とアリス(メグ・ライアン)との間に出来た娘。上の子はアリスの先夫との子で父親が違う。たださえ家の中で自分の存在については何かと考えざるをえないところに、母はアル中で情緒不安定。酔ったアリスは娘を殴り、シャワーを浴びている最中に倒れる始末。パイロットの夫は急遽帰宅するハメになる。こんなんじゃ、ほんとおちおち仕事もしてられやしない。困りますよ奥さん。しっかりしてくれないと。

下の娘は無邪気で可愛いく、上の娘は鼻がオシシ系のファニー・フェイス。この子役のキャスティングもうまい。長女が心情的に頼れるのは実の母のアリスだけなのだが、その母はアル中で、自分を疎ましがっているような気もする。幼い妹は愛していても、私の事はきっと厄介に思ってるんだわ…。幼い心を痛める長女ジェス。この長女を演じている少女がなかなか上手いので、母に愛されていないのでは、と表情を曇らせる様子は見ていてキューっと胸が痛くなる。自分が頼れるものが両親しかいないような5歳かそこいらの幼い時に、アル中で精神状態が不安定な母が更正施設に入ってしまい、義理の父と留守宅を守ることになったら一体どんな気持ちになるだろうか。そして、もし自分にこのぐらいの年の娘がいて、こんな寂しい思いをさせたりしたとしたら…。子供を傷つけるのは一番罪な事だと観ていて思う。この長女が、何か家に問題が起きるたびに、それは自分のせいではないかと俯き加減で表情を曇らせる。この子の表情を観ているとアンディ・ガルシアならずとも抱き締めてあげたくなっちゃうだろう。「君のせいじゃないんだよ、泣かないで」と。

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幼い娘たち
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さまざまな事に、ひとり胸をいためる長女

そして夫のマイケルに降りかかる試練。妻がアルコール依存症の更正施設に入ってしまった為、主婦が不在となった家で幼い娘たちの喧嘩に手を焼き、ベビーシッターに八つ当りをして去られ、フライトの間、祖母に預けようとすると長女が激しく反発する。パパはお手上げだ。あなたは私のパパじゃない!ママに会いたい、ママに会わせて!と泣き叫ぶ長女を抱き締めて「僕も会いたい…」というマイケル。あぁパパ、大変だねぇ本当に…。家族からアル中に限らず病人が出るという事は、本当に大変な事だ。ましてやアル中となれば、いつ果てるとも知れない闘いだものね。

さて、この映画を見ていて昔から疑問だった事に、アリスが何故アルコール依存症になったか、という事がある。どこからどう見たってアル中になるほど酒びたりにならねばならない状況じゃないのに、どうしてそんな事になるのか、メグ演じるアリスがアル中になる動機が弱いし、不可解だわ、とずっと思ってきたのだけど、この前、漫画家の西原理恵子女史がその波乱万丈の半生を語った番組を観ていて、ほ、そういう事か、と分かった事があった。西原女史の夫はある時突如としてアル中になり、人格が豹変し、家庭内暴力をふるうようになり、仕方なく別居した。その後、夫は更正施設に入り、なんとか自力でアル中を克服して戻ってきたのだが、アル中というのは怠け者や意志の弱い人間がなるのではなく、ある人にとっては突如、酒が脳に対して麻薬と同じ作用をするようになってしまう症状なのだそうである。大酒を飲むとみんながみんな、そうなるというわけではないらしい。また誘惑に負けるだらしない性格の人がなる、という事でもないという。それゆえ、自覚なしにいつしか症状が始まってしまい、気付いた時には抜け出すのが至難の業という事になる。アル中を克服するのは麻薬中毒を克服するのと同じぐらいに大変なのだとか。そうか。普通に酒を飲んでいて、ある日、酒の及ぼす作用が変ってしまうという事なのね。ふぅん。だから本人にも原因が分からないのだ。

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というわけで、微妙に納得してみたアリスのアル中。周囲は彼女を愛し、必要とし、寛容に対処しているのに、一人でゆえなく荒れ狂ってなんという理不尽な女かしらん、と思っていたのだが、少しだけ「一体なんなの?この女は」という視線は和らいだ、かもしれない。アル中の動機が不明という事以外は、夫や娘のキャラにシンパシーを感じるようにできている作品なので、けっこうしみじみしたり、ホロリとしたりする。
更正施設を出てきた妻を夫が労わりすぎるという事で、「私を半人前扱いする」と妻が不平を爆発させるシーンもある。面倒ばかりかけておいて何を抜かすか、とも思うのだけど、つれあいに負い目ばかりが降り積もると逆ギレという事も発生するのだろう。それでも夫の愛をいいことに、なっちょらん自分を棚にあげて、その態度はどうしたことなの?と思わないわけではないけれど(笑)

アリスが更正施設で知り合う年下の青年(!)にフィリップ・シーモア・ホフマン。最近ではまるきり白髪のオッサンになってしまったので元は何色だったのかさっぱり記憶になかったが、けっこうキレイなブロンドだったのである。さすがに15年も前となれば、フィリップ・シーモア・ホフマンさえも若い。みようによっては童顔で可愛くさえ見える。太めではあるものの、まだデブチンというほどでもない。そういえばこれにもちょろっと出ていたのだったっけ。忘れていたので登場した時には軽く驚いた。迷惑をかけている夫よりも、自分を頼ってくるこの青年にフレンドリーな態度で接する妻に納得のいかない夫。妻は人に頼られる事で自信を取り戻したいのだが…。

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フィリップ・シーモア・ホフマン ひゃあ???、若い!
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年上の女性に甘ったれる弟っぽいキャラを演じていた

でも、それはそれとして、やはり夫の深い寛容に対して言いたい放題に荒れ狂う妻を観ていると、なんだかなぁ…と思ってしまう。裏を返すとこれは本当にアンディ・ガルシアが儲け役なのであって、時に手を焼き、頭に来ながらも、愛ゆえにしんみりと哀しそうに妻をみつめる瞳には、同情の念を禁じえない。言い争いをしていても、妻に対するリアクションには愛情が感じられ、う?ん、こんなに厄介をかけられても愛しているんだねぇ。人ひとりをまるごと引き受けるってことは大変な事よね、愛するって因果ねぇ、などとも思ってしまうわけである。

アル中の妻、母を抱えると家庭は一体どうなるか、という事を通して家族や夫婦の絆を描いた作品だが、観終るとやはり印象に残るのはアンディ・ガルシア演じる夫の、何があろうと妻を愛し続けるというその姿勢である。
「私の妻はアル中だが、最高の女性だ。600通りもの輝く笑顔。僕の太陽だ」なんて、散々迷惑をかけられたあとに、そうそう言えるもんじゃないでしょう。まぁ、逆にそこまで言ってくれるような男性を亭主に持っていれば、大抵な事は乗り越えられるという事でもあろうか。いやしかし、こんな旦那さん、そうはいないでしょ。そうまで人を愛するっていうのも、なかなか大変な事だものね。

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余談ながら、この頃のメグ・ライアンは全盛期だけにやはりアル中の困ったちゃん妻を演じていてもキュートである。ワタシはこの映画でのメグの衣装はマニッシュなテイストが強くて、わりに好きだ。皮ジャンも似合っているし、白いセーターにサングラス姿も似合っている。ラストにアル中患者の会でスピーチをするシーンで着ている黒いパンツスーツもシックでなかなかいいと思う。やはり、なんだかんだ言ってもこの頃のメグ・ライアンは良かったな、と遠い目になってしまった。

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コメント

  • 2009/05/07 (Thu) 01:39

    お姉ちゃん役の名子役=ティナ・マジョリーノですね。
    「バス男」でキュートな女性に成長(演技力も順調に成長)されてましたね

  • 2009/05/07 (Thu) 08:59

    かばどんさん。お姉ちゃん役の少女はちゃんと成長して女優を続けておりましたのねん。情報ありがとうございます。キュートな感じに育ちましたか。「バス男」未見ですが、機会があったら観てみます。

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