アヤしい薫サン 「小林 薫」

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ナニワ金融道・桑田役の薫サン

ワタシは小林 薫という人もかなり好きで、ひさしい以前から動向を注目している俳優なのだけど(あれこれ気が多くて恐縮。でもやっぱり洋の東西を問わずイイ男はいいのである)昨今では気のいいおぢさんみたいな役が多くて、ちと物足りない気味もある。この人は一見普通そうに見えるがハードボイルドでもサスペンスでもロマンスものでも、なんでも出来るザ・役者なのである。いい俳優というのは凶悪な犯人も平凡な市井の男も等しく違和感なく演じられるもので、われらがダニエルもそういう俳優だし、日本では緒形 拳などもそうである。薫サンもその列に連なる人である。そしてこの緒形 拳(本来はケンでなくコブシと読むらしい「へぇ?」)と薫サンが競演していい味を出し合っているのが「ナニワ金融道」シリーズである。

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にこやかだがどこか怖い社長を演じる緒形 拳。左は専務役の綿引 勝彦

ウルフルズのパワフルな主題歌も楽しいこのドラマは、ナニワの巷の町金「帝国金融」を舞台に、金に踊らされる人々の悲喜劇をおもしろエピソード満載で綴る 1話完結の2時間ドラマで、確か現在第6話ぐらいまであると思う。この「帝国金融」の社長に緒形 拳、そこのエースの腕利き社員・桑田に薫サンが扮して毎度笑わせてくれる。主役は一応、某中年アイドルグループのリーダーが演じる「帝国金融」の駆け出し社員・灰原なのだけど、彼もうまく役とドラマにハマっており、脚本も原作の漫画をうまく練ってあって、総体にアベレージの高い出来のいいシリーズである。

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ナニワ金融道

このドラマでの薫サンは毎回、異常なまでに派手な背広やコートを着用して登場。クセのありすぎる桑田という人物を活き活きと楽しそうに演じていて、もしかするとこれまでの役のなかで、ご本人が一番楽しんで演じているのはこの役なのかな、という気配も漂ってくる。ど派手な背広(ステージ衣装みたいなキンキラキンのスーツという回もあった)に日の丸の扇子というのが桑田のトレードマークで、この日の丸の扇子をピっと開いてハタハタと煽ぎつつ、支払いの滞った債務者に「そりゃ、あんた。最高裁の裁判長かて、払わなあか?ん、いいまっせ!」とキメ台詞を言うのだが、毎回ニュアンスが色々と変わって、これを聞くのも楽しみのひとつである。

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おはよーさーん!と登場

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ド派手な背広と日の丸の扇子がトレードマーク

そもそも関西の人なのでコメディ要素の入った作品の方が皮膚感覚的に楽しく演じてしまうのだろう。ノリノリな様子が伝わってくるので、観ている方もとても楽しい。いつもヘラヘラして調子がいいようだが、必要に応じて非常にコワモテにもなる部分が薫サンの面目躍如。ニヤニヤしていたかと思うと、突如テーブルにドーンと靴のまま足を乗せて凄んだりする。緩急自在、変幻自在のキャラ造型である。桑田は勿論、主人公灰原と絡むシーンが多いのだが、折々社長の緒形 拳と絡むシーンが殊のほか面白い。どうもアドリブ連発らしい空気がほのみえ、お互いに掛け合いのシーンを楽しんでいる様子がわかる。二人で懸命に笑いを堪えつつ向き合っていてNG寸前という場面もあった。緒形 拳はなんでもこのシリーズにはノーギャラで出演しているとかで、特別出演的なノリで出番は多くないが、この社長はラストに必ず混乱した場を収集する要のポジションでビシっと決めるおいしい役で、緒形 拳は穏やかで懐が広そうでいながら底に怖いものを秘め、金に関しては非常にシビアな社長を余裕綽綽で演じていてとてもいい。社長は業務終了後の事務所で鍋などをつつくことがよくあり、これにいつも桑田はうれしそうにお相伴する。本当に日本酒を飲んでいるようなほろ酔いの雰囲気がまた良い。このシリーズはどれも外れがないが、いしだあゆみがすがれ果てた海事代理士という役で怪演を見せた第4話、浅野ゆう子が地?と思われるような女金貸しを演じた第3話あたりは、本当に面白い。女優陣も必ず灰原が惚れてしまう若手と、凄腕の年増が毎回カップリングでキャスティングされていて、この取り合わせの妙味も興味深い。

なかなか再放送もされず、ビデオも見つからないのが残念なのだが、薫サンの役でもうひとつ記憶に残っているものに「危険なふたり」という2時間ドラマのゲストで出た結婚詐欺師役(もうドンピシャのハマリ役!)がある。これも面白いドラマで、毎回完結の2時間もので3作ぐらい作られたと思う。主演は桃井かおりと竹下景子の女性結婚詐欺師コンビである。この単発シリーズの2話目あたりで詐欺師の二人をカモるウワテの結婚詐欺師の役で薫サン登場。とにかくドラマ自体もキャストからして面白いのはお察しいただけると思うけれど、ハマリ役の薫サンは活き活きしていた。これなども是非もう一度観たいのでソフト化か再放送をご検討いただきたいと切に願う次第である。

ファンの要望の声に押されて昨年DVD化された作品に「キツイ奴ら」がある。ワタシはこれを本放送時には観ていず、噂だけは聞いていたのでDVDがレンタルされるやすぐに借りて見たのだけど、期待していたほどには面白くなかった。しかし、歌中毒ともいうべき玉置浩二が薫サンとギターを持って近所の縄のれんに流しに回り、独壇場の歌いっぷりで「コモエスタ赤坂」など、ムード歌謡を歌いまくるシーンは必見。(玉置のこさえた借金に追われるチンピラの二人を追いこむヤクザの若親分には若い柳田敏郎が扮している。)薫さんの歌はご愛嬌程度なのだけど、身長、体重などほぼ同じような体型の二人が揃ってソンブレロなど被って流しをする姿は妙にサマになっていて、何ともいえない味わいがあった。

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キツイ奴ら

数年前に放送されたスペシャルドラマ「黒い十人の女」はスゴい女たちに囲まれて、黒一点の薫サンを楽しめる作品だったわけなのに、なんだかウッカリとワタシは見逃してしまって、その後再放送もなくソフトにもなっていないようなので未見である。残念。

コミカルでない薫サンを見られる作品としては、久世光彦がずっと手がけていた「向田邦子新春ドラマ」シリーズがある。向田邦子の小説やエッセイから、そのエッセンスを取り出してきて新たにオリジナル脚本で作られた2時間ドラマだが、ここに薫サンは必ず田中裕子に絡む男として登場する。穏やかで小心者の普通の男の時もあれば、職業不詳で裏ぶれた匂いを醸し、妖しいオスの魅力全開で、いつも未亡人か行き遅れの長女を演じる田中裕子を誘惑する男を演じるときもある。いずれの場合でも違和感なくしっくりとはまっている。

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女の中の秘められた本能的な部分を引きずり出してしまう男として真骨頂を見せた「響子

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別の作品では田中裕子の真面目な婚約者を真面目に演じる

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こういう表情がとってもナイス

その他、5,6年前までやっていたピエトロドレッシングの飄々としたCMとか、「ふぞろいの林檎たち」?,?での中井貴一の兄役とか、印象に残るパフォーマンスは多い。いい出来だったというドラマ「恋子の毎日」を見逃していて、全く見る機会がないのが残念だが、待てば海路の日よりありというし、心がけて待っていればそのうちチャンスもあるだろう。

ワタシが目下、楽しみにしているのは四月上旬公開の「東京タワー」映画版である。これはリリー役にオダギリジョー、おかんに樹木希林、おとんに薫サンという絶妙のキャスティングで、見る前からもうかなりの出来であろうという予測はつく。「東京タワー」を読む限り、リリー・フランキー氏の父上はなかなかやんちゃな人で限りなく893的なパーソナリティらしいのだけど、薫サンが久々にそういう奔放なちょい悪オヤジに扮して勝手放題な生き様を見せてくれるのかと思うと、今から胸の高鳴りを覚えてしまう。ドラマもいいけど、薫サンにはもっと映画に出て欲しい。「紙屋悦子の青春」をまだ観てもいないでこんなことを書くのもどうかとは思うのだけど(笑)

薫サンはもう随分長いこと、外見が変化していない気がする。50は越えておられると思うのだけど、30代の頃からさして変っていないような感じである。さりげに凄い。一時期結婚されていたが、身軽な独身に戻られてふらりふらりと好きなように生きておいでのご様子。薫サンにはずっと身軽で危険な独身でいてほしい。下北沢界隈で目撃情報が多いので、ワタシも一度ナマの薫サンを間近に観てみたいと、たまにいつもと河岸を変えてシモキタ界隈で飲むこともあるのだけど、残念ながらまだ薫サンに遭遇したことはない。けれど万一、薫サンに遭遇しても、サインも貰わないし、握手も求めないし、写真も撮らない。ただ、そこはかとなく近くにいて、目尻を下げて楽しそうに飲まれる様子などを、静かに眺めていたいと思う。

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