「月曜日のユカ」

~ハマと港と小悪魔と~
1964年 日活 中平 康 監督

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中平 康といえば、本当の意味での太陽族映画の第1作目である「狂った果実」で仏のヌーベルヴァーグの監督たちにも影響を与えた映像作家として有名だが、(あれはなんといっても主演1作目の裕次郎よりは既に大スターだった北原三枝のクールながらシュワっとひらめくような鋭い色気を堪能する作品だった。ここでの裕次郎はまだまだ小僧で何がどうというものではない)
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カッコいい女だった「狂った果実」の北原三枝 日本のクールビューティのハシリか

「月曜日のユカ」は加賀まりこという素材を得て、彼の思う「かわいい女」を描いてみせた風俗映画という感じだろうか。企画は当時日活のプロデューサーで、裕次郎売出しにも一役買った水ノ江滝子。

モノクロ映像に捉えられるエキゾティックな横浜、その横浜でパトロンの世話になりつつ、「男を喜ばせることこそ女の生甲斐」という哲学のもと、さまざまな男たちと恋愛ゲームを楽しむユカは奔放だが、素直で憎めない女だ。
純な娼婦と、娼婦のような素人女だったら、いったいどちらがアバズレだろうか、というよくある概念もチラと浮かんだ。

加賀まりこを使って、これでもかと繰り広げられるコケティッシュのオンパレード。今じゃ小憎たらしい皮肉屋のオバハンなれども、44年前ともなればさすがにまりこも可愛い小悪魔だ。
盛り上げた60年代のヘアスタイルで、男モノのパジャマの上着だけ羽織るとか、人差し指の先を銜えて小首をかしげるとか、幼げな容姿で黒い下着など身につけてみるとか、ぷうとホッペタを膨らましてみるとか、もうステレオタイプなコケットリーが満載で、そんな大ベタな…と思わず突っ込みを入れたが、いかんせん44年も前なのだ。当時は斬新だったのだろう。むしろ今見ても古く感じないまりこの可愛さには、やはり一定の賞賛を送るべきかもしれない。でも、こうして写真をUPしてみると、映像で見るよりも今の顔とギャップがないのにちょっと驚いた。まりこ、さして変わっていないのか、実は。小悪魔恐るべし。

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加賀まりこ これでもかのコケットリー全開

とにかく、キャスティングが興味深い。
まりこ演じるユカのパトロン役に加藤 武。この人のもっとも有名な役は市川 崑の金田一シリーズで「よし!わかった!」と毎度見当違いな推理を披露する等々力警部じゃないかと思うが、あの無粋な警部がここでは小娘のパトロンですよ。ひゃははは。そして、昔から同じ顔で同じ髪型。不器用そうだけど、そこが味なの加藤 武。

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ずーっと同じ顔、同じ髪型の加藤 武

そしてユカの、いずれ水商売上がり(米兵相手のオンリーさんだろうか)のかあちゃんに北林谷栄。もう堪りませんよ、これ。谷栄、最高。この人はいつも訛った言葉で汚れ役のばあさんなどを演じてきたが、実はとても綺麗な人なのである。その実は綺麗なところを生かし、昔は綺麗だったろう名残を微かに漂わせつつ、ユカに特殊な人生哲学を吹き込んで育ててきた母のいかがわしい感じもよく出ている。北林谷栄も、出てきただけでうれしくなっちゃう女優の一人だ。

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谷栄さ???ん!

さらに、ユカと関係のある男の一人、修役であのねじねじ彬巻きの怪人・中尾 彬が若い平凡な男の雰囲気をよく出していた。誰にも若い時はある。そう、彬にだって。そして、若い彬はアブラギッシュでなく、今とは声の出し方も違い、素直に、こもらせず割に甲高い声でしゃべっている。甲高い声でユカに結婚を申し込んじゃったりする純情な青年なのだ。誰にでも若い時があるもんなんだねぇ、とつくづくと感慨に浸らざるを得ない。

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あの彬にも若い頃が…

この若造とユカがきゃはきゃは言いながら歩く横浜の街角や元町の風景。そしてパパ(加藤 武)と食事の約束に、かあちゃんを連れていってパパを鼻白ませるシーンでは、あのニューグランドがロケに使われている。モノクロで見ても、やはりニューグランドは素敵である。

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中平 康という人は、海や港町が殊のほか好きだったのだろう。「狂った果実」でも湘南の別荘地で優雅に避暑を楽しむ有閑階級の若者の倦怠(戦前の価値観が崩壊し、戦後の新しい時代の中で目的を見失って若さを無駄に浪費する世代の登場だ)を、海のうねりとヨットと湘南界隈の風俗とともに描き出し、退屈しきった彼らがオープンカーを飛ばしてハマのクラブ「ブルースカイ」に行くシーンなども、チラッとしか出ないがやけに横浜が印象に残る。
この「月曜日のユカ」でも、舞台を横浜に持ってきたのは非常に効果的だったと思う。
冒頭で、英語、北京語、スペイン語(多分)の3ヶ国語で国際貿易港・ヨコハマのありきたりな紹介が語られるのだが、加賀まりこ演じるユカのコケットリー百貨のようなポーズといい、ロケ地といい、シチュエーションといい、狙ってますと大書してあるような作りが却って微笑ましかったりするのもこの映画ならではの味だろう。

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誰とでも寝てしまうユカであるが、キスだけはしないというルールを遵守している。それは、客に体はまかせても唇だけは別、という、あのよくある娼婦の哲学ではなく、幼い日のトラウマにより、キスは罪悪だと刷り込まれているからなのだ。

ラスト、埠頭で「パパ、踊りましょ」と言われていかつい顔に中途半端な笑顔を凍りつかせて踊る加藤 武に、こちらまで妙な面映さを覚えた。似合わないことしないでね、警部。笑っちゃってよ。

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加賀まりこはバルドーをソフトに可愛く東洋人にした感じ。モノクロで捉えられた44年前の横浜と、毛皮のストールに膝丈のパーティドレス、ピンヒールを履いて歩き去るユカは、しっくりとはまっていて、うっすらとおフランス映画チックな趣もある。今はある種のモンスターになった俳優、女優の若かりし日の姿を見て、温故知新な気分に浸るのも一興か。
何よりも、昔のハマの景色がなんとはなしに瞼に残った。
クレジットをみると脚本には倉本 聰も共同脚本で名前が見えるが、倉本臭はほとんど映画からは感じなかった。

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