「シルヴィア」

~骨まで愛して…?~
2003年 英 クリスティン・ジェフズ監督



遅まきながら「シルヴィア」を観た。ダニエル・クレイグ、黒髪で登場である。ダークヘアという範疇じゃなく、漆黒といってもいい黒髪。これまたよく似合っている。額に垂れかかるパラリ前髪である。しかも、モテモテの色男役。劇中でも「いい声」が売りで、詩の朗読なんかして女をウットリさせている。いやはや、参りました。女という女がみんな彼にはハート目になっちゃうので、奥さんのシルヴィア(グィネス・パルトロウ)は気が気じゃない。とても詩なんか書けたもんじゃない。…まあ、お察しします。
しかも、この映画でもやはり脱いでいる。脱いではいるがストーリーの必然に沿った露出なので、そんなに目立つほどではない。が、やはり詩人にしてはいいカラダである。「詩人の顔に闘牛士の体」というのは、こういう男のことをいうのかもしれない。
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テーマとしては、洋の東西を問わずけっこうある事柄を扱っている。こんなのは結婚する前から上手くいかないに決まっている。同じジャンルで競い合う芸術家同士が夫婦になったら、日常は修羅の巷である。けれど宿命的に惹かれあうのだ。不幸になると分っていながら。芸術家同士でもジャンルが違えば、お互いに切磋琢磨することもあるだろうし、刺激を与え合っていい方向に行く例もあろうとは思うが、同じジャンルというのは非常に厳しい。男と女である上に、さらに同じ分野でパートナーと対等かあるいはそれ以上の存在であろうとするなんていうのは、至難の技だ。才能の足りないほう、または精神的に弱い方が、すりつぶされ、自滅の道を辿ることになってしまう。
日本での最も有名な例は、あの光太郎・智恵子のカップルであろう。そして、ワタシは今回「シルヴィア」を観ていて、ずっと思い出していたのが、ローレンス・オリビエとヴィヴィアン・リーの夫婦だった。この二人は、とにかく当初はヴィヴィアンの熱烈な押しにより双方、連れ合いがいたにもかかわらずW不倫ということで始まった関係だった。その後お互い離婚を成立させて晴れて入籍。妻は早々に「風と共に去りぬ」で巨大な成功を収めるが、地元イギリスでシェークスピア役者として確固たる名声を築いていた夫のオリビエにはまだまだ届かないと思ってしまう。演劇が第一義、映画は二の次、という価値観ゆえだ。夫は着々とその世界で名声を高めていく。地歩を固めてあがっていく。ヴィヴィアンもその妻として、夫に恥じない名女優であらねばならない。常に彼と同等の存在であらねばならないと脆弱な体に鞭打って、舞台出演の合間に映画出演もこなすが、結局、ムリが祟って体を壊してしまう。と、同時に精神も病んでいってしまうのだ。愛し過ぎたがゆえにおかしくなっていってしまうのである。全ては一人芝居のような狂気に近いまでの愛情と独占欲のなせる技なのである。普通にしていれば、そのまま夫も愛してくれるんだろうに、荒れ狂うので、自ら幸せを遠のかせてしまうのだ。このへんの感じがシルヴィアも、全く同様である。ヒステリー症状を起し、ひとたび荒れ狂い出すと、本当に最悪の状況になる。家の中がこの世の地獄である。夫はしばらく、嫉妬に狂う妻に辛抱強く耐えつづけるが、ある時、ついに他の女に走ってしまう。男の気持ちもわかる気がする。壊れゆく、狂える女の中に、かつて愛した女の面影を見出すのは容易な事ではない。そんな超人的な努力を生涯続けよなどと、誰も強制できるはずがない。エドワード・ヒューズは、その短い結婚生活の間、常に、シルヴィアに対してそういう努力を強いられてきたわけである。短い結婚生活であったとしても、それは生涯を左右するような関係だった。命がけの勝負なのだ。誰が悪いわけでもない。ただ出会ってしまったのが運のつきだった。シルヴィアは、テッドを愛した。愛して、愛して、愛しちゃったのよ、という感じである。あまりにも愛し過ぎて、身を滅ぼしてしまうほどに愛した。そして詩人としても一流でありたいと望んだ。ただ陰から彼を支える存在で満足しているわけにはいかなかった。偉大な夫と肩を並べる存在でありたい。けれど、一緒にいると詩が書けない。別れると、魂の飢渇から詩は生まれる。しかし、生活には向かない彼女のもとに二度と夫は帰ってこない。心の底では愛していても、彼女と一緒だと消耗が激し過ぎるのだ。最愛の夫を二度と取り戻すことができないと分ったとき、彼女はこの世に別れを告げる。
グィネスは、ミア・ファーローとよく似ている。この系統の顔は「神経症顔」である。だからこの役にはとてもはまっていた。彼女は演技をしているという感じではなく、そこにリアルに存在していた。

そういう、熱烈に愛される詩人の夫、というのを実に説得力のある存在感で、ダニエルが好演している。さらっとやっているけど、はなはだ魅力的。黒髪、イケてます。ボンドも黒髪の前髪ぱらりでいけばよかったのに。一度ダークヘアに染めていたはずだが、最終的には地のブロンドに戻してボンドに臨んだ。ブロンド・ボンドと叩かれたので、ブロンドのままGo ahead!という意地っぱりな気持ちになったものだろうか。まあ、今回ぜんぜん新しくするんだから!というのを際立たせるには黒髪よりもブロンドの方が断然インパクトは強い。第一、黒髪の前髪パラリだとボンドのキャラも、またやんちゃくれとは設定が変ってこざるをえないだろうし…。
なんでこんなにクドクド言っているかというと、ダニエルの黒髪、かなり良かったからである。ブロンドよりもこっちの方がワタシ的には好みである。インテリっぽくて悩ましい。タバコの煙の向こうから「いいかい、君はそういうところがダメなんだ、前にも言ったろ?」なんて、あのいい声で説教をされたくなってしまう。むろんワタシはうっとりと聞いているだけ。議論にもならない。平和そのものである。

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