「あの胸にもういちど」

~ダニエルという名の男~
1968年 英/仏 ジャック・カーディフ監督



テレビの深夜映画で、これを最初に観たのはティーネイジャーの頃だと思う。自分の部屋のテレビでこっそりと観た。大した映画じゃないのだけど、なんだか魅力のある映画で、時折ふと思い出し、また観たいなぁと思っていたらスターチャンネルがついこの前放送してくれた。いつもそうそう掘り出し物があるわけではないのだが、たまにはこういう事もある。
映画全体から60?70年代のサイケ調な空気がぷんぷんと立ち上ってくる。音楽もいかにもな60年代風である。そして、印象に残るのはマリアンヌ・フェイスフルが素っ裸の上から黒いレザースーツをきゅうっと着て大型のバイクにうちまたがり、世にも嬉しそうにサドルの上で跳ねながら一本道を疾走するシーンである。とにかく、バイクで走るシーンが全体の半分近くを占めている。(なんたって原題がThe Girl on a Motorcycleであるから)この時のマリアンヌ・フェイスフルが、初期ルパン3世の峰 不二子のモデルであるのは定説だ。いかにもキュートでセクシー。おしゃれな銀のヘルメットから無造作にはみ出したブロンド。すらりとした体を黒いレザーに包んで恋人の住む町へとバイクを飛ばしていくのである。



マリアンヌ演じるキュートな若妻レベッカは、学校の教師をしている真面目だけがとりえのような青年と結婚しているが、彼女には結婚前に全てを教え込まれてしまった男がいた。大学教授で、その名もダニエル(アラン・ドロン)。町の本屋の娘だった彼女は、時折本を買いに来る、黒髪の年上のこの男に惹かれる。もう、この年代にこういう役とくれば、アラン・ドロンの専売特許。(そして偶然だけど役名がダニエルなのだ。堪ったもんじゃない)ここではマリアンヌを立てて、出ずっぱりの主演というのではなく特別出演みたいなノリに近いのだけど、何も知らぬ少女を調教し、後戻りできない道に誘い込む色悪の調教師ともいうべき男を当然のようなハマリっぷりで演じている。もう演じているなんていう範疇ではなく、地のままでセリフを言っているだけ、という方が正解かもしれない。



脇で眠りほうけている夫の横をすりぬけて、素っ裸にレーシングスーツを着こむと、彼女は朝もやの中を国境を越えて、愛しいダニエルの住むドイツの町までひたすらにバイクを飛ばしていくのである。このバイクも、ダニエルに教わったものである。あんなことも、こんなことも、全部ダニエルが彼女に教えたのだ。みんなあなたが教えてくれた。酒もタバコも嘘さえも…というやつである。

バイクを飛ばして恋人の元に馳せつけることは、そのままフォールプレイである。だから彼女は恍惚とした笑顔を浮かべっぱなしなのだ。原作も官能小説なので、日本でいうと「愛ルケ」みたいなのを60年代のポップなスタイルでおしゃれに作った、という感じだろうか。「愛ルケ」は読んでいないので、漠然としたイメージだけで語っているのだけど。まぁ、読むまでのこともない。察しはつく。



アラン・ドロンは身勝手でスケベなインテリで、「君は結婚するから僕らに未来はない。未来はないが、現在(いま)はある」などと言っては、連れ出して"調教"する。ハタチかそこいらの娘にとって33か4ぐらいの男は全てを知っている大人の男に思える。大学では黒ブチの眼鏡をかけてパイプなどをふかしているドロンのダニエルは、いざ色事となるとさっと眼鏡を取り払い、悪魔的なまでの微笑を浮かべる。漆黒の前髪が額にぱらりと垂れかかっている。定番である。彼は彼女を意のままに動かし、奴隷のように扱う。この二人は典型的なSとMの関係である。男には死んだ愛妻がいた。彼女を亡くしてからは、もう誰も本気で愛さないのだ。女も若いうちにこんな男に出会ってあれこれ教え込まれてしまったら、もう他へは目が向かなくなってしまうだろう。身も心も悪魔に魅入られたように彼女はダニエルのものなのだ。
やさしいが鈍感な夫はダニエルとの防波堤にするつもりで結婚した。が、彼女にとって従順な夫は河原の土手ほどの役目も果たさない。冷たいサディストで、ただヤリたいだけのくせに「愛は感情の迷路だ」とか屁理屈をこねまわすダニエルに骨抜きなのである。教え込まれた愛欲の虜なのである。



テーマとしては、取りたてて言うほどのこともないほど陳腐なのだけれど、主演の二人がとにかく魅力的で、映画と役の雰囲気にピッタリとはまっていた。マリアンヌ・フェイスフルはこの映画以外は知らないが、それでも、この時が多分最も輝いていた時であることは分る。この時期にしかない魅力に輝いている。ドロンは黄金期のただ中あたりだろうか。青年と中年の端境期で、若い女を気まぐれで振り回す少壮教授に扮して面目躍如である。60?70年代で、青い瞳の男といったら、アラン・ドロンであった。ドスの効いた低い声に、漆黒の髪。確かに一世を風靡しただけのことはあるんだなぁとこれを見ながら納得した。この映画では英語のセリフをしゃべっているため、なれないせいか少し声が高めに浮いている。が、その「悪魔のようなあなた」ぶりは遺憾なく発揮されている。



結末は唐突に、しかし、予測はつく形で訪れる。いずれ悪魔に振り回されてはロクなことにはなりようもない。が、小娘の頃にこんな色悪に振り回されてみたかった、かも、などとチラと思ってしまったワタシであった。ダニエルという名の男には気をつけねばならない。

コメント

  • 2015/02/17 (Tue) 09:43

    1968年?頃、池袋の東武シネマにビートルズの「A HARD days NIGHT」を見に行ったら、それは前週で終了していて、仕方なく代わりに上映されていたこの映画を見た。当時、中学生だった俺には衝撃的な内容だった。しかし、この影響で「女」と言う物に対する見方が大きく変えられたことは事実だ。レベッカは真面目だけが取り柄の不器用な小学校教師の夫には当然、飽き足らずダニエルから送られたバイクに跨り彼の元へ向かう。その道すがら、脳裏に去来する淫らな記憶、妄想の数々により映画は展開していった思うが、何しろ50年近く前に一度だけ見てその後、見る機会が一度もなかったため細部は曖昧だ。しかし、あと僅かで彼の下へたどり着けるという気持ちの高揚でバイクのサドルの上で彼女は尻を弾ませ、唐突に事故により死が訪れる結末は鮮明に記憶している。色々と衝撃的な内容で、その後の人生に何らかの影響は受けた様だ。しかし、レベッカが峰不二子のモデルだったと言われれば正にそうだと思う。モンキーパンチもあの映画を見ていた訳か。成る程。

  • 2015/02/19 (Thu) 20:38

    草加一郎さん
    そうですか。リアルタイムで公開時にご覧になったんですね。
    改めて見ると、60年代色満載で非常にサイケデリックですが、それもまたご愛嬌です。
    峰不二子も、初期の峰不二子は殊にレベッカ風味な感じがしますね。

  • 2015/03/29 (Sun) 16:45

    私も高校生時代にこれを観た若者でしたが・・・。
    その当時、このマリアンヌ・フェイスフル、記憶がはっきりとしないが、確かローリングストーンズのミック・ジャガーの恋人だったのではないでしょうか・・・。

    何故か『幸福』に出たマリーフランスワヂュボワ?と脳内で被ります。

  • 2015/03/29 (Sun) 18:29

    ractyanさん
    「サムライ」にも書きましたが、ワタシはリアルタイムでこれらの映画を観た世代ではないんですよ。でも、おませな子だったので、TV放映されたものをちゃっかりと観てたんですね。ふふふ。
    マリアンヌ・フェイスフルはミック・ジャガーのグルーピーだったんでしたっけね。可愛かったからモテモテだったでしょうね。でも、アラン・ドロンは彼女の好みじゃなかったみたいです。なかなか難しいものですね。

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