「ボーン・アルティメイタム」

~The ultimate end~
2007年 米 ポール・グリーングラス監督

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ワタシ的には格別観る予定はなかったものの、「カジノ最後の鑑賞」以降、新たに映画の友になったHちゃんが「ボーン」を見に行きたい!としきりに言うので、行って参りました、観て参りましたよ「アルティメイタム」。
「アイデンティティ」を観たのはけっこう前で細かいことは忘れているし(クライヴ・オーウェンが出ていたこともさっぱり記憶になかった)、「スプレマシー」は例によってスタチャンが流していたのだけど、一度観かけてなんだか乗れずに途中で鑑賞中止してしまった。そんなわけでもう何がどうなっているのやらさっぱり分らず、の状態で「アルティメイタム」が始まった。いきなり途中ですよ。話の途中。どこの続きなのよ、これは…と思ったのも束の間、とにかく展開が早い。カメラが手持ちなのか終始動いて映像が揺れており、その画面の中で被写体も絶えず激しく動いている。もう画面が揺れっぱなし。ノンストップアクションというのはまさにこの映画の事で、インターポールに追われるボーンが、追っ手を捲くまで息もつかせない。効果音と終始動いている画面のお陰でスピードは3倍増に見え、アクションの迫力も軒並み3割増。おサル2号(1号はマーク・ウォルバーグ)ことマット・デイモン。アクションの切れ抜群。また、編集と撮影の妙味で嫌が上にも切れよく見えるんですよ。同じく編集と脚本がいいのか、何が何やら…の状態で見始めても、ちゃんと状況が把握していかれるように出来ている。畳みかけるようにダダダダ?とアクションシーンが入ると、少し静かなシーンが入り、またダダダダ?とアクションが始まる。この緩急のバランスが生理的なリズムに合っているのか、ちょうど頃合で、クドいとか疲れると感じるかなと思いきや、スパスパとしたスピードと切れが非常に心地良かった。
もうとにかく頻繁に切り替えショットが入り、短いカットで絶えず動いているシーンを歯切れよく繋いでいく編集がリズミカルで、自らは思考停止の状態で、次々判断し、動き、動きながらまた判断するボーンを見ているのはドーパミンが出るのか、なかなか快感だった。

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「記憶を失った元CIA諜報員が自らの過去を取り戻すため世界中を駆け巡る」ボーン・シリーズの最終作ということで、全ての謎が明らかになる本作。ボーンの謎に絡むマッド・サイエンティスト役でオッサン(爺さん?)役者の中でもワタシの大好きなアルバート・フィニーが登場する。役名もアルバート。なんと。随分爺さんになったなぁ。肩のところに何かいれて猫背っぽい感じを作り上げていたのだと思うけど、外見は爺さんになってもあの特徴のあるしゃべり方は健在だった。

自らの秘密の核心へ向けて怒涛の寄り身で肉薄するボーン。個人対組織の対決。圧倒的なパワーで迫ってくるモンスター組織を個人がいかに凌駕するのか?できるのか? CIA上層部での秘密工作の隠蔽に絡み、局長ヴォーゼン(デヴィット・ストラザーン)とパメラ(ジョーン・アレン)は対立する。厄介な生き証人ボーンは抹殺して、この計画の全ては闇に葬ってしまわねばならない。彼が全てを知る前に…。老獪なCIA長官を演じるのはスコット・グレン。イメージ的にCIA?FBI役者という感じ。ジョディの上司をやってた時はFBIだった(羊たちの沈黙)。グレンもちょっと観ない間に爺さん度が進行していた感じ。俳優って長らく変らないと思ってたら、少し観ない間に愕然と老けたりもする。

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この長官の命を受けて、ボーン暗殺にやたら殺し屋を放ってどこでも銃をぶっぱなさせる有能ぶった無能な中間管理職を演じるのがD・ストラザーン。メガネの奥の目がびくびくと動き、「誰も俺のダメさにまだ気付いてないな?だよな?」と窺っているかのような、ポジションと能力の釣り合わない男をうまく演じていた。歯車の悲哀さえ漂っていたのはストラザーンならでは。

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彼と対立する女性指揮官のパム、痩せて猛禽類のような容姿に切れ者という雰囲気が横溢。大勢の尾行や殺し屋を放って全くボーンの所在も掴めなかったヴォーゼンを尻目に、捕獲作戦に投入された彼女は、あっという間に鮮やかな推理で手がかりを探り出す。このへんの能力の対比も見所。

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CIAの指令本部が映る時は固定カメラで映像も安定して落ちついているが、ボーンのシーンになると、途端にカメラが揺れ、ボーンは絶えず動き、目配りし、走り、早足で移動し、たまに誰かを殴っているという感じである。

また、いつ来るとも知れぬ指令をじっとホテルに待機して待つ殺し屋バズ(エドガー・ラミレス)や、モロッコでの不気味なターミネータのような殺し屋・デッシュとの手に汗握るチェイスと闘いも勿論、見所である。殊に殺し屋バズは登場した瞬間にタダモノならない空気を醸し、強敵オーラがぷんぷん。彼に狙われて生き長らえるのは至難の技、という感じをビュービューと出していた。
タンジールで、アルジェのカスバのように入り組んだ白いレンガの家の屋根屋根を、ボーンがカッ飛んで行くスピード感溢れるシーンも印象深い。ボーンは現地の警察に追われて屋根の上を逃げ、

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ボーンに協力するCIAの女エージェント・ニッキー(ジュリア・スタイルズ)は裏切りがばれて、ニコリともしない無表情の殺し屋デッシュに迷路のような中東の町をどんどん追い詰められる。とにかく、こういう緊迫したシーンでの細かいカット割りが非常に効果的。画面の動きが早い上に、揺れる画面の中で絶えず人が動いているので、全容を目で追いきれないのだが、それが更なる緊迫感と迫力を生むのだと思う。全く撮影監督・オリヴァー・ウッドと編集のクリストファー・ラウズ。いい仕事をしております。今回は特にこの2人が作品全体に及ぼした効果はタダゴトじゃないと思われる。

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記者と

ボーンの秘密に絡む作戦を関係者の密告により知ってしまった英新聞の記者が、秘密作戦名を携帯で一言発しただけで、あっという間に世界中にちりばめられたCIAのセキュリティモードに引っかかり、忽ちにして身元を探知されるシーンもスリリング。全く国家権力の元に、国家保安という名目で最新技術と昼夜を問わないスタッフの投入によるナンデモアリが出来たら、出来ない事は殆ど無いし、ターゲットにされた個人が生き延びられる確率などゼロだろう。怖いねぇ。
CIA=アメリカ、またFBI=アメリカという気がして仕方がないのだけど、今回はまざまざとそういうニオイを感じた。ワタシは中国人になりたくないのと同じぐらいの強さでアメリカ人にもなりたくない。文化的側面では部分的にはいいところもあるアメリカだが、旅行でちらっと行くぐらいならいいけれど、アメリカ人になど絶対になりたくないし、アメリカにも住みたくない。カナダ人は北米にいて隣り合っているだけにアメリカの実態をよく知っているので、出稼ぎには行くが絶対にアメリカ人にはなりたくないと思っている人が大半なんだとか。さもありなん。
ボーンが英新聞の記者に接触し、自らの秘密に近づく為に彼を守ろうとあれこれ指示を出すシーンも、リアルで臨場感があった。なんでも出来る不死身のボーンに右も左も分らない素人を絡ませることで、余計にボーンの生きる世界の異常さ、ボーンの特異な能力の高さ、迫り来る危難をどうかわすのかなどの目線が一般ピープル寄りに降りてきて、凄いものはより凄く見えるという効果を生むし、自分のような普通の人がこんなところに巻き込まれたら、そりゃ?、こうなっちゃうでしょうよ と共感させる効果もある。

とにかく、全編猛烈なスピード感。テンポがいいなどという次元を超えたスピード感である。
だから、よく考えたらダイハード・マンのジョン・マクレーン以上にあり得ないほどの不死身っぷりを発揮するボーンについて、鼻につくとか、あり得なさにしらける、などという隙を与えないのだ。次から次へとノンストップで色んな事が起こっていくので、目の前で繰り広げられている事をこれはこうで、あれはああだから、こうなっていってるのね、などと反芻しながらついていくのが精一杯。余計な事は一切考えられない。

そして、個人がCIAのようなモンスター組織の鼻を明かそうと思ったら、それこそ、何カ国語も流暢に話せて、国際手配されているのに各国を自在に出入りし、初めての場所でも来たことがあるかのように色々なものの位置をしっかりと把握できて、矢継早に次にどう動けばいいか判断でき、車の運転はレーサー並みな事は言うまでも無く、その車が追突されて横転しても、駐車場ビルの屋上から墜落しても、暫くすると何事もなく車の中から這い出てこられるほどにタフでなくてはならないのだ。そんな人間などいない。映画の中にしか。
というわけで不死身極まるボーンだが、何故かエエ??と引く感じはせず、納得して観ているのが我ながら不思議だった。格闘シーンでのアクションの切れ度合いはかなりの迫力で、最終作にしてMAXに磨きがかかったな、という感じ。

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アクションシーンばかりでなく、彼に協力する女エージェント・ニッキー(演じるジュリア。非常に不思議な造作の顔)との間に何かあったらしい過去もちらと匂わせて、人間ドラマやボーンの感情面の揺れやトラウマ、CIA内部の人間関係なども過不足なく描かれている。ラストもいかにもで文句なし。2作目を観てないのでなんともいえないけれど、「アルティメイタム」はシリーズ中アルティメットな作品だろうと思う。 スパイ・アクションとしても超ド級のパワーとスピードだった。脚本も隙がなく、面白く観終えた。

エンドタイトルを観ながら同じ路線でこれを抜こうと思ったら「Bond22」はちと大変だぞ、と感じた。(というか無理かも)
この際、スピードと切れと迫力のアクションなどでボーンとは張り合わずに、ボンドさんはやはり英国紳士の余裕とゆとりとエレガンスの部分を次回はうまく出して、成長したボンドっぷりを見せる方向で行った方がいいと思う。
ちなみに、また戸田ナッチが主題歌にまで訳を入れていた。
誰が何と言おうと、あれは要らないと思う。

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