「天使と悪魔」  (ANGELS & DEMONS)

~汝、狂信するなかれ~

2009年 米 ロン・ハワード監督

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このシリーズ、前作「ダヴィンチ・コード」は前宣伝が激しく、やたらに煽り立てていたものの一向に食指が動かず、劇場へも勿論行かず、随分たってからCSで流れて来たのを観賞したが大山鳴動して鼠一匹も出ず、みたいな気分になった。その続編という本作も劇場で観たトレーラーはなんだかなぁな印象で、到底観るべきシロモノではないという気がしたのだけど、それでも一点だけ気になるポイントがあった。それはユアン・マクレガーが出ているという事。最近はちょっと生彩を欠くユアンだけれど、これに出た事は吉と出たのか凶と出たのか、どんな事になっているのかだけは少しだけ気になっていた。ところへ、先週知人が本作を観てきたとかで、「バチカン・ロケは劇場のスクリーンで観た方がいいし、一種の内幕モノだから野次馬根性も刺激されるし、ユアンも重要な役どころで頑張ってたよ」という感想。あぁバチカン・ロケか。それは確かにちょっとそそられるわね。それに、ユアンがどう頑張っていたのかも気になるし…、というわけで近所のシネコンでポイントが溜まって1本タダになる機会を、バチカンに捧げてみることにした。
原作小説では、この「天使と悪魔」の方が第1作目だという事だが、映画としては前作の続編という設定で、ルーヴルの一件以来バチカンに睨まれている宗教象徴学者ロバート・ラングドン(トム・ハンクス)が、当のバチカンの要請を受け、弾圧されて消滅したと思われていた秘密結社イルミナティの「バチカンへの復讐」を阻止すべく、かの地へ赴く。折りしもバチカンでは法王の逝去で次の法王を選出するコンクラーベが開かれようとしていた。時を同じくして、スイスのCERN(欧州原子核研究機構)から恐るべき破壊力を秘めた“反物質”が盗み出され、次期法王候補の四人の枢機卿も何者かに誘拐されていた…。

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というわけで、トム・ハンクス。いきなりプールで泳いでます。ちょっと痩せているので誰かと思ったらトム・ハンだった。この人は最近、これ(ロバート・ラングドン役)ばかりやっているような気がするけど、大丈夫だろうか。ちょっと見ない間にぷわんと太る、というイメージだったトム・ハンだが、最近は体重も引き締め気味。ラングドン教授役のために絞っているという事なのかどうか分からないが、眉間にシワをよせて薀蓄を振り回しているものの、何だか影が薄くなったように感じる。そもそも、この教授役はどうしてトム・ハンがやることになったのだろうか。ロン・ハワードとのお友達関係により、という事だろうか。悪くもないけど良くもなくて、ラングドンにとってもトム・ハンにとっても、互いに必然性がないような気がする。

それはさておき、今回はバチカンの内幕モノっぽいノリもあり、よろず内幕モノに弱いワタシ、このへんはけっこう興味深く観た。もちろん内部で撮影などできぬだろうので、内部のシーンはCGかセットで頑張ったのだろうけれど、スイス・ガードの本部だの、法王の執務室だの、カタコンベだの、なんだのかんだの、それらしい雰囲気が出ていてふぅ?ん、といつの間にか身を乗り出していたりして。その上、カトリックの司祭姿でユアンが登場。黒い僧衣が似合っている。祭祀の時に上から羽織る白いピラピラした上着も、なんか幼稚園児のうわっぱりみたいで可愛い。またこれもよく似合っております。そんなユアンはカメルレンゴという役職の坊さん。カメルレンゴは法王の侍従で教皇庁の管理業務と財政面も管理しているらしい。坊さんの位としてはただの司祭なのだが、法王が逝去後の服喪期間中、次期法王が選出されるまでは一時的に法王の権限を持つことになる、というわけで、確かにユアン、重要な役回りですよ、これは。

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シュトラウス枢機卿(アーミン・ミューラー=スタール)とカメルレンゴのユアン

カメルレンゴを息子のように慈しんだ法王が亡くなった上、恐るべき秘密結社イルミナティが復活し、四人の枢機卿を拉致して、ローマ市内の教会で一人ずつ殺害すると予告してきた。しかもスイスで盗まれた反物質は市内のどこかに安置され、爆発するのはおそらくその夜12時。枢機卿たちの処刑の総仕上げに反物質を爆発させるつもりなのだ。おそるべき破壊力を持つ反物質が爆発してしまうとバチカンはおろかローマごと吹っ飛んでしまう。カメルレンゴはコンクラーベを延期して全市民を退避させようとするが、法王選挙の責任者・シュトラウス枢機卿はこんな時こそコンクラーベを開催すべきだ、と選挙権を持つ枢機卿たちをシスティナ礼拝堂に集める。

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法王が死ぬと、まずその法王がはめていた指輪にノミを入れて割ってしまうシーンが印象的だった。そしてコンクラーベの際には、枢機卿たちは礼拝堂に閉じこもり、扉は外から鎖で封印される。この枢機卿たちは世界中から集まってくるのだが、寺院に入る前に外で煙草を吸い、入る時には入り口で煙草などは没収されるのも面白い。坊さんもやはり煙草は吸いたいのね。そうか、そうか。

バチカンはカトリックの総本山であり、小さいけど独立国家でもある。銀行も持っている。それより何より、ヨーロッパ文化の表と裏、みたいなものの坩堝、あるいは縮図のような気がする。キレイゴトの建前と後ろ暗く血塗られた裏側と。バチカン市国の警備にあたるスイス・ガードはまるで芝居の衣装のように派手な制服を着ているが、おもちゃの兵隊のようでもレッキとした軍人。鍛えられたツワモノなのである。ちなみに、このスイス・ガードのきらびやかな衣装はミケランジェロのデザインだというのは有名。いかにもイタリアンな色使いといい、いまだに斬新な感じがするのはさすがである。

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バチカンのスイス・ガード(画像はWikipediaより)

さて、今回、ラングドン教授が知恵比べをするのは「秘密結社イルミナティ」なるものだが、映画の公式サイトによると、17世紀、カトリック的世界観に反する発見や理論を展開した科学者、芸術家、建築家、医師たちが作った秘密結社で、教会の迫害を懼れて地下に潜り、表の世界では政府や主要機関に入り込み、影響力と社会的地位を増大させていった組織で、その代表とされる人物がガリレオ・ガリレイ。地動説のガリレオの頃にイルミナティと教会の対立は先鋭化。四人の科学者が捉えられ、胸に焼印を押されて公開処刑された。その時の報復を、この2009年の今日に行うというんだから、驚くべき執念深さであり、それまでの間の長い沈黙は一体ナニ?とか思ったりもするのだけど(これ以上書くとネタバレに繋がるのでこのへんで)、イルミナティがどうこうよりも、枢機卿たちが順次、処刑される予定の教会を探り当てるべく、教授が法王庁の保有する歴史文書の閲覧を許され、厳しく管理・ガードされた古文書保管室に入り、ガリレオの著した文書を閲覧するシーンなど、本物じゃないにしても書庫はこんな感じなんでしょうね、劣化を防ぐために酸素の量もセーブしてるのね、ふぅん、と内側を垣間見られるのが面白い。
そして、展開が非常にスピーディ。ぽんぽんとテンポよく飛ばしていく。前半、ラングドン教授が説明セリフ的にイルミナティやその脅迫文の文句について薀蓄をひけらかすシーンは正直、聞き飛ばしモノなのだけど(原作も読んでないし)、こじつけめいた解釈であっちだ!こっちだ!と市内を車ですっ飛ばし(狭い道をけっこうなスピードで走る)、早めに手がかりを掴むわりには、枢機卿が殺害される予定の時間の数分前にしか現場に辿りつけず、現場で象徴的な彫刻などを探して右往左往するうちにタイムアウト間近になってあわわわわ、というのが繰り返される。教授は何の訓練も受けていない一介の学者なのに、兵隊や警察より体を張って頑張ってしまうというのはこの手の映画のお約束。ともあれ、めまぐるしく動いていく画面を追い、話を追っていくうちにボーンとクライマックスがやってくる、という感じで、展開の早さとバチカンの裏側という物珍しさで最後まで飽きさせず、ラストはお約束のドンデンありで、エンターティメントとしては前作よりずっと面白かった。気分転換に何か観たい、という時には最適かもしれない。適度にスリリングだし、観光気分も味わえる。

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トム・ハンクスと女性科学者役のアイェレット・ゾラー

昨今、ハリウッド進出がめざましいステラン・スカルスガルドがスイス・ガードのリヒター隊長役で登場。なんかヒトクセありそうな顔つき。うふふふふん。でも隊長はあのおもちゃの兵隊服は着ていない。残念。
なにかとカメルレンゴ(ユアン)と意見が対立し、落ち着き払った様子がなんだか胡散臭いシュトラウス枢機卿にアーミン・ミューラー=スタール。この人も昨今よくお見かけする。薄青い目に枢機卿の緋の衣がよく似合っていた。
また、スイスの研究所から盗まれた反物質対策で駆けつけた女性科学者ヴィットリア役にアイェレット・ゾラー。適度に美人で科学者らしいクールな感じもあり、緊迫した画面に女性が絡むとありがちなモタツキもなく、邪魔にならずに少しだけ花を添えるという役回りにちょうどハマっていた。

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今回はスイス・ガードの隊長役のステラン氏

そして、お目当てユアン。僧衣が可愛い七三分けのユアン。さしもの童顔も昨今深いシワがあちこちに刻まれてきて、ユアンも老けたなぁ、と思う事が多いけれど、その好青年ルックスは健在。そして、まさに今回の役は彼の好青年ルックスが肝。あぁもう、これ以上書いてはいけませぬね。確かにユアン、あれこれ頑張ってました。ワタシとしてはもう一息エッジを効かせた感じで演じて欲しかったという気もするけれど、近年の出演作の中ではまずまずというところだろうか。

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最初から最後までテンポがいいのでダレずにくぃーっと観賞することができる。後に何も残らないが娯楽作としては面白いので観て損はないですね。それにしても、普段は閉ざされているところに入るって、なんだか一番ワクワクする事ではなかろうか。バチカンの資料室だの大昔に作られた秘密の通路だの…。コンクラーベや、バチカンの内幕についてはチラっと「ゴッドファーザーPart3」でも垣間見たけれど、長年に渡ってキレイゴトの裏側で陰謀の渦巻いてきたところだけに、お話を作ろうと思ったらいくらでも作れそうな場所ではある。
それにしても、ユアンのカメルレンゴは聖人に加えられる事になるのかすぃらん。なんでもブラックホールのように吸収してしまうバチカンなら、それもアリかもしれませぬね。クワバラ、クワバラ。

コメント

  • 2009/05/28 (Thu) 00:24
    待ってました。

    今これにはまってましてkikiさんが書かれるの、待っていました。「ダヴィンチ・コード」は???でしたが原作を読んだら面白く「天使と悪魔」も原作が面白かったので前売りを購入して公開されるのを待って速攻見てきました。
    原作が長いので物足りない部分もありましたが、映画は映画で楽しめました。
    「幼稚園のスモック」または「ドリフターズ」の白いピラピラ姿のユアン、良かったですね。女優さんに関しては文句の多い(?)私ですが、アイェレット・ゾラー、素敵でした。好みの美人っぷりなのに「ミュンヘン」でも「バンテージ・ポイント」でも印象に残っていないのが不思議です。
    そして、そして、今はまっている要因なのですが、オリベッティ氏がストライクゾーンだったのです。あの手のお顔、好きです。だからあのあっけない退場にはがっかり・・・でした。

    それにしても・・・ラングドン教授はどんなに絶体絶命の状況も潜り抜ける・・・

  • 2009/05/28 (Thu) 01:31

    私はこのシリーズだけは原作を先に読むようにしています。頭の中で想像していたのを映像で脳内補完というか・・・。
    でもこの作品、原作と決定的に違うことが一つあるんですけど、かえってその方が良かったなあ・・・と。4人目の枢機卿の運命なんですけどね。映画版ではホッとしました・・・。
    ただ、カメルレンゴのエピソードは絶対原作の方がいいので(彼の行動の理由がわかります)、機会があったら原作を読んでみてください。

  • 2009/05/28 (Thu) 07:55

    Rikoさん。原作は面白いみたいですよね、これ。まぁ、映画化するとなると時間の制約とか色々あるので、なかなか難しいんでしょうけれど。長くじわじわと色々な事について説明されてある原作を読まないとハテ?というところが出てくるのは否めないかもですが、「天使と悪魔」は原作を読まずに観たワタシにも、それなりに面白い作品になってたかなと思います。Rikoさんはオリベッティ刑事がお好みでしたのねん。ワタシの友は実行犯の彼がイケメンだわ、とか言ってました。ワタシにはひたすらバチカン内部が興味深かったざます。

  • 2009/05/28 (Thu) 07:56

    mayumiさん。そうですか。四人目の枢機卿の運命を変えてあったんですね。そこはやはりハリウッド流ですね。でも、確かにそのほうが良いような気がします。で、ユアンの演じたカメルレンゴについてはもっと書きたかったのだけど、ワタシにしては珍しく今回は極力ネタバレなしに書く事にしたので、カメルレンゴについては何も書けなくなってしまって…(笑)確かに映画ではただの狂信者みたいな感じになっていたので、ちょっと彼の内面について知るために原作を読んでみるのもアリかもしれませんね。

  • 2009/05/30 (Sat) 01:29

    こんばんは。この映画はkikiさんは見に行かないだろうと勝手に思っていましたが、行ったのですね。ユアンのために。うふ。私も友達に誘われなければまず行かなかっただろうけれど、行ってみたらことのほか楽しめました。ユアン可愛かったですね、相変わらず。プロット的にはなんとなく読めちゃうところがあったにもかかわらず、楽しめたのはやはり内幕ものが楽しいせいなんでしょう、だいたいイタリアにも行ったことのない人間なのでいちいち感心してほぉーーと思いつつ鑑賞してました。

  • 2009/05/30 (Sat) 10:17

    Sophieさん、確かに全然観る気はありませんでしたわ。でも知人からバチカンの内幕とユアンの頑張り、という2つのキーワードでレコメンドされてしまい、ちょっと心が引っ張られてね(笑)案外面白かったので食わず嫌いをしないで良かったと思いましたが、カメルレンゴをあまり興味の持てない俳優がやってたら決して観に行ってないだろうな、と。キャスティングって重要。これを観た後で、たまたま前作「ダヴィンチ・コード」を観たらそれなりにちゃんと作ってあって前に観た時の印象ほど悪くはなく、「天使と悪魔」よりは重くて複雑な感じでしたが、あの映画は全体のトーンがどうも乗れなくてねぇ、陰鬱で。「天使と悪魔」は内幕物+吹っ切れたエンターティメントになっているのが良かったかも。ユアンの役をジェイク・ギレンホールがやってたら、もっと乗り出して見ちゃったかも。(笑)

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