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「名探偵ポワロ」シリーズ

~探偵は灰色の脳細胞と身だしなみと愛嬌が大事ですよ、モナミ~

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イギリスTV局制作の名探偵シリーズの双璧といえば、グラナダTVの「シャーロック・ホームズ」シリーズと、LWT制作の「名探偵ポワロ」シリーズだろう。どちらも非常に完成度が高く、時代考証をきっちりと行ったセットや美術や衣装小道具の上に、イメージぴったりの俳優が主役を演じて、双方の映像化作品の決定版になっている点でも双璧のシリーズだ。シャーロック・ホームズを演じていたのは、まさにこの人をおいて他にホームズは居ないだろうジェレミー・ブレット。最高の当り役だったが心不全で95年に亡くなった為、ホームズ物の新作はもう見られなくなってしまった。一方のポワロことデヴィッド・スーシェは健在なので、ポワロ物の長編は数本ずつ現在も制作が続けられている模様。今後もポワロさんを楽しめるのは嬉しい限り。ワタシはこの2つの名探偵シリーズは無論どちらも好きだけれど、ポワロ・シリーズの方がより一層好みである。
なんたってポワロ・シリーズは1930年代のお話。アール・デコの時代なんですもの。
ワタシがいわゆるアガサ・クリスティの「ポワロ」物を最初に観たのは、あの絢爛豪華な「オリエント急行殺人事件」(1974年/シドニー・ルメット監督)だった。例によってTVの洋画劇場による放映を観たのだが、優美なアールデコ様式のタイトルバックのオープニングからして既にワクワクものの本作、綺羅星のごとき大スターがこれでもかと登場する豪華なキャスティングに加え、オリエント急行のセットの見事さ、演出の巧みさなどで、劇場用ポワロ映画としての傑作だとは思うが、唯一の瑕瑾は当のポワロ役のキャラ設定。ポワロを演じているアルバート・フィニーは大好きな俳優なのだが、この作品でのポワロは声も姿もキャラも作り込み過ぎでいただけない。なかんずく、そのキャラ設定が嫌味に作られ過ぎていて、もうちょっと愛嬌と品があってもいいんじゃないのかしらん、と昔からそこだけは不満だった。

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さしものアルバート・フィニーもちょっとこの役作りは失敗気味

物凄くゲテモノチックな厭な奴に描かれているのだ。あのゲヘゲヘした笑い声をはじめとしてこの作品のポワロはどうにも雰囲気がよくない。あとはトルコを出発する豪華列車の旅立ちのシーンといい、登場人物がそれぞれに列車に乗り込んでくるシーンといい、華やかでゴージャスで、時代色が出ていて最初から最後まで言う事はないのだけど…。ヴァネッサ・レッドグレーブも、ジャクリーン・ビセットも綺麗の盛り、執事役のギールグッド、ツイードを着た大佐役のコネリー、下品にまくしたてるR・バコール、何をやっても同じような感じのアンソニー・パーキンス、アクの強い被害者役のR・ウィドマーク、そしてモゾモゾした地味な役でオスカーを獲ってしまったイングリッド・バーグマン…。あぁ、語りだすとキリがないですねぇ。このへんにしておこう。

次に映画でポワロを演じたのはピーター・ユスチノフ。なんかねぇ、でかすぎるのねん。ポワロは小男だと原作にもハッキリと書いてある。たっぷりした白いスーツのでっぷりと大きな、カーネル・サンダースみたいなポワロなんて、まさにノン、ノン、モナミ!である。「ナイル殺人事件」や「地中海殺人事件」など原作としては面白げなところを映画化していて、まぁ悪くない出来かなと思うけれど、う?ん。やはり、ワタシ的にはノン、ノンな感じは否めない。

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なんか、ちょっと違うんですのよね

そのへんの「うーむ」を見事に解消してくれたのが、イギリスLWT制作のTVシリーズ「名探偵ポワロ」だ。このシリーズでポワロを演じるのはご存知、デヴィッド・スーシェ。いいですねぇ、かわいくって。何より上品で愛嬌があるのが最高である。灰色の脳細胞にもかわいげは必要なのだ。このシリーズは実にTVシリーズとも思えないほどお金をつかってきちんと時代考証してあって、ポワロの活躍の背景に映る建物や車、登場人物の衣装やインテリアなどを眺めるのも観賞の楽しみのかなり大きな要素を占める。

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タイトルデザインもお約束のアールデコ・スタイル
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当り役になったデヴィッド・スーシェ

ポワロの住まいはロンドン市内のマンションなのだが、この部屋がまた実にきちんとアールデコ様式でデザインされていて、ポワロと言えばアールデコ、というポワロ物のポイントをきっちりと抑えた美術の意識に舌を巻く。シリーズを通してアールデコ様式をかなり強く意識して作られていて、ポワロの住まい兼オフィスから、依頼人の屋敷や、ホテル、別荘など、登場する建物には出来うる限りアールデコ様式で建てられたものをロケに使うなどして、ポワロ的世界観を揺ぎなく構築している。この努力には本当に頭が下がる。だから、シリーズの中で同じ建物を別の設定で撮影に使っている事もままあるけれど、それもご愛嬌。イギリスといえども、アールデコ様式の建物なんてそうそう幾つも残されてはいないでしょうしね。(日本なんて現存しているのは例の旧朝香宮邸・現目黒庭園美術館ぐらいだろう)美術担当は相当なコダワリ屋さんだな、と思う。その種のコダワリって大好きなので、ポワロシリーズはそういう面でもポイントが高いのだ。

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ポワロの住むマンション 外観
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ポワロのオフィス兼住まい アールデコ調の内装

さんさんと陽のさしこむ窓を背後にデスクに座るポワロ。オフィスに居る時にも実にきちんとした服装をしている。ウィングカラーのシャツに蝶ネクタイ。背広の下にはベストをきちんと着て、懐中時計の金鎖が粋に覗いている。常にスパッツ着用。その下にはぴかぴかの黒いエナメルの靴。ポワロは非常なオシャレさんなのだ。そんなにきちんとした格好をしているのに外出するとなれば更に着替える。外出着は丁寧にプレスされた、いい生地を使ったスーツを身奇麗に着こなしている。季節により、その上に仕立てのいいロングコートを羽織る。山高帽子に上等な手袋もかかせないアイテムだ。常に細身のステッキを持ち歩き、独特のチョコチョコというか、チョピチョピした歩き方がなんとも言えない。動作や話し方、態度物腰が上品で、丸いお腹を突き出した姿にえもいわれない愛嬌がある。自分の脳細胞の働きには並々ならぬ自信を持っているし、プライドも高いが、それをにこやかな笑顔と柔らかい物腰で包んでいるのがスーシェのポワロ。「エレガント」である事が大事なのだ。そこがアルバート・フィニーのポワロと決定的に異なる部分だ。

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オシャレなポワロ 右は秘書のミス・レモン

そしてセリフの合間、句切れ目に一言挟まるフランス語。ワタシの手元には録画した字幕版の長編が6本程あって、それ以外にはNHKが制作した吹替え版をCS等で時折観ているのだけど、どちらで観てもいい感じである。日本語吹替え版はポワロに熊倉一雄氏。もう最高である。(ちなみにジェレミー・ブレットのホームズの吹替えは露口 茂氏<山さん>だった)
ポワロがよく繰り出す言葉は、「ボン!(よろしい)」「エ・ビアン!(では)」「モン・デュー!(これは、これは)」「モナミ(あなた)」「ヴォワラ!(そら)」などだが、熊倉さんの吹替えで聞いても、デヴィッド・スーシェ本人の声で聞いても何か可愛く、それらしくて良い。

これまでの映画化作品では英国以外の場所を舞台にした大掛かりな話が多いので、ポワロ以外のお馴染みキャラは登場しないのだが、このTVシリーズではレギュラーとして、元軍人にしては暢気でお坊ちゃんぽいヒュー・フレイザーのヘイスティングス大尉、釣りあがった眉毛だが、おっとりしたハイミスの秘書、ミス・レモン、そして有能なんだか間抜けなんだかよく分からないジャップ警部らが頻繁に登場する。ワタシはフィリップ・ジャクソン演じるジャップ警部もなんとなく好きだ。なんかこんな感じのヌボーっとした犬って居るでしょ。ちょっと可愛い。

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暢気なヘイスティングス(左)と間伸びした大型犬みたいなジャップ警部(右)

建物ばかりでなく、車などはクラシックカーの登場は当り前として、蒸気機関車や昔の列車のコンパートメント、双発エンジンの小型旅客機など、可能な限り手抜きをせずに時代色を出している事には、ほんとうに毎度、敬意を表する。そういう大物から、室内インテリアや、食器や装飾品などに至る小物まできちんとその時代の特色が出たものを使っていて、どこも手抜きをしていない。
TVシリーズとしては実にアッパレな事だと思う。

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物語に登場するアールデコ様式の建物 

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シーンの背景にさりげなくアールデコの意匠が入っている 
TVドラマでこのコダワリは見事

デヴィッド・スーシェのポワロで「オリエント急行殺人事件」を映像化する際は、豪華版のキャストを組んで劇場用映画として観たいものだと思う。今「オリエント急行」をデヴィッド・スーシェで映画化するとしたら他のキャストは誰がいいかしらん。ロシアの公爵夫人役はデンチさんか、はたまたお婆さんになったヴァネッサ・レッドグレーブ。すぐに刺されちゃう被害者役ラチェット氏はトミー・リー・ジョーンズなんかどうでしょうね。アーバスノット大佐はGサマあたりで。バコールが演じたハリエット夫人はケイト・ブランシェットがいいかな、ちょっと若いけど彼女なら大丈夫でしょう。バネッサ・レッドグレーブが演じたミス・デベナムはニコマンかグィネスあたり。アンドレニ伯爵夫人はキーラ・ナイトレイかな。その夫の伯爵にジェレミー・ノーサム。バーグマンが演じたミス・オルソンはダイアン・ウィーストなんかどうかしらん。A・パーキンスが演じたラチェット氏の秘書にはジェームズ・マカヴォイ。J・ギールグッドが演じたラチェット氏の執事にアンソニー・ホプキンス。うふん、我ながらなかなかいい感じじゃないですの。…でもこんなに周囲が豪華だと、さしものデヴィッド・スーシェも霞んじゃうかしらん。「ノン、ノン、モナミ、そんな事はありませんよ。ラストをシメるのは私です」という声が聞こえたような気がしたところで、そろそろお開きと致しますかね。

コメント

  • 2009/05/30 (Sat) 23:01

    私は最近ようやくポアロシリーズを全部読み終わりました!映画は「オリエント~」と「ナイル殺人事件」と「地中海殺人事件」を観てます。「死海殺人事件」もあるらしいんですけど、これはレンタルで見つからず・・・。
    確かにアルバート・フィニーのポアロはメイクに何時間もかかっただけあって凝ってるんだけれど、キワモノっぽいし、ピーター・ユスチノフは確かにでかすぎますよね。デビット・スーシェのTV版は観たことないんですけど、イメージ的にピッタリですよね。ヘイスティングスも出てるんだー。ポアロのキャラクターの中でも彼が特に好きなんですよ。純粋で、人を信じやすくて、そしていつもポアロにからかわれる、と(笑)。

    ちなみに今はミス・マープルを読んでるのですが、想像と違って噂好きで詮索好き、隣人の行動を逐一チェック、という側にいたらすごく迷惑!なキャラクターに少々辟易しています・・・。

  • 2009/05/31 (Sun) 10:00

    mayumi さん、ポワロシリーズを全部読破されたのですの?そんなにまでお好きなら是非ともデヴィッド・スーシェのポワロを見て下さい。原作好きな人には納得の完成度だと思いますよ。きっと気に入ります。間違いない。このシリーズを未見というのはちょっと意外でした。これってレンタルが出てないんですね。そうか…。ワタシはというと、クリスティ作品は映像の方に馴染んでいて、原作は長編、短編合わせても5~6作品ぐらいしか読んでいないですが(笑)そんなワタシでもこのスーシェのポワロ・シリーズには非常な満足感を感じます。綺麗な映像に鉄壁の美術で本当に見事ですよん。もちろん、一番いいのはスーシェのポワロですけどね。ヘイスティングスもぽわんといい味わいです。それにしても、ミス・マープルはそんなハタ迷惑婆さんなんですか。いやだなぁ。現実にそこいらにいたら、ただの鬱陶しいお節介婆さんなだけかも、ですね。ぷふ。

  • 2009/05/31 (Sun) 15:41

    このシリーズ、とても楽しみに見ていました。原作は読んではいるはずですがほとんど忘れています。ただ、ポアロはきざな小男で臆面もなく優秀な頭脳をひけらかすかなり嫌味な人物に描かれているという印象がありました。人好きはしませんよね。それを、デヴィッド・スーシェは、実に可愛げのあるおしゃれな探偵に作り上げたので、癖のある鋭さが減った代わりに、毎回、お会いするのが楽しみ、というようなドラマになって、放映を待ち望んでいたものです。見逃しているものもかなりあると思うのでレンタルしたくなりました。(レンタルDVD出てますよ。)kikiさんのおっしゃるように、セットデザインが見事で、私もいつも感心していました。ロンドンの街もよかったけど、時に出てくる郊外のお屋敷なんかも素敵でした。デヴィッド・スーシェをほかのドラマで見て、あー、普通に歩いてる! とびっくり。声もすごく良くてきびきびして、若々しかったです。
    あ、それから露口茂が「今は亡い」と書いていらしたので、今村昌平の映画でファンだったこともあり、ググッてみましたら、どうもはっきりしません。長期病気療養中、引退、若い時代を過ごした松山に移住、2、3年前に死亡、と情報が交錯しております。どうしていらっしゃるのか。

  • 2009/05/31 (Sun) 19:02

    たむさん。確かに、原作にもないのにアルバート・フィニーがあんなポワロ像を作る筈はなく、けっこう厭な奴で自信満々という感じはありますよね、ポワロって。(でもフィニーのポワロは下品なのが一番問題かと…)スーシェのポワロも短編の第1作目ではけっこう嫌味な感じのキャラなんですよ。「私は国家的大事件しか引き受けない」とか言ってヘイスティングスが新聞記事であれこれ読み上げる事件の見出しにどれも「ノン!」と言うんですね。その挙句に料理人の失踪とかいう詰まらない依頼を引き受けるハメになり、それをジャップ警部には黙っているようにヘイスティングスに口止めしたりして(笑)でも、途中からスーシェ独特の可愛さが出てきて、最後には「どんな事件もゆるがせにはできない」と体裁にこだわっていた自分を反省したりして、結局1作目からかわいいキャラなんですが、自信家なところもプライドの高いところも嫌味にまで達しないのが味かな、と。レンタルありましたか。ですよね。長編では「ナイルに死す(ナイル殺人事件)」なども制作されてますので、ユスチノフ版と比較しつつご覧になるのも一興かもですね。でも映画化もされている長編よりも、1時間ものの短編の方が好ましい作品が多いような気もします。映画化されていない長編はまた一見の価値ありかもですね。
    で、露口 茂さん、随分前に訃報を目にしたと思っていたんですが、気のせいだったのかしらん…ご存命かもしれないんですね。失礼しちゃいました。本文も修正しました。こういう事は気をつけないといけませんね。生死に関する事は特に思い込みや曖昧な記憶で書かずに一応調べてから書くべきですね。反省。

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