「エンゼル・ハート」

~悪魔の笑顔と長い爪~

1987年 米 アラン・パーカー監督

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ミッキー・ロークが大人気だったのは80年代?90年代の初頭まで。(ちょうどジョン・ローンの流行っていた時期とかぶる)90年代後半以降は時おり変り果てた姿でスクリーンで見かけるが、ファンでもなんでもないワタシでも、その変り果てっぷりには何かしら感慨のようなものを禁じえない。あまつさえボクシングで崩れた顔の整形が失敗して昔の面影は覗えなくなったが、あのぶさまな猫パンチ以降もキャリアが続いてきたのは何よりだった。蘇ったとされる「レスラー」には、あまり興味を惹かれないが(観なくても予測がつくし)、映画館で何回かに1回の割りで「レスラー」のトレーラーを観ていて、いかに印象が変ろうとも目だけは昔のままだなぁと思ったりしているうちに、何故かミッキー・ロークの昔の主演作が見たくなった。「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」やら「エンゼル・ハート」やら。そう思っていると不思議に放映されたりするのが映画チャンネルの面白いところ。そんなわけで偶然にも、実にかれこれ20年近く前に観たきりだった「エンゼル・ハート」を久々に再見した。

梗概:謎の人物からの依頼で、失踪した人気歌手の行方を追うブルックリンの私立探偵。だが、彼の行く先々では奇怪な殺人が続発、事件の全貌を知ろうとした探偵を待っていたものは思いもかけない真実だった……。

というわけで、これは何というかイメージだけで押す雰囲気映画。味つけにブゥードゥー教だの、占いだの、鶏の脚だのと出てくるが、全て味付けに過ぎない。繰り返し現れるらせん階段や、スケルトンのエレベータ、ゆるやかに回転する換気扇などのイメージショットや、コニー・アイランドの曇り空、ニューオリンズの夕焼けなどの風景描写が強い印象を残す。その映像美こそが真骨頂だ。ジャンルとしてはホラーとかミステリーの部類に入るのだろうが、ホラー風味のミステリーというところだろうか。近親相姦の要素まで含んだ緩慢な「自分探し物語」の一種といえるかもしれない。1955年のNY・ブルックリンとニューオリンズが主な舞台で、道路わきに溶け残った雪の残骸が寒々しいNYから、上着も脱いでしまうほどに暑いニューオリンズへと舞台を移しつつ、ところどころに印象的なカットが挿入される。

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今回、再見してシャーロット・ランプリングも出ていたのをすっかり忘れていたのに気付いた。なんといってもこれは悪魔役で登場するロバート・デ・ニーロが印象深い映画で、出演シーンは全編出づっぱりのミッキーの10分の1ぐらいなのだが、映画の印象は全てデ・ニーロが浚っている。最後の一滴までも余すところなく。昔見た時も殆どデ・ニーロの記憶しか残らなかったが、今回ほぼ20年ぶりに再見しても、それは全く変らなかった。ミッキー・ロークは奮闘していたが、やはり全体を覆うのは圧倒的にデ・ニーロの存在感。役名はルイ・サイファー=ルシファー=魔王という事で、まさに魔王のように映画全体をそのイメージで覆っている。

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シャーロット わりとすぐに消えてしまうが、黒人メイドに滑らかなフランス語で
お茶の指示するシーンなど、実にシャーロット・ランプリングである。

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この美しいデ・ニーロの指と爪を観よ

デ・ニーロがとてもきれいな手をしている事は「ゴッドファーザーPart?」のレビューでも書いたが、今回はその手の指先の爪がものを言う。美しい楕円形にシェイプされ、丁寧に手入れされた長い爪。その爪先でコーヒースプーンを持って、コーヒーをかき回したり、ステッキの柄を握ったり、優雅な手つきで卵の殻をむいたりする。顔の下半分にコワい黒髭を生やし、長い髪を後ろで束ね、ダークスーツで落ち着き払っている様子はいかにも怪しいが、登場した瞬間から貫禄十分。デ・ニーロ以外の誰に悪魔が演じられようか。物静かで紳士的だが、笑顔の影に魔的な何かを秘めている雰囲気は彼ならでは。なかんずく、その爪が口ほどにものを言っている。納得の悪魔っぷり。私立探偵エンゼルのミッキーは小僧っ子にしか見えない。事実、デ・ニーロと比べたら小僧っ子でしかないわけだけど。この映画を観て以来、人の姿で現れる悪魔というと、この作品のデ・ニーロが脳裏に浮かぶ。この時の美しく爪を伸ばした悪魔の姿以上のイメージを今後誰かが造れるだろうか。

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カップをつまむ優雅な手つき
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卵にむしゃぶりつく

この頃のミッキー・ロークは売れっ子の絶頂期。「ナイン・ハーフ」で婦女子のハートを鷲づかみにし、プレイボーイの名を馳せた。日本でも80年代の終わり頃は大人気で、ウィスキーのCMに出て、モネの睡蓮に囲まれてグラスを傾けていたCMを思いだす。その頃も今も、ワタシはミッキー・ロークは特に好ましいわけではなく、好きでも嫌いでもない俳優だったが、やはり80年代の彼は色男ではあったなぁとは思うのである。同じ頃大人気だったジョン・ローンは一時期ちょっと好きだったのだが、あまりにも正面きってマジメな顔で見得を切るようなところがどうにもなぁ…とは思っていた。歳月が流れ、昨今では「ラスト・エンペラー」の栄光はどこへやら、アジア系俳優の弊害を免れず悪役オンリーになってきているようで些かの物悲しさも覚える。ジョン・ローンはこのぐらいにして、ミッキー・ロークの顔に話を移すと、昔、男前だった頃から目元や、鼻や、鼻の下の長いところなどがダイ・ハードマン、ブルース・ウィリスに似ているような気がしていた。ゲイリー・オールドマンも少し似ているような気がする。そういえばこの3人はほぼ同年代。昨今はミッキーが整形したので全く似なくなってしまったが、造作的には似た系統の顔だと思う。

5_20090606210531.jpg 昔

3_20090606210531.jpg 今

6_20090606210531.jpg ミッキー

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ブルース・ウィリス(左)ゲイリー・オールドマン(右)

フィルモグラフィーを観ると、けっこう切れ目なく映画には出ているのだが、ワタシ的にはミッキー・ロークというと90年代半ば以降、ずっと潜っていてどこかに消えてしまっていた俳優だった。「レイン・メーカー」(1997)の脇役で、かなり太って役のためか老け作りで現れたのを発見した時にはけっこう驚いた。その次に観たのが顔に特殊メイクを施して誰か分からない状態で登場した「シン・シティ」(2005)で、その後久々にスポットが当ったのが「レスラー」である。かつて二の線で売っていた人が、ある時期からよんどころなくか、意図的にか、二の線をかなぐり棄てて違う道を歩きだすのに時折出くわす事がある。別に昔の姿でずっと頑張れとも思わないが、あまりに変り果てていると、何があったのかなぁ、と変貌する過程の人生の転変にちらっと感慨と興味が湧いたりもする。まぁ、そんなわけで昨今の「レスラー」的ミッキーから、逆にかつてのモテ男っぷりでも拝見しようかと「エンゼル・ハート」を観てみたら、主演スターのミッキー・ロークよりも、今さらにロバート・デ・ニーロの圧倒的な存在感を再認識することになった。
「宗教は、人間の愛よりも憎しみを募らせるのだ」「鏡に映った自分自身からは逃げられない」など、警句的な決めセリフは全てデ・ニーロのもの。

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きゃ?!ス・テ・キ 目が金色よ?!!

殴られたり、犬に噛まれたり、全裸での黒人少女とのラブ・シーンもあったりで随分体を張って頑張っているミッキーなれども、デ・ニーロの前には前座の大暴れみたいな印象にとどまる。このあたりは俳優としてのありようなのか、力量の差なのか、悪魔度の差とでも言おうか、やはりデ・ニーロは魔的な役者であるという事だろう。と、すっかりデ・ニーロひゅ?ひゅ?!な記事になってしまったが、ともあれ顔を変え、肉体も改造して2009年のこんにちに生き残っているミッキー・ロークにも、密かにエールを送りたい気持ちである。

コメント

  • 2009/06/08 (Mon) 18:38

    懐かしいですねぇ。雰囲気で見せる映画、というのほんとにそうですね。。どこがどうというわけじゃないのに、なんとなく惹かれるというか。ミッキー・ロークの映画ではこれが一番印象的です。 コニーアイランドのビーチで、コートなんか着てるくせに、鼻に三角の被せ物(日焼け止めなんですか?)をしてぶらぶらしていたり、全編に力の抜けた物憂さが漂っています。デ・ニーロは一瞬にして、ルシファーだというのがわかるのは凄いなと思いました。あの、ながーい爪...。記憶の中ではもっともっと長くなっていました。
    ミッキー・ロークがどうしてあんな風に顔をいじってしまったのか、どうしてもわかりません。ベイビーフェイスと言えなくもないので、それがいやだったのかもしれないけど。俳優をやるのが嫌で、本気でボクサーになりたかったらしいけどそれもかなわず、もうあとは自暴自棄、というようなことだったんでしょうか。

  • 2009/06/09 (Tue) 00:13

    たむさん。もしや再見していただいたのでは?コニー・アイランドのシーンのサングラスに日よけの鼻カバーが付いていたのなんて、よく覚えておられますね。ミッキー・ロークの映画ではこれが良い、という声はけっこう聞きますよね。ワタシもそう思います。そして、今のミッキーの顔ってなんとなくケーシー高峰に似ちゃってますよね。アバタっぽいし。何故顔をいじったのか、一口では言えない何かがありそうですが(宍戸 錠的な理由でしょうかね)、紆余曲折を経て俳優で頑張るぜ、という姿勢を最近打ち出しているように感じますね。やっと腹が座ったのかも。でも「レスラー」は見なくていいですけど。(笑)

  • 2009/06/11 (Thu) 00:01

    ミッキー・ロークは当時少しだけ好きでしたが、ジョン・ローンには思いっきりハートを鷲摑みされていた私です。東洋人であんなに美しい男性がいたのかと・・・あまりに美しすぎるので、今後どういう方向に進むのだろう?と勝手に心配していました。美貌は世に出るときには武器になりますが、そのあとは足かせにもなってしまいますものね。そうですか、悪役オンリーになってしまったのですか。「ラストエンペラー」以降まったくお姿を拝見していませんが、今現在のジョン・ローンを見たいような、見たくないような・・・

  • 2009/06/11 (Thu) 00:27

    Rikoさんもジョン・ローンお好きでしたか。彼も一時期はやりましたねぇ。いつも同じ表情で、ポーズってるような感じの無表情が多かったですね。今も顔の雰囲気などはあまり変っていないと思いますが、ちょっと表情に険が出て来たかな。ともあれ、ある時期からB級映画の悪役みたいな役ばかりでしか見かけなくなった気がします。ジョン・ローンといえば「エム・バタフライ」という映画で京劇の女形にしてスパイの役をやってましたが、女装がゴツくてビックリした覚えが…。この手の役はやはり香港キューピーことレスリー・チャンの方が一枚ウワテのようです。レスリーの「覇王別姫」と女形っぷりを見比べてみるのも一興かも。ジョン・ローンはつい最近では「ローグ・アサシン」などにも悪役で出ているようですわ。

  • 2009/06/15 (Mon) 23:35

    「エンゼルハート」は私もビデオで一回観たっきりで、これ結構ドキドキして観ましたねぇ。たしかに
    あの役はデ・ニーロ以外考えられない。あの怖さ怪しさ。そういえば彼はミッキー・ロークとは合わなかった、嫌ってたって話ですね。
    やさぐれロークも悪くないけど、やっぱり私も端正なジョン・ローン好きでしたよん、kikiさん。「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」久々に見たくなっちゃったわ。「エム・バタフライ」というのは未見だけど、ひょっとしてJ・アイアンズとのかしら?
    CMといえば、ジョン・ローンも昔サントリーのCMに出てて、キャンペーン中に角ビンを買うと彼の顔写真の入ったペンたて(缶)が漏れなくもらえて、ダルマより角の好きだった主人に感謝感謝でしたわ。ってなんだかで・ニーロ礼賛の記事にまたしてもミーハーな話題で失礼いたしました。




  • 2009/06/16 (Tue) 00:10

    ジョディさんもジョン・ローンお好きでしたのねん。「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」のころ、ジョン・ローンちょっと好きでしたよワタシも。彼もお酒のCMやってましたね。あと資生堂のデナリという男性化粧品のCMにも出てました。思いだした。で、ミッキー・ロークですが、デ・ニーロに嫌われちゃってたんだ、へぇ~。知りませんでした。もしかして、それで俳優業は向かないと思って猫パンチに走って顔を潰してキャリア的に大回りしちゃったって感じになったのかしらん(笑)今やケーシー高峰顔になって、しぶとくそれを生かして「レスラー」で起死回生の返り咲きを果たしたので、ちょっと見に行ってやっかなぁという気もしなくもないけど…まぁ、いいか。ミッキー、あまり興味ないし(笑)ジョディさんは「イヤー・オブ~」久々にご覧になります?ワタシは久々に「エム・バタフライ」見てみよかしらんという気がちょろっと起きてきてます。そう、ジェレミーの出る、あれですわ。あんな女装で男と気付かないなんてありえん!って感じだったけど久々に笑わせて貰っちゃおうかしらん。

  • 2009/06/19 (Fri) 21:18

    DVD出ているかしら、と探したら、ありました。初めて見たときは勿論、今度もジョニーの物語がはっきりつかめず、要所要所を確認しながら見て、ようやくわかったように思います。鼻カバーはプラスチックで、 nose shield と言ってましたね。そういえば、中世の兜にああいう鼻を保護する金具がついてました。記憶では紙を三角に折ったようなものだったんですが。最後のシーンで、エンジェルが雨の中をホテルに帰ってきますが、廊下に黒い帽子と僧衣のようなものを着て椅子に座っている男がいて、通り過ぎるエンジェルをじっと見ます。その顔が、どうしてもデ・ニーロにしか見えないけど、そうですか? ひげはきれいに剃っているし、頬のイボも確認できるほど顔をだしてないけど、とても若々しく見えたので、さすが悪魔の統領だけのことはある、と勝手に感心しています。それから、あのゆで卵の殻を転がしてばちばちとヒビを入れるところ、真似してやってみたら、なるほど、殻が剥きやすいです。あの食べ方は、怖い~。

  • 2009/06/20 (Sat) 11:04

    たむさん、再見されたんですね。そうです。あの鼻カバーはプラスティックですね。白くてひどく間抜けな感じです。そしてラスト近くの雨のホテルの通路のシーン、おぉ、確かにあれはデ・ニーロですね。あの鼻は紛れも無くデ・ニーロですわ。眉毛がくっきりして若く見えるけれど、あれだけ意味ありげに大写しになるからには間違い無いしょうね。「お前の娘はもう始末したぜ」ってところでしょうか。さすが魔王。仕事が早い。そしてたむさん、実にじっくりとよくご覧になってますねぇ。合わせてさすがなり。たむさんのご指摘でそのシーンを再チェックするまで、あの男がデ・ニーロとは気付きませんでしたわ。それまでと照明の当て方も変えてすぐには分からないように工夫してあるのがニクイですね。やはりこの映画のデ・ニーロはあの卵を食べるシーンに尽きますよね。ワタシは男の人の綺麗な手に弱いところがあるんですが、デ・ニーロは本当に手(指と爪含む)がキレイです。それを監督もよく分かっていて、魔力的なその指や爪の美しさをじっくりとルシファーの役柄に生かしてますね。一事が万事、あれこれと細部にコダワリのある作品でしたね。

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