「ウルトラミラクルラブストーリー」

~シュールな寓話、不滅の恋~

2009年 リトルモア 横浜聡子監督

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横浜聡子という監督については「ジャーマン+雨」というデビュー作のトレーラーを見た時から気にはなっていた。しかし、「ジャーマン+雨」は思いっきりレイトショーだったような記憶があり、行き易い場所で行き易い時間帯に上映されてないとすぐに億劫になってしまうワタシは、アッサリと見送る事にしてしまった。で、この2作目は見事商業映画として全国公開となり、松ケンが出るという事もあり、レイトショーオンリーではなく、ユーロスペース以外でも見られるというわけで、ようやくにして横浜聡子の作品を観られる運びとなった。

梗概:青森で野菜を作りながら一人暮らしをしている青年、水木陽人。ある日、野菜を売りに行ったかねしろ幼稚園で、東京から来た新任保育士の町子先生と出会う。一目で恋に落ちた彼は、相手の気持ちも考えず、ただひたすら猛烈アタック。すっかり困惑の町子。彼女は、事故で死んだ元カレの首がいまだに見つからず、カミサマと呼ばれる占い師に相談するため青森にやって来たのだった。そんなある日、ふとしたハプニングで少しおとなしくなった陽人に対し、“今のほうがいいかも”と町子が漏らしたばかりに、陽人はもっと気に入られようととんでもないことを思いついてしまい…。(all cinema onlineより)

日本の誇る憑依型役者・松山ケンイチは直情径行で天衣無縫な子供のような青年・陽人を例によって作為感なく演じている。無邪気な子供のような感じでずっと押し通せばいいので、彼としては楽勝だったのか、そうでもなかったのか。セリフは全編津軽弁。彼は青森出身だが津軽ではないとの事で、自分の郷里の言葉と似て非なる微妙な違いをマスターするのはけっこう大変だったかもしれない。(一口に青森といっても色々あるらしい)

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無邪気な松ケン

しかし、やはり彼の津軽弁には準ネイティヴスピーカーの自然さがあり、原田芳雄や渡辺美佐子ら歴戦のツワモノ役者は、語尾だけ津軽弁でセリフの途中や単語の発音は俳優のサガでついつい分かり易く標準語に近いノリでしゃべっていた気がする。(特に渡辺美佐子)方言をセリフとして話す場合の役者の通弊が出ていた。そういうプロの役者の「セリフ」と引き換え、幼稚園児として出ていた地元の子らしい子役たちの自然な津軽弁のたくまざるユーモアには思わず笑ってしまった。東京から来た保母さんの町子に「マチコー」と子供が呼びかけるのが妙に愛嬌があって可愛い。写真右側の子が背後から松ケンの大事なところを鷲掴んでいたような…。なかなかヤルね。

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この子たちのセリフ回しが絶妙の味

その町子先生を演じるのは昨今やたらに売れている麻生久美子。鼻にかかった声に薄い頬。失恋しても昔の男を忘れられないOLとかに、この手のタイプはゴマンといそうである。キャラクターとしてもよくある型で、なんだか思いっきりステレオタイプなのねぇと思いつつ観ていたら、ラストに見せ場が待っていた。幕切れのあの不思議な笑顔は麻生久美子ならではだろうか。横浜聡子が彼女を使った理由がラストになってようやく分かった気もした。

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途中までは頭の配線がちょっとおかしい農村青年の日常を綴って牧歌的なのだが、陽人がふとした事から農薬をシャワーのように浴び始めるに至って平穏な日常は突如シュールな様相を呈しはじめる。当初のかっとびまくりな様子から少しトーンダウンするようになっても無邪気さを失わない陽人を、松ケンは滑らかにシフトチェンジして見せる。純粋さはまっしぐらに人生を突き抜けるのだ。エネルギッシュで天然の人である陽人は、中途から早足で人生を駆けぬけて行く人に特有の、危うい存在の輝きを発し始める。そして魂が肉体を離れはじめた陽人が出会う首のない男。畑に挟まれた道をふざけながら歩く陽人に平然とすれ違って行く首のない男。シュールさここに極まれり。

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首がなくても歩く姿がなんだかサマになっているのはARATA。今回、町子が未練を残している男として顔は写真でちらっとだけしか映らない。首のない男なので、顔は映らないのだが、声や歩き方、雰囲気だけでもモテそうな空気を漂わせていた。くれと言われれば靴も気前よくやってしまう。悪い奴ではないのだが、中身がからっぽで節操がないのだ。この男の首は畑の中からキャベツと並んで出てくるのかと思いきや、結局行方不明のままである。キャベツと並んで植わっているのは陽人だけだった。

そして、あのラスト。どうもそのまま瓶詰めになってはいなかろうと思われたのだけど、そう来たか。なるほど。横浜聡子。そういう感じなのね。
ある程度のネタバレなど大勢に影響ないと思っているワタシだが、勿論黙っているべきところは黙っている。このラストについては完黙しなくてはなりますまいね。

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嫌がられてもめげずに幼稚園の門前で自転車を押して出てくる町子を待っている陽人。親がなかなか迎えに来ない子供たちに特別授業をしようと思う、という町子に「わーも参加していいが?」と尋ね「ダメです」と思いっきり断られる。もう子供じゃないから、と。陽人は、「そうか、わーはもう子供じゃないから、か」とぽつっと呟く。陽人こそは子供の中の子供だというのに…。

クライマックス間近、森の中を散歩するシーンでざっくりとしたセーターを着ている松ケンは一瞬、陽人から少し離れて松ケンとしてそこにいるようにも見えた。その後すぐに陽人に戻るのは言うまでもないけれど。

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ざっくりセーターが似合いすぎの松ケン

予告編タイム開始前から館内に流れていた100'sの歌う主題歌「そりゃそうだ」のメロディがエンディングとともに頭の中に残ってしまい、今もどこか頭の片隅でリフレインし続けている。クセになる曲である。

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