「ミッドナイト・エクスプレス」 (MIDNIGHT EXPRESS)

~こいつはもう、深夜特急に乗るしかないぜ~
1978年 米 アラン・パーカー監督

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なんだか最近、猛烈に久々に再見、というのが多い気がするのだけど、DVDを借りる程でもないが、機会があればまた観たい、と漠然と思っていた作品が映画チャンネルで流れて来る率が高くなっていて、この時期、雨の日曜日などには実におかっこうである。
この作品は封切り時には子供だったので未見。VHSで20代始めごろに観て以来の観賞となる。主演のブラッド・ディヴィスは漠然と覚えていたが、それ以外は殆ど覚えていなかったので、刑務所仲間で若きランディ・クウェイドが出ていたのを発見して何だか受けてしまった。ミッドナイト・エクスプレスとはトルコの刑務所で「脱獄」を表す隠語。沢木耕太郎の代表作「深夜特急」のタイトルはここから取られたもの。とにもかくにも70年代である。ハッシシである。

刑務所モノにも色々あるが、ワタシがこれまで見た中で一番悲惨でまともに観ているのが辛かったのはケヴィン・ベーコン主演の「告発」。さすがにあのアルカトラズを閉鎖に追い込んだ実話だけあって、刑務所内の非人道的なありさまに開いた口が塞がらなかった。囚人があんな虐待を受けていた時代があったから、逆に昨今は人権が守られ過ぎる嫌いもあるような気もするけど…。ともあれ、あの「告発」の過酷さに比べると、「ミッドナイト・エクスプレス」の刑務所生活は比較的ノンビリしているようにも見えるのだけど(それにしても30年もくらっちゃどうにかしなくちゃである)、どちらも実話。やはり実話というのは説得力がある。脚色はオリバー・ストーン。好きじゃないけど脚本家としてはしっかりしてるので、やはり面白い映画になっている。

それにしても、このビリー・ヘイズ(ブラッド・ディヴィス)。あまりにもお粗末過ぎる密輸法。そんなあんた、胴っぱらにガムテープで巻きつけただけなんて、いくら70年代だってチッチッチ!である。それだけ素人で出来心だったという事なのだけど、70年代はアメリカでも日本でも、こんな若造が大勢ユーラシアをふらふらしていたんでしょうねぇ。また、この頃はニクソン大統領時代でアメリカと中東諸国との間では緊張状態が続き、トルコとも険悪な状況だった。非常にバッドなタイミングで出来心を起こしてしまったビリー。無知とKYは命取りである。大体、空港でも脂汗タラタラで挙動不審過ぎ。ボディチェックされたら一発アウトでしょうに、と思っていたら、ボディチェックされてアウトになってしまった。ご愁傷さまである。空港から引っ立てられるビリー。同行の彼女だけは飛行機に乗る事ができる。

身体検査ですっぱだかに剥かれたビリー(ディヴィス)をいわくありげな目つきで警官が眺め回す。トルコの男というのは、どういうわけか皆ホモっぽく見える。目つきのせいなのか、ニヤニヤ笑いながら男を眺める様子が舌なめずりでもしているように見える。大男の所長もなんだかそっち系っぽいなぁ、と思っていたら、やはり大詰めにそうだった事が判明。「アラビアのロレンス」をちらと思いだした。

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ともあれ、アメリカから父も駆け付け、胡散臭いが弁護士も雇って麻薬不法所持の容疑で四年の実刑判決を受け(これでも相当に軽く済んだ方なのだ)、おとなしく服役するビリーだったが、刑期ももうじき満了という時期に、密輸容疑で再審請求が出され、こちらで30年の判決を喰らってしまう。

ロングアイランドから駆け付けた父と面会するシーンは観ていてこちらも親の有り難味を間接体験してしまうシーン。馬鹿な真似をした息子も腹立たしいが、国情も違う理屈の通じない国で服役する息子を早く出してやりたい親心が染み出している父を演じるのはマイク・ケリン。「母さんも心配していたが、ここに来られる状態ではない」という父の言葉に思わず何度も父の背広の襟をさするビリー。異国で収監された身で、母の体調が悪いなどと聞かされたら居てもたってもいられない。

3_20090621151654.jpg パパ!


刑務所で知り合う白人の囚人仲間たちの顔ぶれも良い。同朋のジミーにランディ・クウェイド。昨今ではでっぷり太って、骨折り山でジェイキーとヒースをいびる羊飼いのオヤジ、アギーレを演じていたが、この時は70年代なのでまだ若者。長身でほっそりしていていてちょっと可愛い。ほっぺたがぷくっとしていて背の高いところなど、ちらっとGサマにも似て見えたりする。彼の罪は教会から燭台を2本盗んだかどで12年(!)無茶苦茶である。かくてジミーは不屈不撓のガッツで脱獄にトライするものの、ドジなんだな、これが。


ちょっと前のGサマ風な気配もあるランディ・クウェイド


若い頃は可愛かったのだが

いまやこんなオヤジに…。まこと光陰矢のごとし

昔の映画を見る楽しみは、今も活躍する俳優の若き日の姿に遭遇してびっくりしたり感慨を覚えたりできるところにもある。

ヤク漬けで終日、白日夢状態の英国人マックスを演じるのはジョン・ハート。国を出てから何十年と彷徨い続けているようなタイプに、こういう男っていそうである。トルコの刑務所内でドラッグを入手し、壁にもたれて酩酊状態になるマックスを観ていたら、
長くバックパック旅行を続けていると、旅をどこでやめたらいいのか分からなくなる。遠い異国の汚いドミトリーの汗じみたベッドの上でどこに出かけるでもなく虚ろな目をして終日寝転がっている同年代の異国の若者を見て背筋が寒くなるのを覚えた。底知れないような深い虚無を漂わせた目をした旅行者には、欧州からの若者が多かった気がする。というような一節が「深夜特急」の中にあったような気がしてぱらぱらと捲ってみたが、どうしてもその箇所を発見することが出来なかった。…錯覚?


ヨレヨレのマックスを演じるジョン・ハート

また、北欧からの旅行者エリックもハッシシで捕まって7年の刑を喰らっている。彼は両刀なのかホの字系なのかシャワールームでビリーに誘いをかけるが、ビリーはやんわりと断る。(素のブラッド・ディヴィスだったらお断りなどしなかったのかもしれないが)エリックと二人で房内で体操したり、シャワーを浴びたりするシーンは妙に意味深にアヤシく、ホの気が漂うシーンだ。刑務所モノではある意味お約束とも言えようか。このエリックは無事に刑期を終えて出所していく。

ともあれ、トルコの刑務所内では強制労働をさせられるわけでもなく、昼間は庭でバレーボールなどに興じているし、房の扉には錠さえはまっていない(それでも脱獄は容易ではないのだが)。特に役務なども無いためか余計な体力は消費されずに悶々とし、ムショ仲間ジミーは些細な事で喧嘩をしては発散し、しなくてもいい怪我をしたりする。

ジミーの脱獄プランにも乗らずに、あと2ヶ月弱で解放されると思っていた時に突如容疑を変えて再審され、終身刑を求刑されるビリー。毒を喰らわば皿までもじゃないが、求刑に切れたビリーは最高裁の法廷でトルコに対する憎悪を思い切り吐き出す。「今日は合法でも明日は違法になり、これまで違法だったものが突如、合法になる。こんな豚しか住んでいない国で、豚を食べないなんてお笑い草だ!」  ビリーは厳粛に30年の懲役刑を言い渡される。

こんな場所に30年も閉じ込められる(30年たっても出られるかどうか分からないし)となっては、もう決行するしか手はない。かねてジミーが当たりをつけていたシャワー室の壁を抜いて脱獄するプランに踏み切るビリーだったが…。


トンネルを行こうぜ、というジミーの誘いにも乗らずに来たビリーだったが…

というわけで、よく知らない国で自分では軽犯罪だと思っていた事が取り返しのつかない重罪になり、生涯を棒に振りかねない落とし穴が待っている怖さはソクソクと伝わってくる。無実の罪でぶち込まれたわけではないので自業自得とも言えるが、べらぼうな刑期には顎が落ちてしまう。それも結局トルコの対米感情の縺れによるみせしめ判決だったわけなので、いかんせん時期も悪過ぎる。何も考えずに世界皆兄弟みたいなノリで浮かれ歩いてはダメなのだ。自分の常識なんか一切通用しない。こういう齟齬って特に日本人は他の国民よりも強いように感じるので、要注意かもしれない。知らぬ他国をナメてはいけないのだ。それにしても、ハイエナのような刑務所の雑用係件見張りのリフキの厭らしさ(眠る時も薄目を開けているイヤな奴である)もかなりのモノだが、やはり、みっしりと肉のついた大きな体で力も強く、一発殴られただけで動けなくなってしまいそうな所長のド迫力と不気味な目力はトラウマになりそうな迫力がある。このハイエナとタコ坊主のコンビにさんざんっぱら痛めつけられるビリー、ジミー、マックスの3人。ジミーとマックスは所長の暴力に屈し(ジミーは不屈だが殴られ過ぎて重症のヘルニアになってしまう)、絶望したビリーも腑抜け同然になる。そんな魂の抜けたビリーに喝を入れるのは、遠く彼に面会に来たガールフレンドのスーザンの存在(肉体)だ。ガラス板を隔てた面会所でスーザンのブラウスを脱がせて自らを慰めるビリー。何年も閉じ込められた若い男がガールフレンドに体面したら考える事などただ1つである。話もろくに出来ない。話などしている場合じゃない。それこそは生きている証、死人にはなっていない証なのだ。スーザンは彼に一瞬の慰めを与えただけではなく、萎えかけていた生きる望みに火をつけるが、ビリーには最後のひと波乱が待っていた、というわけで、ラストは所長との直接対決。そういう展開になるんじゃないかと思っていたら、やっぱり…。いや?、不気味な微笑みである。

 暴力所長

この所長役のオッサンがまた、バイオレンスシーンでは手加減抜きでビシバシやっているようなので、ど迫力があるんですねぇ。これ、映画的には危うく難を逃れた事になっているが、実際はどうだったんだろうか。あんな所長に、もしあんな事されちゃったらもう生涯のトラウマである。二度と足腰立たないかもしれない。クワバラクワバラ、と思いつつ、クライマックスは脚色なのか、それとも実際にその通りだったのか、だとしたらアメリカに戻ってトルコと犯罪者引渡しで揉めなかったのかしらんねぇ、などとあれこれ考えつつ見終えた。それにしてもトルコのオヤジって気持ち悪い感じである。映画だけで判断してもナンだけど、何の映画を見てもヌメっとしててずるくて残忍で得体の知れない感じに描かれているので、そういう先入観が植え付けられてしまいそうだ。…いけない事だけど。



石造りの回廊や、朝もやに浮かび上がる幻想的なモスクの光景など、傍目にはエキゾティックで魅力的にも見えるトルコのイスタンブールだが、表面をかい撫でているだけならともかくも、穴に落ちてしまったら最後、抜け出る事は容易ではないのだ。石の回廊の向こうから轟いて来る悲鳴。今日も誰かが懲罰で殴られている。エキゾティックな光景と悲鳴、絶望や不安にうちひしがれるビリーの背後にコーランにも似た女声の歌声。音楽はジョルジオ・モロダー。ディスコ音楽ばかりの人ではないのだ。

 
悲鳴回廊 あなオソロシや

ビリーを演じるブラッド・デイヴィスはやはりこれが代表作という事になろうか。等身大の若者のとまどいや不安、苦悩や絶望、怒りを体当たりで出しているという感じ。ラストで段々精神的に追い込まれて衰弱してくる顔つきなども痛々しい。とにかく彼の同性に対するセックスアピールのようなものを監督がかなり意識して撮っている気がするのが興味深い。彼の主演作ではそのものズバリのゲイの船乗りを扱ったファズビンダーの「ケレル」というのもある。ワタシは彼はゲイで、HIVで亡くなったと思っていたが、妻帯して子供も居たところをみると少なくともバイではあったのかもしれない。HIVを発症していたが、死因も直接のものとしてはHIVではなく意図的なオーバー・ドーズ(つまり自殺)という事のようだ。短いが波乱の生涯を送ったブラッド・ディヴィスの最大の当たり役がこの「ミッドナイト・エクスプレス」だというのも、何か偶然ではない気もする。

ともあれ、見始めるとグイグイと引っ張られて最後まで一挙に観てしまう。相変わらずアラン・パーカーなので風景描写など映像は印象的で、オリバー・ストーンの脚本ゆえ緩みなくグイグイと70年代のアメリカン・ボーイ受難譚が展開していく。久々の観賞だったが、やはり面白く、見応えがあった。

 
俺は一体どうなったんだよ?ぅ?

全編見終えた後で、ワタシがどうしても気になっている事、それはランディ・クウェイドが演じたジミーはその後どうなってしまったのか、という事である。ジミーとマックスをビリーは救う事ができたのか。ジミーのヘルニアはどうなったのか?妙にそんな事が気に懸かかるワタシなのであった。

コメント

  • 2009/06/24 (Wed) 23:48

    う~ん、なつかしい。 もう30年ほど前かしら、公開時観てますよ。この前「炎のランナー」の時コメントしたようにパンフレットがあったはずと探したけれど、残念ながら見つかりませんでした~。
    そうか、監督はアラン・パーカーだったんですね。異国の地での絶望的で見ていて苦しくなるなるほどのりアル感。看守にいたぶられるシーンとか憶えてますよ、うぅ~。もうすぐ釈放という時に刑を伸ばされ30年?! それで脱獄でしたっけ、そのあたりはすっかり忘れちゃってるなぁ。
    そんな悲惨な映画だけれど、やっぱり私もグイグイ引っぱられて見てしまいましたね。面白かった。他の脱獄物とは、またちょっと違う感じでしたけどね。トルコの印象、ものすごく悪いですよね(笑)
    で、なんてたってブラッド・ディビスの熱演。ディーンに似た翳リある面差しと雰囲気にドキリとしましたよ。演技的にもいいモノを持ってた人なんでしょうね。私は結局これと「炎のランナー」しか観てないので本当のファンとは言えないかもですが、あの頃の若手の中では好きでしたね~。

  • 2009/06/25 (Thu) 07:35

    ジョディさんも昔、ご覧でしたよね、これ。たまたま流れてきたので凄く久々に見たんですが、やはり面白かったですよ。映画として。「エンゼル・ハート」に引き続き、アラン・パーカー物ですが、特に好きなわけではないけれど、70年代末から80年代半ばまではけっこう記憶に残る映画を撮ってたんですね。そう、他の脱獄物と違って、計画的に脱獄するんじゃなくて怪我の功名みたいな感じでチャンスが巡ってくるんですよね。ピンチの後にチャンスありの典型みたいな形で。(笑)ワタシも別にブラッド・デイヴィスはファンでも何でもないですが、3本ぐらいは印象に残る映画があります。ジョディさんも機会が巡ってきたら、また久々に見てみるのも面白いかもですよ。

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