「MW-ムウ-」

~かくて彼は怪物になった~

2009年 ギャガ・コミュニケーションズ 岩本仁志監督



手塚治虫原作の映画化作品でなければ観に行っていないだろうけれど、その手塚治虫の原作コミック「MW」にはちょっと興味があったので、原作は未読のまま、まずは一応、映画を観てみることにした。
…しかし、ワタシも物好きだなぁ。

梗概:16年前、“沖之真船島”で島民全員が一夜にして虐殺される凄惨な事件が発生した。しかし、何故かこの事実は政府によって隠匿される。だがこの時、2人の少年が奇跡的に助かり、それぞれ異なる環境で現代社会に身を置いていた。ひとりは、神父として迷える人々を救済しながら自らの受難の記憶を克服しようと苦闘する賀来。そしてもうひとりの生存者である結城は、エリート外資銀行員の顔を持つ一方で密かに事件の謎を追い続け、当時の関係者へ冷徹な制裁を食らわせていたのだった。(all cinema onlineより抜粋)

ワタシは殆ど玉木 という男子に興味がないので、CMなどで時折彼の姿を見かけるたび、あと5キロは太ったら?栄養失調みたくてよ…などとそのコケた頬を観て思ったりしていたのだけど(ファンの方すみません)、この作品ではそのやせ細った彼の容姿がとても役に合っていた。細いがヤワではなく、キリキリと引き締まってムチのような強靭さも感じられた。なんというか、この作品での彼は「邪悪なカマキリ」という感じ。(再び、ファンの方すみません)その邪悪でキリキリと締まった感じが結城美智雄という殺人鬼にはピッタリな感じがした。


このメガネ姿が邪悪なカマキリそのもので(笑)

冒頭のタイの誘拐殺人のシークェンスは、なかなかスピード感もあったし、まつわりつく馬鹿娘を表情も変えずにボンと撃ち殺してしまう様子も「そうそう、そうこなくちゃね」という感じ。というわけで、玉木 はけっこうハマリ役。案外、悪役OKである。ピカレスクロマンの方が、普通に主人公をやっている時より冴えているような気もした。(って他に殆ど観たことはないのだけど、なんとなく)でも、あんな目立つ白いスーツで、ジュラルミンのケースを提げてホテルの正面玄関から出たら怪しいって。誰でも怪しむでしょうに。敢てやるとは愉快犯?

このタイのシークェンスから重そうな体でかなり飛ばしていたのが警部補役の石橋 凌。なんか、この人は今回異様に力が入っていた。なんであんなに力演だったのだろう?かなり肉のついた体でタイでも日本でもよく走っていたし、カーチェイスのシーンでも気合入りまくり。もしかすると、この刑事役が個人的に気に入っていたのかもしれない。とにかく、クールなカマキリ・玉木 に対して、かなりぶ厚く、暑苦しく肉迫していた。それにしても、随分顔にも体にも肉がついて、思う存分貫禄がついたもんである。もうこうなったらヤクザか刑事しか出来ない。専門職宣言の意味合いもあってか、かなり気合が入っていたのかもしれない。ともあれ、印象には残った。個人的に、この人とマイケル・マドセンはありようが被る。元はちょっといい感じな時もあったのだけど、今は老けたのと肉が付き過ぎたのとで別人になりかけ、女優で美人の奥さんといい感じでやっていたのに離婚してしまうなど、なんだか似て蝶である。(脱線)



そしてもう一人、小粒に暑苦しかったのが山田孝之。顔も濃くて暑苦しいのに、バサバサと邪魔そうな長髪も非常に目に暑苦しく、おまけに無精髭を生やして、眉を整えまくった色黒の神父なんて説得力が無さ過ぎる。いかにも湘南あたりで女をコマしてそうなのに、神の前で祈っていられてもねぇ。ガバガバした神父さんの黒服もほんとうに暑苦しそう。このキャスティングはちょっとどうなんですかねぇ。なんで山田孝之?ちっちゃくて濃い上に、必ずバサバサした髪をかきあげるので、画面に登場するたびに非常に暑苦しい気分になった。他にいくらでもいるでしょうに。なぜに山田孝之?まぁ、体型的にもタイプ的にも玉木 の対極に来るような俳優を選んだのかもしれないけれど、う?ん、この神父さんはイマイチだなぁ。おまけにキャラとしても、聖職者として信じる神様と殺人鬼の友人との間で揺れ動く苦悩みたいなものはさして感じられなかったし。(それは脚本のせいもある)ひたすら必要以上に整えた眉を寄せて、暑苦しく結城(玉木)を止めようとするだけ、という印象だった。


とにもかくにも暑苦しい

沖之真船島とMWの謎を追う新聞記者に石田ゆり子。ゆり子、なんだかちょっとくたびれて見えた。役には合っていたけど、幸薄オーラが全身から出まくっていた。大丈夫か。そして、ビックリするほど久しぶりに顔をちらっと見せたのが風間トオル。大昔ライバルだった阿部ちゃんには随分水をあけられたが、何とか生き残っているようである。そしてオヤジになって妙なすがれ具合になり、昨今、裏のある人物、荒んだ人物などを演じることが多くなった鶴見辰吾が政治家の秘書役で出ていた。この人を最初に観たのはNHKの松本清張シリーズ「天城越え」での子役だった。顔立ちは変らぬまま、数十年たつと、人はこういう風にすがれたりもするのね、と思いつつ、子役から悪役へ移行する数十年の間に彼が芸能界で見聞し、体験した何かが染み出したようなその姿を眺めた。この鶴見辰吾と渡部篤郎は、なんというか、その存在を覆うすがれた翳が似ている気がする。


封印された事件を追うゆり子記者

途中まではそこそこ面白く見ていたのだけど、米軍基地のあたりになると、なんだか話が荒唐無稽な雰囲気になってきて、「あまり風呂敷を広げない方がいいんでは?」などと懸念しながら観るという感じに。ラストはとりあえずそうこなくちゃでしょうね、という感じで幕。玉木は徹底して冷酷な復讐鬼を演じ切る。途中から復讐さえもただの名目で、ゲームのように人を殺していくのが楽しくなっちゃってるんでは?という雰囲気もちらと出ていた。とにかくこの結城、ピカレスクとして徹底している。「バナナ・フィッシュ」などに代表される、被害者的な子供だった主人公が長じるにつれてある意味怪物になってしまうが、彼の心の柔らかい部分はがっちりと親友が掴んでいて、その友には全面的に心を委ねている。怪物になった彼を癒せるのは、唯一その親友だけだ、という構図は「MW」ではアッサリと切り捨てられる。辛酸を舐めた過去を共有している友ではあるが、神父が自分と同じ道を歩こうとしないからには、結城は友を切り捨てる事も辞さない。自己は常に自分の冷たい堅い殻の中にあり、第三者に委ねたりはしないのだ。この気を許すという事が殆どない(1箇所だけ神父を頼るシーンがある)結城の情け容赦もなく落ち着き払った冷静な感じが、妙に玉木 の持ち味に合っていた。仏心を出す事などけして無い、ビジネスライクでクールなキャラが徹底していたのが良かった。声も低くてよく通るので、どんな場合でも冷静な殺人鬼の空気が出ていたと思う。結城が住んでいる都心の高層マンションの室内の無機質な感触は、ありがちではあるが、結城というキャラによく合っていた。

***
というわけで、映画としてはまぁこんなもんでしょう、という感じではあったが、MWのような事柄かどうかはともかくとして、一見、平和な日常の裏に隠蔽されたアメリカ絡みの表沙汰に出来ない事、というのは事の大小を問わずけっこうありそうな気がする。自由だのヘタクレだのと標榜しつつ(アメリカの「自由」は暢気な日本人のイメージする「自由」とは意味合いが違うと思う)、アメリカというのはフレンドリーな外ヅラの下で、何枚も底のある不気味な国であり、なんだかんだ言ってもロシアよりも老獪で汚い、というのが常々ワタシの主観なので、沖之真船島で米軍の追撃を受ける記者の石田ゆり子の姿を見ていて、ふと、さして絵空事でもないんじゃないかしらん、平和な日常の裏をちょっとひっくり返すと地雷のようにいろんな事が埋まってるのだわ。やっぱり手塚センセもそう思ってられたのねん、などと感じたkikiでございました。

コメント

  • 2009/07/09 (Thu) 01:11

    邪悪なカマキリ!!さすがkikiさん、うまいこと言いますね。
    ところで眼鏡姿、眼が異様に大きく見えて、ほんと怪しいです。勤務先の銀行で本部長が電話しているところをじっとしつこく、睨むように見ていたシーンでは、「そんな目つきで見ていたら、他の人から怪しまれるでしょう!」と突っ込んでしまいました。別にどうでもいいシーンですが、もっとさりげなくやってほしかったです。

    • ようちゃん #4ihH6cqY
    • URL
    • 編集
  • 2009/07/09 (Thu) 07:34

    ようちゃん、本当にすいませんねぇ、カマキリなんかに喩えちゃって。(笑)でも、玉木クンの殺人鬼はなかなかハマってたと思いますよ。想像してたよりもクールな感じで妥協がなかったので、この映画、彼は良かったと思いましたわ。ただ映画を観終えたあとで、原作コミックを読もうという気があまり無くなってしもうて…。それが誤算だったかも。にょほほ。

  • 2009/07/09 (Thu) 08:13
    なるほどー

    ご無沙汰しております。
    この作品、興味はあるのですが、トンデモ風味強し・・・との噂なのでどうしようかな・・・と思っていたのですが、kikiさんのレビューを読んで、うーん、今のところ観なくてもよいかも、という結論に。原作はオモシロそうなのでまずは原作を読んでみて、その後映像を観たくなったら映画のほうも、という事にしようかと思います。玉木宏の悪役はハマっていそうですしね(あと、書かれている通り、山田孝之があのルックスで神父役を演じるのはナシだと思います→違和感ありまくり)。

  • 2009/07/09 (Thu) 22:20

    yukazoさん。こちらこそご無沙汰でごわす~。で、この作品ですが、トンデモ風味強し、というほどのハチャメチャっぷりというわけではないと思いますが、お察しの通り観なくて一向に差し支えありません。原作読んだらそれこそもうけして観ない方がいいかも。まぁ、大体こんなもんであろうと予測されたラインを一歩も出ていなかったけれど、玉木 宏が意外に殺人鬼がハマっていたのと、何故か物凄く力んで気合が入っていた石橋 凌が印象に残りましたねぇ。

  • 2009/07/14 (Tue) 18:13

    これはあまり観る気にならないので、多分劇場に行くことはないだろうと思われますが、石橋凌は気になるんですよね。今は太ってしまって好みではなくなってしまいましたが、ARBの頃の彼は好きだったんです。あの頃は良い感じだったんだけど、重ねた年月、お肉も重ねちゃったのですね。ミュージシャンは太ってはいけません。
    石橋凌見たさにDVDになったら観ても良いかなぁ。暑苦しそうなので夏が終わったらですね。

  • 2009/07/14 (Tue) 22:12

    Rikoさん。石橋 凌が気になりますか。(笑)ワタシはそのARB時代というのは知らないんですが、原田美枝子と結婚した頃はいい感じだったような記憶がありますわ。似合いの夫婦だなぁと思ってたら離婚しちゃって。あ~あ、と思ったものです。オッサンになったのと太ったので顔も体も雪崩をおこしているせいか、久々に見たら凄い事になってましたが、なんだかとても頑張ってました。石橋 凌の頑張りに免じてDVDが出たら、彼メインで観賞してみるというのもよろしきかも。

  • 2009/08/16 (Sun) 21:31

    「MW」ご覧になったんですね。どうしようかなあと思ってるうちに気がついたら終ってた。忙しかったというのもあるけれど。
    玉木さんのファン(たぶん女性が多いでしょうが)にはよかったみたいですね。カマキリって確かに言いえて妙です。原作ファンからはブーイングされたようですが、TV局が噛んでる以上、後々のTV放映の大前提があるでしょうし、そうなるとゴールデンタイムにはちょっと...な絵は撮れないでしょう。
    とりあえず来年のTV放映まで待つ事にします。

  • 2009/08/16 (Sun) 22:03

    garagieさん。つい観てしまったんですけど、別に観なくてもいい映画かもですわ。近所のシネコンでやってて割引で観られるので手塚センセイに敬意を表して観てみたって感じです。カマキリ君は悪役が案外ハマってましたが、山田孝之は暑苦しすぎ。神父役は違う俳優で、ホモ・テイストを加えていたらどういう感じになったろうかと思うけれど、いずれにしても観なくても一向に差し支えない映画ではありますわ(笑)TV放映時で十分かも。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する