「サンシャイン・クリーニング」 (SUNSHINE CLEANING)

~みんな、頑張れ~

2008年 米 クリスティン・ジェフズ監督



これはトレーラーを最初に観た時からとても気になっていて、封切りを楽しみに待っていた作品。
ワタシはけっこうエイミー・アダムスって好きみたいである。なんか健気でいい。そして妹を演じるエミリー・ブラントは最近売れてきた気配。最初に観たのはご他聞に漏れず「プラダを着た悪魔」のハイヒールのコツコツ女役だった。キリキリしてたり、キレ気味だったりする役はハマリ役だが、繊細な内面性を感じさせたりする部分もあって、今後が楽しみな女優の一人だ。その他お馴染みアラン・アーキンも顔を見せ、「リトル・ミス・サンシャイン」をオーバーラップさせようという意図が見えるが、さてさて、どんな仕上がりなんざましょ。 (余談だが、予告編タイムに新作のトレーラーで久々にハリソン・フォードを見て、凄く爺さんになっているのでビックリした。爺さんになって人相が悪くなったような気がするのはワタシだけだろうか…。)

エイミー・アダムス演じる姉のローズは高校時代はチアリーダーでアイドルだったという設定。エイミー・アダムスってそういう感じである。でも、ローズはそのままスルリと誰かの奥さんに収まって、お気楽な専業主婦にはなっていない。高校時代のBFとは結婚できぬまま私生児を産み、ハウスキーパーをして働いている。そんな感じもまた似合ってしまうのがエイミー・アダムスなのだ。ローズがある日クリーニングに行った家はかつての同級生の家だったりする。「まぁ!今は何をしているの?」なんて聞かれて「不動産業を始めるまでの繋ぎに掃除婦のバイトをしてるのよ」なんて答えると、「あら、私も○○社で不動産業やってるのよ。あなたは?」なんて返されてしどろもどろになったりして。高校時代は横並びどころか、アイドルだったわけだからローズの方がキラキラしていた筈なのに、10数年たってみたら言うもオロカな大逆転が起きている。ローズはほうほうの体でその家を出ると車を運転しながら涙する。あぁ、エイミー・アダムス。健気で憐れ。ほんとに役にピッタリである。余談だが、どういうわけかローズの高校時代の同級生はリッチになってる手合いが多い。舞台はアルバカーキー。ニューメキシコ州の都市らしい。(地方の大都市って感じだろうか。映画ではけっこう田舎な気配がした)貧しいローズが通っていたわけだから公立高校出身なのだろうが、どうしてローズ以外の連中はそこそこリッチになっているんだろうか、とその方が不思議な気がした。



私生児である息子のオスカーは奇矯な振る舞いが多いというので学校から再々問題児扱いをされてしまうのだが、彼は問題児なのではなく感受性が鋭いだけなのだ(実際、おとなしい少年で何がどう問題児なの?という感じなのだけど)、とちゃんと分かってくれるのがアラン・アーキン演じる爺ちゃんだ。彼はローズの父親だが、このオヤジさんがまた、口先だけは達者なのだが一向に金を儲ける事ができない飛び込みのセールスマンで、一家の負け犬遺伝子はこのオヤジさんから脈々と受け継がれてしまっているような気もするのだけど、金儲けの才能はなくても、問題児扱いされる孫の中に可能性を見出す目はちゃんと持っている愛情深い爺ちゃんである。アラン・アーキン、そういう爺ちゃん専門職みたいになってるけど、まぁ、いいか。



そしてエミリー・ブラント演じる妹のノラ。いつも何か目の前の事以外に気を取られていて、集中力がなく、何をやっても中途半端でうまくいかないノラ。まさに適役。冒頭、ゴミを両手に持って歩く姉、ウェイトレスを首になって憤然と店を出る妹がともにスローモーションになるシーンで、なんとなく「みんな、頑張れ」とエールを送りたくなった。このノラは、姉のローズ以上に今は亡き母に心を捉われている。母は女優への夢を持ちながら、ある日突如として自殺してしまった。幼いローズとノラを置いて…。直接母の死体を見てしまったローズよりも、姉に庇われて目にすることはなかったノラの方が、母をそういう形で喪った事で深いトラウマを抱えている。母と接触する時間が姉より少なかった分、母恋いの気持ちは強くなるのかもしれない。孤独死した老女の部屋を片付けながら、遺品の中に娘の写真らしいものを見つけて、他人事ならずその娘を探して接触してしまう部分など、姉のローズよりも傷つき易く繊細な妹のキャラが出ていると思う。だがこの事で、自分のように自殺した母を恋うる娘ばかりではないとノラは思い知らされる。母と娘の関係性も人により様々だ。エミリー・ブラントは目の表情に傷つき易い繊細な心の動きがよく出ていた気がする。この人はイギリス人。そういえばどことなくロンドンのニオイもする。「プラダを着た悪魔」では、一瞬 "Bloody" と口走っていたシーンがあったっけ。



息子オスカーが問題児扱いにされて公立小学校を放り出されてしまったので、私立に入れる為に稼がなくてはならないローズは、腐れ縁のBFマック(スティーヴ・ザーン)のアドバイスで、事件現場の清掃を請け負う事にする。腐れ縁のマックは刑事なのだが、平凡な男のずるっこさというものがよく描かれていたキャラだった。他の女と結婚しておいて、ローズにも子まで産ませながら責任を取ろうともしない。その間、女房にも次々に子を産ませて別れる気配もない。そんな男と知りつつもズルズルと付き合ってきたローズもダメ女であるが、そこが腐れ縁の腐れ縁たるところなのだろう。ローズがこのマックの不細工な女房にガソリンスタンドで毒づかれるシーンもある。あんなのに勝ち誇られちゃヤレヤレであるが、まぁそれでローズも目が覚めればOKか。
あんな野郎は不細工な女房にノシをつけて返しちゃいなさい。



そんなわけで、あれこれと行き詰まりのローズが背水の陣で始めたバイオハザード清掃業。確かに、こういう仕事って必要である。ことにもアメリカは銃社会。NYやLAじゃなくたって事件は起こる。自殺も起こる。何かが起きて汚れたら、誰かが掃除をしなくてはならないのだ。画面ではぐしゃぐしゃと乱れた部屋の様子や乾いて変色し始めた血糊などは見えても、観客には伝わらないのが臭い。凄い悪臭に姉妹がむせ返るシーンもあったが、さぞや凄い臭いがするんでしょうねぇ。視覚的にも嗅覚的にも、そして肉体的にもキツイ仕事である。残留した血液や体液から何かが感染する場合もあるので危険度も高い。日当がよくて当然だ。誰もやりたがらない3K仕事でなければ人並み以上になど稼げない。



どう考えてもその道のプロがシャッシャとやりそうな仕事を、細っこい素人然とした姉妹がウジに飛びのいたり、血糊のついたマットレスを喧嘩しながら運んだりして処理する。プロとして本格的に仕事をしようと専門用具を買いに行った店で、姉妹はそこのオーナーである片腕の男ウィンストンと出会う。ウィンストンを演じるのはクリフトン・コリンズ・Jr。どこかで見たと思ったら「カポーティ」でペリー・スミスを演じていた人だった。クリフトン・コリンズ・Jr、とてもいい存在感を出していた。はっきりとは描かないが、彼の演じるウィンストンはローズと付き合うようになるんだろうな、という感じを微かに匂わせるだけにとどめていたのも良かったと思う。


とてもナイスな雰囲気だったクリフトン・コリンズ・Jr

ウィンストンのアドバイスで効率よく広告を出し、仕事も軌道に乗り始めた矢先、注意力散漫なノラのミスで思わぬ破綻がローズを襲うが…というわけで、ここからは見てのお楽しみ。サンシャインと銘打っているが「リトル・ミス・サンシャイン」とは監督が違う。そのジョナサン・デイトンが監督していたら、ライトでちょっとウィアードでもっとカラリとしたタッチになったと思うのだが、クリスティン・ジェフズは「シルヴィア」の監督。だからトレーラーなどから予想されるよりもずっとウェットなテイストの作品だった。でも、それが悪いわけではなく、「軽いと見せかけて結構重い」という意外さにほぉ?と思いつつも、さほど違和感なく受け取る事ができた。

地方都市の片隅でそれぞれのやり方で生きる家族――人生を立て直そうと必死の姉、自分のしたい事がまだみつからないで彷徨っている妹、そして口だけで生活力のない父というローコウスキ一家(ポーランド系か)にとてもシンパシーが湧く。健気なエイミー・アダムスと感覚的で傷つきやすいエミリー・ブラントのコンビネーションも良かったと思う。エイミー・アダムスってやっぱり良い。そのいかにもチアリーダー的な明るい可愛い顔を順手でも逆手でも上手く使って、いいキャリアを積み上げていっている気がする。顔立ちからするとロマコメに安易に出そうな気配もするが、そうはしないところが息長くいい仕事をしていけそうな気配をかもし出している。キュートなアイドル顔でもメグ・ライアンの轍は踏まないということだろう。エミリー・ブラントはとんがった役以外にどういう方向に幅を広げていくのか注目したい。とにもかくにも、みんな、頑張れ。

コメント

  • 2010/09/10 (Fri) 10:41
    そうそう

    サラっと描いてるけど、けっこう重い話よね~。kikiさん。
    私も公開時も気になってたんだけど、見れずじまいだったので
    今頃見ました・・・。kikiさんはエイミーお気に入りなのね~。
    最初は二人の背格好とか、髪の長さが似てるので、どっちが
    どっち?って感じだったけど、上手くキャラ分けがちゃんと
    出来てたので、段々区別がつくようになりました。
    そうそう、高校時代の友達に対してのエイミー、健気だったよね。
    例の事件で妹を責めるけど、見栄張りの為のベイビーシャワーに
    行ったアンタはどうなのよ?と私はちょっとエミリー視点で
    見てしまいました。アランもあのお店の彼もいい味出してました。
    何故かロードムーヴィー的味わいもあったよね。

  • 2010/09/11 (Sat) 00:11

    acineさんもなんとなくお好きそうな映画よね。こういう映画は封切り時に観るのもいいけど、落ち着いてから家でDVDでのんびり観るのも悪くないよね。
    エイミーはお気に入りってほどでもないけど、割にキライじゃないらしい。(笑)エミリー・ブラントはいつもヒステリーっぽくてとんがっててギスギスキリキリしてる役が多いから、見ててちょっと疲れるのね。次回はそういうキャラじゃない彼女を観てみたいかな。で、ロードムーヴィーっぽかったのは、ミニバンだかを運転して移動するシーンが多かったからでは?主役の姉妹のそれぞれの自分探しってテーマのせいもあるかもですね。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する