「アルフィー」

~気がつきゃ夜風が身にしみる~
2004年 米 チャールズ・シャイア監督


目下、最高の当り役か

さして期待していなかった映画だけど面白かった。脚本と演出のセンスがいいせいだろう。殊に脚本がいい。監督・脚本チャールズ・シャイア、なかなかである。アルフィーの語りで進められていくというノリの良さと、彼の台詞にちりばめられた人生の警句がそれなりに的を得ていて、ふふーんと思う。イギリス男アルフィーはN.Y.でリムジンの運転手をしながら、知り合うさまざまな女たちと気軽な遊びを楽しんでいる。ぼろアパートに住んで、服装だけには分不相応な金をかける主人公はどこかで見た誰かのよう。そう男版・神野桜子である。
「人には賞味期限がある。女は男よりいい思いをする。だから男よりも賞味期限が短い」
「すべて終わりのある関係には”あ?あ”の瞬間が訪れる。ほんのちょっとしたことで突然、関係の終わりを予感する」
さよう、その通り。まさにいい得て妙である。


主役・アルフィーのジュード・ロウが当然のようにハマリ役。今回初めて気づいたけど、この人けっこう顔がデカいし、腕が短い。つまりあまり体のバランスは良くないのだ。顔は確かにきれいなのだけど、トータルすると完璧ではない。あまりに完璧なものは魅力が薄くなる。少しアンバランスだったり微妙な欠点のあるほうが結局、人の心に訴えるのだろう。
話としてはありきたりな展開で、人生をナメた遊び人の男が、自分の生き方には限界があり、結局は一人で何も手にしていないことに気づくまでを描いたものなのだけど、調子こいて女には不自由しない筈の男がクリスマスに一人で一皮剥けば案外寂しい状況だったり、仮性不能や、局部に腫瘍の疑いがあるなどと脅かされると、それだけですべてが終わったような気分になってしまう。軽やかに調子よく女たちのベッドに滑り込み、女が本気になり束縛し始めるとゲンナリして速やかに逃げ出してきた人生は、若さと健康だけが支えてきたもの。言い換えるとそれが損なわれたらすべてはパァ。板子一枚下は地獄、というわけだ。身を支えるものは、本当にひとつもないのである。

 激安!

この映画は主役以外にもタイプキャストが続出で面白いのだけど、孤独なクリスマスにふと町で車に乗せるイケイケ娘ニッキーにシエナ・ミラー。贅肉がなくスタイルは抜群だけど、ああ、その存在の耐えられない安さ!この監督、なかなかキツい。役にかこつけてその女優の長所と限界を同時に表している。ルックスは目を惹くが、付き合ううちにガサツさや人としての欠陥が鼻をつき、到底付き合いつづけるわけにはいかなくなるニッキーにシエナを持ってくるとはさすが。これはそのまま素のシエナであろう。この映画がキッカケでジュードはシエナにハマったわけか。イカモノ食いの傾向あり。まぁ、経緯はどうあれ別れて正解。長く一緒にいる女じゃなかろう。

 都合のいい女

かわいいコブ付の女ジュリーにマリサ・トメイ。キュートだが「最高の女」ではない。これもキツいがその通り。ちょっと一休みしたいときに訪ねるコンビニエンス・ガールである。しかも休憩に行くだけでサービスも抜き。ここまでコケにされたらいかな都合のいい女でもそりゃ怒る。

 イヨ!男の調教師

化粧品会社のオーナーで、50を過ぎても「いい女」のリズにスーザン・サランドン。適役である。顔はさすがに瞼の下垂が見られ、衰えも感じられるが、シェイプされたボディラインはさすが。若い男を教え導く年長の女、というのはこの人のタイプキャスト。なにせ実人生でもティム・ロビンスを教え導き、ひとかどの男にした実績がある。説得力大である。客としてリムジンに乗せ、うまい具合に彼女のベッドにも忍び込むことのできたアルフィーだが、功成り名遂げた初老の女は、同年代の成功した男と同じ欲望を持つ。つまり嗜好もオヤジ化するということだ。最後に彼女めがけて真剣に花を買い、訪れたアルフィーだが、リズの部屋には新しい男がいた。「僕とあいつの違いはなんだ!」と詰め寄るアルフィーに彼女がかますナパーム弾。「彼の方が若いわ」 火遊びの相手は若いほどいいのだ。調子こいているうちにアルフィーは賞味期限を過ぎようとしている自分に気づかされる。自分にそんな日が来ようとは…。そして、それまでの行き当たりばったりな生き方に復讐されて、友達さえ失ってしまった。友達も恋人もいない。ひとりぼっちのアルフィー。

 あぁ夜風がつめたい

病院で知り合った、前立腺を患っているらしい老人がアルフィーに言う。「パートナーを見つけたら、毎日が最後だと思って生きろ」老人はリタイアしてこれから夫婦で人生を楽しもうというときに妻に先立たれたのだ。「そんなに好き合ってたわけじゃないが、女房とは長く一緒にいたから親友みたいなものだった」 なるほど結婚というのは、そうしたものなのだろう。
「誰にも頼らないということは、誰にも頼られないということ。そしてそんな人生は空っぽ」なのだ。

たいした事はなかろうとタカをくくっていたのだが、開けてびっくり玉手箱。軽快だが、ほろ苦く、チクっと胸に刺さる台詞の多い映画だった。

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