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盛りだくさんの眼福 「THE ハプスブルク」展



とある秋の日の午後、空気にまざるキンモクセイの香りを楽しみつつ、
六本木の国立新美術館にて開催中の「THE ハプスブルク」展へと足を運び、
友人Fの表現を借りると「マルガリータだの、エリザベートだの」 を観て参りました。
2006年開館の国立新美術館。建築家・黒川紀章の手になる波打つ美術館の壁面はガラスカーテンウォールとか呼ぶそうで、中に入ると天井までどーんと吹きぬけの広い空間に不思議な開放感あり。いたずらに新しぶっているとか、手垢のついた近未来風というのでもないガラスとコンクリートと木の空間は外に緑が見えることもあって悪くない感じ。やはり才能のある人だったのねん、と実感。

さて。婚姻により欧州中に縁戚関係を広げたハプスブルク家。双頭の鷲の元に集められた今回の展示絵画も王家の肖像画の他にイタリア、ドイツ、スペイン、フランドル・オランダとコーナーが分かれ、その他に工芸品や武具のコーナーと、明治天皇が明治2年にフランツ・ヨーゼフ1世に友好の証として送った画帖2点と蒔絵の絵棚が今回初めて里帰りをしたとかで、このコーナーも大人気でしたことよ。

ワタシ的には一番のお目当て、ヴィンターハルター作のシシーことオーストリア皇后エリザベートの肖像は最初の展示室(ハプスブルク家の肖像画コーナー)にドーンと展示されてあり、思ったよりも大きな肖像画(216×300(cm))で見ごたえも十分だった。星型の髪飾りはシシーの代名詞。振り返りポーズ(いわゆる見返り美人ポーズ?)なので、50cmというウエストの細さ加減は肖像画からはしかと分からないが、シシーは非常に首が長く、顔が小さく、なで肩の人であったのだな、という事はよくわかる。

 
左は見返り美人のシシー     右は顎の頑丈な感じがなんとなく伺える肖像画(絵はがきより)

この肖像は多分最も美しい頃だったのであろう28歳の時の姿だそうだが、気品と愛嬌が同時に表現されていて、実際は頑丈にせり出した強固な顎が目立ち、鼻の形もイマイチだったというエリザベートの欠点をさりげなくカバーしているが、手足が太そうな感じはそこはかとなく伺える。長身の上、痩躯であり続けることに執念を燃やした彼女だったが、手足はほっそり、というタイプではなかったらしい。余談だが昨年暮れ、CSで「プリンセス・シシー」三部作(1955年?1957年)を観た。主演はロミー・シュナイダー。オーストリアではいまだにクリスマスに放映されるという定番的人気作品らしいのだが、演出は平板で、ロミーもエリザベートに似ていないので興が乗らず、ワタシ的には飛ばしつつ流し観た、というだけに留まる。が、なぜヴィスコンティの「ルードヴィヒ」でロミーがエリザベートを演じていたのかは、それで分かった。暫くの間、欧州ではエリザベートといえばロミー・シュナイダー、みたいなコンセンサスがあったのだろう。
シシーは従兄弟のルードヴィヒと同じく、苦い現実から目をそむけ、夢想家で、浪費家で、贅沢好きで、気まぐれだった。皇后としての責務はほったらかして贅沢三昧をし、しょっちゅうウィーンを離れて旅をし、好き勝手に生きたそうだが、晩年はしっぺ返しが襲ってくる。一人息子の死と、自らも暗殺されるという最期。しかも、尖ったヤスリの先で心臓を突き刺されての死だなんて、美人の最期としてはなかなかに厳しい末路である。
暗殺のされ方として、ピストルで撃たれたとかいうのよりもずっと無残な感じがする。

さて、肖像画ではシシーよりもその細いウエストで目立っていたのがマリア・テレジアの11歳の時の肖像画(アンドレアス・メラー作)だった。マリア・テレジアというとドッカリとした印象が強いが、少女の頃は上品な小鹿のようにほっそりしていたらしい。11歳にしては大人びて利発そうなのは、さすがのちに伝説的女帝になるだけのことはありまする。この肖像画では彼女の衣装の色と質感がとても印象に残った。


少女テレジアの細腰

余談だが、マリア・テレジアは恋愛結婚だった夫フランツ一世を生涯愛して愛しぬき、夫なきあとは喪服を着続けたらしい。確か、ビクトリア女王もそんな感じだったと記憶する。
偉大な女帝は夫だけをひたすらに愛する、という定理でもあるのかどうか(笑)

他にはあの有名なベラスケスの「白衣の王女マルガリータ・テレサ」も目玉展示物としてスペイン絵画のコーナーに掲げられていた。生まれながらに神聖ローマ皇帝レオポルト1世との結婚が決められていた彼女ゆえ、その成長過程での肖像画がスペインからウィーンに何枚も送られたらしい。



この幼い王女ものちに15歳で嫁ぎ、21歳の若さで産後の肥立ちが悪くて亡くなる、という短い命だった。隣に懸かっていた彼女の弟・皇太子フェリペ・プロスペロ2歳当時のいたいけな肖像もベラスケスの作品。
病弱な皇太子は肖像画が描かれた2年後に世を去ったとか。

有名な肖像画を間近に見られることも今回のハプスブルク展の大きなポイントだが、
表に見せた光の姿のきらきらしさの中に、悲劇的な背景が浮き上がって見えるような
気がするのも、こういう肖像画の魅力なのかもしれない。
ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」はベラスケスの描いたマルガリータの肖像にインスパイアされて作曲されたものだという。ヨーロッパの美術館でこの絵を観たら、そういう感興がひとしお迫ってくるのかもしれない。

ドイツ絵画のコーナーではデューラーの肖像画を3枚、間近に見ることができた。
特にそのうちの2枚は有名な絵。「青年の肖像」「若いヴェネツィア女性の肖像」である。青年像は口元に冷ややかな微笑を浮かべていて、目つきもどこやら皮肉そうにひんやりしている。もう1枚のヴェネツィア女性の肖像の方は、どことなくスカーレット・ヨハンソンに似ている気がした。
どちらも思ったよりもずっと小さな絵だった。


スカヨハ似の若いヴェネツィアの女性

同じくドイツ絵画コーナーのクラナッハ作「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」も、そのやけに幼げな体つきや横長の独特の目つきに妙な淫蕩さと残忍さが潜んでいて、その流し目は澁澤龍彦を魅了しただけのよこしまさ加減はある。他に「男の首を持つ女」といえば、今回はユディットの絵が2点ほどあったけれど、男の寝首をかく女というのは、画家の絵心をそそるもんなんざましょうか。それともこの画題が愛される特別な時代背景でもあったのだろうか。いずれもドイツ絵画であるのは興味深いことでざます。ユディットといえば、その最右翼はやはりクリムトのユディット(?及び?)でしょうね。あれを観てしまうと他の絵にはあまり感興をそそられなくなっちゃったりもして…。


クラナッハのサロメ この目つきがクセモノ


が、これら肖像画群と同じくらいに印象に残ったのが風景画と静物画。
それらはフランドル・オランダ絵画のコーナーに集中していた。
「アムステルダムの運河の眺め」(ライスダール作)、「ハム、オウムガイのカップ、シャンパングラス、銀のデカンタのある静物」(ヘーダ作)、そして「水鳥」(ドンデクーテル作)の3点はとても強い印象が残った。ライスダールの風景画はなんとなく遠目に「お、様子のいい絵だな」と眺めて印象に残る絵なのだが、残りの2作については、質感の見事な描写に間近に寄っていくら見ていても飽きない感じだった。宗教画が多かったせいもあり、静物画が新鮮に感じられたこともありそうだけど。

 「水鳥」


「ハム、オウムガイのカップ、シャンパングラス、銀のデカンタのある静物」(部分)

「水鳥」は何といっても水鳥たちの羽毛の質感と画面の構成が見事。ヘーダの静物画はガラス、銀器、オウムガイや貝殻などの硬質な質感と、白いダマスク織のテーブルクロスの質感(ひんやりとした手触りまで感じられそうだ)、銀盆の上の生の食材の生ものらしい質感、その脇のパンの乾いた質感が見事に1枚の絵の中に調和をもって表現されていて、静物画にこんなにじっくり見入っていたのは随分久しぶりだな、という気がしたほど。とりわけ指先で弾けば澄んだ音がいつまでも空気に響きそうな、うす?いガラスの質感がお見事だった。

このコーナーでは、ファン・ダイクの描く肖像画の数々も見ごたえがあった。抑えた色彩の中に黒い衣を着て浮かび上がる男たちの肖像はどれも、とても印象的だった。

工芸品・武具コーナーも勿論見ごたえ十分。ワタシが特にこりゃ素敵と思ったのは色とりどりの玉石で鳥や果物を象嵌した細工が文字盤の外周をめぐっている、豪華でいながらもどこか品のある掛時計。
掛けられる場所をおのづと選んでしまうその佇まい。さすがハプスブルク家のお持ち物。

11_20091007233404.jpg 掛時計(部分)


そして、我らが明治大帝がオーストリア皇帝に送った画帖も見ごたえありました。上帖では年中行事や花鳥風月などの古典的画題が収められ、下帖では市井風俗、江戸各地の風景、美人画などが収められている。流鏑馬などの儀式の絵や宮廷文学の挿絵もあれば、軽業師の絵もあり、昔の日比谷の絵もありで画題が珍しい事も新鮮な印象だった。どれもこれも保存状態が良く、色も鮮やかで雅やか。まことにけっこうでございました。
この明治大帝の贈り物は人気コーナーで、みな一列に並んで熱心に観賞していた。日本人だね。




2箇所ある映像コーナーでもハプスブルク家についての映像資料が2種類視聴できて、映像の内容は悪くなかったのだが、いかんせん、椅子の配置と形に難あり。モニターの前の長椅子に3人並んで座られると、その後ろは人の隙間からしか映像が見えなくなってしまう。それが嫌なら立っているしかない。長椅子をドカンと据えるという横着をしないで、もっと配置を考えて個別の椅子を多く用意するべきでは?そしてモニタを少し高い位置で壁掛けになさってはいかがかしらん?

というわけで、全体的な印象としては満足度の高かった「THE ハプスブルク」展。大体、展覧会では絵はがきしか買わないワタシが今回はミュージアム・ショップでもついつい、いつもより奮発してしまったが、一番いつにもない事は、青山のカフェ・ジェルボーがタイアップで出していた「シシィ・チョコレート」を買ってしまったことかしらん。(笑) まぁ一応、ザッハトルテの国の展覧会ですからねん。

10_20091007232008.jpg 「シシィ・チョコレート」

というようなわけで、眼福のみならず、何かと盛りだくさんな「THE ハプスブルク」展でございました。
東京では12/14まで開催しているので、平日の午後にでもノンビリと行かれてはいかがでしょ。

コメント

  • 2009/10/13 (Tue) 23:41

    kikiさん 見てこられたんですね~♪
    私も来月あたり行けたらなぁ~と思ってます。
    でも・・・皇室の名宝展の若沖の魅力も捨てがたく~そっちが先かもしれません、フフ。
    それにしても、エリザベート、マルガリータ、マリア・テレジア、この三作品はため息の出る事でしょうね。エリザベートは絶世の美女という感じがするけれど、本当は顎や鼻がウィークポイントだったんですか、へぇ~。写真で見ても圧倒的な絵ですよね。そして11歳のマリア・テレジアの、年齢には見えない大人びた美しさ。ベルばらで見た(読んだ)後年のあの太ったマリーアントワネットのおっかさんぶりからは想像がつかない、はかなげな美少女ですよね。って何だかすっかり実際に鑑賞してきた気分になってしまいましたわ(笑)。とにかく、なかなかお目にかかれない作品ばかりのようなので、是非とも観に行きたいですね。あの時代の雰囲気に浸ってみたいです。
    国立新美術館、まだ行ったことないんですヨ。全面ガラス張りとは聞いてましたが、中はこんななんですね、すごいなぁ~。実は私の住んでるS市の市役所庁舎は黒川紀章の設計なんです(あ、また自慢って云われそうですが、笑)。黒船を意識して作ったそうで、最初はコンクリートの打ちっぱなしのような斬新な感じだったのらしいですが・・・冬の寒さが酷評で少し手直ししたような話も聞いてます。ほほ。

  • 2009/10/14 (Wed) 07:18

    ジョディさん、観てきました~。なかなか見応えありましたよん。王族の肖像画以外では、ファン・ダイクの描いた数点の肖像画が渋くてよかった気がします。総じてワタシはドイツ、およびフランドル・オランダ絵画のコーナーに好きな絵が多かったです。エリザベートの絵は大きいので、近くに寄るというよりも引いて観る絵でしたが、少女マリア・テレジアの絵はサイズも頃合で、その利発そうな美少女っぷりや、衣装や装身具の描写など近寄ってじっくりと観賞しました。マルガリータは少し離れて見た方がよい絵なので、距離を置いて眺めてきました。絵画ばかりでなく工芸品も眼福でしたし、明治天皇の贈り物の画帖も一見の価値ありでしたよ。11月のお天気のいい平日の午後にでも、是非どうぞ。
    「皇室の名宝」展もまた混雑必至な展覧会ですよね。ワタシは若冲、永徳などは去年、対決展で見たので、どうしても!という感じではないのですが、2期の正倉院宝物とか源氏物語絵巻などはちょっと惹かれるので行くかもしれませぬ。上野、また行列しそうだなぁ…。そして黒川紀章氏。晩年は奇行が目立ってどうしたの?と思っているうちに亡くなってしまいましたが、国立新美術館はその晩年の仕事だという事を思うと、やはり一時代を作っただけの事はあるなぁ、と再認識しました。天井が高くて「爽」という雰囲気の、スカーっとした気持ちのいいロビーでした。黒川氏というと、若尾文子を「あなたはバロックだ」と言って口説いたという話が有名ですね。ジョディさんの地元の庁舎はちょっと失敗しちゃったんですかしらね(笑)でも黒船を意識したコンクリート打ちっぱなしの建物というのも、なんとなく黒川紀章っっぽい気がします。

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