「ジェイン・オースティン 秘められた恋」 (BECOMING JANE)

~お金が無くては幸せにはなれない、お金だけあっても幸せにはなれない~

2007年 英・米 ジュリアン・ジャロルド監督



今年はなんだか伝記物映画が多い。今度はジェーン・オースティン。(映画タイトルの表記にならうとジェイン・オースティンなのだが、ジェインという表記は何か鬱陶しいのでここではさらっとジェーンでいきます)演じるのはアン・ハサウェイ、その生涯一度の恋の相手を演じるのがジェームズ・マカヴォイ、顔合わせ的に悪くなさそうなので、一応観ておこうかしらん、と劇場へ。

つい先日、久々に「いつか晴れた日に」を再見したところだったので、脳内にアン・リーの構築したジェーン・オースティン・ワールドの残像があり、あの、淡い光に彩られた絵画のような美しい画面のイメージを引きずっていると、本作は少し画面が暗いな、という印象を受ける。全体に色のトーンは暗めで、黒がしっかり効いている画面には、「これは彼女の創作した物語ではなく、彼女自身の物語だ」というひそかな主張があるようにも感じる。

とはいえ、ストーリーや雰囲気は、まさにジェーン・オースティンの世界そのもの。姉のカサンドラと親密なまでに仲がいいところ、ジェーンの個性と考え方を尊重しようとする父(ジェームズ・クロムウェル)と、愛はあったほうがいいけど無くても生きられる、でもお金が無くっちゃ生きていけないのよ!と条件のいい結婚を進めようとする母(ジュリー・ウォルターズ)、田舎で権勢を振るう資産家の老婦人、レディ・グリシャム(マギー・スミス)など、そのまま「高慢と偏見」に登場するキャラのオンパレード。中でも一番「高慢と偏見」のキャラそのものなのがジェーン・オースティンその人。本作のジェーンはそのまま「高慢と偏見」のリジーである。
誰の前でも遠慮をせずに自分の意見を率直に言う。自分に正直なジェーン=リジー。


どこかで見たような構図ですわね

アン・ハサウェイはちょっと痩せすぎな感じで、顔の小ささと細さに対して目や口などのパーツがそれぞれ大きいので、少女漫画を地で行く顔のようになっていたものの、この人はややもするとアイドル女優のように扱われがちなのだが、実はしっかりと演技派なので適役だった。親に財産がない家に女と生まれてしまうと、意に染まなくても「適齢期」に結婚しなければ生きていけない。そんな時代に抗って、本当に好きな男と結婚し、小説を書いて生きていきたいと願うジェーンの夢や気負いや憤りや悔しさなどが、それらしく出ていた。

ロクな男も周囲に居ない田舎の牧師館で、家畜の世話をし、ピアノを弾き、そして小説を書く事で自分を支えていたジェーンの前に突如現れる些かの悪評を纏った都会の男、トム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)。第一印象は互いに最悪、というお約束のパターンはきっちり踏襲、というわけで、トムは姉の婚約を寿いだジェーンの長詩を「青臭い自意識」だと一蹴し、ジェーンはそんなトムを無作法で傲慢な男だと思う。
絵に描いたようなお約束の立ち位置だ。



レディ・グリシャムの甥ウィズリーや父の弟子などから求愛されるものの、これはジェーンじゃなくたってお断りでしょう、というような男ばかりの中で、単刀直入に自分の欠点や欠落している部分を指摘してくる男はハートに刺さる。生意気な女はズバリと正鵠を射た意見をしてくれる男に弱いのだ。
ただ、ボサーっとしてジェーンにも何度も陰で「間抜け」呼ばわりされるウィズリー氏(ローレンス・フォックス)だが、“フランケンシュタインが入ったダーシー”という趣きで、ダンスは下手でもじっと黙って事の経緯を見守り、ボサっとしているように見えながらも時折、警句のような事を口にする味わいのあるキャラで、アラそんなに悪くないじゃないの、この人。財産もあるんだし、この人にしときなさいな、と思ったりする。

逆に一世一大の恋の相手であるトム・ルフロイを演じたマカヴォイは、脚本的にはキャラが立っていたのだけど、いかんせん貧弱過ぎる観が否めない。どうあってもタッパが15cmは足りなくてよ、ジェームズ…。アン・ハサウェイに辛くも見下ろされないで済んではいたが、痩せてちっこいし、なにやら貧相な印象。痩せすぎて顔も時折シワシワして見えたりして、どうも観ていてノレなかった。もう少しすらっと背の高い若者がよろしかったんじゃなくてかしらねぇ。演技的には勿論きっちりと重い荷を背負う人生をごまかすために放蕩者の仮面を被るトムを演じてましたが…。

ジェーンの兄ヘンリーはハンサムマンという設定通り、演じるジョー・アンダーソンも線は細いがハンサムマンで赤い軍服が似合う色男だった。このハンサムな兄のイメージは「高慢と偏見」のMr.ウィッカムあたりに流用されているのかな、などと思ったりして。

貧しい家に生まれて、ままならない事が多かったのだろうジェーン・オースティン
自我が確立した、自活を夢見る女にとって、18世紀のイギリスは(イギリスだけではなくどこの国でもそうだったろうけれど)、四方八方を高い壁に囲まれているかのような不如意な慣習に支配されていた。女性は仕事をする事もできない。ある程度の年齢になれば、好き嫌いなど二の次で、幾らかでも財産のある男に嫁がなければ一生ウダツが上がらない。人生の選択肢は猛烈に少ない。AでなければBしかない。どちらも嫌な場合は自分で道を切り開くしかないが、それは誰にでも出来る事ではない…。



彼女の物語に登場する女性は、教育は受けているが貧しい家の娘たち、である。
そして財産というファクターは、彼女の作る物語の重要な鍵だ。
それは彼女自身がそれに苦しめられた実人生から沁み出しているのは確かかもしれない。
金が全ての世の中でもないが、金がなくては真実どうにも出来ない事もある。自由でいるためには金がいる。好きな男と添うためにも金がいる。お金なんか、と思っても、持たない人間に選択肢は無い。自分にも金がないし、相手も文無し。若気の至りで家族も将来も放擲して情熱に走るか、それとも、ロマンスは永遠に心の中に封じ込めてリアルな人生を送るか…。

ストーリーは平凡で、ありきたりな流れである。何ひとつ目新しさはない。ベースにしているのも、割に創作された部分の多い伝記らしい。これは観る前からある程度予想がつく作品で、予想通りの展開に終始する。それでも、もしアン・リーが監督だったら、それなりにもっと沁みる映画になったような気もする。けれど、これまでに見たジェーン・オースティン物の映画のシーンを、舞踏会だの、森を一人歩くヒロインだの、ヒロインと意中の男性との丁々発止の会話だのに二重映しに観ながら、ジェーン・オースティンが自分の物語の主人公には、途中何があろうとも最後には必ず待ち望まれた結末(自らのそれとは違う)を用意した女心、その創作の根になった満たされざる想い?の深さを18世紀イギリスの風景と慣習の中になぞってみるのも、秋の夜長に相応しいかもしれない。

コメント

  • 2009/11/05 (Thu) 22:31

    おお!さすが、お江戸。
    トレーラーは観たのですが、こちらは今暫くお預けです。
    絶対観ますよ。ムフッ
    それまでkiki先生のレビューもお預け。
    ↓日光の休日も、大変楽しませて頂きました。
    陸続きで羨ましいです。

    • 吾唯足知 #uqr/pqJA
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  • 2009/11/06 (Fri) 06:46

    吾さん。この映画はジェーン・オースティンの生涯でとりあえず分かっている部分の間を創作も交えて繋ぎ、彼女の作品をWらせて作ってあるという感じ。感動屋の吾さんは涙するかな?ふほ。日光はからくも紅葉に間に合ったよ。どこにせよ、紅葉まっさかりに観光に行くのはかなり頑張らなくちゃならないのでしんどいけど、なかなか面白い旅でしたわい。

  • 2009/11/07 (Sat) 23:36

    まあジェーン・オースティンとあれば、私も見逃すわけには参りませんですが、んー悪くはないけどねえ、とちょっと歯切れの悪い感想しか出てこない風の映画でしたね。ジェームズ・マカヴォイは上手く演じてはいるけど、ホント身長が足りませんですね。あああー。映画をみてこの人は本当に背が低いんだなあということに殊更気付いたりして、それもなんだか悲しかったです。お話はジェーン自体の記録が残っていない(お姉さんが手紙を全て焼いてしまったんだったかしら・・・)から無理無理作った感が否めない雰囲気だなあと思いましたです。でもまあやっぱりそれなりに楽しかったですけど。

  • 2009/11/08 (Sun) 23:08

    Sophieさん、そうそう。な~んか微妙なんですわね、これ。悪くはないんだけど、良いとも言えない、というような…。結局はあまりにジェーン・オースティンについて分かっている事が少ないので、不明な部分を彼女の作品のストーリーやイメージで補完せざるをえない為、なんだか「なんちゃって」な雰囲気が漂ってしまう、と言うのかな。結局のところ、ヒロインをジェーン・オースティンその人にして、彼女の作品世界を再現してみたかった、という事だけのような…。それなりには悪くなかったけれど期待するとちょっと…ですわね。そうなの、マカヴォイ。ちっこかったですわねぇ。ちとキャスティングをミスったなぁという感じがするし、マカヴォイにも気の毒かも。

  • 2009/11/11 (Wed) 01:31

    kikiさん、こんばんは~。私、これすごく楽しみにしてたんですよ。でも、観た後の感想は「それほどでもなかった・・・」てな感じです。ジェームズ・マカヴォイ、ホントに背が低かったですね。なで肩だし。彼は「ペネロピ」がベストかなあ。あの時は相手役がそれほど背が高くないクリスティーナ・リッチだったので、バランスが良かったのかも。
    でも、この作品を観たら「高慢と偏見」を再見したくなりましたよ~。もちろん、オリヴィエ版を。

  • 2009/11/11 (Wed) 07:19

    mayumiさん。楽しみにしてる=期待してるとちとキツイ映画ですよね。ワタシはあまり期待してなかったけど、それでも前半は特に冗長で寝そうになりました。演出がまずいのか根本的にイマイチなのか…。アン・ハサウェイは良かったですけどね。マカヴォイ、ちっこいなぁ。ほんと。キャスティングを見た時から背が足りないんでは?と思ったのだけど、あぁ、やっぱり…という感じでした。「高慢と偏見」見たくなりました?オリヴィエ版の、というのがmayumiさんらしいですね(笑)

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