「天城越え」 

~トンネルの中、藪の中~
1978年 NHK 和田 演出



最近、「ゼロの焦点」がまたもや映画化されて封切られているみたいだけど、なぜ今、大々的に「ゼロの焦点」を映画化するのかな?とちょっと首を傾げた。時代を経ると古くなってしまってキツいものと、時の篩いに耐えうるものと、松本清張原作といえども、やはり分れると思う。
この「天城越え」は、1983年の映画化作品(三村晴彦監督)も田中裕子の主演で有名だが、ワタシはNHKのドラマスペシャル枠で制作されたドラマ版の「天城越え」が印象深い。

NHKが松本清張の原作をシリーズでドラマ化していたうちの1つで、演出は和田 。出演は女郎役に大谷直子、土工に佐藤 慶。少年役は、少年時代の鶴見辰吾という顔ぶれ。宇野重吉や松本清張も出演する配役で、子供の頃、本放送時に観たが、全体の雰囲気や天城山中の風景など、なんとなく記憶にひっかかっている作品。手元にあるのは、後年、再放送された時に録画したVHS。

梗概:14歳の少年と娼婦が天城峠を旅しているとき起きた殺人事件と、30年間、事件を追い続けた老刑事の姿を描く。家が嫌になり静岡の兄を訪ねるため、ひとり天城越えの旅に出た少年。途中、素足で旅するハナという女性と出会い、二人並んで歩く。しかし、道中、旅の資金を手に入れるために行きずりの男に声をかけるハナ。無理やり少年と別れたハナの後を、密かに追った少年は草陰で情交を重ねる二人の姿を目撃してしまう……。

時代はもうじき昭和に変わろうとする頃の大正時代。
舞台が伊豆というのも、なんとなく風情を添えている元かもしれない。
天城だけでなく、湯ヶ島だの下田だの三島だの長岡だのという地名が出てきて、
あぁ伊豆だなぁ、と思うわけである。

そして、このドラマ版は足抜け女郎を演じた大谷直子がとても綺麗だった。何年経ってもそれだけで記憶しているぐらいに綺麗だった。正面からみると少し顔が丸いのだけど、大谷直子は肌が白く綺麗で、目が鳶色なのが特徴。女郎を演じても清潔感があり、それでいながら清冽な色気も漂っていた。微妙に色気付き始めた少年を魅了してしまう女郎・大塚ハナ。この頃の大谷直子は鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」でも芸者姿を披露し、いい女っぷりを遺憾なく発揮していた。花の盛りだったのだろう。日本髪と着物がよく似合っていた。


美しい大谷直子 なんとなく好ましい女優さんの一人だ


寡黙な土工を演じる佐藤慶。原作では大男という事になっていたような気がするのだけど、大男ではないものの、生きる事に根深い疲れを感じている男の、諦めたような不思議な微笑が印象的だった。倦怠感の溢れた目つきとノッソリとした動きに、人生に絶望した人間の空気がにじんでいた。このドラマ版では、土工は根源的な深い絶望から過去の一切を捨て、名も出身地も言わず、さすらいながら土工をしているのだが、映画版の土工は知恵遅れの大男であるという単純な設定だったように思う。ドラマ版の土工の過去には、有名な清張作品の1つである「鬼畜」的なエピソードが絡んでいる。そして土工は、長い、暗いトンネルのような絶望した人生にようやく終止符が打たれる事に安堵し、よろばいながらトンネルを抜け出て天を仰ぐと不思議な微笑を浮かべる。


「…やっと、終わった」と呟く佐藤慶のうつろな目つき。

少年を演じる鶴見辰吾。久々に観てみると、少年の頃から同じ顔をしているが、同じ顔のまま廃れてしまった現在の顔を思い浮かべると、なにやら歳月だなぁ…という気分になる。が、子供のクセに年上の商売女に恋心を抱き、土工に憎悪を募らせて思いきった行動に出る少年の役にとてもハマっていた。三白眼で睨む目つきに独特の暗さとねちっこさがあって、後年の雰囲気がちょっと窺えたりする。



壮年になったかつての少年を演じるのは宇野重吉だが、これは些かミス・キャストのような気配もなくはない。宇野重吉の顔や雰囲気が淡々と枯れすぎていて、そういう過去をずっと内包してきた男には見えにくかった。

天城の旧街道にある旧天城トンネルは、「伊豆の踊り子」にも登場する有名なトンネル。だが、昼でもなんとなく暗い感じで、何が起きても不思議ではないような妖気が漂っている気がする。湿り気を含んだ周辺の空気や山の緑さえも、どことなく暗い。そういう旧天城トンネルの独特の雰囲気が画面の中によく出ていた。



横溝正史が「犬神家の一族」に旅館の主人として1シーン出演したのに倣ったのかどうか、原作者・松本清張は、大詰めに1シーンのみ姿を現し、印象的なセリフを言って立ち去る。おいしい儲け役。原作者の特権ですわね。


”坊やがいつか迎える、長い苦しみの日のために、祈ってあげたよ”

大正時代という時代設定が既にしてクラシカルなせいもあってか、はや古典になりつつあるせいか、物語としての雰囲気が出来上がっていて古さを感じさせない。土工や女郎があまりに不幸な人生を歩んできた結果、少年の一瞬にして燃え上がった憎悪が土工を救済し、その嫉妬が女郎の慰めになるという筋立てには、推理小説の姿を借りた人間ドラマの深淵があるように思う。

コメント

  • 2009/11/30 (Mon) 22:11

    kikiさん

    この作品、私の中で佐藤慶熱が燃え盛っているため、先日NHKオンデマンドで鑑賞したところです。

    佐藤慶が息絶える瞬間の表情が素晴らしくて、もうそれだけでも見た甲斐あったわ~と思ったんですけども、大谷直子の色気や鶴見辰吾の陰気な風情もとてもよかったです。特に大谷直子の和服姿の似合うこと。襟を大きく開いていても不潔な感じがしないのがいいですね。

    あと、作者登場のシーン、全く想定していなかったので思わず爆笑してしまいました。他の出演者が上手なので棒読みが物凄く際立っていて・・・(笑)

    「天城越え」はこのドラマ版の他に上で書かれている映画版と、あと田中美佐子と二宮和也が演じたドラマもありますよね。どちらも観たことがないのですが、この役を田中裕子が演じたらさぞや色っぽいだろうな、と思われるのと、二宮和也がこの少年を演じているというのにも興味があるので、いずれ両方ともDVDで鑑賞したいなと思っています。

  • 2009/12/01 (Tue) 00:14

    yukazoさん。またえらくシブイところに燃え上がってますね。(笑)でも佐藤慶は確かにいいですよね。「天城越え」は、二宮君が少年をやるドラマ以外は観てますが、田中美佐子の女郎は見なくても想像がつく感じ。映画版は文字通り、田中裕子の色気と演技(だけ)が話題になっていたような記憶が…。女郎(と少年)にだけ力点が置かれているので、土工の描かれ方が、随分NHKのドラマ版と違うな、と思ったことを覚えてます。土工を演じたのも名のある役者さんじゃなかったと思います。和田 勉演出のドラマ版については、大谷直子の横顔も含め、色々と印象が強かったので、いつか書こうと思ってたシロモノでした。これに限らずNHKはシステムは癪に障るけど記憶に残っているドラマが幾つかあるので、おいおいにそういうドラマについても書いていこうかなと思ってます。
    松本清張出演シーン、ワタシは爆笑というより、いきなり容貌魁偉な人がぬっと画面に現れたので、子供の頃も、つい最近観た時も「ぅわっ!」と引きました。スゴイ顔面パワーで、さすが清張だなぁ、と妙なところに感心したりして…。

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