「おしゃれ泥棒」 (HOW TO STEAL A MILLION)

~ほそながーい二人~
1966年 米 ウィリアム・ワイラー監督



この作品は随分前に一度深夜映画枠で観たきりだったのだけど、ふと思いだして再見。オードリー・へプバーンの作品ではスタンリー・ドーネンとのコンビ作が結構好きなのだけど、オードリーはウィリアム・ワイラーとも3本コンビを組んでいる。デビュー作「ローマの休日」からしてワイラー作品ですものねぇ(2本目は「噂の二人」)。「ローマの休日」の清楚なお姫様から随分たって、この作品でのオードリーは30代も後半。猫目のきつい化粧で、ちょっと年を取ったなぁと思うが、ピーター・オトゥールとの細長?いコンビは似たもの同士でよく似合っていた。二人ともひょろっとノッポで、少し枯れ始めているような風情まで共通していた。

この前、「アラビアのロレンス完全版」を見て、あまりにオトゥールのロレンスがきらきらしいので驚いたが、ワタシが従来もっていたオトゥール・イメージはそんなきらきらしいものではなく、この「おしゃれ泥棒」に登場するような、長身でハンサムでインテリな雰囲気だけれど、格別光り輝いている感じでもなく、身ごなしはエレガントで軽いが、どうかすると時折お爺さんぽい気配も漂うような、そんな印象だ。うん、そうそう、オトゥールってこんな感じよね、となんだか納得。ロレンス完全版では異様なまでにキラキラと光っていたので、この人ってこんなにブリリアントだったっけ~と余計にビックリしてしまったのだった。


初登場シーン ちょっとかわいい

さて、パリ+オードリーという必殺の方程式に、今回はピーター・オトゥールを加えてワイラーが贈るロマンティック・コメディ。タイトルバックも絵画が背景というのはよくある感じではあるけれど、その絵のチョイスとタイトルのフォントのコンビネーションが良かった。オードリーは30代後半以降、目の化粧がきつくなり、一段と痩せぎすが目立つ風貌になっていて、そろそろロマコメはキツいという雰囲気も漂っている。そして、実質的にこれがオードリーのロマコメ最後の作品となっているのだ。60年代後半の流行だったとはいえ、あのキツイ猫目化粧は、オードリーはしない方が良かったんじゃなかろうか、という気がして仕方が無い。ああいうのは、ソフィア・ローレンとかクラウディア・カルディナーレに任せておけばいいのだ。どうも下まぶたまでぎゅぎゅーっとアイラインを塗るような化粧は見ていて暑苦しい。


目化粧が凄すぎるのねん

パリのプチブル娘で、父親と二人暮らしという絵に描いたような設定のオードリー。「パパァ」と贋作画家の父に呼び掛けるオードリーだが、小学生の子供が居てもおかしくないような雰囲気で「パパ~ァ」とか言われても…という感じもなきにしもあらず。

世間では美術コレクターとして通っているシャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)だが、その実は贋作画家。彼のコレクションにはホンモノは1つもない。そのボネが美術館に頼まれて展覧会に本物ではないビーナス像を貸し出すことになっちゃったからさぁ大変。盗難保険を掛けるにはビーナス像は徹底的に科学調査されねばならない。ボネの一人娘ニコル(ヘプバーン)は、贋作であることがバレないように調査の前に像を盗み出そうと計画する…というお話で、オトゥールは美術品を専門とする調査員サイモン・ダーモット役で登場。オードリーはいつも通り、型通りのロマコメ演技をしているので、この作品で新鮮なのはオトゥールのコメディ演技である。彼は期待に応えて動きも軽やかに、飄々とした良い味を出している。オードリーに生々しい相手は似合わないので、植物的なオトゥールはまさに適役。ひょろりとしてヤサ男なのでアンソニー・パーキンスと時折似たくさい雰囲気も漂うが、パーキンスよりも成熟した大人の男の持ち味がある。事実、大写しになると目の下の皺なども多くて、この作品当時はまだ30代半ばだというのにけっこう老けてるなぁ、などと思ったりもする。でも、この作品のオトゥールは、インテリでお茶目でとぼけてて、だけど機敏でけっこう強引で、…要するに、なんとなくいい感じです。ふほ。


折々、ちょっと好みな空気を醸し出すオトゥール

よんどころない事情から、二人は最新装置で厳重に守られた小さなビーナス像(このビーナス像がまたお粗末な出来で、誰も欲しがらないでしょコレ、という感じがしてならない)を盗みに美術館に入るのだけど、細長い二人が階段裏の掃除用具を入れた小部屋に潜んでじっと真夜中を待つという設定など、二人の細長さを巧く生かしたシチュエーション。サイモンは会った時からニコルが気に入っているのだが、当初は泥棒だと思っていたサイモンが、軽口を叩き、いい加減なようでも、肝心なときには頼りになる事を知り、ニコルが彼を憎からず思い始める様子なども、この狭いシチュエーションを生かしてうまく表現されている。



さて、ここでオードリーのキス・シーンについてちょっと一言。
オードリー・へプバーンはキス・シーンの際に絶対に口を開かない人である。そのぴったりと閉じられた口にムードたっぷりにキスしなくてはならない相手役の方は、なんだか傍からみていると滑稽に見えてちっと気の毒だったりする。オードリーのキス・シーンは毎度必ず恋人同士でもソフト・キスにならざるを得ない。本作でもオードリーは例によって口をピッタリと閉じたままなので、オトゥールは顎のあたりに口をつけたりしているキスシーンもあったりする。現在のように、誰がどんな病気を持っているか分からないご時世では、オードリーの貝のように口を閉じたキスも衛生的に正解かもしれないが、観ていてやや感興がそがれるのも事実。表情は恋にウットリしているようでも口元は他人行儀なのである。ウットリ顔が宙に浮いている。まぁ、おフランス式にところきらわずベッチョリとくっついて濃厚なフレンチ・キスを交わすのもナンだけれども、オードリーは職業上のキスと実生活のキスを厳しく切り分けていたんだろうなぁ、と毎度思うわけである。


どうも、双方口をぴったり閉じたままというのは、間抜けな感じが否めない

なお、ワタシ的には今回のジバンシーの衣装はイマイチという印象。オードリーがもはや中年なのに「娘さん」役をやっているという苦しさ、中途半端さが、衣装にも顕れているような気がする。冒頭の、バケツを被ったような帽子(ヘルメット代わりってこと~)と大きな四角いサングラスは、オードリーでなければ物笑いになってしまうところかもしれない。それとは別に、この作品ではいつも、どのシーンでもファッショナブル、というオードリーのイメージを意図的に崩して興を添えようという意図が見て取れる。「泥棒」に入ったサイモン(オトゥール)をホテル・リッツに送っていくハメになったニコルがネグリジェの上から短いピンクのコートを羽織り、ブーツではなく黒いビニールの長靴を履くのだけど、これは狙いを外している観が否めない。もう10歳若ければ狙い通りにキュート、というニュアンスも出たかもしれないが、37歳のオードリーではややキツい。


いかにオードリーであろうと妙なものは妙

後半ではデニムの粗末なスカートを履いてお掃除おばさんルックになる。あのオードリーが、お掃除おばさんルックですよぅ!という制作サイドの意図が丸分りで、なんだかこっちがテレ笑い&二が笑いしてしまいそうだ。オードリーがネグリジェで長靴を履こうとするシーンは、体をかがめているのでスリットが脚の付け根まで達し、相当キワキワなところまで見せてしまうカットなのだけど、“植物さん”オードリーだけに観ていてまるきりドキっともしない。あんなに脚を付け根まで出しているのにさっぱりドキドキさせない個性というのも稀有なものだなと思う。


こんなに脚が出てるんだけど…

と、まぁ、中老けのオードリーについて文句を書いているようだけれど、映画としては楽しいし、娯楽作としてよく出来ていると思う。物語も浮世離れたロマコメとして巧く出来ている。こんな漫画みたいな話を実写で撮って、それなりに魅せて観客を喜ばせるなんていうのは、やはりハリウッドにしかできない芸当だ。ロング&トールな二人のコンビネーションも良い。なかんずく、ワタシはオトゥールが乗っている薄い黄色のスポーツカーの流線型のラインに目を細めた。オープントップのこの車に乗るオトゥールとオードリーのサマになっていることと来たら!この車の脇にタキシードで立っているとオトゥールがなんだか00要員みたいに見える。



オードリーは盛りを過ぎかけているし、舞台はパリなのに主役二人はイギリス発音の英語、脇のフランス人はフランス訛りの英語で話すという珍妙さなども味といえば味である。オトゥール演じるサイモンの雇い主としてシャルル・ボワイエがちょろりと顔を見せている。

オードリーが普通の目化粧で出ていたらもっと良かったんだけどねぇ…と思いつつも、ピーター・オトゥールの飄々とした味わい(ヤサ男のようだけど、リードしてくれて頼りになる感じなど、なかなかナイス)と、オードリーの雰囲気はとてもよくあっていた。二人の持ち味を巧く活かした演出はさすがウィリアム・ワイラー。外さない。
出来ればこの二人で、お洒落なサスペンスなどもう1本観たかったなぁ、とちらと思ったりした。

コメント

  • 2009/12/15 (Tue) 17:31
    好きな映画です

    オードリーは猫目でも、美しい♪
    この頃からヘアースタイルも化粧もあまり変えなかったような気がしますネ。

    ゴム長履くときの太ももチラリは、一応ドキリとしましたが・・・(ヘヘ)

  • 2009/12/15 (Tue) 22:47

    うふふふ。十瑠さんは、オードリーをお好きなんですね~(ってまぁ、嫌いな人は殆ど居ませんが…)
    太ももちらりにちゃんとドキリとされたんですね?失礼しました。やはり女はドキリとしなくても殿方がドキリとしてくれれば演出意図としてはOKですものね。ワタシもこの映画、主演二人の体型ともども映画の印象もスマートに出来上がっていて、好きな作品です。

  • 2009/12/15 (Tue) 23:35

    あっ! ひょっとしてkikiさん、私のリクエストに応えてくれたのかしらん? なんて~(笑)
    「おしゃれ泥棒」 このタイトルからしていいですよね、センスあり。
    数少ないラブコメディものだけど、こういった作品での彼もまた魅力的。
    私も飄々とした二枚目ぶりが何とも好きですよん。
    オトゥールの長身は有名だけれど、華奢に見える体は意外やがっしりとして、それはまるでアメフト選手のようだ、と確か伊丹十三が何かで書いてましたね。
    あんな長身を折り曲げてキスされたらどうしましょ? なんて妄想をラララ~♪
    そうそう、オードリーの鼻にかかった声を聴いてるうちに、いつの間にか池田昌子の声に脳内変換されてるってことは・・・ないかな、わたしだけ?
    「尼僧物語」「許されざる者」私は意外とこういう作品のオードリーも好きなんです。またジョディさんてばヒューマンドラマがお好きねと言われそうだけど(笑)


  • 2009/12/17 (Thu) 21:15

    ジョディさん。入れたと思ったコメントがなんだかちゃんと入ってなくて遅くなってしまいました~。すみませぬ。
    ロレンスを観ていて、そういえば「おしゃれ泥棒」なんていうのもあったなぁ、なんてふと思い出したので、久々に観ようかしらんなんて思ったんですよ。映画そのものも悪くなかったし、オトゥールは飄々としててなんとなく好ましかったです。そうそう、この人、ほそっこく見えるけど案外骨格ががっしりして、近くでみると案外逞しいのかもしれませんね。若い頃の伊丹十三と共演した映画もあったんですよね。オードリーの吹替え、いい加減に池田昌子以外でもいいんじゃないのかしらん、と思う時もあるんだけど、考えたらここ10年は殆ど吹替えで映画を観ていないので、オードリー本人の声の方が印象が強いです。あの声はミュージカルには向かないけど、オードリーに合ってますよね。歌わなければいいんだし。(笑)「尼僧物語」は少し前に放映されてたのでチラっと見ました。まだ若くて綺麗な頃だから尼僧姿が光ってましたね。でも映画としてはやや冗長だったような気も…。「許されざる者」は大昔に、TVの洋画劇場で見たきりなので、機会があれば見たいと思いますわ。

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